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第五章 アオアイへ
鍋料理
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到着した時刻は夕刻で、船の出港時間までにはまだ間がある。
心地よく吹いてくる潮風に、少し傾きかけた日に照らされた街並み。
その様は、かつて出かけたことのある異国情緒あふれた日本の港町を思わせる。
「阿羅彦様、お探しの店はこちらです」
玲陽の案内で鍋料理屋に到着した俺たちは、広い座敷に通された。
そこは3階の部屋で開けられた窓からは少し海が見えた。
「わぁ……あれが海?全部お水?」
百合彦が口をあんぐり開けて驚くさまを見て、大人たちは心和んだ。
「まあ、かわいらしいお子様ですねえ、旦那様方もこの後船に?」
案内してくれた店主は気さくに声をかけてくれた。
「ああ、アオアイに行くのだよ」
「そうでございましたか、良い時期ですね、もう少し経つと嵐の時期になりますし船なんて出せないですからねえ」
「そうなのか」
紗国では秋が深まると嵐が吹き荒れ、毎年被害が出るとは聞いていたが、台風のようなものなのだろうか。
「夕餉の時刻ですので、そのご用意でよろしいですか?」
注文を聞いて来た店主に、ユーチェンがあれこれと注文を言う。
俺は立ち上がり、窓から顔を出して辺りを見渡した。
家が密集している繁華街がとぎれるあたりから小高い丘になっていて、うっそうと生い茂る森が見えた。
「旦那様はこの辺りのお人じゃないようですな、ここ港町の森は良い木材が取れるんですよ、右手の森は高級家具の木材用に育てられているものでしてね」
「そうなのか」
注文を取り終わった店主はそれだけ言うと、部屋を出ていった。
「阿羅彦様、紗国から取り寄せた家具はこちらで作られているのですね」
「ふむ」
俺はここからよく見える丘をじっと眺め、そして思いついた。
「ここに俺の屋敷を建てられないだろうか。もちろん今はまだ資金が足りないかもしれないが。たまには紗国で静養するというのも良いのではないか?」
「お屋敷をですか?」
玲陽が意外そうな声を出した。
「阿羅彦様は阿羅国以外にはご興味ないと思っていました」
「そんなことはないぞ、たまには国外に遊びに行くというのもまた楽しいではないか。阿羅国からここに遊びに来た者誰もが使えるように、ここに阿羅国の屋敷を建てるんだよ」
「国外でゆっくりですか……」
ユーチェンはうれしそうに微笑んだ。
「それはまた贅沢なことですわね、しかし、阿羅彦様は王族ですからそれくらいはなさってもよろしいかと。しかし、庶民にまでそれは」
「いやいや、だから阿羅国の民皆が使えるようにだ、他に宿を取ったりすればそれは高くついたりするだろうが」
「なるほど、アオアイなどの観光国にはそういう各国の別荘がございますよ、そういうものですな」
「しかし、アオアイの別荘だって貴族のものでしょう、庶民はそこまでは」
「だが、阿羅彦様のおっしゃるように国が作った別荘で、国民ならだれでもというものがあるのなら、行ってみようという気にもなるのではないか?」
「確かに」
皆が楽しそうにその話をしている中、鍋の準備が出来たようで、女中たちがぞろぞろと美しく切って盛り付けた食材や、大きな鍋、そしてお皿などを運び入れてきた。
皆お仕着せの揃いの着物を着て、髪をきれいに結っている。
狐の耳と尾を持つものだけでなく、違う種族もいるようで、俺はその様を好ましく思った。
「お客様、この辺りに土地をお求めなのですか?」
その中の一人がかわいらしい声でクレイダに尋ねた。
大きな体のクレイダと比べるとまるで小人のような小さな体で、リスのような尾を持っている。
「ああ、だが、外国人が適当にその辺に家を建てるわけにもいくまい?」
「んー?難しいことはわかりませんけど、うちの兄が土地の管理の仕事をしておりますよ、お話を通しましょうか?」
「なんと」
横で話を聞いていた玲陽は、うれしそうに頷くと、その女中の兄の名前や勤め先を聞いた。
「しかし今回は時間の余裕がないから、またの機会になるが」
「はい、兄にそう伝えますよ」
小柄な女中はにこりと笑って、テーブルに備え付けてあるコンロに魔法で火をつけた。
隣の女中がポットから出汁を鍋に注ぎ入れるとあっという間に沸騰し始めた。
そしてそこに具材を美しく入れていく。
最後に蓋をして、彼女らは並んで挨拶をして出ていった。
テーブルの上には、鍋のほかに刺身やサラダ、そして炊き立てご飯の入ったおひつ、薬味などがあり、人数分の皿が並べられていた。
「さあ、食べようか」
皆が笑顔になった。
心地よく吹いてくる潮風に、少し傾きかけた日に照らされた街並み。
その様は、かつて出かけたことのある異国情緒あふれた日本の港町を思わせる。
「阿羅彦様、お探しの店はこちらです」
玲陽の案内で鍋料理屋に到着した俺たちは、広い座敷に通された。
そこは3階の部屋で開けられた窓からは少し海が見えた。
「わぁ……あれが海?全部お水?」
百合彦が口をあんぐり開けて驚くさまを見て、大人たちは心和んだ。
「まあ、かわいらしいお子様ですねえ、旦那様方もこの後船に?」
案内してくれた店主は気さくに声をかけてくれた。
「ああ、アオアイに行くのだよ」
「そうでございましたか、良い時期ですね、もう少し経つと嵐の時期になりますし船なんて出せないですからねえ」
「そうなのか」
紗国では秋が深まると嵐が吹き荒れ、毎年被害が出るとは聞いていたが、台風のようなものなのだろうか。
「夕餉の時刻ですので、そのご用意でよろしいですか?」
注文を聞いて来た店主に、ユーチェンがあれこれと注文を言う。
俺は立ち上がり、窓から顔を出して辺りを見渡した。
家が密集している繁華街がとぎれるあたりから小高い丘になっていて、うっそうと生い茂る森が見えた。
「旦那様はこの辺りのお人じゃないようですな、ここ港町の森は良い木材が取れるんですよ、右手の森は高級家具の木材用に育てられているものでしてね」
「そうなのか」
注文を取り終わった店主はそれだけ言うと、部屋を出ていった。
「阿羅彦様、紗国から取り寄せた家具はこちらで作られているのですね」
「ふむ」
俺はここからよく見える丘をじっと眺め、そして思いついた。
「ここに俺の屋敷を建てられないだろうか。もちろん今はまだ資金が足りないかもしれないが。たまには紗国で静養するというのも良いのではないか?」
「お屋敷をですか?」
玲陽が意外そうな声を出した。
「阿羅彦様は阿羅国以外にはご興味ないと思っていました」
「そんなことはないぞ、たまには国外に遊びに行くというのもまた楽しいではないか。阿羅国からここに遊びに来た者誰もが使えるように、ここに阿羅国の屋敷を建てるんだよ」
「国外でゆっくりですか……」
ユーチェンはうれしそうに微笑んだ。
「それはまた贅沢なことですわね、しかし、阿羅彦様は王族ですからそれくらいはなさってもよろしいかと。しかし、庶民にまでそれは」
「いやいや、だから阿羅国の民皆が使えるようにだ、他に宿を取ったりすればそれは高くついたりするだろうが」
「なるほど、アオアイなどの観光国にはそういう各国の別荘がございますよ、そういうものですな」
「しかし、アオアイの別荘だって貴族のものでしょう、庶民はそこまでは」
「だが、阿羅彦様のおっしゃるように国が作った別荘で、国民ならだれでもというものがあるのなら、行ってみようという気にもなるのではないか?」
「確かに」
皆が楽しそうにその話をしている中、鍋の準備が出来たようで、女中たちがぞろぞろと美しく切って盛り付けた食材や、大きな鍋、そしてお皿などを運び入れてきた。
皆お仕着せの揃いの着物を着て、髪をきれいに結っている。
狐の耳と尾を持つものだけでなく、違う種族もいるようで、俺はその様を好ましく思った。
「お客様、この辺りに土地をお求めなのですか?」
その中の一人がかわいらしい声でクレイダに尋ねた。
大きな体のクレイダと比べるとまるで小人のような小さな体で、リスのような尾を持っている。
「ああ、だが、外国人が適当にその辺に家を建てるわけにもいくまい?」
「んー?難しいことはわかりませんけど、うちの兄が土地の管理の仕事をしておりますよ、お話を通しましょうか?」
「なんと」
横で話を聞いていた玲陽は、うれしそうに頷くと、その女中の兄の名前や勤め先を聞いた。
「しかし今回は時間の余裕がないから、またの機会になるが」
「はい、兄にそう伝えますよ」
小柄な女中はにこりと笑って、テーブルに備え付けてあるコンロに魔法で火をつけた。
隣の女中がポットから出汁を鍋に注ぎ入れるとあっという間に沸騰し始めた。
そしてそこに具材を美しく入れていく。
最後に蓋をして、彼女らは並んで挨拶をして出ていった。
テーブルの上には、鍋のほかに刺身やサラダ、そして炊き立てご飯の入ったおひつ、薬味などがあり、人数分の皿が並べられていた。
「さあ、食べようか」
皆が笑顔になった。
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