俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

文字の大きさ
上 下
55 / 196
第四章  阿羅国

夜明け

しおりを挟む
 籠に乗せられて運ばれるユーチェンははじめ緊張していたが、はしゃいで喜ぶ由利彦につられて笑顔を見せ始めた。
籠は揺れないようにしっかりと固定されている。
大人の女性が足を伸ばして座れる大きさで、仮眠もできるし、腰ほどの高さの縁からは顔をのぞかせて景色を楽しむこともできる。
これは案外慣れれば良い道具になるのでは?と思った。

例えてみれば熱気球のようなものだ。
運ぶのは魔物のクレイダ姉弟だが……



 俺たち一行はそのまま夜通し飛び続けた。

夜の空は暗いだけではない、無限の広さを感じさせる空には数えきれない星、そして青く見える月。
それをじっと見ていると、ああ、この世界も結局はどこかの星で、大きな宇宙の中にあるのだろうなと思った。

こういう概念をこの世界の者たちはまだ知らないのだろう、一度そのことを遠回しに聞いてみたら、不思議そうな顔をされたことを覚えている。
ならば、そこはあまり触れない方が良いと思った。
まあ……めんどくさいと言うのが本音だ。

ふと籠の中を見る。
二人は寄り添ってぐっすり眠っていた。
その姿を見てふと笑みがこぼれた。

彼らが眠っている間にかなりの距離を稼げた。
しかし、そろそろ朝日が昇る頃だろう、朝には地面に降りて皆を休息させねばならない。

枯れることのない魔力を持つ俺や、魔物のクレイダたちはいいが、獣人達はいくら鍛えた者であっても休息は必要になる。

俺は速度を上げて先頭にいる玲陽に近づいた。

「玲陽、朝日が昇ったら一度休息を取るとしよう。皆疲れているだろう、かなりの速度で飛んでいるしな」

玲陽は、ふいに近寄って話しかけた俺の姿を見て、月明りの中でもわかるほど頬を赤らめた。

「阿羅彦様、はい、そういたしましょう」
「なぜ顔を赤くした」

俺は玲陽に近寄り、顔を覗き込んだ。

「っ…… 阿羅彦様…… 近寄りすぎです」
「近寄ってはダメなのか?」
「そうではなく…… ここでは人目もありますし」
「何を期待している?」
「いえ、期待など……」

もはや真っ赤になった玲陽はしどろもどろになって目線を逸らせた。

俺は玲陽のその様子が面白かった。

「どこかなるべく開けた場所を見つけ、そこに降りてくれ。俺も見るが、他の種族とのぶつかり合いがないように気をつけろ」
「わかりました」

今度はまじめな顔で頷いた玲陽の顔越しに、オレンジがかった朝日が顔を出そうとしていた。

俺はその色に吸い込まれるように見つめ続けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

冥府への案内人

伊駒辰葉
BL
 !注意!  タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。  地雷だという方は危険回避してください。  ガッツリなシーンがあります。 主人公と取り巻く人々の物語です。 群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。 20世紀末くらいの時代設定です。 ファンタジー要素があります。 ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。 全体的にシリアスです。 色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

処理中です...