俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第四章  阿羅国

木の陰

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 テントが出来上がった。
運動会やイベントでよく見た支柱に屋根だけのテントで、隔てるものはないのになぜかその下に入るとプライベート感が出る。
折りたたまれた椅子が広げられ、ユーチェンはそれに座ってほっとため息をついた。

彼女は魔力がそれほど高くもなく体力も並だ、精神力だけで早朝から今まで飛翔したのだ。
仮に人の手を借りてであったとしても、なかなかできることではないだろう。

そんなユーチェンにクレイダが何かを煎じた茶を差し出した。
二人で静かに談笑しながらくつろぐ姿を見て俺もつい微笑んだ。

俺は敷物の上に靴を脱いで上がり、あぐらをかいた。
横にちょこちょこと由利彦が引っ付いてくる。
柔らかな髪をなでなでしながら膝の上に抱っこした。

「そんなお姿を間近で見ると……なんというか、阿羅彦様も普通のお父様なのだなと思いますね」

玲陽が茶を差し出しながら微笑んだ。

俺は礼を言いつつ茶を受け取り、一口飲んだ。
今日のお茶もうまい。

「そうだな……まあ、頻度は少ないがな」

料理を任されていた者が皿に乗せた煮卵と野菜を包んだ春巻きのようなもの、そしてパンを持ってきた。
旅の途中なのでそれほど豪華でも見栄えがするわけでもないが、国で作って持ってきた煮卵も野菜もとてもおいしい。

阿羅国に集まった者たちはそれぞれの国からいろんな知識を持ち寄った。
この料理もそれぞれの地域の味なのだ。
俺は固めで噛み応えのあるパンを齧った。
噛めば噛むほど味が出てくるおいしい。

今はまだ小麦も米も購入して運んでいるが、そのうち農業をもっと広めたいものだ。

「おいしい!」

由利彦がうれしそうに食事を食べる、食が細いと心配していたユーチェンの言葉が信じられないほどだ。

「そうか、それは良かった、外で食べるのはうまいだろう」
「はい!」

小さな手で一生懸命食べる姿は見ていて飽きない。


その時ふと……何かの気配を感じて顔を上げた。

どこか、懐かしいような……確か以前に嗅いだことのある匂いもする。

俺の様子に気づいた護衛がハッとして腰に付けた剣に手をやった。
俺はそれを手を上げて制し、それから口に指をやり、シーっと皆に合図した。

膝の上にいた由利彦を玲陽に預け、俺は立ち上がった。
その時はじめて異変に気付いたユーチェンが不思議そうにこちらを見上げる。

真顔のクレイダは俺と同時に立ち上がった。
そして、頷く。

クレイダと俺はゆっくりとその気配の方へ寄る。
足音も立てないように静かに。

そして、ちょうど我々のキャンプを見通せる木の陰に何者かを発見した。
俺よりも早くクレイダがその者の背に回り込み、動きを封じる。
クレイダはあっという間に後ろ手に縛り上げた。

「……いたい!」

悲鳴を上げたのは銀髪で色白の美形の少年だった。
手に持っていたであろう弓が地に落ちている。

俺は弓を拾いあげ観察した。
緻密な彫刻が施された軽い弓は、材質が何なのかわからなかった。

「離せ!」
「動くな」

クレイダの容赦ない縛り方で肩が痛むのあろう、苦痛に顔をゆがめた少年はキッと俺を睨んだ。

「お前は何者だ、ただの通りがかりでたまたま出会ったのだろうが……まさかこの弓で俺たちを狙っていたわけではあるまいな?」
「そんなことしない!」
「ほんとか?」

クレイダは縛った紐を捻りあげて聞いた、少年は甲高いうめき声をあげて、眦に涙を浮かべた。

「クレイダ……いくら何でもやりすぎだ、子供じゃないか」
「アラト、わからないのか、こいつは子供なんかじゃない、エルフだよ」
「エルフ?」

俺はクレイダにそう教えられ、もう一度少年を見た。
どれだけ目を凝らしてみても、少年は子供にしか見えなかった。



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