俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第四章  阿羅国

森の中で

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 空の旅は順調だった。
ユーチェンもうまく力を抜いて俺とクレイダに身を任せるようにしている。
ただ、体を宙に浮かせるだけならば、それほど疲れはしない。
これならば約5日飛び続けるという超人めいた飛翔もやり遂げることができるだろう。

だが、クレイダはユーチェンの普段の生活を見ていて思ったことがあるようだ。
半分淫魔の俺や、魔物である飛翔隊とは違って、彼女や由利彦には最低でも日に一度、出来れば二度程度は地上に降りて食事や休憩を取らせる方がいいのではないか?と考えた。

そこで、集めの布で作ったテントを作らせた。
イベント用のテントのようなもので、支柱は木だ。
この季節は雨の心配が少ないので防水の効果はいらない。

「おとうさま、お空はとても気持ちがいいです」

由利彦は興奮がさめやらぬ様子で、あちこちを見ては指さし皆に話しかける。

かなりの高速で飛んでいるのだが、薄く魔法で壁を作り、クレイダ、ユーチェン、由利彦に纏わせ、向かい風を受けないように配慮しているので、話すことも可能なのだ。
もしもその魔力の防護壁がなければ、風で話などできなかっただろう。

「由利彦が怖いと泣かなくて助かったよ」

俺が苦笑して、そっとユーチェンにつぶやくと、彼女は良い笑顔で笑った。

「あなたに似ているのですよ、阿羅彦様、由利彦はとても強い子です」
「俺が強いだって?」
「ええ、あなたほど強い人を見たことありませんもの」
「そうか」
「僕、おとうさまに似ていますか?」

背中から可愛い声が届いて俺は思わず声をあげて笑った。

父になったという実感が、最近ようやく芽生えてきた。
普通の夫婦の営みはなく、魔力を手で注入して作った子で、しかも忙しさにかまけてほとんど一緒に暮らしてはいない。

そもそも、ユーチェンは優秀で皆を取りまとめる力もあり頼りにできる部下のような存在だが、愛している人ではない。

そう考えてふと、ジルを思い出した。

今の俺を見たら、ジルはなんと思うだろうかと。
俺の子だと由利彦を見せたら、喜んでくれるかもしれないなと。

「おとうさま……あの」
「なんだ?」
「僕、おなかが空きました」
「ああ、そんな時間かな?」
「ええ、日が真上です、お昼の時間にしてもよいですわね」

ユーチェンがそう答えると、クレイダが頷き、口笛を吹いた。
クレイダの口笛は独特の音でかなり離れていても聞こえる、彼らの種族はこの口笛で通じ合うことができるのだ。

まもなくそれを聞いた護衛らが玲陽と共に降下をはじめる、我らもそれにならった。

木々がうっそうと生い茂る森に突っ込む形になる。
隙間なく生えた葉の一つ一つは柔らかくとも、こちらのスピードが速ければ当たると痛い。
なるべく浮いたような状態のままゆっくりと葉をかき分けて地を目指す。

背中で由利彦が「うわーーうわーー」と叫んでいる。

ようやく地面が見え、衝撃の無いように静かに着地すると、おんぶ紐を取って由利彦を地に下した。
先に到着して荷ほどきをし、テントを張り始めていた玲陽がこちらに気づき近寄ってきた。

「阿羅彦様、テントはもうすぐ張り終わります。お食事と休憩でよろしいですか?」
「そうだな、由利彦とユーチェンを疲れさせないようにせなばな」
「はい」

玲陽はユーチェンと由利彦に微笑みかけて、火を熾して簡易かまどを作っている部下の方に歩いて行った。

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