俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

文字の大きさ
上 下
48 / 196
第四章  阿羅国

しおりを挟む
 阿羅国としてアオアイに王自らが出向く日が近づいて来た。
玲陽とクレイダに教えられたユーチェンもそして由利彦も、今や飛翔を難なくこなすようになっている。

「おとうさま」

由利彦はそっと遠慮がちに小さな手を繋いできた。
俺は中腰になって由利彦の顔を覗く。
俺が記憶している幼いころの自分にそっくりだと思った。

子を作れと言われたときに、女を抱くのは無理だと一旦は拒否したものの、それでは跡取りもできないじゃないかと迫られ、俺は悩みに悩んだ。
そして、半分淫魔の魂で出来ている俺ならばもしやと、子宮に自分の魔力を満たすということを何度も繰り返した。
下腹に手を当て、子宮のイメージを頭に思い浮かべ、そこに我が子が宿るようにと念を送るのだ。

当初国に連れ帰った女たちは皆、戸惑いながらもその実験に根気よく付き合ってくれ、そして今では20人もこの国に子が生まれた。

子供は皆、俺の知っている黄色人種の特徴を持って生まれている。
白人に近い容姿の女からも、獣の耳を持つ別種の女からも、生まれるのは日本人そのものだった。
そして、皆が俺に似ている。

こんなふうに自分の子を持つことができるなど、誰が想像しただろうか。
もしもあのまま日本にいたら、俺はどうなっていたか。
誰とも結婚せずに独身を貫いたのか、それとも、愛する誰かを見つけられたのか?
しかし、子供のある未来など見えやしなかった。
男しか愛せないと自覚はあったから。

「よく練習したらしいな、うまく飛べるようになったのだろう?」

俺は由利彦の頭を撫で、微笑みながら褒めた。
小さな頭はこくんと頷いた。
この子が生まれた時は、その小ささに驚いたものだ。
成長したとはいえ、まだまだ幼い。

かわいいものだな、我が子とは。

俺にも当たり前の親の感情というものがあると、初めてわかった。

「はい、おとうさまの背におぶわれるのではなくて、僕も自分で飛んでいきたいのですが」

期待を込めた視線でじっと見つめられ、俺は苦笑する。
気持はわかるがそれをするには少々幼すぎる。

「慌てずとも、あと何年かすれば由利彦だって一人で森を飛び越えられるようになる。でも今は無理だぞ、お前が森に落ちてしまったら、お前の母に俺は殺されてしまうだろうしな」

俺は思わず声を出して笑ってしまった。
ユーチェンが愛を注いで大切に育てる子だ、この言葉はあながち間違っていないだろう。

「でも、おかあさまだって一人で飛ぶのに」
「お前の母はもう大人だ。飛翔を長時間行うのは精神力がいるんだよ、子供には無理なのだ」
「せいしんりょく?」

由利彦は小首をかしげ、視線を宙に向けた。

「そうだ、やり遂げる心の強さとでもいおうか。とにかく、子供の魔力はそうでなくても安定しない。危険なのだ。今回は俺の背にいるんだ」
「はい……」

すねたように下を向く由利彦の顔を指で上げて見つめた。

「由利彦は、父の背が嫌なのか?」

ハッとしたように目を丸くして顔をぶんぶんと横に振って、「違います!」と大きな声で応えた。

「ぼく、それはとってもうれしいんです! だっておとうさまとあまりお話できないから」
「そうだな、いつも忙しくてお前たちと時間が取れないことは申し訳なく思っているよ」

俺もかつては一人の少年だった。
そのころ、仕事をする父と会うのは朝に一度か、それを逃せば2,3日会わないままなのも普通であったことを思い出した。
こういう働き方は、日本人の癖なのかもしれないな。

「アオアイについたら、いっしょにあそんでくれますか?」

由利彦の遠慮がちな言い方にかわいそうになって頭をなでる。

「ああ、時間を取ろう、海が美しい島国らしい。海水浴もできるかもしれないな」
「海水浴ですか! 海を見れますか!」
「ああ、紗国に到着したら、その港町からは船に乗るからな、船は海を進むのだから、ずっと海の上だぞ」
「楽しみです!」

アオアイに到着したらしたで、今度はどんなことが待っているか、それはわからないが。
1日ぐらいは家族のために時間を取ろう、そう、心に誓った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

処理中です...