俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

文字の大きさ
上 下
47 / 196
第四章  阿羅国

タルピ

しおりを挟む
 小さな体を丸めて、胎児のようなポーズでベッドに横たわる姿は、幼子のようだった。
名前も年齢も誰にも告げず、ただ、生まれ故郷は瀬国だということだけを話したという。

俺は静かにベッドに歩み寄り、はだけた上掛けを掛けなおしてやった。

その瞬間、彼はピクっと全身を震わせ目を見開いた。

「!」
「あぁ、驚かせてすまない。布団がずれていたから、掛けなおしただけだ。よく眠れたか?」
「ごめ……んなさい」
「何を謝っている?」

俺はなるべく優しい声で聞き返した。

俺には兄弟がいなかったが、もしも弟がいたならばこんな感じだったかもしれないと想像できた。

「いえ、その……あの」
「慌てずに、誰もお前に怒ってなどいないよ」

俺のその言葉を聞いて、ベッドの上に正座で座りなおした少年は、きちんと指をそろえ、そして頭を下げた。

「僕を連れ帰ってくれてありがとうございました。これからはお役に立てるよう頑張ります……その、今日は疲れていてこんな時間まで寝てしまって……」
「なるほど、それを謝っているのか?」

俺は思わず、彼の揃えられた手を取って、優しく撫でた。

驚いて上げた顔は真っ赤になっていて、その初々しさがかわいらしいと思った。

「いいかい、覚えておいてほしい。ここではお前を皆が大切にしてくれるだろう。そんなふうに無理に働かなくてはと思う必要もない。まあ、だが、できることを皆と力を合わせてやっていく必要はあるが、何をするかも自分で選んでいいのだよ」
「じぶんで?」

不思議なことを聞いたようにポカンとして聞き返してきた。
今までは1から10まで命令されてきたのかもしれない。

「そうだ、自分が何をしたいかは、自分で決めていいのだ。……そうだ、お前の名前と年を教えてくれないか?」
「僕の名は、タルピ、年はわかりません」
「わからない?」

俺が聞き返すと恥ずかしそうに下を向いた。

「お祝いをしてもらったこともないので誕生日を知りません。でも、兄は19歳だったので、それよりは下です」
「兄がいたのか?」
「はい、兄は母の本当のお子なので、お誕生日には祝宴が開かれていて」
「では、お前の実母は、違うのだな」
「僕の本当の母は、掃除婦でした、出産時に亡くなったと聞いています、それで引き取られたのですが、僕のことを家族とは認めないと……それで、ずっと下働きを」
「あまり良い環境とは言い難いな」
「でも、屋根の下で寝れて食事もなんとかもらえましたし」

最低限の衣食住か……

「でも、母は厳しい人なので、いつも怒られていて」
「お前の体中に傷があると聞いたが、その傷は母が?」

タルピは静かにうなずいた。

「そうか、辛いことを聞いてしまったな。だが、安心するのだ、ここではお前に暴力をふるう人はいない」
「でも、僕は何をしてもダメだから、きっとまた迷惑をかけてしまいます」
「何か失敗をしたからといって、叩かれていいわけではないのだよ」

不思議そうに首を傾げたタルピが可哀相になって、頭を撫でようと手をやると、一瞬ビクッと体を震わせた。
暴力を受け続けた人が見せる反応だなと、思わずため息が出た。

「大丈夫だ、大丈夫だよ」

俺はなるべく優しく手を握り、そして、背中をポンポンと叩いてやった。

「ありがとうござ……います」

タルピの眦から、一筋の涙が流れた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

冥府への案内人

伊駒辰葉
BL
 !注意!  タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。  地雷だという方は危険回避してください。  ガッツリなシーンがあります。 主人公と取り巻く人々の物語です。 群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。 20世紀末くらいの時代設定です。 ファンタジー要素があります。 ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。 全体的にシリアスです。 色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

確率は100

春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】 現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

処理中です...