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第四章 阿羅国
家族 クレイダ視点
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「どういう意味?」
「どういうもなにも、言葉通りだ」
「では……お嫁様のように、界を渡ってこられたということ?」
「およめさま?」
アタシは何を言っているのかわからず、思わず聞き返した。
「そう、私の国、紗国ではね、王様にお嫁様がいらっしゃるのよ、界を渡っていらっしゃるの」
「はあ?」
「でもね、どの王様にもお嫁様がいらっしゃるわけではないの」
「というと?」
「お嫁様が異世界からいらして、そして王様の隣にいてくださるとね、その王様は力を得て、とてもお強くなられ、そして長生きなさるのよ、だけど、ほとんどの王様はお嫁様の来訪がなくて、そのままお亡くなりになるわ」
「それは……おとぎ話なのか?」
「いえ、私が子供のころ、実際に異世界からお嫁様がいらしたのよ、残念ながら私が9つの時に王と共に250歳でお亡くなりになったのよ」
「……つまり、この世界で何年生きたのだ?」
「ええっと……御在位230年くらいになると思うわ、それは美しい方だった、紗国王も素晴らしく美しいのだけれど」
ユーチェンはそう言って懐かしげに微笑んだ。
「では、見たことあるのか?そのお嫁様ってのを」
「ええ、お祭りの日のお手振りを拝見したわ」
「まさか、黒髪に黒い瞳では?」
「……そう、ね……私が見たのはお隠れになる直前だったというのに、ほんの少女のように柔らかな桃の頬に、つややかな黒髪に、そして……ええ、黒い目よ。写し絵が我が家にもありましたの、確かよ」
「アラトと同じか……」
「阿羅彦様と? ねえ、クレイダ、それってどういう意味なの?」
不安げに聞くユーチェンを安心させてやりたかったが、アタシは思わず言葉に詰まった。
「アタシの推測にすぎないけれど、同じ世界から来たのかもなって、そう思っただけだ……」
アラトがアタシに話してくれた、異世界から来たという話は、やはり眉唾などではなかったということか。
「そう……とすると、阿羅彦様もあの世界から来たのなら、年を取らずに長く生きていけるのね、人だとしても」
「しかし、アラトからは淫魔の匂いがするのは確かだ。ユーチェンが言うように、あれを隠せるものだろうか」
「あの方なら、おやりになるわ。できないことなんて、ないんじゃないかしら」
ユーチェンは軽やかに微笑んだ。
「で……何かお話があったんじゃなくて?」
「お見通しか」
「あなた、わかりやすいもの」
ユーチェンは苦笑してアタシと同じように地面に座りなおして、着物の裾を直した。
「実は、紗国のお前んちにな、使者を遣わしていたんだよ、アラトは」
「え? うちの実家に?」
「ああ、そうだ」
「無駄ですのに……私なんて、いてもいなくても同じなんですから」
「……」
アタシはうまく言葉を返せずに、思わず下を向いてしまった。
「大丈夫よ、クレイダ、あの家族を見限ったのはこちらだわ、私が捨ててやったの。父をね」
そういって肩を上げて困ったような笑みをこぼした。
「強がり言うんじゃないよ、親が恋しくない子なんているもんか」
ユーチェンは寂し気に少し俯いた。
「……それで、使者様に、あの人はなんと返事をしたのかしら? あなたの顔を見ると大体想像できるけれど」
「そのような娘はいないと、そう一言告げたそうだ」
「……そう……さすがに、なんというか。あの人らしいわね」
ユーチェンは軽くため息をついて、空を見上げた。
見事に晴れた青空に、時折浮かぶ雲。
美しいそれを見て、ユーチェンは涙を一筋だけ流した。
「阿羅彦様が、私のことを思って、使者を遣わしてくれた、それだけで、それだけで」
「そうか」
「ええ、私の家族はもう、ここにいるの、だからもう、ないものを欲しがって泣いてるだけの小娘じゃないわ、クレイダという姉もいるものね」
「アタシが姉?!」
ユーチェンはひと際大きな声で笑ってそしてアタシの手に小さく細い手を重ねた。
「この地に初めて来た時、イバンとあなた、そして阿羅彦様がいてくれた。あの時どれほど嬉しかったことか。私を真っすぐに見つめてくれる、私の存在を無視しないで向き合って話してくれる人たち、それがどれほど私の救いだったことか」
「ユーチェン」
「私、幸せなのよクレイダ、だから心配しないで、ね、おねえさま」
ユーチェンはいたずらっ子のように微笑んだ。
「どういうもなにも、言葉通りだ」
「では……お嫁様のように、界を渡ってこられたということ?」
「およめさま?」
アタシは何を言っているのかわからず、思わず聞き返した。
「そう、私の国、紗国ではね、王様にお嫁様がいらっしゃるのよ、界を渡っていらっしゃるの」
「はあ?」
「でもね、どの王様にもお嫁様がいらっしゃるわけではないの」
「というと?」
「お嫁様が異世界からいらして、そして王様の隣にいてくださるとね、その王様は力を得て、とてもお強くなられ、そして長生きなさるのよ、だけど、ほとんどの王様はお嫁様の来訪がなくて、そのままお亡くなりになるわ」
「それは……おとぎ話なのか?」
「いえ、私が子供のころ、実際に異世界からお嫁様がいらしたのよ、残念ながら私が9つの時に王と共に250歳でお亡くなりになったのよ」
「……つまり、この世界で何年生きたのだ?」
「ええっと……御在位230年くらいになると思うわ、それは美しい方だった、紗国王も素晴らしく美しいのだけれど」
ユーチェンはそう言って懐かしげに微笑んだ。
「では、見たことあるのか?そのお嫁様ってのを」
「ええ、お祭りの日のお手振りを拝見したわ」
「まさか、黒髪に黒い瞳では?」
「……そう、ね……私が見たのはお隠れになる直前だったというのに、ほんの少女のように柔らかな桃の頬に、つややかな黒髪に、そして……ええ、黒い目よ。写し絵が我が家にもありましたの、確かよ」
「アラトと同じか……」
「阿羅彦様と? ねえ、クレイダ、それってどういう意味なの?」
不安げに聞くユーチェンを安心させてやりたかったが、アタシは思わず言葉に詰まった。
「アタシの推測にすぎないけれど、同じ世界から来たのかもなって、そう思っただけだ……」
アラトがアタシに話してくれた、異世界から来たという話は、やはり眉唾などではなかったということか。
「そう……とすると、阿羅彦様もあの世界から来たのなら、年を取らずに長く生きていけるのね、人だとしても」
「しかし、アラトからは淫魔の匂いがするのは確かだ。ユーチェンが言うように、あれを隠せるものだろうか」
「あの方なら、おやりになるわ。できないことなんて、ないんじゃないかしら」
ユーチェンは軽やかに微笑んだ。
「で……何かお話があったんじゃなくて?」
「お見通しか」
「あなた、わかりやすいもの」
ユーチェンは苦笑してアタシと同じように地面に座りなおして、着物の裾を直した。
「実は、紗国のお前んちにな、使者を遣わしていたんだよ、アラトは」
「え? うちの実家に?」
「ああ、そうだ」
「無駄ですのに……私なんて、いてもいなくても同じなんですから」
「……」
アタシはうまく言葉を返せずに、思わず下を向いてしまった。
「大丈夫よ、クレイダ、あの家族を見限ったのはこちらだわ、私が捨ててやったの。父をね」
そういって肩を上げて困ったような笑みをこぼした。
「強がり言うんじゃないよ、親が恋しくない子なんているもんか」
ユーチェンは寂し気に少し俯いた。
「……それで、使者様に、あの人はなんと返事をしたのかしら? あなたの顔を見ると大体想像できるけれど」
「そのような娘はいないと、そう一言告げたそうだ」
「……そう……さすがに、なんというか。あの人らしいわね」
ユーチェンは軽くため息をついて、空を見上げた。
見事に晴れた青空に、時折浮かぶ雲。
美しいそれを見て、ユーチェンは涙を一筋だけ流した。
「阿羅彦様が、私のことを思って、使者を遣わしてくれた、それだけで、それだけで」
「そうか」
「ええ、私の家族はもう、ここにいるの、だからもう、ないものを欲しがって泣いてるだけの小娘じゃないわ、クレイダという姉もいるものね」
「アタシが姉?!」
ユーチェンはひと際大きな声で笑ってそしてアタシの手に小さく細い手を重ねた。
「この地に初めて来た時、イバンとあなた、そして阿羅彦様がいてくれた。あの時どれほど嬉しかったことか。私を真っすぐに見つめてくれる、私の存在を無視しないで向き合って話してくれる人たち、それがどれほど私の救いだったことか」
「ユーチェン」
「私、幸せなのよクレイダ、だから心配しないで、ね、おねえさま」
ユーチェンはいたずらっ子のように微笑んだ。
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