俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

文字の大きさ
上 下
41 / 196
第四章  阿羅国

家族  クレイダ視点

しおりを挟む
「どういう意味?」
「どういうもなにも、言葉通りだ」
「では……お嫁様のように、界を渡ってこられたということ?」
「およめさま?」

アタシは何を言っているのかわからず、思わず聞き返した。

「そう、私の国、紗国ではね、王様にお嫁様がいらっしゃるのよ、界を渡っていらっしゃるの」
「はあ?」
「でもね、どの王様にもお嫁様がいらっしゃるわけではないの」
「というと?」
「お嫁様が異世界からいらして、そして王様の隣にいてくださるとね、その王様は力を得て、とてもお強くなられ、そして長生きなさるのよ、だけど、ほとんどの王様はお嫁様の来訪がなくて、そのままお亡くなりになるわ」
「それは……おとぎ話なのか?」
「いえ、私が子供のころ、実際に異世界からお嫁様がいらしたのよ、残念ながら私が9つの時に王と共に250歳でお亡くなりになったのよ」
「……つまり、この世界で何年生きたのだ?」
「ええっと……御在位230年くらいになると思うわ、それは美しい方だった、紗国王も素晴らしく美しいのだけれど」

ユーチェンはそう言って懐かしげに微笑んだ。

「では、見たことあるのか?そのお嫁様ってのを」
「ええ、お祭りの日のお手振りを拝見したわ」
「まさか、黒髪に黒い瞳では?」
「……そう、ね……私が見たのはお隠れになる直前だったというのに、ほんの少女のように柔らかな桃の頬に、つややかな黒髪に、そして……ええ、黒い目よ。写し絵が我が家にもありましたの、確かよ」
「アラトと同じか……」
「阿羅彦様と? ねえ、クレイダ、それってどういう意味なの?」

不安げに聞くユーチェンを安心させてやりたかったが、アタシは思わず言葉に詰まった。

「アタシの推測にすぎないけれど、同じ世界から来たのかもなって、そう思っただけだ……」

アラトがアタシに話してくれた、異世界から来たという話は、やはり眉唾などではなかったということか。

「そう……とすると、阿羅彦様もあの世界から来たのなら、年を取らずに長く生きていけるのね、人だとしても」
「しかし、アラトからは淫魔の匂いがするのは確かだ。ユーチェンが言うように、あれを隠せるものだろうか」
「あの方なら、おやりになるわ。できないことなんて、ないんじゃないかしら」

ユーチェンは軽やかに微笑んだ。

「で……何かお話があったんじゃなくて?」
「お見通しか」
「あなた、わかりやすいもの」

ユーチェンは苦笑してアタシと同じように地面に座りなおして、着物の裾を直した。

「実は、紗国のお前んちにな、使者を遣わしていたんだよ、アラトは」
「え? うちの実家に?」
「ああ、そうだ」
「無駄ですのに……私なんて、いてもいなくても同じなんですから」
「……」

アタシはうまく言葉を返せずに、思わず下を向いてしまった。

「大丈夫よ、クレイダ、あの家族を見限ったのはこちらだわ、私が捨ててやったの。父をね」

そういって肩を上げて困ったような笑みをこぼした。

「強がり言うんじゃないよ、親が恋しくない子なんているもんか」

ユーチェンは寂し気に少し俯いた。

「……それで、使者様に、あの人はなんと返事をしたのかしら? あなたの顔を見ると大体想像できるけれど」
「そのような娘はいないと、そう一言告げたそうだ」
「……そう……さすがに、なんというか。あの人らしいわね」

ユーチェンは軽くため息をついて、空を見上げた。
見事に晴れた青空に、時折浮かぶ雲。
美しいそれを見て、ユーチェンは涙を一筋だけ流した。

「阿羅彦様が、私のことを思って、使者を遣わしてくれた、それだけで、それだけで」
「そうか」
「ええ、私の家族はもう、ここにいるの、だからもう、ないものを欲しがって泣いてるだけの小娘じゃないわ、クレイダという姉もいるものね」
「アタシが姉?!」

ユーチェンはひと際大きな声で笑ってそしてアタシの手に小さく細い手を重ねた。

「この地に初めて来た時、イバンとあなた、そして阿羅彦様がいてくれた。あの時どれほど嬉しかったことか。私を真っすぐに見つめてくれる、私の存在を無視しないで向き合って話してくれる人たち、それがどれほど私の救いだったことか」
「ユーチェン」
「私、幸せなのよクレイダ、だから心配しないで、ね、おねえさま」

ユーチェンはいたずらっ子のように微笑んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

冥府への案内人

伊駒辰葉
BL
 !注意!  タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。  地雷だという方は危険回避してください。  ガッツリなシーンがあります。 主人公と取り巻く人々の物語です。 群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。 20世紀末くらいの時代設定です。 ファンタジー要素があります。 ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。 全体的にシリアスです。 色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

確率は100

春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】 現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

処理中です...