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第四章 阿羅国
はじまりの丘 クレイダ視点
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ユーチェンと共にイバンの墓に来た。
アタシには墓参りの意味が良くわからないが、アラトやユーチェン、そして他の者らには大切なものらしい。
イバンの眠る場所は、一番はじめにこの土地を見つけた時にアタシとアラトが立った場所。
森から出てすぐの丘だ。
かつて、水が無くひび割れた台地だった小高い丘は、イバン自らの手で美しく花が咲き乱れる地と生まれ変わっていた。
阿羅国で亡くなった者が、ここで静かに眠れるようにとイバンがそうしたのだ。
ユーチェンは静かに膝を付き、そして手を合わせる。
アタシはその様を見ながら、心の中でイバンに『よう!』と話しかけた。
死者に話しかける時、何を言うべきかわからないのだから、仕方ない。
「ねえ、クレイダ」
「なんだ?」
ユーチェンはイバンの墓石をさすりながらポツリとつぶやいた。
「先日は、聞けなかったのだけど」
「何を?」
「阿羅彦さまだって淫魔でしょう?魔物だわ。アオアイで、どうごまかすのかしらね」
「あぁ……そのことか」
アタシはドカリと地面に座り、近くにあった草花の花をぷちりと摘んだ。
「ユーチェンだって、気づいてるんじゃないのか?」
「……」
アタシの問いには答えず、じっと見つめ返された。
「アラトは、ほんとは淫魔なんかじゃないってな」
「本気で言ってるの?」
「ああ」
「だけど、私やアリたち、他の女は皆……そうだわイバンだって夢を通して連れてこられたのよ?」
アタシはその言葉を聞きながら、アラトとはじめて出会った頃を思い出した。
薄暗くなった夕暮れの森の中、漂う確かな淫魔の催淫の香。
空腹だったアタシはもろに刺激を受けてふらふらと引き寄せられた。
アラトは、大きな木を背にポカンとアタシを見つめて、次にこっちにくるなと言わんばかりに嫌な顔をした。
その顔で少し我に返ったのだ。
アタシの姿に驚くなんて淫魔らしくない。
それに、妊娠可能な雌を前に拒絶の表情をするなんて、そんな淫魔がどこにいるっていうんだ。
だが、アタシはアラトは少し変わった淫魔だろうと、そう思い込んだ。
今までの知識では理解できないことだったから、わかろうとすることを放棄したのだ。
その後、行動を共にするようになってからは、彼はポツポツと身の上話をするようになった。
『俺は淫魔じゃない、日本という、ここではない世界から来たんだよ』
アタシには理解できないあの言葉。
それが嘘だとは思っていない、おそらく真実なのだろう。
では、あの匂いは何なのだ?
ここ100年ほどは抑えることを覚えたようだが、確かにアラトからは淫魔の匂いがするのだ。
では、日本という国から来た淫魔だったのか?
答えは否だ……
一度聞いたことがある。
日本にも淫魔やアタシらみたいな魔族がいるんだろ?と。
『そんなの作り話だと思って生きてきたよ、俺は普通の人だ』
いつだってアラトは嘘はつかない、目を見ればわかる。
「私たち女は、阿羅彦様とはほとんど話さないわ、イバンが亡くなった後は後宮においでになることも稀よ」
「そうだな、しかし、子は順調に出来ているようじゃないか」
「……それなんだけど」
「なんだ?」
「阿羅彦様は、手を私たちの腹に当てて、そして魔力を入れ込むのよ、あなたやイバンが想像するような愛の営みはないのよ」
「は?」
アタシはさすがに仰天して思わず大きな声を出してしまった。
そんなふうに子を作るなど初耳だ。
「あの方はね、男性しか愛せないわ、初めての夜にそう伝えられて『できるかどうかわからないけれど、君の腹に俺の子を魔力で作るよ』と、そういって……私は来る日も来る日もその実験に付き合ったわ。そして、ある日、妊娠したのよ。だから、アリもほぼ同時だったでしょう?」
「……淫魔は……淫魔ならばそんなやり方しないだろうにな」
「だから……それはどういう意味? 本当に淫魔じゃないとしたら阿羅彦様は一体どういう存在?」
「他の世界から来た、人だよ……」
「他の世界?」
ユーチェンは真剣な顔をしてアタシを覗き込んだ。
アタシには墓参りの意味が良くわからないが、アラトやユーチェン、そして他の者らには大切なものらしい。
イバンの眠る場所は、一番はじめにこの土地を見つけた時にアタシとアラトが立った場所。
森から出てすぐの丘だ。
かつて、水が無くひび割れた台地だった小高い丘は、イバン自らの手で美しく花が咲き乱れる地と生まれ変わっていた。
阿羅国で亡くなった者が、ここで静かに眠れるようにとイバンがそうしたのだ。
ユーチェンは静かに膝を付き、そして手を合わせる。
アタシはその様を見ながら、心の中でイバンに『よう!』と話しかけた。
死者に話しかける時、何を言うべきかわからないのだから、仕方ない。
「ねえ、クレイダ」
「なんだ?」
ユーチェンはイバンの墓石をさすりながらポツリとつぶやいた。
「先日は、聞けなかったのだけど」
「何を?」
「阿羅彦さまだって淫魔でしょう?魔物だわ。アオアイで、どうごまかすのかしらね」
「あぁ……そのことか」
アタシはドカリと地面に座り、近くにあった草花の花をぷちりと摘んだ。
「ユーチェンだって、気づいてるんじゃないのか?」
「……」
アタシの問いには答えず、じっと見つめ返された。
「アラトは、ほんとは淫魔なんかじゃないってな」
「本気で言ってるの?」
「ああ」
「だけど、私やアリたち、他の女は皆……そうだわイバンだって夢を通して連れてこられたのよ?」
アタシはその言葉を聞きながら、アラトとはじめて出会った頃を思い出した。
薄暗くなった夕暮れの森の中、漂う確かな淫魔の催淫の香。
空腹だったアタシはもろに刺激を受けてふらふらと引き寄せられた。
アラトは、大きな木を背にポカンとアタシを見つめて、次にこっちにくるなと言わんばかりに嫌な顔をした。
その顔で少し我に返ったのだ。
アタシの姿に驚くなんて淫魔らしくない。
それに、妊娠可能な雌を前に拒絶の表情をするなんて、そんな淫魔がどこにいるっていうんだ。
だが、アタシはアラトは少し変わった淫魔だろうと、そう思い込んだ。
今までの知識では理解できないことだったから、わかろうとすることを放棄したのだ。
その後、行動を共にするようになってからは、彼はポツポツと身の上話をするようになった。
『俺は淫魔じゃない、日本という、ここではない世界から来たんだよ』
アタシには理解できないあの言葉。
それが嘘だとは思っていない、おそらく真実なのだろう。
では、あの匂いは何なのだ?
ここ100年ほどは抑えることを覚えたようだが、確かにアラトからは淫魔の匂いがするのだ。
では、日本という国から来た淫魔だったのか?
答えは否だ……
一度聞いたことがある。
日本にも淫魔やアタシらみたいな魔族がいるんだろ?と。
『そんなの作り話だと思って生きてきたよ、俺は普通の人だ』
いつだってアラトは嘘はつかない、目を見ればわかる。
「私たち女は、阿羅彦様とはほとんど話さないわ、イバンが亡くなった後は後宮においでになることも稀よ」
「そうだな、しかし、子は順調に出来ているようじゃないか」
「……それなんだけど」
「なんだ?」
「阿羅彦様は、手を私たちの腹に当てて、そして魔力を入れ込むのよ、あなたやイバンが想像するような愛の営みはないのよ」
「は?」
アタシはさすがに仰天して思わず大きな声を出してしまった。
そんなふうに子を作るなど初耳だ。
「あの方はね、男性しか愛せないわ、初めての夜にそう伝えられて『できるかどうかわからないけれど、君の腹に俺の子を魔力で作るよ』と、そういって……私は来る日も来る日もその実験に付き合ったわ。そして、ある日、妊娠したのよ。だから、アリもほぼ同時だったでしょう?」
「……淫魔は……淫魔ならばそんなやり方しないだろうにな」
「だから……それはどういう意味? 本当に淫魔じゃないとしたら阿羅彦様は一体どういう存在?」
「他の世界から来た、人だよ……」
「他の世界?」
ユーチェンは真剣な顔をしてアタシを覗き込んだ。
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