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第四章 阿羅国
祖国
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「どうしてだアラト、なぜ言わない」
ユーチェンが退室していってからしばらくたって、クレイダが俺に問うてきた。
まっすぐな強い目が俺を射貫くように見る。
「己の父が、娘のことなぞ知らぬと、そう言ったことをか?」
俺は入れなおした茶を一口飲んだ。
自ら指導して、作り上げた茶は格別だ。
その味は、俺に茶の蒸し方や揉み方を教えてくれた祖父を思い出させてくれた。
「いずれわかることだ、早いほうがよかろうに」
「そうかもしれないが、あまりにかわいそうだろう」
「かわいそうだからこそ、早めに伝え、そして覚悟させるべきだ」
俺は思わずクレイダから目を逸らし、もう一度茶を口に運んだ。
実は使者に紗国のユーチェンの家を尋ねさせていたのだ。
俺の名を語っても今はまだ無意味だろうが、遠くの国の王の王妃となっていることと、いずれ挨拶に伺いたいということを伝えさせた。
本人が望んでもいないのにと、クレイダははじめ反対したが、俺はイバンの死を看取った際に後悔したのだ。
彼に祖国を二度と見せずに死なせてしまったことを。
一言も口にしなかったからといって、郷愁の念が全くなかったということにはならない。
どうせ無理だとわかっていたから言わなかっただけではないのか?
本当は父母の顔をもう一度、見たいと思っていたのではないか?
地続きなのだ、無理をすれば行けたであろう、異世界から来た俺とは違うのだ。
だから、他の夢を通じてこちらに連れてきた者たちの中で、実家の名前がわかるものについては、使者に言伝を頼んでいたのだ。
ユーチェンだけではなく、他の者についても、ほとんど同じ回答だった。
クレイダが言った通りだ、本人が望まないということは……つまりそういうことなのだ。
「余計なことをしてしまったんだろうか」
「まあ、今更言ったって仕方ないことだ。しかももう、あちらには伝えたのだから、アラトの思いは果たされたのでは?」
「いや、俺の思いというのなら、親子の再会だったのだが」
「しかし、どの親も子を思ってはいなかったようだな」
クレイダも渋い顔をしてグッと茶を飲んだ。
「ふぅ……なんとも、冷たいことだな」
「そんなものだろうよ、長男でなければそこまで大事にされない。この世はそんなものだと思うぞ」
「クレイダ、お前たちのような魔物はどうなのだ?」
「アタシらは人とは違うからな、男子が一番最初に生まれたとしても、次の女子が優秀ならばそっちが強いと認めるさ」
「その、強くて認められた女子ってのが、お前か?」
俺は思わずクレイダをからかうように見つめ、口の端に笑顔を貼り付けた。
「……まあ……そうだ」
クレイダは居心地が悪そうに服装を直して座りなおした。
「だが、そなたは兄に一族を率いてほしくて、出奔したと、そういうところか?」
「な……なぜわかった」
「お前を慕ってわざわざ一族の者がここにまで来た時に、不思議に思って話しを聞いたことがあるんだよ」
「あいつらがなんと?」
「我らはやはり一族のうちの一番強いものに付き従いたくて、クレイダを探したと、そういってた」
「……そうか」
クレイダは照れたように腕組みをして窓の外を眺めた。
「お前が強かったおかげで、本当に助かっている、心強い仲間まで得られた」
「強さなら、アラトだって負けないだろうに……まあ、そういってもらえて嬉しいがな……」
「まあ他の者はともかく、ユーチェンには言わねばな……一緒にアオアイに行くことになったのだし、あの龍の統べる森を抜けて最初の国が紗国なのだから、無視もできん」
「アタシから、言おうか?」
「……」
「まあ、そうしてくれたら嬉しいが……」
「情けないもんだよね、王ともあろうものが」
クレイダはカカカと笑ってポンと膝を叩いて立ち上がった。
「ユーチェンはこんなことでは傷ついたりしない、気にするな」
大きな体のクレイダがそういうと、なぜか安心できた。
アラト、そう呼んでくれるのも、彼女が最後だろう。
「ありがとう」
「ああ」
窓から気持のよい風が吹いてきて、俺の髪をさらった。
ユーチェンが退室していってからしばらくたって、クレイダが俺に問うてきた。
まっすぐな強い目が俺を射貫くように見る。
「己の父が、娘のことなぞ知らぬと、そう言ったことをか?」
俺は入れなおした茶を一口飲んだ。
自ら指導して、作り上げた茶は格別だ。
その味は、俺に茶の蒸し方や揉み方を教えてくれた祖父を思い出させてくれた。
「いずれわかることだ、早いほうがよかろうに」
「そうかもしれないが、あまりにかわいそうだろう」
「かわいそうだからこそ、早めに伝え、そして覚悟させるべきだ」
俺は思わずクレイダから目を逸らし、もう一度茶を口に運んだ。
実は使者に紗国のユーチェンの家を尋ねさせていたのだ。
俺の名を語っても今はまだ無意味だろうが、遠くの国の王の王妃となっていることと、いずれ挨拶に伺いたいということを伝えさせた。
本人が望んでもいないのにと、クレイダははじめ反対したが、俺はイバンの死を看取った際に後悔したのだ。
彼に祖国を二度と見せずに死なせてしまったことを。
一言も口にしなかったからといって、郷愁の念が全くなかったということにはならない。
どうせ無理だとわかっていたから言わなかっただけではないのか?
本当は父母の顔をもう一度、見たいと思っていたのではないか?
地続きなのだ、無理をすれば行けたであろう、異世界から来た俺とは違うのだ。
だから、他の夢を通じてこちらに連れてきた者たちの中で、実家の名前がわかるものについては、使者に言伝を頼んでいたのだ。
ユーチェンだけではなく、他の者についても、ほとんど同じ回答だった。
クレイダが言った通りだ、本人が望まないということは……つまりそういうことなのだ。
「余計なことをしてしまったんだろうか」
「まあ、今更言ったって仕方ないことだ。しかももう、あちらには伝えたのだから、アラトの思いは果たされたのでは?」
「いや、俺の思いというのなら、親子の再会だったのだが」
「しかし、どの親も子を思ってはいなかったようだな」
クレイダも渋い顔をしてグッと茶を飲んだ。
「ふぅ……なんとも、冷たいことだな」
「そんなものだろうよ、長男でなければそこまで大事にされない。この世はそんなものだと思うぞ」
「クレイダ、お前たちのような魔物はどうなのだ?」
「アタシらは人とは違うからな、男子が一番最初に生まれたとしても、次の女子が優秀ならばそっちが強いと認めるさ」
「その、強くて認められた女子ってのが、お前か?」
俺は思わずクレイダをからかうように見つめ、口の端に笑顔を貼り付けた。
「……まあ……そうだ」
クレイダは居心地が悪そうに服装を直して座りなおした。
「だが、そなたは兄に一族を率いてほしくて、出奔したと、そういうところか?」
「な……なぜわかった」
「お前を慕ってわざわざ一族の者がここにまで来た時に、不思議に思って話しを聞いたことがあるんだよ」
「あいつらがなんと?」
「我らはやはり一族のうちの一番強いものに付き従いたくて、クレイダを探したと、そういってた」
「……そうか」
クレイダは照れたように腕組みをして窓の外を眺めた。
「お前が強かったおかげで、本当に助かっている、心強い仲間まで得られた」
「強さなら、アラトだって負けないだろうに……まあ、そういってもらえて嬉しいがな……」
「まあ他の者はともかく、ユーチェンには言わねばな……一緒にアオアイに行くことになったのだし、あの龍の統べる森を抜けて最初の国が紗国なのだから、無視もできん」
「アタシから、言おうか?」
「……」
「まあ、そうしてくれたら嬉しいが……」
「情けないもんだよね、王ともあろうものが」
クレイダはカカカと笑ってポンと膝を叩いて立ち上がった。
「ユーチェンはこんなことでは傷ついたりしない、気にするな」
大きな体のクレイダがそういうと、なぜか安心できた。
アラト、そう呼んでくれるのも、彼女が最後だろう。
「ありがとう」
「ああ」
窓から気持のよい風が吹いてきて、俺の髪をさらった。
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