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第三章 新たなる地
命
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この地は冬が長い、寒さが厳しく雪も深い。
冬の間は魔法で雪を溶かし、宮殿と後宮を作っていた。
1年ほど前からは、クレイダの一族の男たちがここに来ている。
彼らはクレイダの弟と甥とその孫で、力持ちなうえに建設にとても明るく、とても役立ってくれた。
姿を消したクレイダを探してここにたどり着いた。
そしてここでの暮らしを気に入り、とうとう居ついてしまった。
そしてようやく春の訪れを感じるころ、イバンは逝ってしまった。
ジルの時のように取り乱すこともなく、俺はイバンの死を冷静に受け入れた。
俺には一つの後悔があった。
ジルを一人で逝かせたことだ。
なので、いよいよ今日明日かとなってからは、ずっとそばにいて、手を握り、頬にキスを落として、髪を撫で、眠るイバンの顔を見つめ続けた。
「一人では逝かせないよ」
そうつぶやくと、意識のないはずのイバンの顔が少し安らいだ。
まるで、『ありがとう』そう、言っているかのようで、嬉しかった。
ユーチェンが産んだ子をその腕に抱いた時、涙を流して喜んだイバンは、俺に言った。
「ねえ、アラト、君がどこから来たのか、どうして年を取らないのか。僕にはわからないけど……それはきっと良いことばかりではないだろう。この先、苦しいことがたくさんあるんだろうね、でも、覚えておいて。君を愛した者たちのこと、そして自分の家族がいつも共にあるってこと」
アリが静かに部屋に入ってきて、俺の肩に手を置いた。
もう片方の手で生まれたばかりの赤子を抱いている。
先週産んだばかりの子で、この子はイバンに会えなかった、その時にはすでにイバンは意識がなかったからだ。
「子の名前はどうするんだい?僕なら、君にちなんだ名前にしたいところだけど」
そういって子が生まれるのを楽しみにしていたのだが。
アリはそっと赤子をイバンの横に寝かせた。
子はすやすやと眠っている。
老いたイバンと生まれたばかりの赤子、二人は同じように目を閉じ寝ている。
だが、一方はもうすぐこの世を去ろうとしている。
その時、ゆるゆるとイバンが目を開けた。
何日ぶりだろうか、もう、その目が開くことはないと思っていた俺は驚いてすぐに動けなかった。
「うまれたんだね……」
耳をすませないと聞こえないくらいの、小さな声で、イバンはそうつぶやいた。
「ああ、良い子だね、髪も目も、アラトと同じだ」
イバンの眦に涙が浮かび、枕を少し濡らした。
俺がイバンの頬を優しく撫でると、イバンはうっとりとして俺を見つめた。
「まさかずっといてくれるなんて」
「ずっと、一緒だったじゃないか、何百年も」
フフと小さく笑って、そして小さな息を数回して、そして、イバンは再び目を閉じた。
今度こそ、その目はもう開かない。
イバンの最期を看取れたことに、俺は感謝した。
そばにいてやれて、それをイバンが喜んでくれて。
眠るように逝ったイバンのそばで、赤子がふにゃふにゃ泣き始め、アリは慌てて抱き上げた。
扉の向こうで控えていたらしいクレイダとユーチェン、そして数名の女とクレイダの一族の者らがそっと入室してきた。
亡くなったイバンにそれぞれの国の習わしで黙祷を捧げている。
「皆に話があるんだ……俺は今日から、アラトではなく、阿羅彦と名乗ろう。ここは荒地ではなく、俺の国、阿羅国とする」
周りの者はハッとしたように面を上げ、俺の顔を凝視していたが、やがて皆が晴れやかに微笑み、そして膝を折った。
「御意、阿羅彦さま」
……ようやくだね、アラト……
微かに、ジルの声が聞こえたような気がした。
冬の間は魔法で雪を溶かし、宮殿と後宮を作っていた。
1年ほど前からは、クレイダの一族の男たちがここに来ている。
彼らはクレイダの弟と甥とその孫で、力持ちなうえに建設にとても明るく、とても役立ってくれた。
姿を消したクレイダを探してここにたどり着いた。
そしてここでの暮らしを気に入り、とうとう居ついてしまった。
そしてようやく春の訪れを感じるころ、イバンは逝ってしまった。
ジルの時のように取り乱すこともなく、俺はイバンの死を冷静に受け入れた。
俺には一つの後悔があった。
ジルを一人で逝かせたことだ。
なので、いよいよ今日明日かとなってからは、ずっとそばにいて、手を握り、頬にキスを落として、髪を撫で、眠るイバンの顔を見つめ続けた。
「一人では逝かせないよ」
そうつぶやくと、意識のないはずのイバンの顔が少し安らいだ。
まるで、『ありがとう』そう、言っているかのようで、嬉しかった。
ユーチェンが産んだ子をその腕に抱いた時、涙を流して喜んだイバンは、俺に言った。
「ねえ、アラト、君がどこから来たのか、どうして年を取らないのか。僕にはわからないけど……それはきっと良いことばかりではないだろう。この先、苦しいことがたくさんあるんだろうね、でも、覚えておいて。君を愛した者たちのこと、そして自分の家族がいつも共にあるってこと」
アリが静かに部屋に入ってきて、俺の肩に手を置いた。
もう片方の手で生まれたばかりの赤子を抱いている。
先週産んだばかりの子で、この子はイバンに会えなかった、その時にはすでにイバンは意識がなかったからだ。
「子の名前はどうするんだい?僕なら、君にちなんだ名前にしたいところだけど」
そういって子が生まれるのを楽しみにしていたのだが。
アリはそっと赤子をイバンの横に寝かせた。
子はすやすやと眠っている。
老いたイバンと生まれたばかりの赤子、二人は同じように目を閉じ寝ている。
だが、一方はもうすぐこの世を去ろうとしている。
その時、ゆるゆるとイバンが目を開けた。
何日ぶりだろうか、もう、その目が開くことはないと思っていた俺は驚いてすぐに動けなかった。
「うまれたんだね……」
耳をすませないと聞こえないくらいの、小さな声で、イバンはそうつぶやいた。
「ああ、良い子だね、髪も目も、アラトと同じだ」
イバンの眦に涙が浮かび、枕を少し濡らした。
俺がイバンの頬を優しく撫でると、イバンはうっとりとして俺を見つめた。
「まさかずっといてくれるなんて」
「ずっと、一緒だったじゃないか、何百年も」
フフと小さく笑って、そして小さな息を数回して、そして、イバンは再び目を閉じた。
今度こそ、その目はもう開かない。
イバンの最期を看取れたことに、俺は感謝した。
そばにいてやれて、それをイバンが喜んでくれて。
眠るように逝ったイバンのそばで、赤子がふにゃふにゃ泣き始め、アリは慌てて抱き上げた。
扉の向こうで控えていたらしいクレイダとユーチェン、そして数名の女とクレイダの一族の者らがそっと入室してきた。
亡くなったイバンにそれぞれの国の習わしで黙祷を捧げている。
「皆に話があるんだ……俺は今日から、アラトではなく、阿羅彦と名乗ろう。ここは荒地ではなく、俺の国、阿羅国とする」
周りの者はハッとしたように面を上げ、俺の顔を凝視していたが、やがて皆が晴れやかに微笑み、そして膝を折った。
「御意、阿羅彦さま」
……ようやくだね、アラト……
微かに、ジルの声が聞こえたような気がした。
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