俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

文字の大きさ
上 下
31 / 196
第三章  新たなる地

イバンの夢

しおりを挟む
 俺はその夜、夢を見た。
黒い屋根の大きな屋敷、椿の花が咲き乱れる庭に、その娘は一人で立っていた。
夜の闇に溶け込みそうな黒い着物を着て、銀色の長い髪を垂らして、黒い瞳でじっと俺を見ていた。
手には一抱えの風呂敷に包まれた物を持っていた。

「お待ちしておりました」

彼女は確かに、俺を待っていたと、そう言った。

「え?」

思わず聞き返す俺に、困ったように微笑んでそしてもう一度同じことを言った。

「わたくし、あなたのことをずっと夢に見ておりました。いつ、お迎えにきてくださるのかと、ずっとずっと、お待ちしておりました」

俺は気づいた。
イバンを連れ戻った時と似ていることに。

「お前も、俺の夢を見ていたというのか?」
「はい、わたくし、幼いころからずっとあなたの夢を見ておりました」
「お前、いくつだ」
「わたくしは18です」

俺の夢を見ていた者がここにもいた……
俺はやはり、人の夢を操れるのだろうか?
問題はそのことを自分が認識できていないことだ。

そして、俺はクレイダとイバンの言葉を思い出した。

『これからは、人を増やそうアラト……』

そう、二人はもうすぐ寿命を迎えるのだ。
はっきりと彼らはそれを予感し、そして俺が一人きりになって取り残されることを心配しているのだ。

「わたくしは、ユーチェン、あなたの名前は?」
「俺はアラトだ、お前、本当に俺の元に来るつもりか?もう二度と、祖国の地は踏めないとしても?」
「はい、わたくしは、どうせいてもいなくても良い娘です」
「……そんなことはないだろうが……」
「いえ、アラト様には想像もつかないでしょうが、この家に私のいる場所はないのです。ぜひ、お連れください」

そういってユーチェンはにこりと笑って手を差し出した。
頼りなげな白く細い手。
その細い手を取って、俺は目を瞑った。
辺りが白くまばゆく光るのを感じた。









 大きな流れとなった川の流れる先に湖が出来た。
元々、窪地であったそこに流れを通したからだ。
今では湖の周りに美しく咲き誇る色とりどりの花や、涼やかな林がある。
それはイバンが自ら植えたもの。

『僕がいなくなっても、ここに来れば思い出せる?』

そういいながら。

布団の中でイバンが微かな寝息を立てている。
最近は起きている時間がめっきり減ってきた。
イバンの世話は、その後俺が連れ戻った女たちが心を尽くしてくれている。
俺は、作業が終わった後に寝ているイバンの横にこうやって横たわるだけだ。

「俺は何も、お前にしてやれないな」

イバンは微かに目を開け、そして静かに微笑んだ。

「起きていたのか?」
「今、アラトの声で気が付いたよ」
「起こしてすまん」
「そんなことない、アラトの顔が今日も見れて良かった。ほんとに君は美しいね」
「美しいのはお前だ、イバン」

俺は彼の皺の目立つ痩せた頬をそっと撫でた。
かつて、19歳だったイバンの面影はほとんどない。
色白だったが、血色がよく健康そのものに見えた、あの青年が、今や老人だ。

「僕が美しいはずないでしょ、こんなに老いてしまったんだよ」

恥ずかしげにそっと俺の手に自分の手を重ねた。

「俺にはお前は美しく見えるよ、今も昔も、何一つ変わらない」

イバンは、嬉しそうに微笑んで、俺の手をギュッと握りこんでキスをした。

「順調に、アラトの国は出来上がっているね、かつて荒地だったころはもう思い出せないね」
「そうだな、お前とクレイダのおかげだ」
「違うよアラト、君の魔法がすごいからだよ」
「……俺は、そんなにすごいんだろうか」
「そりゃね、1から王国を築こうってんだから、ね」

二人で笑いあって、そして艶の失った髪を手ですいた。

「何かほしいものはないか?」
「ん……心残りはね、ただ一つかな」
「なんだ?」

俺は、自分から何か欲しがるのは珍しいイバンの顔を覗き込んだ。

「君の子を抱いてみたいんだよ、アラト。女たちの中に懐妊の徴候はないの?」

俺は何も言えずにただイバンを見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

確率は100

春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】 現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...