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第三章 新たなる地
イバン
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俺の腕を握って離さない男の手は熱くて、俺はようやく気づいた。
いつの間にか、体が実体化していたのだ。
「君、僕を連れて行ってくれるんだよね?こんな家から逃げ出すのを手伝いに来てくれたんだよね?」
声を潜めて、しかし内からこみ上げる嬉しさが隠しきれない様子で男は早口にまくし立てた。
「いや……」
戸惑いつつ俺は拒絶の言葉を告げる。
そして、声も出たことに唖然とする。
これがもしも夢ではなく実際に起こっていることであれば、俺は他人の家に勝手に侵入した不審者になるのだ。
そう思い当たって寒気がした、恐怖を覚えたのだ。
なぜ、どうして? 俺は森の中にいたではないか?!
狼狽する俺になおもすがるように男は迫ってくる。
「荷物は、いつでもどこへだって行けるようにまとめてあるんだよ」
そういって素早く寝間着から動きやすい服装へと着替えていく。
そして、箪笥の隅からいくつかのバッグを取り出し、中身を確かめて、一つは背負いあと二つは手に持って、もう一度俺の手を握った。
「いいよ、準備万端だ」
「え……いや……そう言われても」
「構わないんだよ、ほんとにどこへだって行く、だから早く。うちの者が僕たちに気づく前に、さあ」
その時、庭の方から犬らしき鳴き声が微かに聞こえた。
俺は振り払うこともできただろうその男の手を握り返し、そして顔を見つめた。
「俺は、半分淫魔だ、それでもいいのか?」
「ん?知ってるよ、僕はずっと君を待っていたから、知ってるよ」
「え?」
「話は後で、とにかく早くこの場を去らないと、ほんとに捕まってしまうよ、父はカンが鋭いんだ」
その言葉を聞いて焦った。
なぜ、焦る必要が?と思いつつ……でも、もしかして、この人間は俺のそばにいてくれるのではないか?と、そう、期待してしまった。
「名前を……」
「僕の名は、イバン、君は?」
「俺は……アラトだ」
告げられた名を心の中で何度も呼んだ。
イバン……イバン。
もちろん知らない名で、しかもこんな出会い方をしたのに、なぜだか離れがたい大切な人のような気がする。
クレイダがそばにいて、世話を焼いてくれてはいるが、あれは見た目が半身半獣でどこかおとぎ話めいていて、つまり、なんだか現実感がなかった。
しかし、イバンは見た感じ俺の知る人の形と相違ない、ジルのように。
「ここにはどうやって来たの?来た道を戻れる?」
「いや……どうすればいいのだろうか」
そう問われて途方に暮れた。
そうなのだ、俺はここからの脱出方法を知らない。
元来た道を戻ろうとすれば廊下に出て階段を出て、そして……扉をすり抜けて。
そんな非現実的なことで人を連れだせるのか?
それにその後はどうする。
どうすればあの荒地にたどり着けるというんだ。
俺は知らずに彼の手を強く握り返した。
その時に白い光に包まれて、俺もイバンも思わず目を瞑った。
お互いの手を離すまいとぎゅっと握りあったまま。
やがて、まぶた越しに明るさが収まった気配を感じてそっと目を開く、そしてそこにあったのは。
「ちょっと!!アラト!!どこ行ってたんだ!どれだけ心配したことか!!って、こいつは?こいつは誰なんだよ!」
慌てふためき叫ぶクレイダが、俺がいつも使っているかけ布を握りしめ、仁王立ちしている姿だった。
いつの間にか、体が実体化していたのだ。
「君、僕を連れて行ってくれるんだよね?こんな家から逃げ出すのを手伝いに来てくれたんだよね?」
声を潜めて、しかし内からこみ上げる嬉しさが隠しきれない様子で男は早口にまくし立てた。
「いや……」
戸惑いつつ俺は拒絶の言葉を告げる。
そして、声も出たことに唖然とする。
これがもしも夢ではなく実際に起こっていることであれば、俺は他人の家に勝手に侵入した不審者になるのだ。
そう思い当たって寒気がした、恐怖を覚えたのだ。
なぜ、どうして? 俺は森の中にいたではないか?!
狼狽する俺になおもすがるように男は迫ってくる。
「荷物は、いつでもどこへだって行けるようにまとめてあるんだよ」
そういって素早く寝間着から動きやすい服装へと着替えていく。
そして、箪笥の隅からいくつかのバッグを取り出し、中身を確かめて、一つは背負いあと二つは手に持って、もう一度俺の手を握った。
「いいよ、準備万端だ」
「え……いや……そう言われても」
「構わないんだよ、ほんとにどこへだって行く、だから早く。うちの者が僕たちに気づく前に、さあ」
その時、庭の方から犬らしき鳴き声が微かに聞こえた。
俺は振り払うこともできただろうその男の手を握り返し、そして顔を見つめた。
「俺は、半分淫魔だ、それでもいいのか?」
「ん?知ってるよ、僕はずっと君を待っていたから、知ってるよ」
「え?」
「話は後で、とにかく早くこの場を去らないと、ほんとに捕まってしまうよ、父はカンが鋭いんだ」
その言葉を聞いて焦った。
なぜ、焦る必要が?と思いつつ……でも、もしかして、この人間は俺のそばにいてくれるのではないか?と、そう、期待してしまった。
「名前を……」
「僕の名は、イバン、君は?」
「俺は……アラトだ」
告げられた名を心の中で何度も呼んだ。
イバン……イバン。
もちろん知らない名で、しかもこんな出会い方をしたのに、なぜだか離れがたい大切な人のような気がする。
クレイダがそばにいて、世話を焼いてくれてはいるが、あれは見た目が半身半獣でどこかおとぎ話めいていて、つまり、なんだか現実感がなかった。
しかし、イバンは見た感じ俺の知る人の形と相違ない、ジルのように。
「ここにはどうやって来たの?来た道を戻れる?」
「いや……どうすればいいのだろうか」
そう問われて途方に暮れた。
そうなのだ、俺はここからの脱出方法を知らない。
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そんな非現実的なことで人を連れだせるのか?
それにその後はどうする。
どうすればあの荒地にたどり着けるというんだ。
俺は知らずに彼の手を強く握り返した。
その時に白い光に包まれて、俺もイバンも思わず目を瞑った。
お互いの手を離すまいとぎゅっと握りあったまま。
やがて、まぶた越しに明るさが収まった気配を感じてそっと目を開く、そしてそこにあったのは。
「ちょっと!!アラト!!どこ行ってたんだ!どれだけ心配したことか!!って、こいつは?こいつは誰なんだよ!」
慌てふためき叫ぶクレイダが、俺がいつも使っているかけ布を握りしめ、仁王立ちしている姿だった。
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