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第三章 新たなる地
魔法
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森の様子が微妙に変わったことに気づいた。
木々の種類が違ってきたのだ。
考えてみれば、何日も歩き続けてきたのだ、生態系が変わってもおかしくはないだろう。
今いるここは、ジルと暮らした辺りとはまるで違う。
二人で見上げたどこか温かみのある落葉樹の葉ではない、鋭利な形の葉が多く見られるようになっていた。
登っている感覚はあったのだが、緩やかだったために気づかなかった。
俺はおそらく今、山を登っている。
それにしても、こんなふうに植生まで変わるとは……
俺はふうとため息をついて、清水から汲んで来た水を一口飲んだ。
ジルが器用に作ってくれた水筒。
俺の持ち物はジルであふれている。
ジルの手作りの愛情あふれた道具をじっと見つめた。
「ジル、俺から自分の記憶を消して、代わりに虐待されていた記憶を植え付けるとかなんとか言ってたっけ……バカだよな、ここまで至れり尽くせり揃えてくれるやつが俺を傷めつけていたなんて、辻褄が合わないじゃないか」
そう呟いてフフッと笑った。
俺はジルを思い出す時、なぜかあまり涙は出ない。
はじめこそ、立ち上がれないほどの衝撃と悲しみに打ちのめされたけれど、それが過ぎ去り、一緒に住んでいた場所を離れて来てからは、思い出しては微笑むようになった。
一緒にいる。
そう思えてならないのだ。
木の幹に背を預け、座り込んだ。
そろそろ夜になる。
火を焚いて、野宿の準備をしなければならない。
眠らずに夜通し歩くのは俺には無理だ。
リュックから敷物を出し、その上にリュックを置いた。そして周りから燃えやすい木くずを集め、火をおこす。
「まったく……」
俺はまた一人で笑った。
信じられないことだが、俺は指先で火をおこせるのだ。
半分淫魔になったからだろうか。
できることに気づいたのは、ジルに狩りや、ここでの生活の知恵を教えてもらっている最中だった。
『ん?……アラトたちって、火を魔法でつけないの?』
ぽかんとして意外そうに尋ねてきたジルに、俺ははじめ何と答えればいいのかわからなかった。
キャンプなどの経験で、外で火をつけたこともあるが、それでさえも着火剤や買ってきた薪があってこそだったのだ、そして最低でもマッチは必要なのだ。
『つまりここでは何か道具があるのではなくて、ジル達は魔法で火をつけるってこと?』
俺の問いにジルは困ったようにうなずいた。
これでは獲物を取れたとしても、料理することすらむつかしいじゃないかと、ジルは俺の行く末を案じた。
『まあ……そのさ、お前たちの魔法を見せてくれよ、どんなふうに火が出てくるんだ?』
頼むとジルはお安い御用とばかりに、指先から炎を出した。
指先にちょこんと乗ったかわいらしい炎は生き物のようにゆらゆらと揺らめいた。
『マジか……』
俺は面喰い、そして、やっぱりここはファンタジー世界であって、この森は龍が統べる森だし彼は淫魔なのだと再認識したものだ。
そして俺は、もうどうにでもなれとばかりに「えい」と指先を差し出し「炎」と念じた。
『は?』
ジルの美しいアーモンド型の瞳が真ん丸に見開かれた。
『出来た……ね』
『うん』
俺はどうやら、軽い魔法すら扱えるようになっていたらしい。
自分でも知らぬ間に。
それからは色々と試した、
大好きな魚釣りでも、竿を使わずに指先で狙いを定めて水を操り、魚を空に浮かせたし、洗いたての濡れた服を風をおこして乾かすこともできた。
そのたびにジルは笑顔になって無邪気に喜んだ。
これで僕がいなくなっても大丈夫だねって、そういって。
俺はまた知らずに微笑んでいた。
ジルを思い出すたびに、俺は笑顔になれるんだ。
残してくれた思い出がたくさんあって、飽きなかった。
その時、がさり……と葉を踏む音が聞こえ、俺はハッと身構えた。
木々の種類が違ってきたのだ。
考えてみれば、何日も歩き続けてきたのだ、生態系が変わってもおかしくはないだろう。
今いるここは、ジルと暮らした辺りとはまるで違う。
二人で見上げたどこか温かみのある落葉樹の葉ではない、鋭利な形の葉が多く見られるようになっていた。
登っている感覚はあったのだが、緩やかだったために気づかなかった。
俺はおそらく今、山を登っている。
それにしても、こんなふうに植生まで変わるとは……
俺はふうとため息をついて、清水から汲んで来た水を一口飲んだ。
ジルが器用に作ってくれた水筒。
俺の持ち物はジルであふれている。
ジルの手作りの愛情あふれた道具をじっと見つめた。
「ジル、俺から自分の記憶を消して、代わりに虐待されていた記憶を植え付けるとかなんとか言ってたっけ……バカだよな、ここまで至れり尽くせり揃えてくれるやつが俺を傷めつけていたなんて、辻褄が合わないじゃないか」
そう呟いてフフッと笑った。
俺はジルを思い出す時、なぜかあまり涙は出ない。
はじめこそ、立ち上がれないほどの衝撃と悲しみに打ちのめされたけれど、それが過ぎ去り、一緒に住んでいた場所を離れて来てからは、思い出しては微笑むようになった。
一緒にいる。
そう思えてならないのだ。
木の幹に背を預け、座り込んだ。
そろそろ夜になる。
火を焚いて、野宿の準備をしなければならない。
眠らずに夜通し歩くのは俺には無理だ。
リュックから敷物を出し、その上にリュックを置いた。そして周りから燃えやすい木くずを集め、火をおこす。
「まったく……」
俺はまた一人で笑った。
信じられないことだが、俺は指先で火をおこせるのだ。
半分淫魔になったからだろうか。
できることに気づいたのは、ジルに狩りや、ここでの生活の知恵を教えてもらっている最中だった。
『ん?……アラトたちって、火を魔法でつけないの?』
ぽかんとして意外そうに尋ねてきたジルに、俺ははじめ何と答えればいいのかわからなかった。
キャンプなどの経験で、外で火をつけたこともあるが、それでさえも着火剤や買ってきた薪があってこそだったのだ、そして最低でもマッチは必要なのだ。
『つまりここでは何か道具があるのではなくて、ジル達は魔法で火をつけるってこと?』
俺の問いにジルは困ったようにうなずいた。
これでは獲物を取れたとしても、料理することすらむつかしいじゃないかと、ジルは俺の行く末を案じた。
『まあ……そのさ、お前たちの魔法を見せてくれよ、どんなふうに火が出てくるんだ?』
頼むとジルはお安い御用とばかりに、指先から炎を出した。
指先にちょこんと乗ったかわいらしい炎は生き物のようにゆらゆらと揺らめいた。
『マジか……』
俺は面喰い、そして、やっぱりここはファンタジー世界であって、この森は龍が統べる森だし彼は淫魔なのだと再認識したものだ。
そして俺は、もうどうにでもなれとばかりに「えい」と指先を差し出し「炎」と念じた。
『は?』
ジルの美しいアーモンド型の瞳が真ん丸に見開かれた。
『出来た……ね』
『うん』
俺はどうやら、軽い魔法すら扱えるようになっていたらしい。
自分でも知らぬ間に。
それからは色々と試した、
大好きな魚釣りでも、竿を使わずに指先で狙いを定めて水を操り、魚を空に浮かせたし、洗いたての濡れた服を風をおこして乾かすこともできた。
そのたびにジルは笑顔になって無邪気に喜んだ。
これで僕がいなくなっても大丈夫だねって、そういって。
俺はまた知らずに微笑んでいた。
ジルを思い出すたびに、俺は笑顔になれるんだ。
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その時、がさり……と葉を踏む音が聞こえ、俺はハッと身構えた。
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