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第三章 新たなる地
胸の痛み
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ジルの目は赤かった。
泣いたのが一目でわかった。
胸が痛かった。
彼に寄り添ってあげたいとそう心から思ったけれど、彼に理由を無理やり聞いていいものかどうか、悩んだ。
「ジル」
「ん?」
何でもないように笑顔で振り向いたジルの姿がいつもよりもさらに小さく見えた。
このところ、また痩せたような気もする。
「痩せてしまったみたいだね、ジル」
「そう?でも心配ないよ、僕は魔族だから」
「……」
俺は何も言えなくて肩にかけようとした手を宙に浮かせたままその場に佇んだ。
「ねえ、アラト。僕のね妹がさっき、寿命を迎えたみたいなんだ」
俺はハッとしてジルを見つめた。
赤くなった美しい目から一筋の涙が流れた。
「妹は、この森の最後のサキュバスだったんだ……そして今彼女が亡くなったのをこの身に感じたんだ」
「どういうふうに?いくら妹だからって、感じられるものじゃないと思うけど」
「うん……人は、違うのかな?……僕たち淫魔は特に一族の結束が固いから、血のつながったもの同士なら、命が亡くなった瞬間、胸が苦しくなって絶望を感じるんだよ」
その感覚に聞き覚えがあった。
……もしかして、あの時に感じたあの苦しみとわけのわからない絶望はもしかして。
俺の中の何か大切な人が死んだという知らせだったのか?
俺は思念が飛んできた方向を思わず見つめた。
「アラト?」
そんな俺を不思議そうにじっと見上げるジルがとても小さく見えて、たまらなくなってそっと抱き寄せた。
「アラト、そろそろかもしれない……」
「そうか」
俺はぎゅっと目を瞑り、胸の痛みから逃れるようにジルを抱きしめ続けた。
ジルの妹とは一度会った。
あのシモンヌというジルによく似た淫魔は、ジルとは双子であったという。
つまり、そのシモンヌが寿命を迎えたということは……
考えたくない。
俺は一人、この地に残るのか。
残って何をする?
……いや、違う。
誓ったではないか。
心の中でジルを抱えて生きていくって。
だけど、実際にその時が近いと知ったら、こんなにも恐怖に支配されるなんて。
「アラト」
か細いジルの声が俺を呼ぶ。
「ねえ、僕たち淫魔はね、去るときに相手の記憶を奪うんだ、そして、僕たちに酷くされた記憶を植えるんだよ、僕たちのことを恨んで、この地に思いを残さないように、そうするんだ」
俺は静かに話すジルの言葉を、柔らかな金色の髪の毛に顔を埋めて聞いた。
その話は、いつかシモンヌから聞いた通りだった。
「だからね、僕もね、アラトの記憶を消したいって、そう思ってるんだ」
やめてくれ、俺の記憶を奪わないでくれ。
そう言いたいのに、声が出なかった。
泣いたのが一目でわかった。
胸が痛かった。
彼に寄り添ってあげたいとそう心から思ったけれど、彼に理由を無理やり聞いていいものかどうか、悩んだ。
「ジル」
「ん?」
何でもないように笑顔で振り向いたジルの姿がいつもよりもさらに小さく見えた。
このところ、また痩せたような気もする。
「痩せてしまったみたいだね、ジル」
「そう?でも心配ないよ、僕は魔族だから」
「……」
俺は何も言えなくて肩にかけようとした手を宙に浮かせたままその場に佇んだ。
「ねえ、アラト。僕のね妹がさっき、寿命を迎えたみたいなんだ」
俺はハッとしてジルを見つめた。
赤くなった美しい目から一筋の涙が流れた。
「妹は、この森の最後のサキュバスだったんだ……そして今彼女が亡くなったのをこの身に感じたんだ」
「どういうふうに?いくら妹だからって、感じられるものじゃないと思うけど」
「うん……人は、違うのかな?……僕たち淫魔は特に一族の結束が固いから、血のつながったもの同士なら、命が亡くなった瞬間、胸が苦しくなって絶望を感じるんだよ」
その感覚に聞き覚えがあった。
……もしかして、あの時に感じたあの苦しみとわけのわからない絶望はもしかして。
俺の中の何か大切な人が死んだという知らせだったのか?
俺は思念が飛んできた方向を思わず見つめた。
「アラト?」
そんな俺を不思議そうにじっと見上げるジルがとても小さく見えて、たまらなくなってそっと抱き寄せた。
「アラト、そろそろかもしれない……」
「そうか」
俺はぎゅっと目を瞑り、胸の痛みから逃れるようにジルを抱きしめ続けた。
ジルの妹とは一度会った。
あのシモンヌというジルによく似た淫魔は、ジルとは双子であったという。
つまり、そのシモンヌが寿命を迎えたということは……
考えたくない。
俺は一人、この地に残るのか。
残って何をする?
……いや、違う。
誓ったではないか。
心の中でジルを抱えて生きていくって。
だけど、実際にその時が近いと知ったら、こんなにも恐怖に支配されるなんて。
「アラト」
か細いジルの声が俺を呼ぶ。
「ねえ、僕たち淫魔はね、去るときに相手の記憶を奪うんだ、そして、僕たちに酷くされた記憶を植えるんだよ、僕たちのことを恨んで、この地に思いを残さないように、そうするんだ」
俺は静かに話すジルの言葉を、柔らかな金色の髪の毛に顔を埋めて聞いた。
その話は、いつかシモンヌから聞いた通りだった。
「だからね、僕もね、アラトの記憶を消したいって、そう思ってるんだ」
やめてくれ、俺の記憶を奪わないでくれ。
そう言いたいのに、声が出なかった。
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