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第二章 遠くの国
真湖紗王
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アラトが強烈な念を感じたその方角にあったものは「紗国」
その国で何が起こっていたか。
第二章ではそのことに触れます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
美しい国があった。
狐たちが興したその国は「紗国」といった。
ここ紗国では、ある言い伝えがある。
「お嫁様伝説」だ。
王は魔力が強く優秀だが、多すぎる魔力を持つがゆえに反面脆くもあり、代々短命であった。
しかし、異世界から来る王のお嫁様を迎えることができた王の代は、1000年の命と強大な力を得られるという、そのような言い伝えであった。
しかし、お嫁様を異世界から得られた王など夢物語にすぎぬ。
多くのものはそれを否定的なまなざしで見ていた。
◆
「真湖紗様、これ以上は……どうか!」
まばゆく輝く銀色の髪を持つ王は、さらりと靡かせ振りむいた。
現在の紗国王は、白銀の王と呼ばれている。
今年68歳、しかし、見た目は20歳そこそこにしか見えない。
高く形のよい鼻筋に切れ長の憂いのある目、優雅に描く曲線の唇は紅を塗ったかのような色合いだ。
「どうしてだ」
凛と張り詰めた声があたりに響いた。
「このままお嫁様探しをしているばあいではありません、財政が逼迫してしまいます」
「しかしまだ、それほど大変な事態ではないのだろう?」
「それはそうですが……しかし、防衛費をすべてお嫁様探しに充てるなど、あってはならぬことです、世はまだまだ戦乱ではありませんか」
「だから、その分をどこかから補え」
「補えなどとそう簡単に」
「そなたは……」
真湖紗王は形のよい眉を下げ、目を細めた。
麗しい君のそのような表情を見て、財政担当の文官たちはただただ頭を下げた。
「そなたらにとって、私の嫁を探すことはどうでもいいことのようだな」
王にそう問われてしまっては、文官らは何も言えず、床に頭をつけて頭を下げ続けるほかない。
確かに本当にお嫁様がどこかにいて、今なお真湖紗王を待ちわびているのだとすればそれは……早くお迎えにはせ参じるべきであろう。
しかし……
「真湖紗様」
その時、謁見の間の扉がすっと開き、森の民の訪れが告げられた。
森の民とは、神聖なる森の神殿に仕える一族のことだ。
彼らは王族から選ばれる神殿長を支え、基本的には神殿から出ることもなく、そしてさらに王族以外とは口を聞くこともしない。
脈々と連なる紗国王家の歴代の王墓を管理しているのもまた、森の民らだった。
その森の民らが王に謁見に来たということは何か起こったに違いない。
文官たちはハッとして真湖紗王のそばに立つ宰相殿の顔を見た。
宰相がそっとうなずくのを見て、頭を下げたまま退室した。
入れ替わりに入室した森の民らは総勢10名。
みな白の着物を纏い優雅な身のこなしで礼をした。
「どうかしたのか?珍しいこともあるものだな。そなたらがこちらへ来るなど」
真湖紗王も興味深く森の民を見つめた。
森の民の代表は静かに視線を上げると、美しく高い声で歌うように話し出した。
「真湖紗様、私どもはある赤子を森で拾い、その後保護してまいりました、その際にはそのことをご報告いたしましたので、ご記憶のことと存じます」
「ん?」
真湖紗王は首を少し傾け、そして宰相を見た。
「私は覚えておりますよ、真湖紗様、なんでも森の魔物に襲われて片腕を損傷していた赤子を見つけたという……たしか10年ほど前のことだったような気がいたしますが」
宰相はゆったりと記憶を話した。
「そうか、そんなことが……まあ、あったかもしれんな。で、それがどうかしたか?」
なおも真湖紗王は不思議そうな表情のまま森の民を見つめる。
「その子を御前にお連れしてもよろしいでしょうか?私の見立てが正しければ、あの子は天からの使いではないかと、そう思うのです」
真湖紗王の瞳がきらりと光った。
「天から……だと?」
「はい」
「なぜに、そう思った」
「あの子は、魔物に片腕を引きちぎられておりました。その傷は我らが見つけた際、かなりひどい状況でこのままでは一晩も持たないだろうと諦めたものです、しかし、その後あの子は奇跡的に体力を戻し、片腕のまま無事に育ちました。そして……先日、神殿長が祭壇からお足を外され落下しそうになった際」
「姉上が?」
「はい……その……あの子が飛び、そして神殿長のお体を抱きとめ、無事にお助けしたのです」
「飛んで?とは?飛翔か」
真湖紗王は宰相と目を合わせ、そして厳しい目線となって森の民をもう一度見た。
「単なる飛翔ではございません」
狐族及び、諸外国でも魔力の強いものは訓練によって飛翔を覚えることができる。
庶民には無理なことだ、もしもその子がそれをしたというのならば、どこかの王族の落胤かもしれない。
「というと?」
「背から……大きな翼が……はえたのです」
「は?」
静かなざわめきが起きた。
「……森の民らよ、そなたらがありもしないことをそのように告げてくるなどないとは思うのだが……にわかには信じられぬぞ」
「もちろんそうでございましょう。ですので、本日そのものを連れてきております。次の間に待たせておりますので、真湖紗様がお会いになってくださいませ」
白銀の王はフウとため息をついて、そして一瞬困惑を顔に浮かべたが、すぐさま侍従に指示を出し、そのものをここに呼ぶように言いつけた。
「我は、そなたらを信じておるからな」
「ありがたいことでございます」
森の民らは深く頭を下げた。
その国で何が起こっていたか。
第二章ではそのことに触れます。
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美しい国があった。
狐たちが興したその国は「紗国」といった。
ここ紗国では、ある言い伝えがある。
「お嫁様伝説」だ。
王は魔力が強く優秀だが、多すぎる魔力を持つがゆえに反面脆くもあり、代々短命であった。
しかし、異世界から来る王のお嫁様を迎えることができた王の代は、1000年の命と強大な力を得られるという、そのような言い伝えであった。
しかし、お嫁様を異世界から得られた王など夢物語にすぎぬ。
多くのものはそれを否定的なまなざしで見ていた。
◆
「真湖紗様、これ以上は……どうか!」
まばゆく輝く銀色の髪を持つ王は、さらりと靡かせ振りむいた。
現在の紗国王は、白銀の王と呼ばれている。
今年68歳、しかし、見た目は20歳そこそこにしか見えない。
高く形のよい鼻筋に切れ長の憂いのある目、優雅に描く曲線の唇は紅を塗ったかのような色合いだ。
「どうしてだ」
凛と張り詰めた声があたりに響いた。
「このままお嫁様探しをしているばあいではありません、財政が逼迫してしまいます」
「しかしまだ、それほど大変な事態ではないのだろう?」
「それはそうですが……しかし、防衛費をすべてお嫁様探しに充てるなど、あってはならぬことです、世はまだまだ戦乱ではありませんか」
「だから、その分をどこかから補え」
「補えなどとそう簡単に」
「そなたは……」
真湖紗王は形のよい眉を下げ、目を細めた。
麗しい君のそのような表情を見て、財政担当の文官たちはただただ頭を下げた。
「そなたらにとって、私の嫁を探すことはどうでもいいことのようだな」
王にそう問われてしまっては、文官らは何も言えず、床に頭をつけて頭を下げ続けるほかない。
確かに本当にお嫁様がどこかにいて、今なお真湖紗王を待ちわびているのだとすればそれは……早くお迎えにはせ参じるべきであろう。
しかし……
「真湖紗様」
その時、謁見の間の扉がすっと開き、森の民の訪れが告げられた。
森の民とは、神聖なる森の神殿に仕える一族のことだ。
彼らは王族から選ばれる神殿長を支え、基本的には神殿から出ることもなく、そしてさらに王族以外とは口を聞くこともしない。
脈々と連なる紗国王家の歴代の王墓を管理しているのもまた、森の民らだった。
その森の民らが王に謁見に来たということは何か起こったに違いない。
文官たちはハッとして真湖紗王のそばに立つ宰相殿の顔を見た。
宰相がそっとうなずくのを見て、頭を下げたまま退室した。
入れ替わりに入室した森の民らは総勢10名。
みな白の着物を纏い優雅な身のこなしで礼をした。
「どうかしたのか?珍しいこともあるものだな。そなたらがこちらへ来るなど」
真湖紗王も興味深く森の民を見つめた。
森の民の代表は静かに視線を上げると、美しく高い声で歌うように話し出した。
「真湖紗様、私どもはある赤子を森で拾い、その後保護してまいりました、その際にはそのことをご報告いたしましたので、ご記憶のことと存じます」
「ん?」
真湖紗王は首を少し傾け、そして宰相を見た。
「私は覚えておりますよ、真湖紗様、なんでも森の魔物に襲われて片腕を損傷していた赤子を見つけたという……たしか10年ほど前のことだったような気がいたしますが」
宰相はゆったりと記憶を話した。
「そうか、そんなことが……まあ、あったかもしれんな。で、それがどうかしたか?」
なおも真湖紗王は不思議そうな表情のまま森の民を見つめる。
「その子を御前にお連れしてもよろしいでしょうか?私の見立てが正しければ、あの子は天からの使いではないかと、そう思うのです」
真湖紗王の瞳がきらりと光った。
「天から……だと?」
「はい」
「なぜに、そう思った」
「あの子は、魔物に片腕を引きちぎられておりました。その傷は我らが見つけた際、かなりひどい状況でこのままでは一晩も持たないだろうと諦めたものです、しかし、その後あの子は奇跡的に体力を戻し、片腕のまま無事に育ちました。そして……先日、神殿長が祭壇からお足を外され落下しそうになった際」
「姉上が?」
「はい……その……あの子が飛び、そして神殿長のお体を抱きとめ、無事にお助けしたのです」
「飛んで?とは?飛翔か」
真湖紗王は宰相と目を合わせ、そして厳しい目線となって森の民をもう一度見た。
「単なる飛翔ではございません」
狐族及び、諸外国でも魔力の強いものは訓練によって飛翔を覚えることができる。
庶民には無理なことだ、もしもその子がそれをしたというのならば、どこかの王族の落胤かもしれない。
「というと?」
「背から……大きな翼が……はえたのです」
「は?」
静かなざわめきが起きた。
「……森の民らよ、そなたらがありもしないことをそのように告げてくるなどないとは思うのだが……にわかには信じられぬぞ」
「もちろんそうでございましょう。ですので、本日そのものを連れてきております。次の間に待たせておりますので、真湖紗様がお会いになってくださいませ」
白銀の王はフウとため息をついて、そして一瞬困惑を顔に浮かべたが、すぐさま侍従に指示を出し、そのものをここに呼ぶように言いつけた。
「我は、そなたらを信じておるからな」
「ありがたいことでございます」
森の民らは深く頭を下げた。
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