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第一章 忘れえぬ人
金色の髪の人
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「ここは……どこなんだ?」
俺はジルから漂う花の匂いに気づかないふりをして訪ねた。
あの匂いが危険だと本能で感じたからだ。
「……ねえアラト、君はこの世界じゃないところから来たんじゃない?」
「え?」
俺は驚いてジルの顔を真正面から見た。
真剣な金色の瞳が俺を捉えてじっと見据えてくる。
「ここ……もしかして、日本じゃない?」
「ニホン……そう……そこから来たんだね」
ジルは困ったように薄く笑って、俺の横にポスンとリュックを置いてくれた。
「アラトの荷物……それがないと困るんだろうから……」
俺は咄嗟にリュックを抱きしめてその勢いでジルから視線を外した。
「あの……日本じゃないってことはここは……」
「……あの時おかしな気配がして、見に行ったら君が立ってた。僕もどうしてかはわからないけど……君が気を失う前にも伝えたけど、ここは龍が統べる森だよ。ここには龍属と僕のような魔物しかいない」
「龍……魔物?」
僕は呆然としてリュックを更にきつく抱きしめた。
「龍を知ってる?」
「知ってるというか……あれは想像の生き物で、小説や漫画や映画でしか見たことはないよ」
「えと……僕にはそのショウセツ?とかなんとかっていうのが何なのかわからないけど……龍は想像上のものなんかじゃないよ、この森に確かにいるんだ。……すべての生き物の頂点だよ」
「じゃあ……その龍に見つかったら……」
「ここにいれば見つかることはないよ……龍はそもそも我々淫魔には近寄らないからね」
「……いんまって……もしかして淫魔なのか?」
「え?」
ゴクリとつばを飲み込んで、緊張のためかまた喉が乾いたことに気づいた。
俺の想像通り、目の前のこの美麗な少年が淫魔だとしたら……目を合わせたりずっと一緒にいるのは危険だ……というかすでに囚われているといえるのか?
とにかく、俺は今……窮地に陥ってるらしいな……
なんとなく張り詰めていた緊張の糸が切れて、自嘲の笑みが溢れる。
まるで夢物語だ。
本当の俺は事故に遭い意識不明で、この夢をただベッドの上で見ているんじゃないだろうか?
「どうしたのアラト……気が晴れないかもしれないけど、君たち人間は食べないと死んでしまうんじゃない?集めてきたものがあるから、何か食べてみないかな」
ジルは俺の顔を覗き込んでにっこりと微笑んだ。
目を合わすとクラっと一瞬自我を失いそうになるけれど、それ以上はなにもない。
体に異常も感じなかった。
そのことに少し安心した。
「……今……食べたいとは思わないけど」
「それでも、何か口に入れようよ、僕も一緒に食べるよ」
美しく細い手が僕の手に触れた。
それはまるで10年来の友が遊びに行こうよと誘うような何気ない動作だった……だけど俺の身体はビクッと震え、そして身体の中心が熱くなる。
「……ぁ」
思わず出た吐息とともに俺は一瞬で射精してしまいそうになって、焦って下腹部を押さえた。
「……っ……ごめん……なさい」
手を払い除けた俺に申し訳なさそうに謝るジルは、視線を合わせないまま呟いた。
「僕は淫魔だから……触れるとそうなるよね……」
「……っ」
俺は見透かされたようで猛烈に恥ずかしくなってジルを睨みつけた。
「でも……本当に君をどうにかしようっていうのなら、君のその気持ちの隙間に入り込んで、つまり……夢を見せたまま君を奪うことは僕には簡単なんだけどね」
「……」
「だけど、それはしたくないんだ」
「は?」
俺は小さな声でポツリポツリと話す淫魔を観察した。
「アラトを見つけたとき思ったんだ……やっと会えたって。僕はその自分の直感を信じたいんだ。だから……できたらその……催淫しなくても僕のことをその……愛してくれたらって……そう思って」
「……」
なにいってんだ……
そう思いながらも、白い顔をほんのりと紅に染めながら恥ずかしそうに話す淫魔の少年に見惚れた。
目の前にいて実体を持っているのが不思議になるほどの美しさ……
この世ならざるものに触れたような後ろめたさ……
いろんな感情が湧き出てきて、心がざわついた。
「……俺は……」
「ねえ、アラト……君、心のなかに誰か住んでるんじゃない?」
「え」
「その人がアラトの心から完全にいなくなって……そしてアラトが僕のことを認めてくれるまで、僕は淫魔の能力を使わないでこのまま一緒に過ごせたらって……そう思ってるんだけど」
ジルはゆっくりと立ち上がってもう一度水差しから水を注ぎ、木の器を差し出した。
「だから……友達になってほしいんだ。アラト」
木々の間から差し込む日の光を浴びて、ジルの金色の髪は眩しいほどきらめいていた。
俺はジルから漂う花の匂いに気づかないふりをして訪ねた。
あの匂いが危険だと本能で感じたからだ。
「……ねえアラト、君はこの世界じゃないところから来たんじゃない?」
「え?」
俺は驚いてジルの顔を真正面から見た。
真剣な金色の瞳が俺を捉えてじっと見据えてくる。
「ここ……もしかして、日本じゃない?」
「ニホン……そう……そこから来たんだね」
ジルは困ったように薄く笑って、俺の横にポスンとリュックを置いてくれた。
「アラトの荷物……それがないと困るんだろうから……」
俺は咄嗟にリュックを抱きしめてその勢いでジルから視線を外した。
「あの……日本じゃないってことはここは……」
「……あの時おかしな気配がして、見に行ったら君が立ってた。僕もどうしてかはわからないけど……君が気を失う前にも伝えたけど、ここは龍が統べる森だよ。ここには龍属と僕のような魔物しかいない」
「龍……魔物?」
僕は呆然としてリュックを更にきつく抱きしめた。
「龍を知ってる?」
「知ってるというか……あれは想像の生き物で、小説や漫画や映画でしか見たことはないよ」
「えと……僕にはそのショウセツ?とかなんとかっていうのが何なのかわからないけど……龍は想像上のものなんかじゃないよ、この森に確かにいるんだ。……すべての生き物の頂点だよ」
「じゃあ……その龍に見つかったら……」
「ここにいれば見つかることはないよ……龍はそもそも我々淫魔には近寄らないからね」
「……いんまって……もしかして淫魔なのか?」
「え?」
ゴクリとつばを飲み込んで、緊張のためかまた喉が乾いたことに気づいた。
俺の想像通り、目の前のこの美麗な少年が淫魔だとしたら……目を合わせたりずっと一緒にいるのは危険だ……というかすでに囚われているといえるのか?
とにかく、俺は今……窮地に陥ってるらしいな……
なんとなく張り詰めていた緊張の糸が切れて、自嘲の笑みが溢れる。
まるで夢物語だ。
本当の俺は事故に遭い意識不明で、この夢をただベッドの上で見ているんじゃないだろうか?
「どうしたのアラト……気が晴れないかもしれないけど、君たち人間は食べないと死んでしまうんじゃない?集めてきたものがあるから、何か食べてみないかな」
ジルは俺の顔を覗き込んでにっこりと微笑んだ。
目を合わすとクラっと一瞬自我を失いそうになるけれど、それ以上はなにもない。
体に異常も感じなかった。
そのことに少し安心した。
「……今……食べたいとは思わないけど」
「それでも、何か口に入れようよ、僕も一緒に食べるよ」
美しく細い手が僕の手に触れた。
それはまるで10年来の友が遊びに行こうよと誘うような何気ない動作だった……だけど俺の身体はビクッと震え、そして身体の中心が熱くなる。
「……ぁ」
思わず出た吐息とともに俺は一瞬で射精してしまいそうになって、焦って下腹部を押さえた。
「……っ……ごめん……なさい」
手を払い除けた俺に申し訳なさそうに謝るジルは、視線を合わせないまま呟いた。
「僕は淫魔だから……触れるとそうなるよね……」
「……っ」
俺は見透かされたようで猛烈に恥ずかしくなってジルを睨みつけた。
「でも……本当に君をどうにかしようっていうのなら、君のその気持ちの隙間に入り込んで、つまり……夢を見せたまま君を奪うことは僕には簡単なんだけどね」
「……」
「だけど、それはしたくないんだ」
「は?」
俺は小さな声でポツリポツリと話す淫魔を観察した。
「アラトを見つけたとき思ったんだ……やっと会えたって。僕はその自分の直感を信じたいんだ。だから……できたらその……催淫しなくても僕のことをその……愛してくれたらって……そう思って」
「……」
なにいってんだ……
そう思いながらも、白い顔をほんのりと紅に染めながら恥ずかしそうに話す淫魔の少年に見惚れた。
目の前にいて実体を持っているのが不思議になるほどの美しさ……
この世ならざるものに触れたような後ろめたさ……
いろんな感情が湧き出てきて、心がざわついた。
「……俺は……」
「ねえ、アラト……君、心のなかに誰か住んでるんじゃない?」
「え」
「その人がアラトの心から完全にいなくなって……そしてアラトが僕のことを認めてくれるまで、僕は淫魔の能力を使わないでこのまま一緒に過ごせたらって……そう思ってるんだけど」
ジルはゆっくりと立ち上がってもう一度水差しから水を注ぎ、木の器を差し出した。
「だから……友達になってほしいんだ。アラト」
木々の間から差し込む日の光を浴びて、ジルの金色の髪は眩しいほどきらめいていた。
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