俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

文字の大きさ
上 下
2 / 196
第一章  忘れえぬ人

深い森2

しおりを挟む
 金色の巻毛で金色の美しく輝く瞳の少年が優しいまなざしで俺を見ていた。
細い体に白く優雅な布を巻きつけていて、ギリシャ神話の挿絵のような出で立ちだった。



こんな深い森の中でする格好じゃない……
感じた強烈な違和感で俺は恐怖のあまり数歩後ずさり、そしてようやくそれだけの言葉を絞り出した。

「……お……おまえは誰だ」
「僕はジル……君は?」
少年の声は頭の中に甘い痺れを伴って染み入るように入ってくる。

「ジル?」
「うん、君は?」
「あ……新人(あらと)」
「アラト?……そう、君、アラトっていうんだ……そうなんだね」
「ああ……」

ジルは俺に一歩、また一歩と近寄ってきて、そしてついに僕の胸に顔をピタリと寄せて来て甘えるように微笑んだ。

「見つけちゃった……僕の。アラト」

僕の喉はゴクリと音が鳴った。
僕の胸ぐらいしかない小さな少年は俺に身を寄せ、そして嬉しそうに腕を回して俺を抱いた。

「いい匂いだね、アラト」

いきなり抱きつかれ狼狽するが、体が気怠く動かない。
金色の細く美しい頭髪を見下ろして、そこから漂う花のような香りに目を細めた。
……なぜか、体の中心がうずいた。

「……離せ……」
「どうして?」
「……」

本当に心の底からわからないかのように顔を上げてそう尋ねられた。

「だっておかしいだろ!いきなり抱きついてくるなんて!というかここはどこなんだ?と言うかおまえは何人なんだよ」

どこからどう見ても外国人であろう少年に早口でそう問うと、キョトンとした表情で僕を見上げ、そして細く美しい指を僕の唇にはわせてジルは言った。

「ここは龍族の統べる森の中……僕はこの森の片隅に住んでいる淫魔だよ」

ジルはそれだけ言うと、美しくみだらな微笑みを浮かべて、そしてまた僕の胸にすがりついた。






 朝日を全身に浴びて、その暖かさに目がゆったりと開いた。
ぼーっとする頭のまま見渡すと、目の前に咲き誇る美しい花が見える。

「え?」

身体を横たえたまま、冷や汗がツゥーっと背中を流れる。

「……ここ……」

知らない場所だった。
植物園のような朽ちかけた建物の中に、ふんわりと設えたベッドに寝かせられていた。

そして……

「誰がこれを……」

上半身を起こし、着替えさせられていた服を触る。
ゆったりとしたシャツを俺はまとい、そして寝かされていたようだ。
つややかな艶を持つその布は上等そうだ……


「……」

頭を整理していて最悪なことを思い出す。
自分が高速道路を走っていた車の中から、謎の森に急に立ちすくんでいたこと。
そして、どこの国の人間なのか恐ろしく美しい少年がいて……

「……いんま!?」
「あれ?起きたんだね、僕を呼んだの?」

振り向くと、美しい髪の毛に朝日を煌めかせた少年が水差しを持って立っていた。

「これ、お水を持ってきたよ、少し果実を絞ってあるから爽やかでおいしいよ」

少年の名は……ジルだ。

どこの国の人なのか……どう見ても西洋人で、まるで彫刻のように美しい顔で抜けるような白い肌。
実際に俺の唇に触れた彼の指は吸い付くようになめらかで……え?

俺は自分の唇に手をやった。

あれから……記憶がない……

「どうかしたの?」

ジルは微笑んで木の器を俺に手渡してきた。

「これ……」
「心配しないで、アラトに毒なんて盛らないよ」
「そ……そんな心配はしてないけど……」

木の器を見ていると急激に喉の乾きを覚え、そしてゴクリと一気に飲んだ。
さっぱりとした柑橘類の風味がほのかに入ったおいしい水だった。

「おかわり、いる?」

ジルは小首をかしげてじっと見つめてくる。
俺の心臓はどきりと跳ねて目をそらした。

「いや……もういい」

ジルはくすっと笑って俺の手から器を取ると、それをそばの木の台に置き、ベッドの横に腰掛けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

処理中です...