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第一章 忘れえぬ人
深い森2
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金色の巻毛で金色の美しく輝く瞳の少年が優しいまなざしで俺を見ていた。
細い体に白く優雅な布を巻きつけていて、ギリシャ神話の挿絵のような出で立ちだった。
こんな深い森の中でする格好じゃない……
感じた強烈な違和感で俺は恐怖のあまり数歩後ずさり、そしてようやくそれだけの言葉を絞り出した。
「……お……おまえは誰だ」
「僕はジル……君は?」
少年の声は頭の中に甘い痺れを伴って染み入るように入ってくる。
「ジル?」
「うん、君は?」
「あ……新人(あらと)」
「アラト?……そう、君、アラトっていうんだ……そうなんだね」
「ああ……」
ジルは俺に一歩、また一歩と近寄ってきて、そしてついに僕の胸に顔をピタリと寄せて来て甘えるように微笑んだ。
「見つけちゃった……僕の。アラト」
僕の喉はゴクリと音が鳴った。
僕の胸ぐらいしかない小さな少年は俺に身を寄せ、そして嬉しそうに腕を回して俺を抱いた。
「いい匂いだね、アラト」
いきなり抱きつかれ狼狽するが、体が気怠く動かない。
金色の細く美しい頭髪を見下ろして、そこから漂う花のような香りに目を細めた。
……なぜか、体の中心がうずいた。
「……離せ……」
「どうして?」
「……」
本当に心の底からわからないかのように顔を上げてそう尋ねられた。
「だっておかしいだろ!いきなり抱きついてくるなんて!というかここはどこなんだ?と言うかおまえは何人なんだよ」
どこからどう見ても外国人であろう少年に早口でそう問うと、キョトンとした表情で僕を見上げ、そして細く美しい指を僕の唇にはわせてジルは言った。
「ここは龍族の統べる森の中……僕はこの森の片隅に住んでいる淫魔だよ」
ジルはそれだけ言うと、美しくみだらな微笑みを浮かべて、そしてまた僕の胸にすがりついた。
◆
朝日を全身に浴びて、その暖かさに目がゆったりと開いた。
ぼーっとする頭のまま見渡すと、目の前に咲き誇る美しい花が見える。
「え?」
身体を横たえたまま、冷や汗がツゥーっと背中を流れる。
「……ここ……」
知らない場所だった。
植物園のような朽ちかけた建物の中に、ふんわりと設えたベッドに寝かせられていた。
そして……
「誰がこれを……」
上半身を起こし、着替えさせられていた服を触る。
ゆったりとしたシャツを俺はまとい、そして寝かされていたようだ。
つややかな艶を持つその布は上等そうだ……
「……」
頭を整理していて最悪なことを思い出す。
自分が高速道路を走っていた車の中から、謎の森に急に立ちすくんでいたこと。
そして、どこの国の人間なのか恐ろしく美しい少年がいて……
「……いんま!?」
「あれ?起きたんだね、僕を呼んだの?」
振り向くと、美しい髪の毛に朝日を煌めかせた少年が水差しを持って立っていた。
「これ、お水を持ってきたよ、少し果実を絞ってあるから爽やかでおいしいよ」
少年の名は……ジルだ。
どこの国の人なのか……どう見ても西洋人で、まるで彫刻のように美しい顔で抜けるような白い肌。
実際に俺の唇に触れた彼の指は吸い付くようになめらかで……え?
俺は自分の唇に手をやった。
あれから……記憶がない……
「どうかしたの?」
ジルは微笑んで木の器を俺に手渡してきた。
「これ……」
「心配しないで、アラトに毒なんて盛らないよ」
「そ……そんな心配はしてないけど……」
木の器を見ていると急激に喉の乾きを覚え、そしてゴクリと一気に飲んだ。
さっぱりとした柑橘類の風味がほのかに入ったおいしい水だった。
「おかわり、いる?」
ジルは小首をかしげてじっと見つめてくる。
俺の心臓はどきりと跳ねて目をそらした。
「いや……もういい」
ジルはくすっと笑って俺の手から器を取ると、それをそばの木の台に置き、ベッドの横に腰掛けた。
細い体に白く優雅な布を巻きつけていて、ギリシャ神話の挿絵のような出で立ちだった。
こんな深い森の中でする格好じゃない……
感じた強烈な違和感で俺は恐怖のあまり数歩後ずさり、そしてようやくそれだけの言葉を絞り出した。
「……お……おまえは誰だ」
「僕はジル……君は?」
少年の声は頭の中に甘い痺れを伴って染み入るように入ってくる。
「ジル?」
「うん、君は?」
「あ……新人(あらと)」
「アラト?……そう、君、アラトっていうんだ……そうなんだね」
「ああ……」
ジルは俺に一歩、また一歩と近寄ってきて、そしてついに僕の胸に顔をピタリと寄せて来て甘えるように微笑んだ。
「見つけちゃった……僕の。アラト」
僕の喉はゴクリと音が鳴った。
僕の胸ぐらいしかない小さな少年は俺に身を寄せ、そして嬉しそうに腕を回して俺を抱いた。
「いい匂いだね、アラト」
いきなり抱きつかれ狼狽するが、体が気怠く動かない。
金色の細く美しい頭髪を見下ろして、そこから漂う花のような香りに目を細めた。
……なぜか、体の中心がうずいた。
「……離せ……」
「どうして?」
「……」
本当に心の底からわからないかのように顔を上げてそう尋ねられた。
「だっておかしいだろ!いきなり抱きついてくるなんて!というかここはどこなんだ?と言うかおまえは何人なんだよ」
どこからどう見ても外国人であろう少年に早口でそう問うと、キョトンとした表情で僕を見上げ、そして細く美しい指を僕の唇にはわせてジルは言った。
「ここは龍族の統べる森の中……僕はこの森の片隅に住んでいる淫魔だよ」
ジルはそれだけ言うと、美しくみだらな微笑みを浮かべて、そしてまた僕の胸にすがりついた。
◆
朝日を全身に浴びて、その暖かさに目がゆったりと開いた。
ぼーっとする頭のまま見渡すと、目の前に咲き誇る美しい花が見える。
「え?」
身体を横たえたまま、冷や汗がツゥーっと背中を流れる。
「……ここ……」
知らない場所だった。
植物園のような朽ちかけた建物の中に、ふんわりと設えたベッドに寝かせられていた。
そして……
「誰がこれを……」
上半身を起こし、着替えさせられていた服を触る。
ゆったりとしたシャツを俺はまとい、そして寝かされていたようだ。
つややかな艶を持つその布は上等そうだ……
「……」
頭を整理していて最悪なことを思い出す。
自分が高速道路を走っていた車の中から、謎の森に急に立ちすくんでいたこと。
そして、どこの国の人間なのか恐ろしく美しい少年がいて……
「……いんま!?」
「あれ?起きたんだね、僕を呼んだの?」
振り向くと、美しい髪の毛に朝日を煌めかせた少年が水差しを持って立っていた。
「これ、お水を持ってきたよ、少し果実を絞ってあるから爽やかでおいしいよ」
少年の名は……ジルだ。
どこの国の人なのか……どう見ても西洋人で、まるで彫刻のように美しい顔で抜けるような白い肌。
実際に俺の唇に触れた彼の指は吸い付くようになめらかで……え?
俺は自分の唇に手をやった。
あれから……記憶がない……
「どうかしたの?」
ジルは微笑んで木の器を俺に手渡してきた。
「これ……」
「心配しないで、アラトに毒なんて盛らないよ」
「そ……そんな心配はしてないけど……」
木の器を見ていると急激に喉の乾きを覚え、そしてゴクリと一気に飲んだ。
さっぱりとした柑橘類の風味がほのかに入ったおいしい水だった。
「おかわり、いる?」
ジルは小首をかしげてじっと見つめてくる。
俺の心臓はどきりと跳ねて目をそらした。
「いや……もういい」
ジルはくすっと笑って俺の手から器を取ると、それをそばの木の台に置き、ベッドの横に腰掛けた。
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