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第一章 忘れえぬ人
深い森
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気がつくと深い森の中にいた。
木々が生い茂り、日差しもろくにない薄暗い森だ。
「……?」
俺は自分がどこにいるのか理解できずに呆然と視線を彷徨わせることしかできなかった。
「ここ……どこだろ?事故にでも遭ったのか?」
俺は家族と共に祖父の家に行く途中だったはずだ。
車を運転する父の姿と、助手席に座る母の姿、2人の後ろ姿を見ていた記憶が一番最後だ。
……ということは、車の事故にでも遭って、そしてここに投げ出されたとか?
いや、そんなはずない。
どこも痛まない体を確認するかのようにあちこち触った。
服が破れているわけでもなければ、擦り傷一つもない。
ふと、足元に落ちているリュックに気づいた。
後部座席でウトウトと眠ろうとしていた俺は、これをなんとなく膝の上に置いて枕にしていた。
それが今は地に落ち、中身が少しはみ出ている。
俺は慌てて座り込み、はみ出た財布やハンドタオルを入れ込み、パッパと土を払いファスナーを閉め、肩にかけた。
そして、胸の横のショルダー紐をきつく握って唇を噛み締めた。
このバッグだけがいつもの自分と唯一繋がりのあるものだ……
わけがわからない……
とにかく……よくわからないが……誰かに助けを求めなければここで野垂れ死んでしまう……今、確実なのはそれだけだ。
下生えに覆われた森の中を歩き始める。
どこへ向けて?と聞かれたら、思うがままにと答えるしかない。
遭難したときはむやみに動かない方がいいとか……そういうふうに聞いたこともあるけれど、じっとしているのが恐ろしくてたまらなかった。
というか……両親はどこに?
車は……?
額から嫌な汗がにじみ出て落ちる。
暑いわけではないのに。
俺はハッと思い立ちリュックのポケットからスマホを取り出した。
電源ボタンを押すと現れる画面……しかし当然のようにエリア外だった。
「……っとに……どこなんだよ……ここ」
俺は溜息をついて上を見上げた。
厚い葉の層が日差しを遮っていて空もろくに見えない。
だが葉がサラサラと風になびく音や、パタパタと所々から聞こえてくる生き物の気配がある。
鳥や小動物はたしかに生息している。
ということは……クマとか?そういう危険な生き物もいるのではなかろうか。
ぼんやりしていた思考がスッと冴えてきた。
「やばいなこれ……」
スマホの時間を確かめる。
車の中でウトウトし始めたのが昼過ぎだったと記憶しているのだが、時間は午後4時を回ったところだ。
もしも、こんなどこともしれない森の中で夜を迎えてしまったら……
咄嗟にスマホの充電を見る。
75%……
何もしなければ明日の朝までは余裕で持つ……だろうけど。
僕は駄目元で父や母や警察に電話をかけた。
繋がらないと告げるアナウンス音声が聞こえてくるばかりで、やはり一切どこにも通じない。
……歩きながら時折こうやって試すしかないか……
俺は覚悟を決めて前を向き、また歩き出した。
「……」
ふと耳元で誰かの話し声が聞こえたような気がして慌てて振り向く、だがそこにはやはり森が広がるばかりだ。
空耳?……クソ……なんだってんだよ
俺は心の中で悪態をつきながらまた前を向く。
しかしまた、今度ははっきりと声が聞こえた。
「ねえ……君……何処から来たの?」
「え?」
振り向いた僕は思わず目を見張った。
いつの間に近寄ってきたのか、すぐ側に細身の少年が立っていたのだ。
木々が生い茂り、日差しもろくにない薄暗い森だ。
「……?」
俺は自分がどこにいるのか理解できずに呆然と視線を彷徨わせることしかできなかった。
「ここ……どこだろ?事故にでも遭ったのか?」
俺は家族と共に祖父の家に行く途中だったはずだ。
車を運転する父の姿と、助手席に座る母の姿、2人の後ろ姿を見ていた記憶が一番最後だ。
……ということは、車の事故にでも遭って、そしてここに投げ出されたとか?
いや、そんなはずない。
どこも痛まない体を確認するかのようにあちこち触った。
服が破れているわけでもなければ、擦り傷一つもない。
ふと、足元に落ちているリュックに気づいた。
後部座席でウトウトと眠ろうとしていた俺は、これをなんとなく膝の上に置いて枕にしていた。
それが今は地に落ち、中身が少しはみ出ている。
俺は慌てて座り込み、はみ出た財布やハンドタオルを入れ込み、パッパと土を払いファスナーを閉め、肩にかけた。
そして、胸の横のショルダー紐をきつく握って唇を噛み締めた。
このバッグだけがいつもの自分と唯一繋がりのあるものだ……
わけがわからない……
とにかく……よくわからないが……誰かに助けを求めなければここで野垂れ死んでしまう……今、確実なのはそれだけだ。
下生えに覆われた森の中を歩き始める。
どこへ向けて?と聞かれたら、思うがままにと答えるしかない。
遭難したときはむやみに動かない方がいいとか……そういうふうに聞いたこともあるけれど、じっとしているのが恐ろしくてたまらなかった。
というか……両親はどこに?
車は……?
額から嫌な汗がにじみ出て落ちる。
暑いわけではないのに。
俺はハッと思い立ちリュックのポケットからスマホを取り出した。
電源ボタンを押すと現れる画面……しかし当然のようにエリア外だった。
「……っとに……どこなんだよ……ここ」
俺は溜息をついて上を見上げた。
厚い葉の層が日差しを遮っていて空もろくに見えない。
だが葉がサラサラと風になびく音や、パタパタと所々から聞こえてくる生き物の気配がある。
鳥や小動物はたしかに生息している。
ということは……クマとか?そういう危険な生き物もいるのではなかろうか。
ぼんやりしていた思考がスッと冴えてきた。
「やばいなこれ……」
スマホの時間を確かめる。
車の中でウトウトし始めたのが昼過ぎだったと記憶しているのだが、時間は午後4時を回ったところだ。
もしも、こんなどこともしれない森の中で夜を迎えてしまったら……
咄嗟にスマホの充電を見る。
75%……
何もしなければ明日の朝までは余裕で持つ……だろうけど。
僕は駄目元で父や母や警察に電話をかけた。
繋がらないと告げるアナウンス音声が聞こえてくるばかりで、やはり一切どこにも通じない。
……歩きながら時折こうやって試すしかないか……
俺は覚悟を決めて前を向き、また歩き出した。
「……」
ふと耳元で誰かの話し声が聞こえたような気がして慌てて振り向く、だがそこにはやはり森が広がるばかりだ。
空耳?……クソ……なんだってんだよ
俺は心の中で悪態をつきながらまた前を向く。
しかしまた、今度ははっきりと声が聞こえた。
「ねえ……君……何処から来たの?」
「え?」
振り向いた僕は思わず目を見張った。
いつの間に近寄ってきたのか、すぐ側に細身の少年が立っていたのだ。
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