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44話 

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 家に着いたら荷物の整理はほとんど終わっていた。先に自宅に学校側から連絡が入ったらしく、知らせを聞いて喜んだ母さんが善は急げと荷造りを手早く済ませたらしい。後は俺の確認だけで、ほとんど時間はかからなかった。

 準備ができた事を知らせると、今から迎えに行くと桜都から連絡が入った。学園の寮のスタッフと共に一緒に車で来てくれるらしい。あまり荷物は無いけれど、流石に徒歩では無理があるので引っ越しを手伝ってくれるのは凄く助かる。

 ピリロン

 先ほど了解の返事を送ったからまた桜都からだろうか。なんとなくスマホを見てみれば、チハルからだと分かって目を見開いた。久々の連絡だ。

 『今日の夜、寮で会える?』

 短い文だけど凄く嬉しい。やっと会えるみたいだ。

 あんな事があってからずっと心配していた。あの後すぐに連絡は取れて、無事な事も桜都から聞いていたし、電話も少ししたけれど、直接は会ってくれなくて。自分の無力さや情けなさを嘆いた。その度に「健太のせいじゃない。僕自身の問題だから!」と必死になって慰めてくれて、涙が出るのをぐっと耐えた。あれ以降学園にもまだ来ておらず、授業中でも訓練中でもいつだってチハルの事が心配だった。

 ・・俺のせいで貴志先輩にあんな事をされたから。身体も勿論だが精神面も心配だ。

 チハルに早く会いたくて大雅や生徒会長に聞いても面倒そうに適当にあしらわれるし打つ手がなかった。貴志先輩にいたっては最近は見てすらいない。
 
 直接会ったらチハルに謝って、、

 謝って、、

 謝る

 
 許してなんてくれないかも知れない
 本当は凄く憎まれているかも

 グルグルとマイナスな事ばかり考えてしまう。

 ・・チハル

 「何暗い顔してるの?早く行こうよ。」

 いつの間にか目の前に桜都がいた。

 「え?桜都?なんでもういるんだ。」

 「は?何言ってるの。僕が連絡してからもう30分以上経ってるんだけど。」

 考え込んでいる内に、いつの間にか時間が進んでいたらしい。

 下の階から母親の声がする。桜都を部屋に入れたのは母さんか。

 「可愛いお友達ね。」

 「見た目に騙されちゃダメだよ母さん、桜都は凶暴だから。」

 「おい、今僕の悪口言ったでしょ?」

 玄関先で母親に見送られる。俺たちの言い合いを微笑まし気に見られ、少し気恥ずかしく思った。

 「お父さんもいたら良かったんだけど、仕事で今夜は遅いみたいなの。」

 「いいよ。また連絡しとくから。」

 家の前に横付けにされた車に桜都と共に乗り込む。エンジン音が聞こえると、車はゆっくりと動き出した。見慣れた住宅街が遠く離れていく。家を出たのは初めてで、これからの生活に漠然とした不安と浮き足立つ気持ちが入り混じる。

 「自分の世界に入ってる所悪いけど、スマホ貸して。」

 健太が勝手につくったしんみりとした空気をザクっと切る様に言うと、スマホを奪ってボキッと折った。

 あまりの突然の出来事にすぐには反応できず、壊れた自身のスマホに釘付けになる。

 「は?え?何してくれちゃってんの?」

 先ほどまで寂し気に感じていた感覚が一気に吹き飛んだ。

 「僕のスマホがハッキングされた。会長様から連絡が来たんだよ。君のスマホも無事じゃない確率は高いってね。ちゃんと新しいの用意するって言ってたし怒らないでね。最新式だよ?」

 いや、最新式とか関係ない。確かに壊された俺のスマホはかなり古い物だけど、、。

 納得のいかないムッとした俺の顔を見た桜都が睨みを効かせて低い声を出す。

 「僕の忠告きかなかったでしょ?今日誰かと会ったね。」

 疑問系ではなく断言しており、ふと繁華街で声をかけて来た男を思い出す。ーー耳元で囁かれたことも。

 「ちょっと。何顔赤くしてるの!」

 「いやいや、ちょっと話しただけだから!赤くなんてしてないし!」

 何も悪い事はしていないのに、浮気がバレた男の様に慌てて弁明する。

 「はあ。ボス怒ってるよ。」

 大雅という名前にビクッと肩が揺れる。アイツが怒るととんでもない仕打ちが待っている。

 「なんでそこで大雅が出てくるんだよ!」

 「知らない!自分で考えたら?」

 旅立ってすぐ向かうのは悪魔の根城になりそうだ。
 
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