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2度目の成人の儀
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「滑稽だな。呆れる。」
何が滑稽かと言えば、目の前に列々と位並ぶカフカス王帝領国の貴族達だ。
彼等は口にこそ出しはしないが、このウーリウ衛星島を辺境の関所島と侮って、普段ならば近寄る事はないのだ。
今回初めて足を踏み入れた者が殆どのはず。
僕に言わせれば、正に「どの面下げて」だ。
「あの、ガルゥヲン・ラゥ・カフカス皇子、本当にエスコートをしてもらっていいの?かな?」
僕の隣で不安気にする、長く真っ直ぐに伸ばされた黒髪に黒い瞳の少女が、僕の下から伺ってくる。
「ああ、大丈夫。僕が招待をしたのだから、おもてなしだよ。」
僕は、少女が安心出来るようにと、作った笑顔を貼り付けて向ける。
もちろん魔充石で姿を対外用に変身させ、貴族受けする線細い優男の容姿でだ。
極めつけに、少女の片手を取り上げ指先に賞賛の口付けを落とせば、途端に今度はウーリウ衛星島の貴族達が騒々しくなる。
無理もないな。
自分の婚約者にも、こんな行為を僕はした事がないから。
実に滑稽だと思う。
我が善良なる衛星島の民相手に、見せる姿じゃないとは解っているが。
止めない。
「じゃあ行こうか。聖女トモミ?」
帝弟将軍の宣言に使用される、赤絨毯に豪奢なシャンデリアの大広間と回廊から、王帝領本土と衛星島の両貴族達より一斉に視線を受けながら、
僕は『聖女トモミ』を腕に、父親であると同時に、此のウーリウ衛星島が主テュルク・ラァ・カフカスの立つ壇上へと進む。
そもそも、2度成人の儀を執り行うのも可笑しい話だと僕は白けている。
ただ、
「ルウ、、」
騒然とする中でも、
ハッキリとその囁く声がわかった事に、僕自身が苛立ってつい、囁きを発した方を見る。
「ガルゥヲン皇子!」
そこには婚約者だけでなく、その父親のザード・ラジャ・グラーフ・スイランが、僕を非難する声をあげる。
婚約者は、母親のヤオに匿う様に肩を抱かれて、首まで隠れるドレスを纏っていた。
きっとあの隠された首元には、ハッキリと僕が付けた指の跡があるのだろう。
「・・・・」
一瞬、薄の暗い燻りを胸に感じて僕は、彼等の前を
何の声を発する事なく過ぎてると、壇上に近づく。
『婚約者ではないが、噂は本当に、、、』
『あれは、本土に現れた女じゃ、、』
『 聖女が、何故ここにいるんだ ?、、』
貴族達の言葉が潮騒のように聞こえても、無視の一択。
とはいえ、我が衛星島貴族達は、皆が忠誠心厚い民でもあり心苦しさも覚えるが。
今度は傍らに、アラリャスが有らん限り両手を握って僕を刺すように睨んでいた。
「先手を打っただけだろ。」
想定内の奴の表情に満足を覚えつつ、僕はアラリャスに口の動きだけで言葉を投げつけ、飄々と壇上の主に礼を取る。
僕の脇で、『聖女トモミ』がカーテシーで頭を低く下げた。
「面を上げよ、我が息子にして王帝領国皇子ガルゥヲン。して、隣は件の聖女か?」
父上は訝しげな顔を脇に控える聖女に向ける。
それも、そうだろう。本来なら僕の隣には、婚約者が立つはずなのだから。
「衛星島が帝弟将軍閣下に、聖女トモミの目通り願います。」
僕が父上に願い入れると、
「善い、許す。」
父上が僕の隣の聖女に目をやる。
「お初に御目にかかります、衛星島が主、帝弟将軍閣下。異世界より参りました、トモミに、ございます。」
ファーストネームだけの聖女。
それだけで、後ろ楯が決まっていない事を表す。
そして、聖女トモミの髪だけでなく、瞳をも見た父上はその漆黒に驚いているはずだ。
「聖女トモミ、1つ聞く。異世界より来たと聞くが、そなたの世界は、皆がその様に髪や目が黒い者ばかりか?」
案の定、
父上は聖女の容姿に、興味を抱いた。
「いえ、私の国や、隣の大陸一部では、同じ黒髪黒目ですが、他の国には金色に青目や、茶髪 に灰色目などもおります。」
聖女トモミは淀みなく答えた。
「そうか、、善い。聖女トモミ我が衛星島は、そちを歓迎す。」
父上の心中など、僕には手に取る様に解る。
父上は、異世界に戻った1人を未だに思っているのだから。
僕と聖女は、再び頭を下げて、一歩退く。
父上より一段下がった場所から宰相カハラが、長く伸ばした片前髪をかき揚げ大広間と回廊に声を拡声させる。
『ガルゥヲン・ラァ・カフカス皇子成人の儀を執り行う!!ガルゥヲン皇子、前へ!!』
宰相カハラの合図で華々しい演奏がされ、僕は壇上の父上の元へ再び参じた。
ウーリウ衛星島王子の成人の儀は、継承指名でもある。
カフカス王帝領国の要所として、外周国の侵略を防ぐ国防の継承。
代々それは、主が持つ聖剣と対になる宝剣を譲渡する儀式だ。
けれども、
「皆も知る様に、我が息子ガルゥヲンは既にカフカス王帝領次代皇帝の指名を本土にて、成人の 儀を行い、得ている。故に、この儀において帝島叙勲にてウーリウ衛星 成人の祝とする。」
父上の宣言どおり僕は去年の神託で、急遽王帝領国第一継承皇子に指名され、アラリャス王子の成人の儀が執り行われるより前にと、本土へ召還された。
「有りがたき幸せ。」
僕が礼を取ると、父上が胸元に勲章を付ける。
「まさか、この様な形になるとは父も考えて居なかったがな。」
父上は、僕にだけ聞こえる言葉を紡いで勲章を、つけた僕を会場へと披露する。
王族の成人の儀は、譲渡される権限の開示を意味するのだから、
カフカス王帝領国の第一皇子だったアラリャスが、順当ならば、成人の儀で王帝領国皇帝継承の笏を譲渡される予定だった。
それが去年、覆ったのだ。
本土も衛星島も蜂の巣をつつくが如く騒然となり、あれから大きく環境が変わった。
僕は勲章を胸に、大きく手を振る。
貴族達の拍手と歓声。
聖女トモミも拍手をする。
ふと、婚約者を見ると、彼女はどこか寂し気な顔をして手を叩いている風に見える。のは自分の勝手な気持ちだろうな。
「本当は、剣を手にしたい。」
島と、家族と民を護る剣を。
胸に刺さるこの勲章では誰も護れない。
只どこか安堵している自分もいる。
此のウーリウ衛星島を守護する魔力を僕は持っていない。
何処までも、婚約者の力を頼りに生きていく宿命から、逃れられたのは僥倖なのだろうか。
「ガルゥヲン皇子!成人の儀、 改めて御祝い申し上げます。」
聖女トモミが、壇上から降りる僕に声を掛ける。
このタイミングは、舞踏演奏が始まる絶妙さ。
「有り難う。宜しければ、踊ってもらえるかな。聖女様。」
音楽が流れれば、そのまま相手の腰に手を回す。
成人の儀でのファーストダンス。
「ずっと踊ってないな。」
僕は婚約者ではない聖女を相手に選んで、踊り出す。
「え、何か仰いましたか?」
婚約者とは違う真っ直ぐな黒髪。
「いや何も。」
成人の儀の主役が踊るファーストダンスは、僕と聖女トモミのペアだけがフロアで踊る。
踊る視界に入ったのは、アラリャスが僕の婚約者の肩に手を掛けて話す光景。
それを横目に、痛みを隠しながら
僕は 道化師の如く踊る。
何が滑稽かと言えば、目の前に列々と位並ぶカフカス王帝領国の貴族達だ。
彼等は口にこそ出しはしないが、このウーリウ衛星島を辺境の関所島と侮って、普段ならば近寄る事はないのだ。
今回初めて足を踏み入れた者が殆どのはず。
僕に言わせれば、正に「どの面下げて」だ。
「あの、ガルゥヲン・ラゥ・カフカス皇子、本当にエスコートをしてもらっていいの?かな?」
僕の隣で不安気にする、長く真っ直ぐに伸ばされた黒髪に黒い瞳の少女が、僕の下から伺ってくる。
「ああ、大丈夫。僕が招待をしたのだから、おもてなしだよ。」
僕は、少女が安心出来るようにと、作った笑顔を貼り付けて向ける。
もちろん魔充石で姿を対外用に変身させ、貴族受けする線細い優男の容姿でだ。
極めつけに、少女の片手を取り上げ指先に賞賛の口付けを落とせば、途端に今度はウーリウ衛星島の貴族達が騒々しくなる。
無理もないな。
自分の婚約者にも、こんな行為を僕はした事がないから。
実に滑稽だと思う。
我が善良なる衛星島の民相手に、見せる姿じゃないとは解っているが。
止めない。
「じゃあ行こうか。聖女トモミ?」
帝弟将軍の宣言に使用される、赤絨毯に豪奢なシャンデリアの大広間と回廊から、王帝領本土と衛星島の両貴族達より一斉に視線を受けながら、
僕は『聖女トモミ』を腕に、父親であると同時に、此のウーリウ衛星島が主テュルク・ラァ・カフカスの立つ壇上へと進む。
そもそも、2度成人の儀を執り行うのも可笑しい話だと僕は白けている。
ただ、
「ルウ、、」
騒然とする中でも、
ハッキリとその囁く声がわかった事に、僕自身が苛立ってつい、囁きを発した方を見る。
「ガルゥヲン皇子!」
そこには婚約者だけでなく、その父親のザード・ラジャ・グラーフ・スイランが、僕を非難する声をあげる。
婚約者は、母親のヤオに匿う様に肩を抱かれて、首まで隠れるドレスを纏っていた。
きっとあの隠された首元には、ハッキリと僕が付けた指の跡があるのだろう。
「・・・・」
一瞬、薄の暗い燻りを胸に感じて僕は、彼等の前を
何の声を発する事なく過ぎてると、壇上に近づく。
『婚約者ではないが、噂は本当に、、、』
『あれは、本土に現れた女じゃ、、』
『 聖女が、何故ここにいるんだ ?、、』
貴族達の言葉が潮騒のように聞こえても、無視の一択。
とはいえ、我が衛星島貴族達は、皆が忠誠心厚い民でもあり心苦しさも覚えるが。
今度は傍らに、アラリャスが有らん限り両手を握って僕を刺すように睨んでいた。
「先手を打っただけだろ。」
想定内の奴の表情に満足を覚えつつ、僕はアラリャスに口の動きだけで言葉を投げつけ、飄々と壇上の主に礼を取る。
僕の脇で、『聖女トモミ』がカーテシーで頭を低く下げた。
「面を上げよ、我が息子にして王帝領国皇子ガルゥヲン。して、隣は件の聖女か?」
父上は訝しげな顔を脇に控える聖女に向ける。
それも、そうだろう。本来なら僕の隣には、婚約者が立つはずなのだから。
「衛星島が帝弟将軍閣下に、聖女トモミの目通り願います。」
僕が父上に願い入れると、
「善い、許す。」
父上が僕の隣の聖女に目をやる。
「お初に御目にかかります、衛星島が主、帝弟将軍閣下。異世界より参りました、トモミに、ございます。」
ファーストネームだけの聖女。
それだけで、後ろ楯が決まっていない事を表す。
そして、聖女トモミの髪だけでなく、瞳をも見た父上はその漆黒に驚いているはずだ。
「聖女トモミ、1つ聞く。異世界より来たと聞くが、そなたの世界は、皆がその様に髪や目が黒い者ばかりか?」
案の定、
父上は聖女の容姿に、興味を抱いた。
「いえ、私の国や、隣の大陸一部では、同じ黒髪黒目ですが、他の国には金色に青目や、茶髪 に灰色目などもおります。」
聖女トモミは淀みなく答えた。
「そうか、、善い。聖女トモミ我が衛星島は、そちを歓迎す。」
父上の心中など、僕には手に取る様に解る。
父上は、異世界に戻った1人を未だに思っているのだから。
僕と聖女は、再び頭を下げて、一歩退く。
父上より一段下がった場所から宰相カハラが、長く伸ばした片前髪をかき揚げ大広間と回廊に声を拡声させる。
『ガルゥヲン・ラァ・カフカス皇子成人の儀を執り行う!!ガルゥヲン皇子、前へ!!』
宰相カハラの合図で華々しい演奏がされ、僕は壇上の父上の元へ再び参じた。
ウーリウ衛星島王子の成人の儀は、継承指名でもある。
カフカス王帝領国の要所として、外周国の侵略を防ぐ国防の継承。
代々それは、主が持つ聖剣と対になる宝剣を譲渡する儀式だ。
けれども、
「皆も知る様に、我が息子ガルゥヲンは既にカフカス王帝領次代皇帝の指名を本土にて、成人の 儀を行い、得ている。故に、この儀において帝島叙勲にてウーリウ衛星 成人の祝とする。」
父上の宣言どおり僕は去年の神託で、急遽王帝領国第一継承皇子に指名され、アラリャス王子の成人の儀が執り行われるより前にと、本土へ召還された。
「有りがたき幸せ。」
僕が礼を取ると、父上が胸元に勲章を付ける。
「まさか、この様な形になるとは父も考えて居なかったがな。」
父上は、僕にだけ聞こえる言葉を紡いで勲章を、つけた僕を会場へと披露する。
王族の成人の儀は、譲渡される権限の開示を意味するのだから、
カフカス王帝領国の第一皇子だったアラリャスが、順当ならば、成人の儀で王帝領国皇帝継承の笏を譲渡される予定だった。
それが去年、覆ったのだ。
本土も衛星島も蜂の巣をつつくが如く騒然となり、あれから大きく環境が変わった。
僕は勲章を胸に、大きく手を振る。
貴族達の拍手と歓声。
聖女トモミも拍手をする。
ふと、婚約者を見ると、彼女はどこか寂し気な顔をして手を叩いている風に見える。のは自分の勝手な気持ちだろうな。
「本当は、剣を手にしたい。」
島と、家族と民を護る剣を。
胸に刺さるこの勲章では誰も護れない。
只どこか安堵している自分もいる。
此のウーリウ衛星島を守護する魔力を僕は持っていない。
何処までも、婚約者の力を頼りに生きていく宿命から、逃れられたのは僥倖なのだろうか。
「ガルゥヲン皇子!成人の儀、 改めて御祝い申し上げます。」
聖女トモミが、壇上から降りる僕に声を掛ける。
このタイミングは、舞踏演奏が始まる絶妙さ。
「有り難う。宜しければ、踊ってもらえるかな。聖女様。」
音楽が流れれば、そのまま相手の腰に手を回す。
成人の儀でのファーストダンス。
「ずっと踊ってないな。」
僕は婚約者ではない聖女を相手に選んで、踊り出す。
「え、何か仰いましたか?」
婚約者とは違う真っ直ぐな黒髪。
「いや何も。」
成人の儀の主役が踊るファーストダンスは、僕と聖女トモミのペアだけがフロアで踊る。
踊る視界に入ったのは、アラリャスが僕の婚約者の肩に手を掛けて話す光景。
それを横目に、痛みを隠しながら
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