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26week

足掻くしかないって

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 再び船ん上に、目ぇやると。

  おるな、、

 何が?って?そりゃ、後ろ姿の妻やがな!

「おい!みろ!アマネ!お前と違ってオレのこの大物釣り!」

 またも脳筋レスラー3男が、2匹目のヒラメを釣り上げる。

 ハイハイ。見てますよー!だってな、あんたの後に
溺愛妹、カレンさんが後ろ姿で立ってますもん、、

「・・・・」



 何が悲しゅーて義兄2人ぼっちで、港のレトロ駅舎とか、ロマンチック所いかんならん?
 
 て、缶コーヒー飲み干し、救急センターにいざ戻らんぞ!思って、走らせた車をパーキングに入れた時、フロントガラスん向こうに見えた姿は、又も間違いなく カレンの後ろ姿!

「嘘やろ、マンションん部屋ら出たら動き回るって、何なん?!」
   

「おい!アマネどうした?!」

 フラフラと車から降りて、その後ろ姿を追い掛ける
僕に義兄の声も追ってくん。

 病院を越えた先を、降りていく妻カレンの背中。


「あ、ここ。」

 その先が、僕んのよう知っとる場所やったって、僕の妻は何を考えてる?

「はあ、アマネどうした?!港か?漁船の船寄せ場だろ。」

「そうです、義兄さん、ここ。あ!あれ、もしかして?」
   

 すぐ前に付けとる真っ白な船。1人暗がりで作業をする人影。
 かなり年いってもーてても、まるで予定調和と知っとる顔がチラッと見えたんな。


「ありゃ?アマネちゃん違ちがうか?アマネちゃんやなあ?おお!」

「もしかっすと、フジさん?」

 後ろ姿の妻を追い掛けて歩いた先は、大分様子は変わってっけどガン爺が船を付けとった遊漁船の港やったん。

 救急センターの裏手の海岸が船着き場やて、、すっかり頭ん中から抜けてたな。

「アマネ、知り合いか?お!クルーザーって、ここは何?」

 危なっかしかんたろな。義兄が後ろから話出した僕ん肩越しに覗く。

「フジさん、もしかして此のクルーザー買った?いかつ!」

 子どもん時を知っとる間柄って、会わん時間とか関係ないってホンマこの瞬間、僕は思ったわ。

「そうやろ!ええやろ!今んなかっけー船で遊漁船すっ時代やわあ!なんやアマネちゃん乗っか?」

 そんでフジさんが停めてる船は、先端までが長くてスマートな形の船なん!

「今日は予約ないけー。準備するけ、乗ってくれん!」

「いやー、いきなりやな、、病院もどらんとならんしな。」

 束の間の懐かしい顔に癒されたん。が、さすがに今はないって自分でも分かって僕の眉が下がる。
 
 けど、意外に隣ん義兄は当事者KY力を、発揮してきよった。

「いいんじゃないか。戻るにもさすがに担当ドクターも、 昼前しか説明ないだろう。海に出ても時間は、ある。あの!あと2人追加でも?」

 真面か?こん人。勝手にフジさんに交渉してっから。

「うん?いいわあ、じゃあちこっと 待ってくれんあー。」
  
 そんでもって気のいいフジさんが、ちゃちゃっと船の準備をしている間に、合流した義次兄と3男達で謎の
早朝海峡で海釣りとしけこむ、ことになったって!

 しかも、こんな時ぞ!

 人生ってこんなにシュール あーんど、クライなん?
ておののいた割に楽しんどる。

 そんなこんなでアラカブ釣れる度に、合わせてヤケクソになって雄叫ぶ僕。

 んで、隣でフジさんが丁寧に処理して、刺身にしてくれたアラカブをモリモリ食っとる『お堅し医者』兄が、僕ん口に刺身を突っ込んできたわけ。

「よく、食えますね。」

 僕は竿を一旦置いて、口に無理やり入れられた刺身をコリコリ食べる。
 アラカブは、バカスカ捕れる割に高級魚よ!

「医者は食ってなんぼ。食えるうちに食べる。」

 船の先端で脳筋3男と、塾頭の次男がヒラメよりデカイのを狙うだとか叫ぶのをBGMに、義長兄は静かに、また刺身を口にした。

「そうですか。」

「アマネ。」

「何ですか。」

「とりあえず、カレンの子ども。産めるようにするぞ。」

、、、驚いた。僕、絶句ってやつな。

 義長兄、、


「俺は産婦人科医だぞ。まして、カレンの子だ。お前の子どもじゃなくても、兄としては、子どもは死なせたくは、ないんだ。」

「あの、、ほぼあの?脳死ですよね、出来るんですかね、そんな事、、」

「やれるとは、断言できない。でも、やれるならしたい。お前の考え次第でもある。」

 刺身食いながら 言うなよ、、

 なんか、ほんまは逃げたい、、、やが、こっちは、もう頭がパンクしそうなん。

   
「あー、いろいろ有りすぎて僕、頭がついていきません。只でさえ、浮気だとかで家出されて、見つかったら脳死で、妊娠て、、」

 自分で言うてて情けないが、もうこれまでん葛藤いうん?喉につまって

「呼吸器どうしますかとか、そんなハードな事言われても。」

 くそ、もう鼻水が出てくる。

「あれ、外したらどーなるんですか?何でそんな事言うんですか?ベッド開けろって事?」
   
 あんたに言ってもしゃーなきって、わかってっけど!急転直下で決断迫られても!

 1人で、生きてきた元ホスト上がりの入婿が!!正直どーしたら!
 ええんですか?!!!とは言えるわけない。


「さっきも言ったが、正解は俺もわからない。あいつらも。」

 釣り上げた先、捌かれた命をまるっと食べ切って、

 船の先端騒ぐ脳筋と塾頭。

 そして見えてるはずない後ろ姿の妻カレンの辺りを示す義理長兄は、あんま表情ない。

 のが、かえってイラってムカつく。

 あの声と裏腹に僕は自分でも驚くほど声、あげた。

 やって、そこにおるんよ。
   
「そりゃ、出来たら、子どももカレンさんも、あきらめたくないですよ、僕も。けど、とてつもない、お金だってかかるじゃないですか!!」

 これが、きっと本音なん。すまんよ。
 
 自分で言うてて変。でも口に出して自分で初めて
わかる。 
 しがらみとか、気持ちとか、そんで、理不尽で矛盾な現状とか言うだけ言うて、しばらく僕は冷えて湿気った潮風を顔に受けて、凍ってた。

 やさぐれる、とも言う。


「お前、うちを何だと思ってる。」

 束の間の沈黙を破って、義兄の反撃。

「は?さすが、金持ちは言う事違いますよね。あれですか、金にあかすってヤツですか。」

 逆切れて、僕は船床に座り込んだ。中二か!日記か!どーでもいー。

 そしたら、

「何とでも言え。今金に飽かせないで、何の為の金だ!金で買えるなら、アマネ、決断する猶予を買えばいい。やれるなら、悩みながらいけ。」

 相変わらずな言い方に、何かを押し込めた声。

 ある意味、金持の開き直り?!な?!これは、励ましか?ゆー台詞を吐かれた。

 でも、気が少ーしすんだ。

 どっか そっかなと安心みたいなもんがきた。

「義兄さん、、はじめていい人だと、、思います、、」

 そんで、、なんとな、今は そーゆーことなんかな、って思えた。

「いいよ。別に。こんな事ないにこしたことはない。」

 僕んには兄弟とかおらんかったから、長子ってやつの「お兄ちゃん」たるもんとか「末っ子」の甘えるんとか、わからないと思うっ。

けど此の人は、けっこー無理やり刺身食って、此れからの何かに備えたり、ホンマはびびったりしてるんかなと、ちこっと思う。

 そんなとこガン爺に似てるかもなと気がついたん。

 船に揺られて波に揺られてると、関門海峡に昇る朝日の温度が 増して暖ったかいと、おもーた。
  
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