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18week

黒服とホストってのはね

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 黒服とホストは似てそうで全く違う。

 改めて僕はそう思った。

「これは、アマネ様。それとも、今日はアマネ君でしょうか?アポ取りの主を隣に連れていらっしゃるなら、お客様ではなくホストの アマネ君扱いでよろしいか?」

 さすが元カリスマ黒服は、ゲストでない相手にもニコヤカに目が笑ってないという素の対応だ。

「アマネでいいっすよ。僕も素でいきますんで。この際隠してもしゃーなきっすよ。」

 良いように言えば、黒服はキャストのマネージャーで、客への付け回しとか、色管理とかする。

 対してホストは、フリーランスで営業もする自分資本ガテン系だ。

 相手は駆け出しから、自分のシノギを稼ぐ為に何人もキャストを管理するが、ホストは自身でプロデュースして、自分でマネージングもする。

「それじゃ、アマネ君ね。いやあ、君が現役の時から本当に噂は聞いてたからね。ゲストで出入りするように、なるとは思ってなかったよ。それこそ、その顔としゃべり。ミナミなら日本一になれたのじゃないかなあ。女なら、うちに来て欲しいところだよ。」

 黒服にホスト。
 
 大半の両者男。

 共にクズ率が高い業界で、目の前にいる元黒服の『Q』オーナーは数少ない良心的なタイプらしい。

 て、言い方がな!!

 そーゆーとこが、タモツとウマが合うのかもしれん。

「で、今日はアマネ君は、タモツオーナまで連れて、こっちの村まで探し人だとか?」

 女子とならここらで、スイーツでもいっとく?って時間の喫茶店。

 『Q』オーナが指定した店だけあって、貸し切りだ。

 でないと、この時間のサ店はね、それこそ下い色管理ネタ満載の黒服だらけ。

 妻探しどころじゃあない。

「なんすよ。そちらでお世話になってたと思うんですけど、」

 僕は『リリーメイプル』で見せた妻の画像を表示させた、電話を低いテーブルに置く。

「あれ?これは、チクリのアザミじゃないか。意外な人物をまた聞いてきたよね。知り合い?」

 チクリのアザミ?僕の耳に聞き慣れない言葉が。

「アマネの会社の者で行方を探してまして。今日も出でしょうか?」

 動揺する僕の変わりに、タモツが聞き込んでくれる。

「ふうん。そういう事にしておくかな。残念だが、アザミは1年前に3ヶ月だけヘルプ扱いで入店した子でね。今は来てないんだよ。まあ、居にくくなったんだろね。」

 僕の電話を机から取り上げて、画像を確認する相手の物言いと、さっきの単語が僕は気になって、

「あのチクリって、もしかしてイジメでやめたんすか?」

 やや表情を消し去り気味で、問いかけた。

「おやアマネ君て、そんな顔するんだな。まあ、待ってくれよ。イジメというか、キャストには煙たがられたな。」
   
「アマネ!」

 思わず席を立ちそうになる僕を、タモツが抑えた。

 いくら僕でも、妻への冷遇は見逃せない。そりゃ僕も大概だと解ってるけどな!

「最初は、ほら彼女、美人だけど気が強い感じだから、キャスト達も、つっかかってはいたんだ。こっちもハンカの内偵かもって思ったぐらいだからね。」
   
 『Q』オーナーがテーブルの向こうで慌てて、口ではやんわり止めながらも、僕の胸元に手を当てて押し返す。

 しまった、黒服はけっこう格闘も出来るヤツがいるのを忘れてた。

「ハンカって?」

 僕は隣のタモツを振り返る。

「国税の夜対の部署。『繁華街』だから『ハンカ』。隠語だ。」

 知らなかった!何それ!

「じゃあ、チクリのアザミってのは、」

 タモツが重ねて質問をすると、肩眉を上げて、

「ゲストの掛けを、自分の口座に振り込ませて、店に全額入金せずに、使い込んでたキャストを告発したんですよ、彼女。それこそ、ママの側近達でしてね。アマネ君も御存じのサクラ辺りがね。」

 苦そうな顔を『Q』オーナーが見せた。

「え?!全然知らなかったけど!」

 確かに『Q』での接待には、ママの周辺にいるサクラまで、僕は指名してきた。

 会計は月末支払いで、会社カードだから僕の管理じゃないけど、、

「ちゃんと連絡したけど。自宅に。会社に連絡したら、支払い管理は奥様だと言われて。アマネ君のところに、二重払い請求していたので、間違いの分は次回利用で御破算願いたいってね。」

「なるほど返金じゃなく、次回から横領者がタダ働きで返すか。」

 タモツが隣で感心して口笛を軽く吹く。

「これもアザミの提案ですよ。」

 僕はそれを聞いて思わず、

「本当に彼女がそんな事?を?信じらんねーなぁ。なんだか別人みたいに感じるけど。」

 自分の電話の中で、睨んで映る妻の画像を見つめた。
 そもそもお嬢様というアドバンテージを抜いても接客業、ましてやホステスなんて不向きなタイプ。

 そんな妻が横領まで見つけた?

 もう別人なのでは?なんか憑依したのか?

 疑う気持ちが出て来た僕を見透かして、

「良ければ上で防犯みても、こっちはかまわないよ。
   本人かどうか判るでしょ?」

『Q』オーナーが、くいっと顎を上にしゃくる。

「本当に、いいんでしょうか。」

 もちろん、その案にタモツが驚いた声を上げた。

「その代わりね、彼女の履歴書も見せるから、伝えてよ。また戻ってくれないかって。彼女、目付きも態度も悪かったけどね太客が付いてて、問い合わせが今だに多いんだよね。今度は自分が担当するからってね。」

 只でさえ村のキャスト、その身バレネタを話させたのに防犯映像まで見せる?

 しかも、オーナー自ら担当ってママ候補だろ?

「「・・・・・」」

 僕はなんだか、気分が良くなく、タモツは、そんな僕の心中察して言葉も出ない。

 くそ!!

「ああ、自分ね、元ミナミ出身。チクリって、まあ告げ口する って意味なんだけど、アザミの刺す雰囲気が病み付きになるのも、含んで呼んでたんだよ。」
   
「どーりで。」

 僕は表情を失くした目で、相手を見る。

 ミナミは、国内二大夜街の西拠点、夜街の聖地の1つだ。
 実は、町ともホスト数は変わらないほど。

 個性的な客層とホスト層でもある。

 顔が良くて、容姿が良くて、それだけがホステスの条件じゃないのは、ホストも一緒だ。

 たまに、顔もスタイルも全然醜聞ぐらいのホストでも、しゃべりで客が着きまくるのがいてる。
 
 どーゆーわけか、マニアな太客が着くのだ。

 こいつ、、ぜってー、僕と同類てヤツだ。

「ご好意、あざっす。」

 ここは穏便に胸糞礼を言っておいて、僕とタモツは早速、連れられ、『Q』オーナー室 に招待された。

 あと1時間もすれば、黒服達が出勤してくる中、

「どう?アザミは、その赤のドレス。あ、後ろ姿か。彼女、いつもその席なんだよね。後ろ姿でも判るよね?ほら、」

 1年前の防犯映像には、確かに僕が見つけた深紅のドレスを纏う女の後ろ姿が映っている。

「これ?アマネじゃないか?」

 タモツが映像の隅を指さす。

「うん、僕だわ、、」

 深紅の後ろ姿の女が見る先には、無限ループ横領サクラ達と戯れる接待中の僕が、映っている。

「全然、知らんかった。」

 僕は 唖然と 1年前の自分を見た。

 この後ろ姿の妻は、どんな顔をして僕を見ていたのか。

 サクラ達と騒ぐ僕も、今の僕には、もう解らない。



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