童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

第五章

告白

「本当にルーファウスは我が儘だよね……」

　ルーファウスと二人きりの室内で僕が歯に衣着せずにそう告げると、ルーファウスは瞬間びくりと身を震わせて「分かっています」と俯いた。

「年齢なんて僕達の中では一番年上のはずなのに子供みたいな事ばっかり、あげくまだ年端もいかない子供に気を遣わせて、恥ずかしいと思わない？」

　またしても続く沈黙、しばらく黙って様子を窺っていたら「…………私だって、どうしていいのか分からないのですよ」とルーファウスがぽつりと零した。

「貴方に出会ってから、私は感情が抑えられなくなってしまったのです」

　今まで人付き合いを避けて生きてきたルーファウスはその己の感情を制御できないのだと静かに告げる。

「大人げない事は分かっています、大人というものはこうあるべきという姿から自分が逸脱している事も理解しているのですが、私はこの感情を抑える事ができないのです」
「その感情を抑え込むのが大人だよ」
「そんな大人の対応で愛する人を目の前で奪われるくらいなら、私は大人になんてならなくてもいい！」
「…………それはタロウさんを目の前で奪われた教訓から？」

　ルーファウスが悔しそうに顔を歪めたので、それはきっと図星であったのだろう。

「僕はタロウさんじゃないよ、それにロイド君もフロイド国王陛下じゃない」
「そんな事は分かっています！」
「ううん、ルーファウスは分かってない。分かってないからそうやって僕のことを信じてくれないんだ」
「私は……」

　何か言いかけたルーファウスの言葉を遮って「だけど」と僕は言葉を続ける。

「だけど、僕もルーファウスの好意の上に胡坐をかいて何も言わなかったんだから同罪なのかもしれない」
「え……」
「でもルーファウスだって悪いんだからな、ルーファウスはいつだって僕の向こう側にタロウさんを見てるんだろう、僕はそれ、本当にすっごく嫌だった！」
「タケル……なにを……？」
「僕はね、浮気とか絶対許せないたちなんだ」
「え？」
「恋愛なんて今まで全然してこなかったから付き合い方とか全然分からないし、駆け引きとかもできないし、裏切られるのもがっかりされるのも怖くて、臆病で、ならいっそ今のままでいた方が幸せなんじゃないかって思うくらいには恋愛には後ろ向きで、だから……」

　ここまで一気にまくし立てて何故だか急に恥ずかしくなってきた、この流れではもう言ってしまうのが正解なのだろうけど、言葉が上手く出てこない。

「だから……？」
「……っ、だから、本当は言葉にするのずっと怖かったけど、だけど……」

　僕は大きく息を吸い込む。

「僕はルーファウスの事が好きだよ！　僕はルーファウスを裏切らない！　だからルーファウスは僕を信じろ！」
「っっ！？」

　うああああ、言っちゃった！　ついに自分の口から「好き」って言ってしまったよ……あああ、告白これってめちゃくちゃ恥ずかしいな！　ルーファウスの顔が見られない、もう顔が上げられないよ。
　それにしても僕の告白にルーファウスの反応がまるでない。下を向いたまま顔を上げられない僕に黙ったままのルーファウス、そんな状態がしばらく続きどうしたものかと思い始めた頃に床にひとつふたつと雫が落ちる。
　僕が驚いて顔を上げると零れる雫を拭いもせずにルーファウスが静かに泣いていた。
　ハラハラと零れ落ちる涙があんまりにも綺麗で、声も出せずにぽかんとした表情でそんな彼の姿を見ていたら「大の大人が情けないと笑ってくれていいですよ」と苦笑されてしまった。

「え、いや……笑ったりしないけど……大丈夫？」
「大丈夫じゃないですよ、タケルのせいで私の情緒は今や崩壊寸前で自分でも涙が止められません、どうしてくれるんですか」
「ご、ごめんなさい……？」

　あれ？　なんで僕謝ってんの？　これって僕のせいだっけ？

「タケル……」
「はい？」
「私はあなたを信じます」

　ルーファウスが僕の手を取って手の甲に唇を寄せる。そしてそのまま掌に、少し恥ずかしくなって手を振りほどこうとしたら何故か手首に噛り付かれた。

「なっ、痛い！」
「もう既にご存じかと思いますが、私はとても嫉妬深いです」

　僕の腕を掴んだままルーファウスがじっとこちらを見やる。
　たった今、僕のことを信じるって言ったその口でなんでそういう事言うかな！？　ルーファウスが嫉妬深い事なんてもうとっくに知ってるっての！

「私はあなたを信じます、が、これからは『恋人』として無闇にタケルが私以外の誰かと接触する事は禁じさせていただきます」
「な……」
「手を繋ぐのはもちろん、抱き上げられるのも禁止です」
「…………」

　あれ？　これ今までと何も変わってなくない？　むしろ悪化した気がするの気のせいか？？

「ルーファウスはやっぱり僕のこと信じてくれないんじゃないか！」
「これは信じる信じないとは別問題です！　あなたは無防備過ぎる、私は『恋人』としてそれは看過できないと言っているだけです！」
「こ、恋人だったら何を言っても許されると思ったら大間違いだからっ！」

　思わず叫んだ僕の言葉が聞こえているのかいないのか、ルーファウスはもう一度僕の手首に残る自分の噛み痕に満足気に唇を寄せた。