童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第五章

青天の霹靂

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 僕達は王城の謁見室に通されると、そこには既にこの国の王様グランバルト国王陛下が待ち構えていた。国王陛下の隣には恐らく王妃様だと思われる美しい女性、そしてその脇にはルーファウスの父親であるアルバートも相変らずの食えない笑みを浮かべてそこに居た。
 謁見室内にはアルバートの他にも幾人か気難しそうなおじさん連中が並んでいて、その視線は決して友好的な感じではなく少しばかり居心地が悪い。
 国王陛下は見た目からしていかにも王様という感じの風貌をしているのだが、やはり親子と言うべきかレオンハルト王子によく似ていた。
 違っているのは立派に整えられた顎髭と年相応に刻まれた皺くらいのもので、レオンハルト王子も歳を取ったらきっとこうなるのだろうなと容易に想像ができた。
 型通りの帰還の言葉を述べてレオンハルト王子は父親である国王陛下に向かって笑みを浮かべる。

「父上、朗報です。私達はこの旅の中、ドラゴンを手中に収める事に成功いたしました!」
「!? レオンハルト、お前まさかドラゴンを手懐けたとでも言うつもりか!?」
「はいその通りです。正しくは私ではなく、私の婚約者である聖女マツリが、ですけれども」

 瞬間、ただでさえ表情の薄い王妃様の表情が硬く強張ったのが見てとれたのだけど、国王陛下はそんな王妃様の様子に気付く事もなく茉莉をまじまじと見やる。
 だけど、それにしてもちょっと待って~
 オロチは確かに茉莉と付き合うとは言ったけどさ、彼はあくまでの僕の従魔だよ。王子様、なに勝手なこと言ってくれちゃってんの?
 さすがに国王陛下との謁見に亜人は連れて行けないとオロチには楽園の方で留守番をしてもらっているのだけど、この場にいなくて本当に良かったと思う。オロチはとてもプライドが高いのだ、手懐けるなんてそんな言葉には脊髄反射でブチ切れると思うよ。
 王子はオロチの話す言葉が分からないから、僕が簡単にオロチを扱っているように見えるのかもしれないけど、僕だってまだオロチとの付き合いは手探り状態でやっているのだから、あまり好き勝手言われるととても困る。

「聖女マツリ、それは真の話か?」
「え~……確かにオロチはあたしの彼ピだけどぉ、レオにそういう言い方されるとなんかムカつく。そもそもあたしと彼ピの関係に、おっさん達は関係なくない?」
「彼ピ……」

 この国の重鎮達を前にして全員纏めて「おっさん」呼ばわりか。相変らず強いな、茉莉ちゃん。召喚された聖女という肩書がなければ不敬罪で罰せられても不思議ではない物言いなのだが、茉莉はどこ吹く風だ。

「そんな事よりも、今日は聖剣グランバルトを王様に返しに来たんじゃなかったの? 彼ピが待ってるから、あたしさっさと帰りたいんだけど」
「!? 聖剣グランバルトが見付かったのか!?」
「そこにコタもいるじゃん。おっさんの目、節穴なの?」

 言い方! 怖いもの知らずにも程がある。
 そして茉莉の一言で注目を集めてしまった小太郎は皆の視線に耐えきれなかったのか脅えたようにロイドの背中に隠れるように逃げ込んでしまった。

「聖女マツリよ、コタというのはそなたと一緒に召喚されてきたあの……?」
「そう、蓮見小太郎。コタ! あんたいつまでも人様の背中に隠れてないで自分で挨拶しなさいよ!」

 茉莉の一喝に小太郎はまたしても小さく身を震わせて、おずおずとロイドの背中の後ろから「蓮見、小太郎です」と、小さく声を発した。
 途端にざわめきだすおじさん達。そりゃあね、失踪していた召喚勇者がこんな頼りなさげな少年だなんておじさん達にとっては想定外だろう。
 案の定というか「アレが異世界から召喚されてきた勇者だと?」「どう見てもただの子供ではないか、何かの間違いではないのか」とますます好奇の目が小太郎へと向いた。
 小太郎はそのおじさん達の少々非難がましい声に耐えられないのか涙目になっているのだが、面と向かって中傷・罵倒をされている訳ではないので今はどうにもできない。
 総務大臣のアルバートさんはこうなる事は分かっていたと思うのに、それを誰にも言っていなかったのか? 一人だけ動揺も見せず涼し気な笑みを浮かべ我関せずという感じだ。

「勇者コタローよ」
「は、はい」

 周りがざわめく中、国王陛下が小太郎の名を呼ぶ。またしても小太郎はびくりと身を震わせて国王陛下の方を向いたのだが、その顔は血の気が失せて真っ白になっていて今にも倒れてしまいそうで僕はもうそれだけで気が気ではない。

「聖剣グランバルトは何処に?」
「え、えっと……謁見に剣の持ち込みはできないと先程回収されましたけど……」

 そう、王様との謁見には武器の一切の持ち込みは禁止されている。当然僕の杖も回収されてしまったのだけど、僕は杖が無くても魔法が使えるので、これって意味あるのかな? と少し思ったんだよね。ルールはルールだからちゃんと守るけど。
 国王陛下の目配せで、僕達の回収された武器がトレーに乗せられ運ばれてくる。けれど僕達の武器を回収した家来の人は小太郎は剣など持っていなかったと困惑顔で首を横に振った。

「勇者コタロー、これはどういう事か?」
「えっと……剣はロイドさんにあげたので……」
「あげた? 聖剣グランバルトを?」
「はい、僕には扱いきれなかったので、彼にあげました」

 小太郎が強い口調の国王陛下に脅えたように答えを返すと、国王陛下は僕達をぐるりと見渡した。たぶん誰がロイドなのか分からなかったのだろう。
 そしてそんな小太郎の言葉には周りも動揺を隠せず、またしても周囲がざわめいた。まぁ、そりゃそうだよね。聖剣グランバルトは宝剣で、欲しいと言って簡単に手に入るものではない。
 それをいともあっさりと他人にあげたと言い切った小太郎の言葉を信じられないのは当たり前だ。

「ロイドとやら、そちは一体何者だ?」
「お……わ、私は西方の街シュルク出身のDランク冒険者、ロイドと申します!」

 名指しで呼ばれてしまったロイドは緊張した面持ちでぴしっと背筋を伸ばしそう言うと、またして周りに動揺が広がった。

「西方の街シュルク? 聞いた事がないな、どこの田舎者だ?」
「というかDランク冒険者? 何故そんな低ランクの冒険者が聖剣を……」
「全く不敬にも程がある!」

 おじさん達が言いたくなる気持ちは分からないでもないけど、ロイドがその聖剣を手に入れてしまったのは言ってしまえば不可抗力、そういう言い方はないと思う。
 しかもロイドはきちんと聖剣に選ばれて、それを手にしている訳だし文句を言われる筋合いはないはずだ。

「皆の者、静まれ! まずはその剣が本物か、話はそこを見極めてからだ。大至急鑑定士を呼べ」

 国王陛下の鶴の一声で部屋には静寂が戻り、慌ただしく鑑定士が呼び出された。まぁ、僕の鑑定スキルでも間違いなくそれは『聖剣グランバルト』だったから今更偽物なんて事あり得ないけど。
 案の定鑑定士が来てすぐにその剣は本物だと鑑定されて、またしても小太郎とロイドに視線が集まる。

「これは聖剣グランバルトで間違いがないようだが、これは一体どういう事だ? これは勇者の剣であって誰が持ってもいいというものではない」
「そ、それは分かっています。なので俺っ……わ、私は、その剣を一冒険者として国王陛下にお返しします」

 思い切り噛み噛みなのだが、ロイドはそう言って息を吐く。
 まぁね、元々聖剣グランバルトには捜索願が出ていて、それには報奨金で白金貨10枚も提示されていた。
 僕達はその剣を持て余していたし、返してしまうのが一番だと僕も思う。

「勇者の剣を返却すると? 勇者コタローはそれでいいのか?」
「ぼ、僕は勇者なんかじゃありません! それに僕にはその剣は使えない、要りません、返します!」

 そう小太郎が言い切った所で「恐れながら陛下」と、声をあげたのは鑑定士だった。

「なんだ?」
「私が今この剣を鑑定しました所、この剣の所有者はそこのロイドという少年になっております。そしてその少年の称号は『聖剣に選ばれし者』、そして職業は『勇者』です……」

 ざわっと一気にまた空気が揺れた。
 だけど、鑑定士のその言葉には僕も驚きを隠せない。だって、ロイドが勇者だなんて、そんな話聞いてない!

「え、ちょ……それ、何かの間違い……」

 ロイド自身もそんな話は寝耳に水だったのだろう、戸惑ったように否定の言葉を述べるのだが「私の鑑定眼に間違いなどあり得ない!」と鑑定士は自信満々だ。
 確かにステータスにある称号というのは自分の意志に関わらずその都度書きかえられていく。そして職業も自分の事を思い返せば最初の職業が『迷子』、そして次が『迷子の冒険者』そしてしばらくすると『新米冒険者』へと変わっていったのだ。
 それを鑑みればロイドの職業は聖剣に選ばれた時点で『勇者』に変わった可能性を僕は否定できない。
 思い出してみればリブルの鑑定士にステータス情報を書きかえて貰ったのは小太郎だけでロイドに関しては完全にノータッチだったよ……まさか職業が変更されているだなんてあの時は誰も想像していなかったからな。恐らくロイド自身ですらその変更に気付いていなかったのだ。
 ロイドは身分証の提示を要求されて、慌てたように自身の身分証を鞄の中から引っ張り出した。そしてそこに記載されていたのは間違いようもなく『勇者』の二文字で、ただただ唖然と立ち尽くした。
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