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第五章
ついに王都へ到着です
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僕達の旅は平和そのもの。
王都が近付くにつれ、街道を行く人の数や荷台が増えてきて、改めて都会に来たのだと実感させられた。
西方の街シュルクからダンジョン都市メイズへ、そして観光都市リブルを経由して僕達はついにこの国の首都へと到着する。
「なんか、人の数が尋常ではないのですが……」
王都へ入るには検問所を通らなければならない。教会に目を付けられていた間はそんな検問はさっくりと無視してルーファウスの転移魔法でズルをしていたりもしたけれど、晴れて自由の身になった僕はきちんと検問を受けて王都へと足を踏み入れた。
検問所を抜けて王都への門をくぐると、そこはもう人・人・人の人だらけ。あまりの人の多さに人酔いしてしてしまいそうだ。
僕があまりの人の多さに気圧されていると「なぁ、お前等ちょっと物は相談なんだが……」と、アランが僕達に声をかけてきた。
「ここまで来て何なんだが、しばらくの間、数日でいい、俺だけ別行動させてもらってもいいか?」
「え? なんで?」
僕が首を傾げるとアランは少しだけきまり悪げに「まぁ、色々とな……」と、言葉を濁した。
アランは過去、この王都に住んでいて冒険者としての冒険の過程で少し問題を起こした事があるのだと聞いている。それはアランの戦闘スタイルに起因して、仲間が負傷し冒険者を続けられなくなるような怪我を負ったとかそんな話。
その件に関してはアランはあまり話したがらなかったし、無理をして聞きだす事でもなかったから詳しくは聞いていないのだけど、恐らくこの街にはアランのそんな過去に関わる人物が何人も暮らしているのだろうという事は想像に難くない。
そんな過去を持ちながらもけじめをつけるのだと言って王都へやって来たアランだったが、やはり僕達に知られたくない、見られたくない事もあるのかもしれないな。
「僕は別に構いませんけど……一人で大丈夫ですか?」
「……はは、心配してくれるのか?」
「それは仲間ですし」
アランが黙って瞳を細める。いつも賑やかな彼が物静かだと少し不安になるな。
「仲間だから見られたくない事もある。俺は大丈夫だから、お前等は王都観光でも楽しんでくれや」
「アランがそう言うのなら……」
基本的に僕が頷きさえすればルーファウスもロイドもアランに対してモノ申す事はなく、待ち合わせのための日時と場所だけを決めると、アランは「じゃあ、ちょっくら言ってくるわ」と雑踏の中へと消えて行った。
「なんだか少し心配だね」
「何がですか? アランがですか? 何を心配する事があると言うのですか? アランはタケルに心配されるようなタマではありませんよ」
確かにそうなんだけど、奥さんの再婚話を聞いてグダグダに酔い潰れていた日のアランを知っているだけに、僕は少し不安になるんだよ。
たぶんあの日のアランは泣いていた。それくらいに奥さんの事をアランは愛していたって事で、そんな奥さんに会いに行ったアランが僕はお節介だって事は分かっているけど心配で仕方がないんだ。
「あの彼は一人で一体何処へ行ったんだい?」
少し不思議そうに首を傾げるレオンハルト王子にアランは家族に会いに行ったのだと告げると「へぇ」と一言、雑踏の中へ消えたアランの背中を探すようにそちらを見やった。
「彼は元々王都の出身?」
「王都の人と結婚してからはそうみたいですね」
そういえばアランの親御さんって何処で暮らしている人達なのかな? 若い頃に家出同然に出てきたって話は聞いてるけど、よく考えたら僕ってアランの事何も知らないな。
「王都でも冒険者を?」
「そのはずですけど」
何故かアランが気にかかる様子のレオンハルト王子に僕は首を傾げた。そういえばルーファウスの父親であるアルバートさんもアランに何処かで会った事があるような事を言っていたんだよな。アランはそれを否定していたけど、王子まで似たような態度で来られるとちょっと気になってしまうじゃないか!
「何かアランの事で気にかかる事でも?」
「軍の方で見かけた事がある気がするんだよ。確か重装歩兵隊。彼のご兄弟なのかな」
アランから兄弟の話なんて聞いた事がない、ましてや兄弟が王都で暮らしているなんて話は一言も聞いた事がない僕は首を傾げる。
「アランはたぶん十年も前から王都には帰っていないはずですし、軍隊に所属していたなんて話は聞いた事ないです。王都に親族が暮らしているって話も聞いた事ないですし、他人の空似じゃないですか?」
僕の言葉に王子はふむと頷いて気のせいかと笑みを見せた。
「それにしても何故彼はご家族もいるのに10年も王都を離れていたんだい?」
「あ~……それはアランの個人的な事情ですので僕の口からはちょっと……」
「そういえば、私も聞いた事がないですね。タケルは知っているんですか?」
「え? ルーファウスは聞いてないの?」
僕よりもアランとの付き合いが長いはずのルーファウスの言葉に僕は驚く。そういえばアランがその話を僕にしてくれた時、ルーファウスはその場には居なかった。
「他人の過去なんて詮索するものではありませんからね。会話の端々から何かしらこの王都で問題を起こしたらしいという事は分かりましたけど、詳しい事情までは聞いていません」
「でもアランの戦闘スタイルは知ってますよね?」
「狂戦士化の事ですか? それは知っていますよ。最初に組んだ時に説明されていますからね。もしかしてそれで問題を起こしたんですか?」
「えっと、まぁ、そうだね」
アランは僕にはさっくり事情説明をしてくれたのに、本当にルーファウスには全く事情を話していなかったらしい事に僕は驚きが隠せない。
「狂戦士? 彼は狂戦士なのかい?」
「僕は見た事ないですけど、そうみたいです。ルーファウスは見た事ある?」
「まぁ、何度かは。そういえばタケルと一緒の時には一度も見ていませんね。最近は高ランクの依頼をセーブしていましたし、そもそもタケルといると彼が狂戦士化するまでもなく魔物は倒されてしまいますからね。まさかリヴァイアサンですらああもあっさりと倒してしまうとは思いませんでしたよ」
「ほお、君達リヴァイアサンを倒した事があるのかい?」
「ええ、倒しましたよ。そうは言ってもダンジョン産の、ですけれど」
ダンジョン産……うん、確かにダンジョン産。ダンジョンにいる魔物はその辺に居る魔物とは少し違っていて自我がない。だから従魔として従える事も出来ないのだという事は聞いているけど、それ以外は特にダンジョン産も天然も変わらないと思うのだけど、そんな風に強調するほど何か違うのか?
「ああ、なるほどダンジョンか。何処のダンジョン?」
「ダンジョン都市メイズのダンジョン城ですよ」
「あれ? それは初耳だね」
「つい最近攻略されたばかりの階層ですから」
「おじさん達が初攻略?」
「それはどうでしょう。ダンジョン核は私達が到達する以前から封じられていたようですし先に攻略した方はいたんじゃないですか。ですが誰もそれを知らないようで私達も首を傾げていた所ですよ。確かあそこの持ち主は元々ベルウッド家でしたよね?」
ルーファウスの問いかけに王子はそんな家名は聞いた事がないなと首を傾げた。
「確かにベルウッド家は貴方がお生まれになるずいぶん前にお取り潰しになっているはずですが、ご存じない?」
「何か問題を起こして?」
「いえ、単純に後継者がいなかったんじゃなかったですかね」
レオンハルト王子は「さすがに自分が生まれる前の、しかも問題を起こして消えたわけでもない家名の事までは把握していないかな」と苦笑した。
その地を治めていた訳でもない弱小貴族、何処かに本家筋があるのかもしれないけれど、確かに完全に消えてなくなった家の事まで把握するのは国を統治している王様の子とはいえ難しいよな。
「あはは、ベルウッド家って鈴木さんち?」
と、不意に背後から声をかけられ僕は驚く。口を挟んできたのは茉莉ちゃん、確かに僕もベルウッド=鈴木だよなとは思っていたけど、口に出して言ったりはしなかったのに。
「聖女様、何故ベルウッドがスズキになるのですか?」
「だって日本語でベルは鈴、ウッドは木でベルウッドでしょう?」
「意味が分かりません」
「なんでよ!」
「茉莉ちゃん、たぶん僕達の自動翻訳機能はこっちの世界の人達には通じないと思う」
思わず僕が彼女にそうフォローを入れると、茉莉は少し不服そうな表情だ。
「僕達はこっちの世界の文字も言葉も日本語として認識できているけど、たぶんこっちの人には日本語も英語も通じないんだよ。だけど僕達が話す言葉は日本語だろうが英語だろうが自動翻訳でこっちの言葉になってる。意思の疎通はきっちり出来てるから忘れがちだけどこっちの世界はやっぱり異世界なんだよ」
「え~……」
「ちょっと待ってください、タケル。今の会話を総合するに、もしかして、ベルウッドというのは貴方の国の言語でスズキ姓なのですか?」
「え……あ、まぁ、そうだね。ちなみにホーリーウッドは聖なる木、だよね? もしかしてエルフの里には聖樹とかあったりする?」
僕の言葉にルーファウスが驚いたような表情で「何故それを……」と驚かれてしまった。
「ホーリーウッドの家名の語源はタケルの言う通り古語で『聖なる木』です。今となっては意味を理解している者もほとんどいなくなっているというのに……」
ああ、やっぱりそういう感じ? そもそも魔物と会話ができる時点で僕達の自動翻訳機能はかなり優秀なのだと分かっていたけど、僕達異世界人にも分かりやすく翻訳してくれるの本当に助かるな。
「それにしてもベルウッドの名がスズキである事を何故タケルは私に教えてくれなかったのですか?」
「それは……本当にそうなのか分からなかったので」
だって鈴木は僕の姓でもあるけれど、ルーファウスの大好きなタロウさんの姓でもあるから、あまり触れたくなかったんだ。
あそこがタロウさん所縁の城だったりしたら、きっとルーファウスは目の色を変えて城の事を調べ始めたりしただろうし、なんかこう、それは嫌だったんだよ! 文句ある!?
「でも、だとしたら……」
ルーファウスが何かを考え込むように思案顔をし始めた。ほらやっぱり、そういう事になるんじゃないか……
「ねぇ、この世界では鈴木姓がなんか問題でもあんの?」
こそりと茉莉が僕に耳打ちをしてくるのに対し僕は苦笑を返す。
「僕達より前に異世界転生してきた人が、どうやら鈴木姓だったみたいで、この国ではちょっとした有名人らしいですよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあそのベルウッドさんはその鈴木さんの……?」
「それはどうだろうね」
実際それだけの情報ではベルウッド=鈴木である事は証明されていない。それにタロウさんはベルウッドではなく、普通にスズキとして名を残しているのだから、全く無関係である可能性も否定できないのだ。
「どちらにしても既に断絶した家の事を詮索しても仕方がない、その家の者はもう誰もいないのだから」
王子がけろっとそう言うと、茉莉は「それもそうね」と頷いた。ただルーファウス一人だけが未だ難しい顔で考え込んでいて、僕は少しだけ不安になった。
王都が近付くにつれ、街道を行く人の数や荷台が増えてきて、改めて都会に来たのだと実感させられた。
西方の街シュルクからダンジョン都市メイズへ、そして観光都市リブルを経由して僕達はついにこの国の首都へと到着する。
「なんか、人の数が尋常ではないのですが……」
王都へ入るには検問所を通らなければならない。教会に目を付けられていた間はそんな検問はさっくりと無視してルーファウスの転移魔法でズルをしていたりもしたけれど、晴れて自由の身になった僕はきちんと検問を受けて王都へと足を踏み入れた。
検問所を抜けて王都への門をくぐると、そこはもう人・人・人の人だらけ。あまりの人の多さに人酔いしてしてしまいそうだ。
僕があまりの人の多さに気圧されていると「なぁ、お前等ちょっと物は相談なんだが……」と、アランが僕達に声をかけてきた。
「ここまで来て何なんだが、しばらくの間、数日でいい、俺だけ別行動させてもらってもいいか?」
「え? なんで?」
僕が首を傾げるとアランは少しだけきまり悪げに「まぁ、色々とな……」と、言葉を濁した。
アランは過去、この王都に住んでいて冒険者としての冒険の過程で少し問題を起こした事があるのだと聞いている。それはアランの戦闘スタイルに起因して、仲間が負傷し冒険者を続けられなくなるような怪我を負ったとかそんな話。
その件に関してはアランはあまり話したがらなかったし、無理をして聞きだす事でもなかったから詳しくは聞いていないのだけど、恐らくこの街にはアランのそんな過去に関わる人物が何人も暮らしているのだろうという事は想像に難くない。
そんな過去を持ちながらもけじめをつけるのだと言って王都へやって来たアランだったが、やはり僕達に知られたくない、見られたくない事もあるのかもしれないな。
「僕は別に構いませんけど……一人で大丈夫ですか?」
「……はは、心配してくれるのか?」
「それは仲間ですし」
アランが黙って瞳を細める。いつも賑やかな彼が物静かだと少し不安になるな。
「仲間だから見られたくない事もある。俺は大丈夫だから、お前等は王都観光でも楽しんでくれや」
「アランがそう言うのなら……」
基本的に僕が頷きさえすればルーファウスもロイドもアランに対してモノ申す事はなく、待ち合わせのための日時と場所だけを決めると、アランは「じゃあ、ちょっくら言ってくるわ」と雑踏の中へと消えて行った。
「なんだか少し心配だね」
「何がですか? アランがですか? 何を心配する事があると言うのですか? アランはタケルに心配されるようなタマではありませんよ」
確かにそうなんだけど、奥さんの再婚話を聞いてグダグダに酔い潰れていた日のアランを知っているだけに、僕は少し不安になるんだよ。
たぶんあの日のアランは泣いていた。それくらいに奥さんの事をアランは愛していたって事で、そんな奥さんに会いに行ったアランが僕はお節介だって事は分かっているけど心配で仕方がないんだ。
「あの彼は一人で一体何処へ行ったんだい?」
少し不思議そうに首を傾げるレオンハルト王子にアランは家族に会いに行ったのだと告げると「へぇ」と一言、雑踏の中へ消えたアランの背中を探すようにそちらを見やった。
「彼は元々王都の出身?」
「王都の人と結婚してからはそうみたいですね」
そういえばアランの親御さんって何処で暮らしている人達なのかな? 若い頃に家出同然に出てきたって話は聞いてるけど、よく考えたら僕ってアランの事何も知らないな。
「王都でも冒険者を?」
「そのはずですけど」
何故かアランが気にかかる様子のレオンハルト王子に僕は首を傾げた。そういえばルーファウスの父親であるアルバートさんもアランに何処かで会った事があるような事を言っていたんだよな。アランはそれを否定していたけど、王子まで似たような態度で来られるとちょっと気になってしまうじゃないか!
「何かアランの事で気にかかる事でも?」
「軍の方で見かけた事がある気がするんだよ。確か重装歩兵隊。彼のご兄弟なのかな」
アランから兄弟の話なんて聞いた事がない、ましてや兄弟が王都で暮らしているなんて話は一言も聞いた事がない僕は首を傾げる。
「アランはたぶん十年も前から王都には帰っていないはずですし、軍隊に所属していたなんて話は聞いた事ないです。王都に親族が暮らしているって話も聞いた事ないですし、他人の空似じゃないですか?」
僕の言葉に王子はふむと頷いて気のせいかと笑みを見せた。
「それにしても何故彼はご家族もいるのに10年も王都を離れていたんだい?」
「あ~……それはアランの個人的な事情ですので僕の口からはちょっと……」
「そういえば、私も聞いた事がないですね。タケルは知っているんですか?」
「え? ルーファウスは聞いてないの?」
僕よりもアランとの付き合いが長いはずのルーファウスの言葉に僕は驚く。そういえばアランがその話を僕にしてくれた時、ルーファウスはその場には居なかった。
「他人の過去なんて詮索するものではありませんからね。会話の端々から何かしらこの王都で問題を起こしたらしいという事は分かりましたけど、詳しい事情までは聞いていません」
「でもアランの戦闘スタイルは知ってますよね?」
「狂戦士化の事ですか? それは知っていますよ。最初に組んだ時に説明されていますからね。もしかしてそれで問題を起こしたんですか?」
「えっと、まぁ、そうだね」
アランは僕にはさっくり事情説明をしてくれたのに、本当にルーファウスには全く事情を話していなかったらしい事に僕は驚きが隠せない。
「狂戦士? 彼は狂戦士なのかい?」
「僕は見た事ないですけど、そうみたいです。ルーファウスは見た事ある?」
「まぁ、何度かは。そういえばタケルと一緒の時には一度も見ていませんね。最近は高ランクの依頼をセーブしていましたし、そもそもタケルといると彼が狂戦士化するまでもなく魔物は倒されてしまいますからね。まさかリヴァイアサンですらああもあっさりと倒してしまうとは思いませんでしたよ」
「ほお、君達リヴァイアサンを倒した事があるのかい?」
「ええ、倒しましたよ。そうは言ってもダンジョン産の、ですけれど」
ダンジョン産……うん、確かにダンジョン産。ダンジョンにいる魔物はその辺に居る魔物とは少し違っていて自我がない。だから従魔として従える事も出来ないのだという事は聞いているけど、それ以外は特にダンジョン産も天然も変わらないと思うのだけど、そんな風に強調するほど何か違うのか?
「ああ、なるほどダンジョンか。何処のダンジョン?」
「ダンジョン都市メイズのダンジョン城ですよ」
「あれ? それは初耳だね」
「つい最近攻略されたばかりの階層ですから」
「おじさん達が初攻略?」
「それはどうでしょう。ダンジョン核は私達が到達する以前から封じられていたようですし先に攻略した方はいたんじゃないですか。ですが誰もそれを知らないようで私達も首を傾げていた所ですよ。確かあそこの持ち主は元々ベルウッド家でしたよね?」
ルーファウスの問いかけに王子はそんな家名は聞いた事がないなと首を傾げた。
「確かにベルウッド家は貴方がお生まれになるずいぶん前にお取り潰しになっているはずですが、ご存じない?」
「何か問題を起こして?」
「いえ、単純に後継者がいなかったんじゃなかったですかね」
レオンハルト王子は「さすがに自分が生まれる前の、しかも問題を起こして消えたわけでもない家名の事までは把握していないかな」と苦笑した。
その地を治めていた訳でもない弱小貴族、何処かに本家筋があるのかもしれないけれど、確かに完全に消えてなくなった家の事まで把握するのは国を統治している王様の子とはいえ難しいよな。
「あはは、ベルウッド家って鈴木さんち?」
と、不意に背後から声をかけられ僕は驚く。口を挟んできたのは茉莉ちゃん、確かに僕もベルウッド=鈴木だよなとは思っていたけど、口に出して言ったりはしなかったのに。
「聖女様、何故ベルウッドがスズキになるのですか?」
「だって日本語でベルは鈴、ウッドは木でベルウッドでしょう?」
「意味が分かりません」
「なんでよ!」
「茉莉ちゃん、たぶん僕達の自動翻訳機能はこっちの世界の人達には通じないと思う」
思わず僕が彼女にそうフォローを入れると、茉莉は少し不服そうな表情だ。
「僕達はこっちの世界の文字も言葉も日本語として認識できているけど、たぶんこっちの人には日本語も英語も通じないんだよ。だけど僕達が話す言葉は日本語だろうが英語だろうが自動翻訳でこっちの言葉になってる。意思の疎通はきっちり出来てるから忘れがちだけどこっちの世界はやっぱり異世界なんだよ」
「え~……」
「ちょっと待ってください、タケル。今の会話を総合するに、もしかして、ベルウッドというのは貴方の国の言語でスズキ姓なのですか?」
「え……あ、まぁ、そうだね。ちなみにホーリーウッドは聖なる木、だよね? もしかしてエルフの里には聖樹とかあったりする?」
僕の言葉にルーファウスが驚いたような表情で「何故それを……」と驚かれてしまった。
「ホーリーウッドの家名の語源はタケルの言う通り古語で『聖なる木』です。今となっては意味を理解している者もほとんどいなくなっているというのに……」
ああ、やっぱりそういう感じ? そもそも魔物と会話ができる時点で僕達の自動翻訳機能はかなり優秀なのだと分かっていたけど、僕達異世界人にも分かりやすく翻訳してくれるの本当に助かるな。
「それにしてもベルウッドの名がスズキである事を何故タケルは私に教えてくれなかったのですか?」
「それは……本当にそうなのか分からなかったので」
だって鈴木は僕の姓でもあるけれど、ルーファウスの大好きなタロウさんの姓でもあるから、あまり触れたくなかったんだ。
あそこがタロウさん所縁の城だったりしたら、きっとルーファウスは目の色を変えて城の事を調べ始めたりしただろうし、なんかこう、それは嫌だったんだよ! 文句ある!?
「でも、だとしたら……」
ルーファウスが何かを考え込むように思案顔をし始めた。ほらやっぱり、そういう事になるんじゃないか……
「ねぇ、この世界では鈴木姓がなんか問題でもあんの?」
こそりと茉莉が僕に耳打ちをしてくるのに対し僕は苦笑を返す。
「僕達より前に異世界転生してきた人が、どうやら鈴木姓だったみたいで、この国ではちょっとした有名人らしいですよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあそのベルウッドさんはその鈴木さんの……?」
「それはどうだろうね」
実際それだけの情報ではベルウッド=鈴木である事は証明されていない。それにタロウさんはベルウッドではなく、普通にスズキとして名を残しているのだから、全く無関係である可能性も否定できないのだ。
「どちらにしても既に断絶した家の事を詮索しても仕方がない、その家の者はもう誰もいないのだから」
王子がけろっとそう言うと、茉莉は「それもそうね」と頷いた。ただルーファウス一人だけが未だ難しい顔で考え込んでいて、僕は少しだけ不安になった。
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