童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第四章

カップル爆誕、お前等ホントにそれでいいのか!?

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 楽園への扉の向こう側、巨大なドラゴンがその扉から覗き込むようにしてこちらをぎょろりと見やる。そんなオロチを聖女様一行はまるで魂が抜けたような表情で凝視している。

『何の用だ?』 
「えっと、ご飯あるからみんなで食べようと思って。お酒もあるよ」
『酒か? 酒が有るのか? では今から宴会だな!』

 呼び出した事に不服そうな表情だったオロチだが「酒がある」というその一言だけで彼の機嫌は上向いた。単純でとても助かるよ。
 オロチは『ちょっと待て』と一度扉の前から姿を消して、すぐに亜人の姿になり扉をくぐると『なんだかいつもと様子が違うな』と物珍しそうに部屋の中を見回した。

『ん? 主よ、そいつ等は誰だ?』

 オロチがその爬虫類のような瞳で見慣れない三人に視線を向けると、三人が三人とも別々のリアクションを起こす。
 まず最初にキラキラした瞳で「ドラゴンだ!」と叫んだのは王子様だった、それはまるで憧れの芸能人にでも遭遇したかのようなハイテンションで「すごい! 本物!! わぁぁぁ!!」とまるで幼い子供のような歓喜の声を上げる。
 そして、それと同時に護衛であるマリーは真っ青な顔でへたりと腰を抜かした。護衛がそれでは駄目だろうと思わなくもないのだけど、突然目の前に巨大な魔物が出てきたらそんな反応になってしまうのも、まぁ頷ける。
 そして最後に聖女様なのだが、なんというか反応が薄い。オロチを凝視したまま、オロチの一挙手一投足を見つめているのだけど、これといった反応がない。驚きすぎて声も出ないのかと思ったら、急にかぁっと顔を朱に染めて小太郎の背に隠れられる訳もないのに逃げ込んだ。
 これは一体どういう反応だ? と、僕がぽかんと見ていると「始まった」と彼女はぽつりと呟いた。
 始まったとは、一体何が?

「イケメン! やばたん! テンアゲやばたにえんで、きゅん死する!」

 ??? 茉莉の喋っている言葉の意味が分からない。
 おかしい、僕には自動翻訳機能が搭載されているはずなのに、同じ日本語を喋っているはずの茉莉の言葉が理解できない。
 喋り続けるというか、小太郎の背をバンバン叩きながら半分叫ぶように発するその言葉の意味を僕はほとんど理解できなかったのだけど「ようやく始まった、あたしの物語ストーリー! ありがと、神様!」という言葉だけは何とか意味を理解できた。
 小太郎にも通訳してもらいつつ理解したのはどうやらオロチは茉莉の推し? の歌い手にビジュアルがそっくりなのだという事。そして茉莉はその歌い手のガチ恋勢だったらしいという事。ちなみにガチ恋勢というのは、アイドルなどの対象に本気で恋しているファンの事、要するに大ファンって事だよな。
 それにしても最近は歌手の事を歌い手って言うのか? 歌い手と歌手の違いってなんなんだ? 推しのグループ名も叫んでたけど僕にはまったく聞き覚えのないもので、おじさん完全に時代に取り残されているよ。

「えっと、要約すると茉莉さんはオロチのビジュアルが凄く好き、って事でいいのかな?」
「まぁ、そんな理解で良いんじゃないでしょうか」

 茉莉に背中をバンバン叩かれたり、揺さぶられたりしながらそう答える小太郎は死んだ魚のような目をしている。まぁ、心に秘めた感情は「お前の気持ちなんか知らんがな」って感じなのだろう。茉莉にはさっきまで散々詰られたりしてたから、そんな目になってしまうのも仕方がない……うん、大丈夫、僕は君の味方だよ。

『なぁ、さっきから奇怪な言語で叫んでいるそいつはなんだ? 俺様は耳が良いんだ、叫ばれると耳障りで仕方ない』
「俺様、キタコレ!!」
『あ?』

 オロチがなんだこいつは? と視線で僕に訴えかけてくる。オロチの彼女への心証を悪くするのもなんだし、僕は無難に「彼女の名前は茉莉さん、聖女様だよ」と彼女を紹介した。

『ふむ、聖女というのはもっとこう大人しいものかと思っていたが、その辺の子供と変わらないな』
「あ、ああ! ちょっと待って! 今は聖女っぽくしてないけど、あたしちゃんと聖女だから!」
『ん? お前には俺様の声が聞こえるのか?』

 僕は「俺様、キタコレ」の発言で茉莉にオロチの声が聞こえている事はすぐに分かったけど、オロチは少し驚いたような表情だ。予想通り茉莉も翻訳機能搭載だったな。
 オロチがじっと茉莉を見つめると、彼女は先程までの不遜な態度はどこへやら、恥ずかしそうに頬を赤らめた。これが人が恋に落ちる瞬間というものなのか、甘酸っぱいな。
 恋愛とはほど遠い青春時代を過ごしてきた僕にはこの感覚はどうにもこそばゆい。だが、そんな彼女の気持ちになど全く気付く訳もないオロチは『まぁいい。それで主、酒は?』と、どこまでもマイペースだ。
 僕は苦笑しつつ、先程バックに詰め込んだ料理をテーブルの上に並べていく。ついでに酒樽も忘れない。

「あの、お隣いいですか!?」
『別に構わんが?』

 完全にターゲットロックオンな茉莉はぐいぐいとオロチとの距離を詰めていく。あれ? これ大丈夫かな? 拒絶しているとはいえ、彼女は今、王子様の婚約者の扱いなんじゃなかっけ?
 だけど、茉莉の婚約者を名乗る王子様はドラゴンという存在自体に完全に目を奪われてしまっているようで茉莉を咎める様子もない。
 我関せず、空気も読まないオロチはまだ誰も箸を付けてもいない料理に食らいつく。そんな彼を「ワイルド♡」と茉莉はやはりうっとり顔だ。

「あの! 好みのタイプ聞いてもいいですか!?」
『あ? 好み? 肉のか?』
「あはは、ウケる! お肉じゃなくて、女の子の好み! どんな娘が好き? 大人しめ? 美人? 可愛い子?」
『おんな……あぁ、メスの事か。つがいにするのならどんなのがいいのかと聞いているのか? 俺様は俺様の卵を生んでくれるメスなら何でも構わんぞ。まぁしいて言うなら、丈夫な卵を生めるといいな』

 何というか野性的なお答え。タイプってそういう事じゃないと思うぞ。でも確かに生き物の世界では丈夫で健康が一番だとは思うけど。

「ねぇ、あたしでも卵って生める!?」
『? お前は何を言っている?』

 ようやくここに来てオロチが少し戸惑いの表情を浮かべ茉莉を見やった。

「あたし、本気なんだけど!」
『…………』

 そうか~本気かぁ。さすがに決断早過ぎない?
 どう返事を返していいのか分からないという困惑顔のオロチが助けろと言わんばかりにこちらに視線を投げてくる。そんな顔されても僕だってどうしていいか分からないよ。

「あの、横から口出しは馬に蹴られそうなんだけど、一応オロチは魔物でドラゴンだから、人間との結婚は無理なんじゃないかなって思うんだけど……」
「駄目なの!?」
「たぶん、駄目ですよね?」

 僕もどうしていいか分からなくて、皆を見渡すようにそう言うと「なくはないのでは?」とルーファウスが返事を返してきた。

「昔からドラゴンが住まう地ではドラゴンに花嫁を捧げる習慣があると聞きます。言ってしまえばドラゴンに捧げる生贄という形ではあるのでしょうが、その捧げられた花嫁がどうなってしまっているのかは私達には知る由もありません。そもそもドラゴンの生態は未だ未知数で、どのように繁殖しているのか私達は知らないのです。ですので、オロチが彼女を番にする気があるのであれば、なくはない、というのが私の導き出す答えになります」

 なるほど!? じゃあ彼女を番にするか否かはオロチの選択次第って事でいいのか? 卵を生めるかどうかは分からないけど、そういう婚姻も有りと言えば有なのか……

「それって、あたしでも番になれるって事でOK!?」

 茉莉が身を乗り出すようにルーファウスに問う。そんな食い気味の彼女の姿勢にルーファウスは「OKというか、全てはオロチ次第だと言っています。オロチが聖女様を番にと求めるのであれば、それで……」と言った所で「あたし、頑張って卵産むんで、彼女にしてください!」と、茉莉がオロチに盛大に告白をした。
 卵って頑張って生めるものだっけ? そんでもって決断早すぎるってば……

『マツリが俺様の番になるのか?』
「ダメ?」
『別に構わんが』
「!? ちょっと待って! 本気!?」

 「やったー!」と、茉莉は飛び上がらんばかりに喜んで、そんな彼女を尻目にオロチは興味もなさそうに酒を片手に肉を食んでいる。
 これって、ちゃんと意思の疎通はかれてる!? 本当に大丈夫!?
 あれよあれよという間に気が付いたらよく分からないカップルが爆誕していたのだけど、僕はオロチの保護者として不純異性交遊はまだ認めませんからね!

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