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第四章

小太郎君のスキルもチートだから

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「ルーファウスのそれはただの自己満足だよ。確かにルーファウスの知識も経験実績も僕なんかとは比較にならないと思う、だけどその全てが正しい訳じゃない」

 自分でも驚くほどに冷たい声が出た気がした。
 先人の教えには意味がある、年長者は敬って然るべきで、年少者としてはその教示を素直に受け取るべきなのだとじいちゃん子でもあった僕は無意識に彼の言葉を全肯定してきた部分がある。だけど今回のこの一件、頑ななルーファウスの意見には賛同できない、だって小太郎は本当に僕に何もしていないのだ。
 もし本当にルーファウスが闇の魔力を感じたというのであれば、それは小太郎とは別の何者かからの干渉だと僕は考える。
 今のルーファウスは周りが何も見えていない。ただ闇雲に僕の周りの人間を疑い傷付け攻撃する事は、僕を護っているのではなく僕に認められたいという己の自己顕示欲を満たそうとしているだけの愚かな行為だ。それはルーファウスの自己満足以外の何物でもない。
 ルーファウスは気付くべきだ、僕の世界は僕とルーファウスの二人きりの世界ではない、そして僕はそんな世界を望んでもいない。

「ルーファウスが過去に護りきれなかった人がいた事も、失ってしまった人がいた事もとても残念な事だと思う、その後悔がルーファウスをこんな極端な行動に走らせているんだって事も僕は理解しているつもりだよ、だけど、僕は僕で誰の代わりになるつもりもない。僕は異世界人で神の加護もたくさん持っている、そんなに簡単に死んだりしない」
「それは過信と言うのですよ、現に異世界人であったタロウは……」

 その名前が出た瞬間、僕の中で『ああ、やっぱり』と諦めのような気持ちが湧いて出た。どこまでも、どこまでいっても僕はルーファウスにとって賢者スズキ・タロウの身代わりでしかないのだとそう思った。

「僕はタロウさんじゃない!」
「そんな事は分かっています! ですが――」
「おおい! ルーファウス、タケル、コタローが脅えてるんだが何があった!?」

 部屋にノックもなしにアランが飛び込んでくる。ルーファウスが目の前から消え、部屋を飛び出してみれば小太郎が着のみ着のまま廊下で脅えたように震えていたら何事かあったと思うのは当然で、僕はルーファウスの腕を力づくで振り払い「何でもない!」と返事を返した。

「いつものルーファウスのただの暴走、心配かけてごめん、大丈夫だよ」
「タケル! これは明らかな攻撃だと……!」
「ルーファウス、僕は何もされてない、怪我もしてない、小太郎君は無実で責められるいわれもない! もし本当に僕が何かしらの攻撃を受けているのだとしたら、それは小太郎君以外の別の要因が考えられる。だとしたら今こんな風に言い合いをしている方が余程時間の無駄だから!」

 畳みかけるように一気に言い切ると、ルーファウスが言葉に詰まった。
 小太郎は大丈夫かとアランに問うと「ロイドが見てるから大丈夫だ」との返答に僕はホッとする。

「まずは落ち着いて皆で状況確認をしようと思う、話はそれからだよ」

 僕のその言葉にルーファウスはようやく渋々と「分かりました」と頷いた。


 僕とルーファウスとアランの三人は二人部屋を出て、小太郎が保護されている三人部屋へと足を向ける。ルーファウスの乱入は入浴中の突然の出来事で、全裸だった小太郎はシーツに包まれ小さくなって部屋の端でうずくまっていた。
 そんな彼にロイドは声をかけ続けていて、だいぶ怖がらせてしまったと申し訳ない気持ちになる。

「小太郎君」

 僕が小太郎に声をかけるとビクッと震えた彼は脅えたような表情でロイドの背中に隠れてしまう。
 元々いじめを受けていたと話していた彼は恐らく他人からの敵意には敏感で、今の彼はいじめっ子を前にしている時と同じような気持ちなのだろうと思うと心が痛んだ。

「ごめん、小太郎君怖かったよね。もう大丈夫だから話を聞いて」
「…………」
「さっき見せた僕の守護印はルーファウスが僕に刻んだものなんだ、あれは僕に何かあった場合即座にルーファウスに知らせがいくようになってる。それでさっき小太郎君が触った時に誤って通達がいってしまったみたいなんだ、本当にごめん。ルーファウスはあくまで僕を守ろうとしただけで、君に危害を加えるつもりじゃなかったんだ」

 これは嘘だ。あの時ルーファウスは恐らく問答無用で小太郎を始末しようとしていた事は火を見るよりも明らか、だけど、そんな事を言えば余計小太郎を怖がらせるだけだ。
 ルーファウスの僕に対する過剰反応を説明するには時間がかかる、追々語っておいた方がいい内容かもしれないけれど、それは今語るべき事ではないだろう。

「ルーファウスは僕の守護印に闇の魔力の干渉を感知したって言ってる、確かに君が僕の守護印に触れた瞬間、僕も静電気みたいなものを感じた、だけどそれは君も同じだったよね? オロチが君を連れてきた時、オロチも確かに闇の魔力の気配を感じたと言っていた。それは君の持っていた呪われたナイフから発せられたものだとばかり思っていたけど、もしかしたらその考えは間違っていたのかもしれない」
「タケル、それはどういう……」
「小太郎君の闇魔法のスキルレベルは6」

 それは先程聞いたばかりの情報だ、小太郎はこの世界にやって来てまだろくろく魔術を使う事も出来ないのにスキルレベルだけはどれもこれも達人レベルに高いのだ。その中でも突出して高かったのがこの闇魔法で、闇魔法が攻撃特化だと聞いていた僕は少し納得もしていた。
 勇者である小太郎に必要なのは「力」だ、だから攻撃特化の闇魔法のスキルレベルが高く設定されているという考えはあながち間違っていないと僕は思う。
 彼と一緒に召喚されたハヤシダさんは聖女の資質があったという、それは聖魔法のスキルレベルが高いという事でもあって、恐らくその二人が協力すれば魔王だって討伐できるくらいの力を秘めているのだと僕は考える。

「闇魔法のスキルレベルが6!? そんな馬鹿な、闇魔法がそんな高レベルでこんな気弱な少年が正気を保っていられる訳がない!」
「ルーファウスの基本知識で言えばそうだよね、闇魔法は使えば使うほど憎しみや恨みの闇の感情に支配されて気が触れてしまう、だったっけ? だけど、それは使っていたらの話だよね」
「それはそうでしょう! 魔法を使わずにスキルレベルを上げる事なんて……」

 そこまで言ってルーファウスはどうやら何かに思い当たったらしい。

「そうだよ、小太郎君は最初から闇魔法のスキルレベルが高かった、闇に心が支配される程魔法を使っていないのに、そこまでレベルが高いのは僕と同じ異世界人だから。そして、そんな彼の纏う魔力が闇寄りなのは不可抗力で、小太郎君のせいなんかじゃない」

 ルーファウスは絶句して言葉を発しない。それはそうだろう、だってこれはこの世界の理からは外れた現象で、異世界人の僕だから導き出す事ができた答えでもある。

「……っ! 例えそれが本当の事だとしても、闇の魔力を有する者はいずれ闇に呑まれ――」
「それは僕もいずれ闇に呑まれるとルーファウスは考えていると思っていい?」
「それは……」

 言葉を濁したルーファウスに僕は畳みかける。

「ルーファウスは闇魔法は使わない方がいいと言った。使わなければ闇に呑まれる事はない、そうだよね? だったら今後一切小太郎君が闇魔法を使わなければ闇の魔力は増幅する事もないはずだ」
「それはそうかもしれませんが、先程彼は貴方に向かって闇魔法を……」
「使ってない! ボクは魔法の使い方なんて知らない!!」

 小太郎が泣きそうな表情のまま声を上げる。僕は小太郎の言い分は正しいと思っている。だって僕自身、ルーファウスに魔術を教わるまで魔力をどう扱っていいのかまるで分かっていなかったのだ。
 昨日簡単な魔法の基礎知識だけは小太郎に教えたものの、まだ実際に一度も使っていない魔法を彼が使えるとも思えない。

「それよりも僕はルーファウスに聞きたい事があるんだけど」
「何ですか?」
「ルーファウスが僕に施した守護印は僕に対する魔力干渉にならないの?」
「それは……」

 僕がルーファウスを責めていると思ったのだろう、ルーファウスの表情が険しくなった。

「誤解しないで、僕はそれを承知の上でルーファウスに守護印を入れてもらったんだ、そこは僕も理解してる。僕が言いたいのは全然別の話で、小太郎君の背中にも僕と似たような紋印が刻まれていたんだ、可能性としてその紋印を小太郎君に刻んだ相手が僕に干渉してるって事はない?」
「え……?」

 驚いたようにルーファウスが小太郎を見やると、小太郎はビクッと身を竦ませて、また小さく身を縮こませた。

「それは守護印だったのですか?」
「僕がそれを見て判断できると思う? 分からないから聞いてるんだよ。小太郎君の背に刻まれている紋印は僕に刻まれていた模様とは色も形も違ってる、だからもしかしたら守護印ではないのかもしれない」
「それは見せてもらっても……?」

 ようやく冷静さを取り戻した様子のルーファウスがそう言うので、僕が小太郎に見せてもらってもいいかと尋ねると、彼はおずおずと頷き、身体に巻き付けていたシーツをまくって僕達にその紋印を見せてくれた。
 けれどそこで僕はひとつ不思議な事に気付く、それは先程までの事を思うと小太郎のその紋印が薄くなっているように見えるのだ。

「なぁ、これって、間違ってたらアレなんだが、いわゆる『淫紋』ってやつなんじゃないのか?」

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