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第三章
絶品魔物肉で晩御飯
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全員がようやく合流して、僕達はこの島で一泊する事になった。
僕はオロチが『美味いから食べてみろ』と勧める海蛇を料理する事にする。だってやっぱり生で食べるのは怖いからさ。
「私、これはこの階層のダンジョンボスではないのかと思うのですよね……」
ルーファウスが少し思案するように腕を組んで海蛇を見つめる。
「この海蛇がですか?」
僕が海蛇の肉を削ぎながら小首を傾げると「海蛇というか、これ、リヴァイアサンだと思います」と、ルーファウスは複雑そうな表情で僕に告げた。
「りばいあ、さん? それはどこのどちら様でしょうか?」
僕の反応にルーファウスは苦笑するようにして「リヴァイアサンですよ」と僕の発音を正してくれる。
「リヴァイアサンというのは水生魔物の中で最強種と言われている伝説の存在です。それこそドラゴンと並び災厄と恐れられる存在なのですよ」
「それはもしや恐ろしく強い、という事ですか?」
「出会ったら生きて帰るのが難しいので、その存在が伝説になるのです」
え、でもさ、オロチはこいつを一撃で倒してた訳だし、まさかそんな事……
「確かによく見ると伝承に残されているリヴァイアサンの姿に似ているな。俺も図鑑なんかで見た事あるぞ」
「俺も……」
アランやロイドまで同意して、僕はもう一度横たわる巨大な海蛇を見やる。っていうかさ、さっきからそんなリヴァイアサンのお肉を焼いて食べる気満々で切り分けていた訳だけど、これ本当に食べちゃって大丈夫なのだろうか?
「もしかしてこれ、食べない方がいい感じですか?」
「別に食べてもいいとは思いますよ、どのみち食べきれるとも思えませんし。ただ、残った骨や皮も回収しておいた方が良いかもしれませんね」
そういえばドラゴン素材はずいぶんお金になると聞いたばかりだ、そんなドラゴンと並び称される魔物であるのならその価値は計り知れない。
僕は慌てて魔物の鑑定を試みる。すると現れたウィンドウ画面に表示されたのはルーファウスの言う通りリヴァイアサンの文字。僕はぽかんとしてしまう。
「確かリヴァイアサンって魔物のランクSSだったよな。そんなのがダンジョンボスって、次の階層も思いやられるな」
「確かにそうですね。私達だけでは今回は苦戦どころかやられていた可能性もある、今回はドラゴン連れで本当に幸いでした」
やっぱりドラゴンって破格的に強いんだな。オロチが敵じゃなくて本当に良かった。
「ん……? そういえばリヴァイアサンも珍しい魔物ですよね、もしかして僕は保護する方向で動かないといけなかったのでしょうか」
すっかり忘れていたが、僕は従魔師ギルドから特殊生体保護職員としての役職を貰っている、リヴァイアサンはどう考えても特殊生体なのではなかろうか?
「ああ、それでしたら、ダンジョン内の魔物は恐らく保護できませんよ」
「え? 何でですか?」
「私は従魔師ではないので詳しい所までは分かりませんが、ダンジョン内にいる魔物はそもそも従魔にできないそうです。昔付き合いのあった従魔師曰く、ダンジョン核から生み出された魔物には心がない、通じ合えないのだから従わせることも不可能だ、だそうですよ」
僕にはルーファウスの言っている意味がよく理解できなくて、またしても首を傾げる。
「魔物ってダンジョン核から生まれるんですか?」
「ダンジョンの魔物はそのようですね」
「外の魔物は違う?」
「依頼をこなしていると時々魔物の巣というのを見付ける事がありますが、そこには普通に生物の営みがあります。雄がいて雌がいて、交わる事で子が生まれる、それは私達と変わらない。けれどダンジョン内にいる魔物はその雌雄すらはっきりしない。ダンジョン内の魔物は外の魔物を模した別の生き物、と捉えるのが正解なのかもしれません。素材として遜色ないのが不思議ではありますが」
なんと不思議な事もあるものだ。ダンジョンというのは不思議な場所だと思っていたが、更に謎が増えてしまった。
「まぁ、何にせよダンジョンというのは危険な場所だという事に変わりはありません。ダンジョンに巣食う魔物は普通の魔物とは違い、より危険であるという事です。一説によればダンジョン核をばら撒いているのは魔王で、ダンジョンに現れる魔物は魔王に完全に支配されているので心がない、という説を唱えている者もいますね」
「魔王!」
この世界にやって来て3年、いるらしいとは聞いていたが具体的に魔王の存在を聞いたのは初めてだ。
「魔王って本当にいるんですか!?」
「なんだ、タケルは魔王に興味があるのか?」
「いえ、そういう訳ではありませんが、今まで聞いた事がなかったので……」
この世界に飛ばされる時、神様はこの世界には魔王がいると言っていた。僕が関わりたくないと言ったら、あまり関わらないように設定すると言い、魔王城から一番遠い場所へ転移させてくれると言ったのだ。
なので僕は今の今まで完全に魔王の存在なんて忘れていた。
「まぁ、魔王といっても暴れ回って人を襲っていたのもずいぶん昔の話で、今は魔物を従えて暮らしているだけの普通の王様らしいからな。グランバルト王領は亜人をあまり歓迎していないが、魔王領では亜人や魔物なんかの魔族と呼ばれる者達が平和に暮らしているらしい。俺も行った事がないから詳しくは知らないがな」
なんか、予想以上に平和な感じだった。もっと魔族VS.人類みたいな感じでバチバチに争っているのかと思ったら意外とそうでも無さそう。
しかも魔王領というのは行こうと思って行ける場所なのだろうか?
「でも、毎年魔王討伐のための兵は派兵されてますよね?」
「まぁ、あれは祭りみたいなものだしな」
ロイドの問いにアランが頷く。けれど魔王討伐が祭りとな? それは一体どういう事だ?
「国王だって魔王軍を本気で倒せるなんて思ってない、アレは収穫の終わった閑散期の余興みたいなものなんだろう。兵隊だって遊ばせておくわけにいかないし、お互い納得しての共同軍事演習って所だろ。毎年全く決着つかない上に春には両軍撤収してる時点でお察しだわ」
平和!
「アランは魔王討伐派兵をそんな風に思っていたのですか……」
「いや、だって実際そうだろう?」
ルーファウスが少し呆れたような表情で「国王はあれでも大真面目に毎年魔王を討伐しようと兵を送り出しているのですよ」とアランに告げる。
「またまた、俺はそんな嘘には騙されないぞ」
「嘘ではありません。あの時期の派兵にだってちゃんと理由があるのです」
あくまで派兵はただの余興だと言い張るアランにルーファウスは淡々とその理由を語る。
「魔王軍の戦力の8割が魔物なのは周知の事実なのですが、その魔物の何割かは冬になると冬眠します、ついでに動きも鈍くなるので冬というのは最も魔王軍が弱体化する季節なのです」
「そうなのか? でもだったら何で春になると両軍撤退するんだ?」
「王国側は単純に兵力が尽きるのですよ、暖かくなれば魔王軍の勢いが強くなって敗走せざるを得なくなる」
「だったら、なんでその隙に魔王軍が攻めてこないんだ?」
「これも理由は単純です、魔物にとって春は繁殖期なので、戦っている場合ではありません」
繁殖期! 確かに春になると近所に住まう野良猫達がにゃんにゃんと賑やかになるのは知っているけれど、魔物も春は繁殖期なんだ……なんだかもう平和なんだか、そうでもないのかよく分からないよ。
「だったら夏頃に魔王軍から戦争を仕掛けてこられたらこちら側が不利という事ですか?」
「まぁ、単純に考えればそうなりますね。しかしここ数百年、魔王軍は他国への侵略戦争を仕掛けてきてはいません、理由は分りませんが防戦一方なので、世界はとても平和です。だから先程のようにダンジョン核は魔王が……なんて陰謀論も出てくるのですけれどね。意志を持たない凶悪な魔物を雑作もなく操れるのならば、世界征服なんて簡単です。けれど、それが出来るのなら魔王はとっくにやっていると私は思います。陰謀論なんてこじつけようと思えば何にだってこじつけられる、それよりも人類側は魔王の恩情に感謝すべきだと中立の立場のエルフとしては思うのです」
陰謀論に魔王の恩情、か……魔王のお陰でこの世界の平和は保たれている? それとも陰謀論者の語るように何事か思惑があって静観しているのか。僕には偉い人達の思惑なんてさっぱり分からないからな。
「魔王云々は置いておいて、エルフってのはそういう所要領いいよな、戦争となるといつも中立でどちらにも付こうとしない」
「要領が良いのではなくただ平和主義なだけです。戦争なんて百害あって一利なしでしょう」
確かにルーファウスの言う事は一理ある。争いなんて憎しみしか生まない愚かな行為だ。それが分かっていても人というのは損得で動く生き物で、数が増えれば増えただけ何かの拍子で争いは起こる。
話し合いで解決できれば良いのだろうけど、そんなに世界は甘くない。
『なぁ、お前等、いつもでもクソ面白くもない話なんかしてないで、食えよ。鮮度が落ちるだろうが』
オロチが遠慮の欠片もなくリヴァイアサンの横腹に噛り付く。確かに生ものは早目に食べるのが正解なのは分かってるけどさ……
僕は削いだリヴァイアサンの切り身を火であぶって味見してみる。すると、それは食感は白身の魚にも似ているのだが、肉のようなうま味もある絶品の味で僕は目を輝かせる。
これは普通に塩コショウだけでも美味しいけれど、ソテーや煮魚(?)なんかにしても絶対に美味しい!
ちゃんと歯ごたえもあるのに噛みしめていくと肉が口の中でうま味と共にほろりと崩れていく、最高かよ。
僕は皆にもリヴァイアサンの切り身の焼き肉を差し出し食べてもらった。するとやはりとても美味しかったのだろう、自前で肉を削ぎだして火であぶり始めた。
「オロチ! これ本当に凄く美味いな!」
『だろ! これで酒もあったら最高なんだがな!』
完全に酒にハマった様子のオロチはそう言いながらがつがつとリヴァイアサンに噛り付いている。
「そういえば、お酒だけど、オロチが鱗をくれたら樽で準備するって従魔師ギルドの人が言ってたよ」
『おおお! そうか、ならばこれを!』
オロチが自身の翼の付け根あたりに顔を突っ込みゴソゴソしていたかと思ったら、僕の目の前に僕の顔より大きなサイズの鱗を三枚差し出してきた。それは傷ひとつなく、黒光りしていてまるで黒曜石のようにも見えるが、恐らくオロチの鱗だろう。
『これで帰ったら3樽は確定だな! さっさと目的を達して美味い酒を飲ませるがいい!』
う~ん、たぶん3枚もあったら3樽どころか300樽以上貰えちゃう気がするけど、あまり飲ませ過ぎてアル中になられても困るし、全部をお酒に変えるのは考えてしまうよな。
僕は少しだけ苦笑してその鱗をマジックバックに収めた。
その後の僕達は酒はないものの、目の前には絶品の味のリヴァイアサンの肉が食べきれないほどの量あったので、腹いっぱいまで食べ尽くしたよね。
ライムも『このお肉おいしい~』と、オロチに負けず劣らずかなりの量を食べていたので、巨大なその体躯も一晩でかなり無残な姿になっていたよ。
僕はオロチが『美味いから食べてみろ』と勧める海蛇を料理する事にする。だってやっぱり生で食べるのは怖いからさ。
「私、これはこの階層のダンジョンボスではないのかと思うのですよね……」
ルーファウスが少し思案するように腕を組んで海蛇を見つめる。
「この海蛇がですか?」
僕が海蛇の肉を削ぎながら小首を傾げると「海蛇というか、これ、リヴァイアサンだと思います」と、ルーファウスは複雑そうな表情で僕に告げた。
「りばいあ、さん? それはどこのどちら様でしょうか?」
僕の反応にルーファウスは苦笑するようにして「リヴァイアサンですよ」と僕の発音を正してくれる。
「リヴァイアサンというのは水生魔物の中で最強種と言われている伝説の存在です。それこそドラゴンと並び災厄と恐れられる存在なのですよ」
「それはもしや恐ろしく強い、という事ですか?」
「出会ったら生きて帰るのが難しいので、その存在が伝説になるのです」
え、でもさ、オロチはこいつを一撃で倒してた訳だし、まさかそんな事……
「確かによく見ると伝承に残されているリヴァイアサンの姿に似ているな。俺も図鑑なんかで見た事あるぞ」
「俺も……」
アランやロイドまで同意して、僕はもう一度横たわる巨大な海蛇を見やる。っていうかさ、さっきからそんなリヴァイアサンのお肉を焼いて食べる気満々で切り分けていた訳だけど、これ本当に食べちゃって大丈夫なのだろうか?
「もしかしてこれ、食べない方がいい感じですか?」
「別に食べてもいいとは思いますよ、どのみち食べきれるとも思えませんし。ただ、残った骨や皮も回収しておいた方が良いかもしれませんね」
そういえばドラゴン素材はずいぶんお金になると聞いたばかりだ、そんなドラゴンと並び称される魔物であるのならその価値は計り知れない。
僕は慌てて魔物の鑑定を試みる。すると現れたウィンドウ画面に表示されたのはルーファウスの言う通りリヴァイアサンの文字。僕はぽかんとしてしまう。
「確かリヴァイアサンって魔物のランクSSだったよな。そんなのがダンジョンボスって、次の階層も思いやられるな」
「確かにそうですね。私達だけでは今回は苦戦どころかやられていた可能性もある、今回はドラゴン連れで本当に幸いでした」
やっぱりドラゴンって破格的に強いんだな。オロチが敵じゃなくて本当に良かった。
「ん……? そういえばリヴァイアサンも珍しい魔物ですよね、もしかして僕は保護する方向で動かないといけなかったのでしょうか」
すっかり忘れていたが、僕は従魔師ギルドから特殊生体保護職員としての役職を貰っている、リヴァイアサンはどう考えても特殊生体なのではなかろうか?
「ああ、それでしたら、ダンジョン内の魔物は恐らく保護できませんよ」
「え? 何でですか?」
「私は従魔師ではないので詳しい所までは分かりませんが、ダンジョン内にいる魔物はそもそも従魔にできないそうです。昔付き合いのあった従魔師曰く、ダンジョン核から生み出された魔物には心がない、通じ合えないのだから従わせることも不可能だ、だそうですよ」
僕にはルーファウスの言っている意味がよく理解できなくて、またしても首を傾げる。
「魔物ってダンジョン核から生まれるんですか?」
「ダンジョンの魔物はそのようですね」
「外の魔物は違う?」
「依頼をこなしていると時々魔物の巣というのを見付ける事がありますが、そこには普通に生物の営みがあります。雄がいて雌がいて、交わる事で子が生まれる、それは私達と変わらない。けれどダンジョン内にいる魔物はその雌雄すらはっきりしない。ダンジョン内の魔物は外の魔物を模した別の生き物、と捉えるのが正解なのかもしれません。素材として遜色ないのが不思議ではありますが」
なんと不思議な事もあるものだ。ダンジョンというのは不思議な場所だと思っていたが、更に謎が増えてしまった。
「まぁ、何にせよダンジョンというのは危険な場所だという事に変わりはありません。ダンジョンに巣食う魔物は普通の魔物とは違い、より危険であるという事です。一説によればダンジョン核をばら撒いているのは魔王で、ダンジョンに現れる魔物は魔王に完全に支配されているので心がない、という説を唱えている者もいますね」
「魔王!」
この世界にやって来て3年、いるらしいとは聞いていたが具体的に魔王の存在を聞いたのは初めてだ。
「魔王って本当にいるんですか!?」
「なんだ、タケルは魔王に興味があるのか?」
「いえ、そういう訳ではありませんが、今まで聞いた事がなかったので……」
この世界に飛ばされる時、神様はこの世界には魔王がいると言っていた。僕が関わりたくないと言ったら、あまり関わらないように設定すると言い、魔王城から一番遠い場所へ転移させてくれると言ったのだ。
なので僕は今の今まで完全に魔王の存在なんて忘れていた。
「まぁ、魔王といっても暴れ回って人を襲っていたのもずいぶん昔の話で、今は魔物を従えて暮らしているだけの普通の王様らしいからな。グランバルト王領は亜人をあまり歓迎していないが、魔王領では亜人や魔物なんかの魔族と呼ばれる者達が平和に暮らしているらしい。俺も行った事がないから詳しくは知らないがな」
なんか、予想以上に平和な感じだった。もっと魔族VS.人類みたいな感じでバチバチに争っているのかと思ったら意外とそうでも無さそう。
しかも魔王領というのは行こうと思って行ける場所なのだろうか?
「でも、毎年魔王討伐のための兵は派兵されてますよね?」
「まぁ、あれは祭りみたいなものだしな」
ロイドの問いにアランが頷く。けれど魔王討伐が祭りとな? それは一体どういう事だ?
「国王だって魔王軍を本気で倒せるなんて思ってない、アレは収穫の終わった閑散期の余興みたいなものなんだろう。兵隊だって遊ばせておくわけにいかないし、お互い納得しての共同軍事演習って所だろ。毎年全く決着つかない上に春には両軍撤収してる時点でお察しだわ」
平和!
「アランは魔王討伐派兵をそんな風に思っていたのですか……」
「いや、だって実際そうだろう?」
ルーファウスが少し呆れたような表情で「国王はあれでも大真面目に毎年魔王を討伐しようと兵を送り出しているのですよ」とアランに告げる。
「またまた、俺はそんな嘘には騙されないぞ」
「嘘ではありません。あの時期の派兵にだってちゃんと理由があるのです」
あくまで派兵はただの余興だと言い張るアランにルーファウスは淡々とその理由を語る。
「魔王軍の戦力の8割が魔物なのは周知の事実なのですが、その魔物の何割かは冬になると冬眠します、ついでに動きも鈍くなるので冬というのは最も魔王軍が弱体化する季節なのです」
「そうなのか? でもだったら何で春になると両軍撤退するんだ?」
「王国側は単純に兵力が尽きるのですよ、暖かくなれば魔王軍の勢いが強くなって敗走せざるを得なくなる」
「だったら、なんでその隙に魔王軍が攻めてこないんだ?」
「これも理由は単純です、魔物にとって春は繁殖期なので、戦っている場合ではありません」
繁殖期! 確かに春になると近所に住まう野良猫達がにゃんにゃんと賑やかになるのは知っているけれど、魔物も春は繁殖期なんだ……なんだかもう平和なんだか、そうでもないのかよく分からないよ。
「だったら夏頃に魔王軍から戦争を仕掛けてこられたらこちら側が不利という事ですか?」
「まぁ、単純に考えればそうなりますね。しかしここ数百年、魔王軍は他国への侵略戦争を仕掛けてきてはいません、理由は分りませんが防戦一方なので、世界はとても平和です。だから先程のようにダンジョン核は魔王が……なんて陰謀論も出てくるのですけれどね。意志を持たない凶悪な魔物を雑作もなく操れるのならば、世界征服なんて簡単です。けれど、それが出来るのなら魔王はとっくにやっていると私は思います。陰謀論なんてこじつけようと思えば何にだってこじつけられる、それよりも人類側は魔王の恩情に感謝すべきだと中立の立場のエルフとしては思うのです」
陰謀論に魔王の恩情、か……魔王のお陰でこの世界の平和は保たれている? それとも陰謀論者の語るように何事か思惑があって静観しているのか。僕には偉い人達の思惑なんてさっぱり分からないからな。
「魔王云々は置いておいて、エルフってのはそういう所要領いいよな、戦争となるといつも中立でどちらにも付こうとしない」
「要領が良いのではなくただ平和主義なだけです。戦争なんて百害あって一利なしでしょう」
確かにルーファウスの言う事は一理ある。争いなんて憎しみしか生まない愚かな行為だ。それが分かっていても人というのは損得で動く生き物で、数が増えれば増えただけ何かの拍子で争いは起こる。
話し合いで解決できれば良いのだろうけど、そんなに世界は甘くない。
『なぁ、お前等、いつもでもクソ面白くもない話なんかしてないで、食えよ。鮮度が落ちるだろうが』
オロチが遠慮の欠片もなくリヴァイアサンの横腹に噛り付く。確かに生ものは早目に食べるのが正解なのは分かってるけどさ……
僕は削いだリヴァイアサンの切り身を火であぶって味見してみる。すると、それは食感は白身の魚にも似ているのだが、肉のようなうま味もある絶品の味で僕は目を輝かせる。
これは普通に塩コショウだけでも美味しいけれど、ソテーや煮魚(?)なんかにしても絶対に美味しい!
ちゃんと歯ごたえもあるのに噛みしめていくと肉が口の中でうま味と共にほろりと崩れていく、最高かよ。
僕は皆にもリヴァイアサンの切り身の焼き肉を差し出し食べてもらった。するとやはりとても美味しかったのだろう、自前で肉を削ぎだして火であぶり始めた。
「オロチ! これ本当に凄く美味いな!」
『だろ! これで酒もあったら最高なんだがな!』
完全に酒にハマった様子のオロチはそう言いながらがつがつとリヴァイアサンに噛り付いている。
「そういえば、お酒だけど、オロチが鱗をくれたら樽で準備するって従魔師ギルドの人が言ってたよ」
『おおお! そうか、ならばこれを!』
オロチが自身の翼の付け根あたりに顔を突っ込みゴソゴソしていたかと思ったら、僕の目の前に僕の顔より大きなサイズの鱗を三枚差し出してきた。それは傷ひとつなく、黒光りしていてまるで黒曜石のようにも見えるが、恐らくオロチの鱗だろう。
『これで帰ったら3樽は確定だな! さっさと目的を達して美味い酒を飲ませるがいい!』
う~ん、たぶん3枚もあったら3樽どころか300樽以上貰えちゃう気がするけど、あまり飲ませ過ぎてアル中になられても困るし、全部をお酒に変えるのは考えてしまうよな。
僕は少しだけ苦笑してその鱗をマジックバックに収めた。
その後の僕達は酒はないものの、目の前には絶品の味のリヴァイアサンの肉が食べきれないほどの量あったので、腹いっぱいまで食べ尽くしたよね。
ライムも『このお肉おいしい~』と、オロチに負けず劣らずかなりの量を食べていたので、巨大なその体躯も一晩でかなり無残な姿になっていたよ。
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