童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第二章

僕はお風呂に入りたいんです!

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 夕方になり僕とルーファウスはメイズに到着したアランとロイドの二人と合流した。

「お、ライム、お前いいモノ付けてんな。これどうしたんだ?」

 アランが王冠を見せびらかすように部屋中を飛び回っていたライムを目敏く見つけて頭にちょこんと乗った王冠を褒めてくれたので、ライムはとても嬉しそうだ。

「従魔用のアイテムショップで貰ってしまいました。可愛いですよね」
「おお、なかなか似合ってるぞ、良かったな、ライム」

 アランとライムは意思の疎通は出来ていないのだけれど、ライムはアランにはわりと懐いている。今もアランの周りをぴょんぴょん跳ね回ってまるで踊ってでもいるみたいだ。

「へぇ、こんなアクセサリーもあるんだ」

 一方でアランの目の前でぴょこぴょこ跳ねていたライムにロイドが手を伸ばしかけたところでライムはその手から逃げるように僕の方へと跳ねてくる。
 どうもライムはあまりロイドの事が好きではないらしい。というのも、ロイドはシュルクの街の草原で散々スライムを狩っていたので、どうやらライムには怖い人認定されているみたいなんだよな。
 アラン同様ロイドにもライムの声は聞こえていないし、ロイド自身その事には気付いていないようなので、僕は敢えて何も言わない。知らなくてもいい事ってあるからな。

「そういえばこの宿屋、大浴場があるんだってな。タケル、前に風呂に入りたいって言ってなかったか?」
「!? ここ、お風呂あるんですか!?」

 え、全然気付いてなかった! ここ、大浴場あるんだ! この世界にやって来て数か月、一度も風呂に入っていない僕は歓喜する。
 汚れ自体は洗浄魔法で綺麗になるにしたって、やっぱり湯船に浸かって疲れを取るという行為は日本人には必要不可欠、これはすぐにでも入りに行かなければ!

「タケルはダメですよ」

 けれど、僕の歓喜をよそにルーファウスが渋い表情を見せて僕を止める。

「何でですか! 僕はお風呂に入りたいです!」
「ダメと言ったらダメです、襲われても知りませんよ」

 は? 襲われる?

「ああ、ルーファウスはその容姿だもんな、もしかして今まで嫌な思いでもしてきたか?」
「それはもう、風呂なんてのは野蛮人の入るものですよ」

 あれ? なんか、この世界のお風呂って僕の知ってる風呂となんか違う? 野蛮人が入るものってどういう事?

「ここの風呂はどうだか知らないが、大浴場なんて混浴の所も多いからな」

 混浴!? え? それはまさか男女一緒にって事か?

「個人で楽しむならともかく、人前で肌を晒して平気な人達の気が知れません」

 ルーファウスはとても不快だと言わんばかりの表情で、僕はそれに驚いてしまう。これはカルチャーショックとでも言えばいいのだろうか、この世界の風呂の扱いってそんな感じ? 僕にとって大きなお風呂は癒しスポット以外のなにものでもなかったのに……
 風呂には入りたい、だけど混浴……混浴はちょっとな。目のやり場に困りそう。というか、女性で入りに来る人なんているのかな? そんな感じだと、もしかしてあんまりいないのでは?

「とりあえず混浴かどうかだけ確認して、混浴だったら諦めます。別々だったら入ってもいいですよね?」
「だからタケルはダメだと言っているでしょう!」

 ルーファウスは頑なに僕の入浴には否定的な姿勢で、僕は少しだけムッとする。そもそも風呂に入るのに保護者の許可って必要か? 襲われるなんて脅しをかけられたけど、ここは宿屋で、宿屋が提供している公共施設に一体何の危険があるというのか。

「もういいです、ルーファウスが入浴嫌いなのはよく分かりました。僕1人で行ってくるのでお構いなく」
「な! 待ちなさい、タケル!」
「俺はタケルと一緒に行くぜ、風呂なんてそうそう入れるもんじゃないからな」

 アランが僕の後をついてくる、それに「俺も!」とロイドがついてきた事で、ルーファウスは諦めがついたのか渋々僕達についてきた。
 宿屋のフロントに大浴場の場所を聞き、僕たちはぞろぞろとそちらへと向かって歩いて行く。宿屋の裏手に設置された浴場はそこそこ賑わっていて、またしてもルーファウスは渋い表情を浮かべた。

「入るにしてもやはりもう少し人の居ない時間を選んだ方がいいと私は思うのですが」

 まぁ、確かにイモ洗い状態の銭湯ってあまり落ち着かなくはあるけれど、それはそれで知らない人と会話が弾んだりする事もあるし、別に構わないと僕は思うのだけどな。

「お、ここ大浴場は混浴だが、グループ風呂があるぜ。ルーファウスも俺達だけってんなら文句ないだろ?」

 グループ風呂? ああ、もしかして家族風呂的なやつ? 確かに他人と裸の付き合いよりは、仲間同士だけで入れる風呂ってのは安心感あるよな。

「グループ風呂は予約制か、しかも別途金がかかるみたいだが……」
「私が出します、そこなら許可しましょう」

 相変らず入浴には乗り気ではなさそうだけど、ルーファウスからの許可がおりた。ってか、何故許可? 入浴するのに保護者の許可がいるなんておかしくないかと僕はまたしても少しもやっとする。
 だが、それはそれとして、今入っている人達が出たらすぐに入れるとの事で、僕はワクワクとそれを待つ事に。グループ風呂は別途料金がかかるせいか、あまり人気がないらしい。

「俺、実は風呂って初めてなんだけど、タケルは入った事あるのか?」
「!? ロイド君、お風呂入った事ないの!?」
「別に今まで入る必要なかったからな。汚れを落とすだけなら家にはシャワーがあったし、洗浄魔法が使えるようになってからはそれすらもあんまり」

 なんだか文化が違い過ぎる! シュルクの街で家族で暮らしていたはずのロイドの家にはシャワーはあっても浴槽はないらしい。確かに洗浄魔法さえあれば清潔感は保たれるけど、ここまで風呂が蔑ろにされてるなんて信じられない。
 だけどそう言えば、アラン達と出会った当初、家に風呂があると言っただけで良家の子扱いされたのを思い出す。

「お風呂はね、癒しだよ」
「そうなのか?」
「疲れて家に帰ってきても、温かい湯にのんびり浸かれば、その日一日の疲れが全部お湯に溶け出て流れていくんだ。身体を温めるっていうのは健康にも良いんだよ、血行も良くなるし、新陳代謝も促してくれる、お風呂って本当に最高なんだから!」
「お、おう」

 若干ロイドが引いてる気がするのは気のせいか? アランは「タケルが難しい事を言っているな」とけらけらと笑っている。
 僕、難しい事なんて言ったかな?

「確かに山奥にある秘湯などでは浸かるとそのような効果があると聞いた事がありますが、その辺の水を温めただけの湯にそのような効果は……」
「身体は温めるだけでも健康にはいいんですよ。温め過ぎは厳禁ですが、適度なぬるま湯はリラックス効果も高いのに、それを知らないなんてもったいないです。それに、そんなに入りたくないのなら、ルーファウスは部屋で待っててくれていいですよ」

 少し突き放したように僕が言うと「何か怒ってますか?」と、ルーファウスは戸惑い顔だ。別に怒ってはいない、ただ、彼に絆され恋人になってもいいかななんてちょっと考え始めていた自分に気付いて、もっと自分を持たなければと反省しただけだ。
 僕は他人の好意にはとても疎い自覚がある、だてに童貞歴40年を更新し続けていた訳ではない。だからこんな美形に真正面から好きだと言われて悪い気はしていなかったのだ。だけど、ルーファウスが僕に好意を持ったのは初恋相手に似てたからだなんて分かってしまえば自分自身が好かれているだなんて自惚れていた自分が恥ずかしくて仕方がない。
 魅了スキルが高いのと新たに手に入れたこの可愛らしい容姿のお陰で僕は現在他人に嫌われる事がほぼない、けれどそれに胡坐をかいて甘やかされているだけでは自分がダメになる。

「僕はまだ自分一人では何も出来ない人間ですが、自分の事は自分で決めます。頼らなければならない所は存分に頼らせていただこうと思っていますが、風呂に入るか入らないか、そんな事まで他人に決めてもらわなければならないほど未熟な人間ではないつもりです。入浴なんて個人の自由、だから入りたくないのであれば入らなければいいと僕は言っているだけです」

 一気に僕が言い切ると三人がぽかんとした表情で僕を見る。今まで僕はあまり人に意見というものをしてこなかった。事なかれ主義と言われてしまえばそれまでだが、それで平穏に生きられればそれでいいとも思っている。
 けれど事なかれ主義も度を過ぎればただの無責任だ、他人の意見に頷いているばかりでは自分というものを失くしてしまう。せっかく人生を新しくやり直しているのにそれでいいのか?
 答えは否だ。

「た、タケル、これはそんな大袈裟な話では……」
「そうだぞ、タケルが風呂好きなのは分かったが、そこまで怒る事じゃないだろう?」

 アランまで何故かルーファウスの味方についてしまった。僕は別に怒っている訳じゃないんだけどな……まぁ、確かに少し感情的になった部分はなくもないけど。

「別に怒ってないです」
「だったら機嫌が悪いのか? お前がそんな言い方をするなんて今までなかっただろう? 何かあったのか?」
「別に何も……」

 自分でもなんでたかが入浴ひとつでここまで意固地になっているのかがよく分からない。
 けれど思い当たるとするならひとつだけ、何だかんだで僕はルーファウスに自分自身が好かれていた訳じゃなかったと知って少なからずショックだったのだ。これは言わば八つ当たりだ。

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