童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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閑話:少年ロイドの青い春

チビのくせに生意気なやつ

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 俺の親は両親共に冒険者だ。そんな両親を見ながら育った俺は自分も将来は冒険者になるのだろうなと漠然と考えていた。
 ただ、冒険者になるためには試験を受けねばならず、それをいつにするかまでは決めていなかった。俺は冒険者になる事に異存はない、けれど父は「今時は冒険者にも学が必要だから」と俺を学校へと通わせた。
 俺の勉強の成績は中の上、学ぶ事は嫌いではないが特別好きだと思った事もない。成人は15なのでそれまでに進路は決めればいいとそう思っていたのだ。
 転機はある時急に訪れた、依頼を終えて帰ってきた両親が家に着くなり開口一番「お前は冒険者になる気があるのか?」と問うてきたのだ。

「何を藪から棒に。一応そのつもりではいるけどさ」
「ほらみろ、やっぱりロイドは冒険者になりたいんじゃないか」

 母が勝ち誇ったように父に言う。我が家は言ってしまえばかかあ天下というやつで父は基本的に母に頭が上がらない、けれどその日の父は少し違っていて「本当の本当にいいのか?」と俺に何度も問いかけた。
 そんな真剣に問われても、俺はこれまで真面目に自分の進路を考えた事もなく、漠然と冒険者になるのだろうなと思っていただけだったので、父の問いには困惑する。

「今日ギルドで、お前より小さな男の子が冒険者登録を受けるとやって来たんだ。お前にその気があるのならお前も試験を受けてみたらどうだ?」

 母が楽しそうに俺に告げる。なるほど、俺より小さな子供が冒険者登録試験を受けると聞いて、俺の進路に口出ししたくなったという事か。

「別に俺は焦らなくてもいいと思うんだがな。勉強だって大事だし」
「今はロイドの意見を聞いているんだ、あんたは黙ってな」

 母は相変らず父に容赦がない。でも、冒険者登録試験か、いつ受けようかと思ってはいたんだよな。冒険者の登録さえしてしまえば依頼を受けるのはいつでもできる。友人の中にも試験だけは既に済ませてしまって冒険者の肩書を誇示する者もいない訳ではない。
 そうは言っても依頼をこなさなければGランクから上がる事もないので底辺冒険者のままなのだが、それでもその肩書は子供心に格好いいなと思わなくもないのだ。

「ふぅん、そこまで言うなら受けてみてもいいよ、冒険者登録試験」

 俺は何気なく頷いた。どのみちいつかは受ける予定だし、冒険者登録試験はさほど難しくないとも聞いている。だったらいつ受けたって同じだ。
 母はぱぁっと笑みを見せ、父は相変らず心配そうな表情だけど、何も試験を受けるだけなのに何を心配しているのやら。

「明日の朝、試験を受けに行ってみる」

 俺がそう言うと母が「景気づけに美味いものを食べさせてやるよ」と豪勢な手料理を振舞ってくれた。こういうのは合格してからすればいいのにな。

 翌日早朝試験の申し込みに行ったら「今日は他にも試験を受ける子達がいるから一緒に受ける?」と、即日での試験が可能になった。時間まではまだもう少し時間があるからと案内された部屋で待っていると、俺の次に入ってきたのは俺より小さな子供だった。
 とても可愛らしい容姿をしている、背も小さくてとても幼い。こんな子供が冒険者登録? 少し不思議に思ったのだが、そういえば昨日両親が言っていた試験を受けにきた子供ってのはこいつの事だろうなと気が付いた。
 それにしても整ったな顔立ちの子供だ、こんな子この街にいただろうかと俺は記憶の中を反芻するが全く思い出せない。恐らく学校にも来ていないと思う。
 何処かよその街から試験だけ受けにきたのだろうか?
 冒険者というのは危険な職業なので幼過ぎる子供は試験に落とされる事もあると聞いた事がある、もしかしたらこいつは落とされるかもなと何とはなしに俺は思っていた、のだが……

「全問正解だ……君は部屋の外で待っていなさい」

 試験官であるギルド職員が唸るようにそう言った言葉に俺は耳を疑った。それは筆記試験開始早々、試験が始まってまだ四半時も経ってはいない。筆記試験は確かに読み書き計算ができればそこまで難しくはないけれど、それにしてもスピードが速すぎる。
 俺の学校での成績は中の上、そこまで成績が悪い訳ではない、なのに自分より小さな子供が全問正解で試験をクリアだなんて、なんて生意気なんだあのチビは! 俺は少し苛立ちながら試験問題を解いていったのだが、苛立ったせいのケアレスミスがあったようで、一問計算を間違えた。試験自体はクリアしたものの腹立たしい事この上ない。

「くっそ、何だよあいつ……」

 筆記試験が終わり午後からは実技試験に移るのだが、俺が筆記試験を終えて部屋を出るとあのちびっ子は先輩冒険者と思われる大人二人に囲まれて楽しそうに笑っていた。
 何だよ、保護者付きのお坊ちゃまかよ、と俺は更に激しくイラッとした。
 続いて午後からは実技試験、俺は剣士、残り二人は魔術師と聞いて、魔術師というのは頭でっかちな人間がなる事が多いと聞いていたので、俺は少し溜飲を下げた。きっとあのおこちゃまは頭でっかちな子供なのに違いない。
 勉強ができるだけでは冒険者にはなれないんだよ! そこんとこ勘違いすんなよな! と望んだ実技試験、俺は滞りなく試験突破、よっし!
 続いて俺より少し年長の女の人が指名されたのだが、こちらも少し危なっかしくはあったけど試験をクリアした。
 さて、あの頭でっかちのちみっ子はどう出るかな、と、俺は少し意地悪な気持ちでその試験を眺めていた。だが、これがまた唖然とするような戦闘能力で試験官を圧倒、「文句なしの合格だ」って、何なんだよこいつ意味が分からん。
 本人は至って平和そうに呑気に笑っているけど苛立ちが隠しきれない。しかもこいつの連れてる保護者二人は俺でも知ってるこの辺じゃ超有名な冒険者じゃないか! 生意気!
 
「はん、甘やかされてんなぁ」

 思わず出た俺の言葉に、ちびっ子が振り向いて首を傾げた。こいつ全然何も分かってなさそうだな。俺はそんなちびっ子を睨み付けて踵を返した。
 俺はお前が大嫌いだ! お前の名前は忘れないからな、タケル!


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