童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第一章

討伐依頼を受けてみました

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 少年剣士のロイドと交流を始めて数日、僕は今日初めてスライム討伐の依頼を受けた。
 スライムの討伐をするのならば皮の胴着が必須装備だと聞いていたので、その胴着を購入するまでは受けられないとロイドに言ったら彼が自分のおさがりを譲ってくれると言ってくれたのだ。

「ってかさ、胴着なんかなくてもスライムなんか攻撃される前にパパっと倒せば良くね? あいつ等攻撃されればすぐ逃げてくんだぞ、襲われるなんてよっぽど鈍くさい奴だけだろ。しかもお前は魔術師だろ、近付かずに倒せばいいじゃないか」
「…………」

 正論過ぎて何も言えない。確かにスライムの生態を知れば知るほどロイドの言う事は正しいと分かるのだ。スライムは基本的に貧弱で臆病だ、そんなスライムに襲われるなんてそうそうない事らしい。
 最初に僕が襲われたのは仲間を攫われたと思ったスライムのせめても反撃であったのだろう。そして僕はそれに反撃する術を持っていない無知な子供であったというだけ。そもそもそスライムの攻撃だって命を奪えるようなものではなく、衣服の繊維を溶かすだけだ。
 アランは皮の胴着が必要だと言ったが、それは本当に何も知らない子供には必要だと言っただけに過ぎない。本当はそんな事は分かっていた、分かっていて僕は討伐依頼を今まで受けずにいたのだ。
 冒険者ランクを上げるためには採取依頼と討伐依頼、どちらも一度は受ける必要がある。だけど僕が今までスライム討伐の依頼を受けずにいたのはやはり心のどこかでスライムを殺したくないという気持ちがあったからだと思う。
 もし意味もなく襲われたのなら反撃はできる、けれど無抵抗な相手を攻撃する事には抵抗があった。けれどスライムが増えすぎればこの草原の草という草は食い尽くされてしまうだろう、それを防ぐためにはスライム討伐は必須。

「よしっ!」

 僕は意を決してスライム達を見やる。今日も僕の周りにはいつものようにスライム達がぴょんぴょんと飛び回っている。

「……うぅ」
「なに情けない顔してんだよ?」
「だって、こいつ等可愛いだろ!? ちょっと食べ過ぎるだけで悪さする訳じゃないのに、何も殺さなくたって……」

 意を決してスライムに対峙してみたものの、やはり僕は無邪気に飛び跳ねているスライムを攻撃する事ができない。
 スライム討伐依頼の証明にはスライムを倒した後に残る核を回収してギルドに提出する必要がある。もしその核を回収できなければ討伐依頼は失敗したとみなされて罰金ペナルティもあるらしい。

「そうは言ったって一回は討伐依頼受けとかないと冒険者ランク上げられない上に、Gランクで受けられる討伐依頼なんてスライムくらいなんだから思い切っていっとけよ!」
「でも……」

 座り込んでしまった僕の周りをいつもの少し緑がかった小さなスライムが飛び跳ね、僕の胸に飛び込んできた。

「うぅ、無理! 僕にはこの子を討伐なんてできないよ!」

 すっかり懐いてしまったスライムを抱き締めて、僕は依頼はもうキャンセルでいいと心に決めた。だって無理、こんな可愛い子を殺すなんて絶対できない!

「でも、討伐できなけりゃ、お前ずっとGランクのままだぞ! あ、それか……」
「?」
「そいつを従魔にすりゃ、一応一匹倒したって扱いにしてもらえるはず、確か」
「! それ、どうすればいい!?」
「どうって、俺、従魔師じゃないし、知らね。でも、なんかそいつお前にすっげぇ懐いてるみたいだし、こう、何とかすればできんじゃね?」

 その「何とか」が分からないから聞いてるのに……僕はスライムを抱き上げて、そのぷにっとした身体に額をくっ付けた。

「僕は君と一緒に居たい、ねぇ、君は?」

 小さなスライムは僕の掌の中でプルプル震えているだけ。以前はそれを肯定と勝手に信じて連れて行こうとして他の仲間に攻撃されたんだよな。僕は首を横に振る。やっぱり僕にはどうすればこの子を連れて行けるのかが分からない。
 こんな事ならちゃんとどうやったら魔物を従魔に出来るのか勉強しておけば良かった。
 腕の中のスライムがプルプル振るえて僕の腕から逃げ出した。

「あっ……」

 僕の腕から飛び出したスライムは別のスライムに体当たりしていく。すると、何故かそのスライムが融合するようにして一回り大きくなった。

「え……」

 一回り大きくなったスライムはまた別のスライムにぶつかって仲間をどんどん取り込み大きく膨らんでいく。

「ちょ、これ、ヤバくね? どんどんでかくなってくんだけど……」

 ロイドが狼狽えたように後退る、そんな事をしている間にもスライムは合体を続けどんどん膨らんでいく。

「これっ、ヤバいって! 逃げようぜ、タケル!」
「でも、これはあの子だ、あの子は僕に何かを伝えようとしている」
「んなのっ! スライムだって魔物だぞ、魔物は人を襲うもんだ!」
「そんな事ない、あの子は無意味に僕達を襲うような子じゃない!」

 いつも無邪気に僕の周りを飛び回っていた可愛い子だ、なのにそんな、あり得ないよ。

「ねぇ、なんで? 君は何をしようとしてる? 僕は君の敵じゃない」
『……ボクもちがうよ』

 不意に頭の中に響いた声。

「え……?」
『つれてって、タケル』

 そんな声と共に巨大に育ったスライムが僕に突撃してきた。

「え、ちょ……まっ、むぐっ」

 完全にスライムの巨体に押しつぶされて僕は息もできない。これは、攻撃? まさか本当に命を狙われ……

『わあ、ごめん!』

 慌てたような声と共に胸元でスライムがシュルシュルと縮んでいく。

『いつものくせで飛びついちゃった』
「お前……」

 僕の腕の中にはいつものあの小さなスライムがいつもと変わらぬサイズで収まっている。さっきまでの現象は目の錯覚? いや、そんなはずはない、その証拠に完全に腰を抜かしたロイドがフリーズしている。

「僕と一緒に居てくれるの?」
『うん、ボク、タケルと一緒がいい』

 腕の中で少し緑がかった小さなスライムがまたプルプルと身体を震わせた。

「お、おい、タケル、それ、大丈夫なのか?」
「うん、なんか従魔にできたみたい」
『タケル、まだだよ』

 腕の中のスライムがまたプルプルと震えている。

「? まだ? ダメ?」
『ボクのな・ま・えは? タケルがつけるんだよ』
「名前? 君の名前を僕が付けるの?」
『うん!』

 腕の中のスライムは伸びたり縮んだりソワソワした様子で、僕の命名を待っている。

「おい、タケル。お前さっきから何一人でぶつぶつ言ってんだ?」

 ロイドが恐る恐ると言った感じに僕の腕の中のスライムを覗き込んだ。どうやら彼にはスライムの声が聞こえていないみたいだ。

「なんか、名前付けろって……えっと、どうしよう、スライム、スラ? いや、ライム……ライムでどう?」
『あんちょく~』

 思いっきりスライムにダメ出しされた!

『でも、いいよ。ボクのなまえはライム、よろしくね、タケル!』

 あれ? いいのか?
 安直と命名をディスったくせに、スライムはとても嬉しそうにプルプルしていて、そのうちにキラキラと光り始めた。そして、その発光が終わったら、またいつものスライムに戻りぴょんぴょんと跳ねまわり始めた。

「おい、タケル、さっきの何だったんだ?」
「さあ? 僕にも分からないよ。だけどどうやら上手くいったみたい。ライム、おいで」

 僕が名前を呼ぶとライムは飛び跳ねながら僕の腕の中に戻ってくる。やっぱりスライムって凄く可愛い。
 こうして僕は初めて受けた討伐依頼をなんとかクリアする事に成功した。
 冒険者ギルドでスライムを従魔にしたと告げたら少し笑われたけど、別にいいんだ。強くなくたってライムは存在してるだけで可愛いから!
 ライム、一生大事にするからな!

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