童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第一章

魔術師の弟子

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 そういえば、晴れてお金を手に入れた僕は異世界生活3日目にして居候生活から卒業する事になった。自立した生活へ一歩前進だ!
 とはいえ、相変らず部屋はアランやルーファウスと同じなのだけど。
 本当はお金を払って一人で六人部屋に移るつもりでいたんだよ、プライベートがほぼないって言われたけど、そこはそれ仕方がない、背に腹は変えられないしと思っていたんだ。だけど僕がそれを告げると、何故かルーファウスが強固に反対した。
 「タケルは自分の立場が全然分かってない!」って引き止められて僕は首を傾げる。
 僕の立場って何だっけ? ただのなりたて冒険者じゃなかったっけ? 自分でお金を稼げるようになったのだから、いつまでも居候などせず自立するのが筋じゃないのか?
 そんな風に思っていたら「私は君を私の弟子にすると決めたから!」と、ルーファウスに宣言されてしまった。

「弟子?」
「そう、私とタケルとの出会いは天が定めた運命だった、私はタケルを一流の魔術師に育てる事に決めたから!」
「おいおい、ルーファウス、何かおかしな物でも食べたのか? それとも酒も飲まずに酔っぱらってるのか?」

 アランが怪訝な表情を浮かべルーファウスを見ている。まぁ、僕もちょっとどうかしちゃったのかな? って思わなくもないけれど。

「君達は分かっていないな。魔術というものは元々学問だと言っただろう? そこに探求すべき真理があったら探求したくなるのが魔術師だ。タケルという存在は魔術の可能性を無限に広げる宝箱のようなもの! そんな君を手離すなんて私には出来ない!」
「……だそうだぞ、タケル」
「はははは、ルーファウスさん、大袈裟過ぎません?」

 乾いた笑いしか出てこない、ルーファウスって時々テンションおかしいよね。だけどそんなおかしなテンションのルーファウスに押し切られ、僕達は3人部屋に移る事になったのだ。
 3人部屋は6人部屋より値が張るけど2人部屋よりは安いとの事で、アランとルーファウスの浮いた分のお金で僕の宿泊費は一日銅貨1枚で据え置き、まずは一か月分ルーファウスが前払いをしてくれた。僕はルーファウスに返済していく形で正式に宿をゲットした。これも借金みたいなものだけど、ルーファウスが譲らなかったから有り難く申し出を受ける事にしたよ。
 僕を弟子にすると宣言したルーファウスはそれから依頼も受けずに僕に付いて回るようになった。この世界について右も左も分かっていない僕に色々な事を教えてくれるのはとても助かるのだけど、自分の仕事はしなくて良いのかな? と思わなくもない。けれどルーファウスはAランク冒険者だ、Dランクになれば家を建てられるくらいに稼げるようになるというのだから、僕みたいに忙しなく仕事をする必要はないのだろう。
 アランは僕達に付いてくる事もあれば、ふらりと一人で、もしくは他に誘われるようにしてちょこちょこ仕事に出掛けて行った。
 ルーファウスに一緒に行かなくていいのか? と問うと、自分達のように個人で活動している冒険者はそんなモノだと言われてしまった。
 冒険者と一口で言っても色々なタイプの人間がいる、数人でパーティーを組んで活動する冒険者たちもいれば、一匹狼で他人に頼らない活動の仕方をしている者もいるのだ、そしてアランやルーファウスはどちらかと言えば一匹狼タイプの冒険者であるらしい。
 僕は二人はパーティーで活動しているのだと思っていたのだが、別段そんな事もなく、一人で無理そうなら組むけれど、一人で大丈夫そうなら単体で依頼を受ける事も多いらしい。

「昔からそうなんですか?」
「若い頃は数人でパーティーを組んでいた事もあったよ、だけど歳を重ねて家庭を持ったりすると段々に冒険者を引退する者も出てきてね、結局私一人が残ってしまった感じかな、はは」

 少し寂し気に瞳を伏せるルーファウス。見た目は若い彼だが、そういえばエルフは長命だと聞いている。実年齢ははぐらかされてしまったが人族の年齢でいえばお爺ちゃんだと言われた事も思い出し、他人と生きる長さが違うというのは寂しいものだなと何とはなしに思う。
 酒に酔って「僕を置いて行かないで」と泣いていたルーファウスはもしかして今まで悲しい別れを幾つも経験してきたのかもしれない。
 置いて行かれる悲しみは僕にも分かるつもりだ。僕も家族とは死に分かれている、ずっとそこに居た人がある日居なくなってしまう喪失感は筆舌に尽くしがたい。

「一人じゃないですよ」
「え?」
「今は僕もアランさんもいるし、一人じゃないです。ルーファウスさんは僕を弟子にしてくれるんでしょう? だったら一通り魔術を学ぶまでは僕の方から付き纏いますので覚悟しておいてください」

 僕の言葉にルーファウスはしばらく瞳をぱちくりさせていたのだが、そのうち「そうだね」と柔らかく微笑んだ。

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