童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

矢の字

文字の大きさ
上 下
18 / 222
第一章

お金を稼ぐのって大変です

しおりを挟む
 今日も今日とて晩御飯に呼ばれた宴会場でこれからどうしようかと考えていたら「何難しい顔してんだ、子供は黙って飯を食え」とアランに背中を叩かれた。陽気なアランは今日も酔っ払いだ。ってか、ここの人達本気で毎日宴会してる……

「そうは言っても今後の稼ぎの事を考えるとそんなに笑ってられないです。現状宿泊費も食費もおんぶに抱っこで、それは追々返していくとしても、装備を整えるために貯金もしなきゃだし、この稼ぎじゃ毎日食べてくだけで精一杯……」
「いや、冒険者なんてそんなもんだろ? 今日飯にありつけた、お前の年齢ならそれだけで充分!」

 ええええ……

「まぁ、わりと冒険者ってそうですよね。きっちり生活を考え始めるのは家族を持つ年齢になってからの方が多いんじゃないですかね?」

 今日のルーファウスは僕の横で僕と一緒に果実を絞ったジュースを飲んでいる。当分酒はやめると心に決めたらしい。

「それに真面目に依頼をこなしていればDランクに上がった頃には家を建てられる程度には稼ぐことができるようになってる。俺にはタケルの年齢で焦る理由がさっぱり分からん」
「Dランクで家、ですか……」

 通常何年くらいかけたらDランクになれるのだろう? それまではこんなその日暮らしでいいのか? 「宵越しの金は持たねぇぜ!」って、江戸っ子気質の人はいいかもしれないけど、僕は性格的に無理! ある程度不測の事態に対応できる貯金がないと安心して生活できないよ!

「ポポン草の炒め物、お待たせ!」

 今日はラナさんが僕の近くまで寄って来てくれる。昨日彼女たちが僕の近くに来なかったのは酒を飲んでいたルーファウスを警戒しての事だったんだな。ってか、分かってたなら言ってよ……
 僕が採取してきたポポン草の花はほかほかの湯気を立てて炒め物になった。食べてみたら普通に美味しい、これからもポポン草は積極的に採取しよう。

「そういえば、ここのキッチンって誰でも使っていいんですよね?」
「ああ、食材も所有者名が書いてなかったら自由に使っていい、魔物討伐のついでに食べられそうな物を持って帰って来る奴がいるから、食材はいつでもわりと豊富にあるぞ」

 あ、そういう感じなんだ? いつも食材は何処から出てくるんだろう? って思ってたんだよね。朝食はパンと果物メインで料理らしい料理は出ないけどここに来れば食べられる。晩御飯の宴会料理は皆好き好きにしていて代金の請求をされた事もない。アランとルーファウスに奢られているのかと思っていたけど、そればかりでもなかったらしい。

「あ、じゃあ僕が作っても問題ないですね、ちょっと見てきてもいいですか?」
「いいけど、タケルは料理ができるの?」
「多少ですけど、作るのは好きですよ」

 自炊を始めた当初はただひたすらに面倒くさかったのだが、一度始めてしまったら色々と新しい料理にチャレンジしたりアレンジを考えるのが楽しくなってしまい、休みの日はよく作り置きなどを作って一日過ごしていた。
 趣味らしい趣味はなく友人も少ないから休みの日をどう過ごすかと考えた時に残ったのは家事と読書、あとはスマホゲームくらいのものだった。
 家事はとても面倒くさいが、それを趣味にしてしまえば意外とそれは向いていたようで家の中が僕好みに変わっていくのが嬉しくて料理だけでなく片付けや掃除もよくしていた。洗濯だけは唯一あまり好きではなかったけれど、向こうでは洗濯機がボタン一つで乾燥までしてくれたからな。
 ああ、でもこっちではそれが魔法の「洗浄クリーン」で一発なんだから、向こう以上に楽だな。洗浄魔法さっさと覚えないと。
 キッチンを覗き込むと、忙しそうにラナさんが料理を作っていた。先程のポポン草の炒め物もそうだったが、ラナさんは昨日も一昨日も料理をしていた気がする。

「ラナさん、僕も手伝いましょうか?」
「え? ホント? ありがと~」

 今日も今日とてホールは宴会場になっている、冒険者たちが各自料理の持ち寄りもしているけれど、酒の肴としては足りていないのを恐らくラナさんがフォローしているのだ。

「ラナさん、いつも一人で料理してるんですか?」
「少しだけね。メインの肉は各自テーブルで焼いて食べてるし、ちょっとしたおつまみだけ。元々実家が居酒屋だったから、こういうの見るとつい働いちゃうのよねぇ」

 なんて、ラナさんは笑っていた。

「でも一人じゃ大変じゃないですか? 皆さん毎日宴会してるし」
「ふふふ、本当よね。タケル君が来てからは毎日宴会だものね、だけど無理強いされてる訳じゃないから大丈夫よ。それに皆がお駄賃くれるから良い小遣い稼ぎにもなってるのよ」

 そっか、ならいいか……って、今、ラナさん何て言った? 小遣い稼ぎ? お駄賃? お金!

「ここで料理を振舞ったらお駄賃貰えるんですか!?」
「貰えるわよ~お酒の入った冒険者たちは気前がいいもの」

 食材はこのキッチンに置いてあるものは自由に使っていいと言っていた、だとすると提供するのは料理の腕と時間だけ、リスクはほぼない!

「僕も料理作ります!」

 はい! と挙手をして宣言すると、ラナさんは「そこに在る物は適当に使っていいよ」と、キッチンの端に置いてある籠を指差した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...