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番外編:友達のその先へ
ご挨拶
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こうして迎えた誕生日当日、僕は家でグレイの到着を待つ。ママは久しぶりに僕が家に居るからご機嫌で御馳走を作っているし、僕の誕生日という事でおじいちゃんやおばあちゃんまで我が家に来ている。
いつも賑やかすぎる程喧しい我が家が更に騒々しくて僕のテンションダダ下がりだよ。今日、僕の誕生日だよね!? 主役そっちのけで盛り上がるの止めてくれる!?
そんな中、パパだけが物静かに騒々しいリビングで物思いに耽っている。弟達がそんなパパによじ登って遊んでいるけど気に留める様子はない。よくその騒々しい中で物思いに耽れるよね、ある意味尊敬するよ。
「ミオちゃん、ミオちゃん、ミオちゃんは今日で幾つになったんだっけ?」
小さな黒猫が僕の目の前にふわりと浮かび上がって小首を傾げた。この黒猫は僕のおじいちゃんでママのパパ。こんな小さい姿だけど、実はこれは仮の姿で本当の姿はユキヒョウなんだって、見た事ないけど。
おじいちゃんの口癖は「僕は本当は凄い魔法使いなんだよ!」だけど、僕は信じていない。というか、昔は信じていたけど今はあんまり。
だって、おじいちゃんて全然凄そうに見えない。身体も小さいし、威厳もないし、何処がすごいのかさっぱり分からないんだもの。
「僕は今年で18だよ、おじいちゃん」
「そうか、18か。月日が流れるのは早いものだね、僕が君を取り上げた時には君はこんなに小さくて……」
あ、これすごく話が長くなるやつだ。
小さな黒猫が赤ん坊を抱くような仕草をして見せるけど、それ絶対嘘だよね、うちの一番下の弟だっておじいちゃんより大きいのに、抱っこできる訳ないじゃん。絶対無理だし。
そんなおじいちゃんの昔話を遮るように来客を知らせるベルが鳴る。僕はおじいちゃんの話を遮って玄関へと向かった。
「いらっしゃい! グレ……イ?」
僕が玄関扉を開けて外を見やると、そこに立っていたのは予想通りグレイだったのだが、出で立ちがいつもと少し違う。
「グレイ、どうしたの? なんかいつもと格好違くない?」
普段はふわふわな毛皮の上に着ているのはベストとズボンくらいなものなのだけど、今日の彼は何故かまるで式典にでも出向いて行くような正装だ。まさか僕の内輪の誕生日パーティーなんかに正装で来るなんて事もないだろうし、今から何処か出かけるの? それならそうと先に言ってよ、僕全然準備なんてしてないよ!
「うむ、まぁ、今日は正式なご挨拶だしな」
「正式なご挨拶?」
はて? グレイは何を言っている? 今から何処かに挨拶に行くのか? 僕の誕生日なのに?
「シロウとスバルはちゃんと居るか?」
「う、うん、居るよ」
グレイはひとつ頷いてようやく我が家の敷居をまたいだ。僕がパーティー会場でもあるリビングへと彼を連れて行くと顔を上げて僕たちを見たパパが、ギリっとこちらを睨んだ。
「グレイ、お前、やっぱりそういうつもりか……」
「? ミオから話は通してあったはずだが?」
ん? なに? なんの話? 話を通すって何だっけ? 僕はグレイが誕生日にうちに来るって言うから、それをパパとママに伝えただけだけど?
グレイが騒々しいリビングを見渡してから、すっと膝を折る。
「晴れてミオが18の誕生日を迎えたので、改めて正式に嫁に貰い受けにきた」
「っっ!?」
え? え? ホントに!? 僕、そんな話聞いてない!
騒々しいリビングが一瞬で静かになった。パパ以外の皆がグレイと僕を見て、ぽかんと口を開けている。
「ふざけるな! ミオはまだ子供だ! 嫁になど出してたまるか!」
パパが歯を剥きグレイを睨む。けれどグレイはそんなパパに静かに頭を下げ続ける。
「お前が怒るのは分かっていた、だが俺ももう限界だ。これ以上ミオを前にお預け状態は耐えられない。どうか、ミオとの結婚を許して欲しい」
「駄目だ、駄目だ、可愛い我が子を十年やそこらで手離して嫁になんて出せるものかっ! 帰れ、帰れっっ!」
パパの猛剣幕に幼い弟達がママにしがみつく。普段全く怒る事のないパパだから、その唸るような怒鳴り声はとても恐ろしく、弟達は泣き出しそうだ。
「ママ、なんでパパはあんなに怒ってるの?」
問うた弟の声にママは「うん、ちょっとね。ママ達今から大事なお話があるみたいだから、少しの間だけじいじとばあばの家で遊んでおいで。怖い事はないから泣かなくて大丈夫」と、弟達の頭を撫でた。
弟達はおばあちゃんが一手に引き受け祖父母の家へと向かう。なにせ扉一枚隔てた二世帯住宅だから、行くのも来るのも簡単だ。
それにしても、僕は現在の状況に付いていけてない。なんでパパはそんなに喧嘩腰? そんでもってグレイは結婚って言った? 言ったよね?
今まで恋人らしい事一度だってしてくれた事ないのに、いきなりこれ結婚のご挨拶なの??? だから正装? うちに来るってそういう意味? 言ってよ、そういう事は先に言って!!
「話し合う余地はない、帰れ」
「ちょっとパパ、話し合う余地はないってなにさ! 僕はグレイと結婚するからね! パパが何と言おうとそこは譲らないから!!」
「なっ、ミオ! お前はそいつに騙されている! 幼い頃から一緒にいたから絆されているだけだろう!? 他に目を向ければお前にはもっと相応しい相手がいくらでも……」
「騙されてなんかないよっ! そもそもパパが僕とグレイの結婚を反対する理由って何なのさ!」
僕は初めてパパに対して口答えをする。というか、パパは僕に甘々だから今まで僕のする事に反対なんてしたこと一度もない。なのに何故、僕たちの結婚にこれほどまでに反対するのか僕には分からない。
「ともかく、駄目なものは駄目だっ!」
「シロさん、そんな頭ごなしに反対しなくても……それに僕たちこうなる事はだいぶ前から分かってたはずだよ?」
ママがパパを取りなすようにパパの隣に座ってパパを見上げる。だけどパパは頑なで、ママの言うことにも頷かない。
「シロさんの寂しい気持ちも分かるけど、ミオはもう自分で番相手を見付けられる年齢だよ。シロさんは僕がミオを産んだ年齢だって覚えてるだろ?」
「ううむ……」
パパが微かに唸り声をあげた所で、おじいちゃんがぴょんとパパの前に回った。
「シロウ君、君さぁ、さっきから彼に言いたい放題言ってるけど、それ全部ブーメランだって分かってる? そもそも十年やそこらでって言うけど、その十年やそこらで僕からスバル君を奪っていったのどこの誰だったっけ?」
おじいちゃんが、無表情にパパを見やる。パパはびくりと真っ白な身体を震わせて恐る恐るといった風に小さな黒猫のおじいちゃんの方を向いた。パパとおじいちゃんの体格差は10倍以上もあるのに、パパはおじいちゃんには頭が上がらないみたいで何だか叱られた子供みたいだ。
「そ、それとこれとは話が別ですよ、お義父さん」
「いやいや、全然別じゃないよ、君がミオちゃんの事を想うように僕だってスバル君の事を想っていた、なのに何処の馬の骨とも知れないき・み・が! 僕からスバル君を奪っていったんだよ。しかもミオちゃんが生まれるまで僕たちに挨拶もなかったよね! 全部が全部事後報告だったよね!?」
「そ、それは……」
パパがものすごくしどろもどろになって口籠る、さっきまでの威勢はどこへやらだ。はは、ウケる。
「シロさんの言い分、確かに僕も分からないでもないよ。僕も急な事で驚いてる。もう少し心構えはさせて欲しかったと思う……」
今度がママが口を挟んできた、激昂するパパに反してすごく静かだったから賛成してくれるものと思ってたんだけど、やっぱり僕とグレイの結婚には反対なのかな……
「だけどさ、グレイさんの事はとても信頼できる人だと僕は思っているよ」
「な、スバル!」
あれ? 反対、しない……?
穏やかな笑みでママは僕たちを見やり静かに頷いた。そしてもう一度パパの瞳を覗き込む。
「僕ね、シロさんが僕との初夜の時、兄さんの名前呼んじゃった事とか、ミオが生まれた時、誰の子だ? って言ったりしたこと忘れてないよ」
「あ、あれは、その……」
「分かってる、あの時は状況が状況だったから色々理解してるつもり、だけどね、やっぱりショックはショックだったよ。それを踏まえて言うんだけど、グレイさんは澪がこの歳になるまで澪に手を出す事もなく、節度を守って浮気もせずに真摯に澪とお付き合いを続けてきてくれた。きちんと順番を守って、挨拶もしてくれて、こんなに誠実な人はなかなかいないと僕は思うんだけど、シロさんはどう思う?」
ママはにこりと笑みを見せるけど、パパに向ける瞳は笑っていない。有無を言わせぬその雰囲気にパパは反論もできずに口をパクパクさせている。
「そんなグレイさんの何が不満なのか、率直に言ってみてよ、シロさん」
「そ、それはその……ミオはまだ子供だし」
「澪はもう僕が澪を産んだ年齢と同じ年だよ」
「そもそもグレイは私より年上で……」
「この世界では普通でしょ? 獣人なんて人より寿命長いんだから、まだまだ若いよ、問題にならない」
「だが、グレイは元々私を好きだと言っていた、グレイは人より獣人の方が好きなのだろう!? そんな奴に可愛いミオを嫁にやれるか!」
パパの爆弾発言、人と人とは番えても獣人同士は番えないこの世界、グレイがパパの事を好きだったなんて僕は初耳なんだけど!?
「確かに俺はかつてお前の事が好きだった」
グレイが素直にパパの言葉に頷いた。まさかの!? そんな話聞いてない!
「だがそれは獣人だから好いていた訳じゃない、お前がお前だから好きだった、それだけだ。俺はお前の幸せを邪魔するつもりもなかったし、これからするつもりもない。最初は確かにお前の子だからミオを可愛いと思っていた、だが今は違う、俺はミオを愛している。幸せにするとお前に誓う、だから結婚を許して欲しい」
もう一度グレイが深々とパパに頭を下げる。パパはもう何も言えなくなったのか唸るように沈黙した。
「あは、決まりだね。それじゃあ誕生日パーティーじゃなくて、今日はもう結婚パーティーに変更だね」
「な、スバル! それは気が早すぎ……」
「早いの?」
ママがパパの言葉に首を傾げて僕とグレイの方を見やる。
「早くない! 僕、今日、グレイと結婚する!!」
僕がグレイの首に抱きついて頷くとグレイも僕を抱き締めてくれる、だけどパパは一人で大慌てだ。
「お、おい、ミオ!!」
「僕、もしかしたらひ孫も見れちゃう感じかな? 感無量だな」
「お義父さんまで何を言い出すんですか!!」
パパは相変らず「まだ早い」とか「婚約だけでいいだろう」とか言ってたけど、そのままその日の僕の誕生日会は結婚パーティーへと変更された。
まさか誕生日パーティーがこんな事になるなんて僕だって想定外だったけど、パパ以外の全員に手放しで祝ってもらえて僕はとても幸せだよ。
いつも賑やかすぎる程喧しい我が家が更に騒々しくて僕のテンションダダ下がりだよ。今日、僕の誕生日だよね!? 主役そっちのけで盛り上がるの止めてくれる!?
そんな中、パパだけが物静かに騒々しいリビングで物思いに耽っている。弟達がそんなパパによじ登って遊んでいるけど気に留める様子はない。よくその騒々しい中で物思いに耽れるよね、ある意味尊敬するよ。
「ミオちゃん、ミオちゃん、ミオちゃんは今日で幾つになったんだっけ?」
小さな黒猫が僕の目の前にふわりと浮かび上がって小首を傾げた。この黒猫は僕のおじいちゃんでママのパパ。こんな小さい姿だけど、実はこれは仮の姿で本当の姿はユキヒョウなんだって、見た事ないけど。
おじいちゃんの口癖は「僕は本当は凄い魔法使いなんだよ!」だけど、僕は信じていない。というか、昔は信じていたけど今はあんまり。
だって、おじいちゃんて全然凄そうに見えない。身体も小さいし、威厳もないし、何処がすごいのかさっぱり分からないんだもの。
「僕は今年で18だよ、おじいちゃん」
「そうか、18か。月日が流れるのは早いものだね、僕が君を取り上げた時には君はこんなに小さくて……」
あ、これすごく話が長くなるやつだ。
小さな黒猫が赤ん坊を抱くような仕草をして見せるけど、それ絶対嘘だよね、うちの一番下の弟だっておじいちゃんより大きいのに、抱っこできる訳ないじゃん。絶対無理だし。
そんなおじいちゃんの昔話を遮るように来客を知らせるベルが鳴る。僕はおじいちゃんの話を遮って玄関へと向かった。
「いらっしゃい! グレ……イ?」
僕が玄関扉を開けて外を見やると、そこに立っていたのは予想通りグレイだったのだが、出で立ちがいつもと少し違う。
「グレイ、どうしたの? なんかいつもと格好違くない?」
普段はふわふわな毛皮の上に着ているのはベストとズボンくらいなものなのだけど、今日の彼は何故かまるで式典にでも出向いて行くような正装だ。まさか僕の内輪の誕生日パーティーなんかに正装で来るなんて事もないだろうし、今から何処か出かけるの? それならそうと先に言ってよ、僕全然準備なんてしてないよ!
「うむ、まぁ、今日は正式なご挨拶だしな」
「正式なご挨拶?」
はて? グレイは何を言っている? 今から何処かに挨拶に行くのか? 僕の誕生日なのに?
「シロウとスバルはちゃんと居るか?」
「う、うん、居るよ」
グレイはひとつ頷いてようやく我が家の敷居をまたいだ。僕がパーティー会場でもあるリビングへと彼を連れて行くと顔を上げて僕たちを見たパパが、ギリっとこちらを睨んだ。
「グレイ、お前、やっぱりそういうつもりか……」
「? ミオから話は通してあったはずだが?」
ん? なに? なんの話? 話を通すって何だっけ? 僕はグレイが誕生日にうちに来るって言うから、それをパパとママに伝えただけだけど?
グレイが騒々しいリビングを見渡してから、すっと膝を折る。
「晴れてミオが18の誕生日を迎えたので、改めて正式に嫁に貰い受けにきた」
「っっ!?」
え? え? ホントに!? 僕、そんな話聞いてない!
騒々しいリビングが一瞬で静かになった。パパ以外の皆がグレイと僕を見て、ぽかんと口を開けている。
「ふざけるな! ミオはまだ子供だ! 嫁になど出してたまるか!」
パパが歯を剥きグレイを睨む。けれどグレイはそんなパパに静かに頭を下げ続ける。
「お前が怒るのは分かっていた、だが俺ももう限界だ。これ以上ミオを前にお預け状態は耐えられない。どうか、ミオとの結婚を許して欲しい」
「駄目だ、駄目だ、可愛い我が子を十年やそこらで手離して嫁になんて出せるものかっ! 帰れ、帰れっっ!」
パパの猛剣幕に幼い弟達がママにしがみつく。普段全く怒る事のないパパだから、その唸るような怒鳴り声はとても恐ろしく、弟達は泣き出しそうだ。
「ママ、なんでパパはあんなに怒ってるの?」
問うた弟の声にママは「うん、ちょっとね。ママ達今から大事なお話があるみたいだから、少しの間だけじいじとばあばの家で遊んでおいで。怖い事はないから泣かなくて大丈夫」と、弟達の頭を撫でた。
弟達はおばあちゃんが一手に引き受け祖父母の家へと向かう。なにせ扉一枚隔てた二世帯住宅だから、行くのも来るのも簡単だ。
それにしても、僕は現在の状況に付いていけてない。なんでパパはそんなに喧嘩腰? そんでもってグレイは結婚って言った? 言ったよね?
今まで恋人らしい事一度だってしてくれた事ないのに、いきなりこれ結婚のご挨拶なの??? だから正装? うちに来るってそういう意味? 言ってよ、そういう事は先に言って!!
「話し合う余地はない、帰れ」
「ちょっとパパ、話し合う余地はないってなにさ! 僕はグレイと結婚するからね! パパが何と言おうとそこは譲らないから!!」
「なっ、ミオ! お前はそいつに騙されている! 幼い頃から一緒にいたから絆されているだけだろう!? 他に目を向ければお前にはもっと相応しい相手がいくらでも……」
「騙されてなんかないよっ! そもそもパパが僕とグレイの結婚を反対する理由って何なのさ!」
僕は初めてパパに対して口答えをする。というか、パパは僕に甘々だから今まで僕のする事に反対なんてしたこと一度もない。なのに何故、僕たちの結婚にこれほどまでに反対するのか僕には分からない。
「ともかく、駄目なものは駄目だっ!」
「シロさん、そんな頭ごなしに反対しなくても……それに僕たちこうなる事はだいぶ前から分かってたはずだよ?」
ママがパパを取りなすようにパパの隣に座ってパパを見上げる。だけどパパは頑なで、ママの言うことにも頷かない。
「シロさんの寂しい気持ちも分かるけど、ミオはもう自分で番相手を見付けられる年齢だよ。シロさんは僕がミオを産んだ年齢だって覚えてるだろ?」
「ううむ……」
パパが微かに唸り声をあげた所で、おじいちゃんがぴょんとパパの前に回った。
「シロウ君、君さぁ、さっきから彼に言いたい放題言ってるけど、それ全部ブーメランだって分かってる? そもそも十年やそこらでって言うけど、その十年やそこらで僕からスバル君を奪っていったのどこの誰だったっけ?」
おじいちゃんが、無表情にパパを見やる。パパはびくりと真っ白な身体を震わせて恐る恐るといった風に小さな黒猫のおじいちゃんの方を向いた。パパとおじいちゃんの体格差は10倍以上もあるのに、パパはおじいちゃんには頭が上がらないみたいで何だか叱られた子供みたいだ。
「そ、それとこれとは話が別ですよ、お義父さん」
「いやいや、全然別じゃないよ、君がミオちゃんの事を想うように僕だってスバル君の事を想っていた、なのに何処の馬の骨とも知れないき・み・が! 僕からスバル君を奪っていったんだよ。しかもミオちゃんが生まれるまで僕たちに挨拶もなかったよね! 全部が全部事後報告だったよね!?」
「そ、それは……」
パパがものすごくしどろもどろになって口籠る、さっきまでの威勢はどこへやらだ。はは、ウケる。
「シロさんの言い分、確かに僕も分からないでもないよ。僕も急な事で驚いてる。もう少し心構えはさせて欲しかったと思う……」
今度がママが口を挟んできた、激昂するパパに反してすごく静かだったから賛成してくれるものと思ってたんだけど、やっぱり僕とグレイの結婚には反対なのかな……
「だけどさ、グレイさんの事はとても信頼できる人だと僕は思っているよ」
「な、スバル!」
あれ? 反対、しない……?
穏やかな笑みでママは僕たちを見やり静かに頷いた。そしてもう一度パパの瞳を覗き込む。
「僕ね、シロさんが僕との初夜の時、兄さんの名前呼んじゃった事とか、ミオが生まれた時、誰の子だ? って言ったりしたこと忘れてないよ」
「あ、あれは、その……」
「分かってる、あの時は状況が状況だったから色々理解してるつもり、だけどね、やっぱりショックはショックだったよ。それを踏まえて言うんだけど、グレイさんは澪がこの歳になるまで澪に手を出す事もなく、節度を守って浮気もせずに真摯に澪とお付き合いを続けてきてくれた。きちんと順番を守って、挨拶もしてくれて、こんなに誠実な人はなかなかいないと僕は思うんだけど、シロさんはどう思う?」
ママはにこりと笑みを見せるけど、パパに向ける瞳は笑っていない。有無を言わせぬその雰囲気にパパは反論もできずに口をパクパクさせている。
「そんなグレイさんの何が不満なのか、率直に言ってみてよ、シロさん」
「そ、それはその……ミオはまだ子供だし」
「澪はもう僕が澪を産んだ年齢と同じ年だよ」
「そもそもグレイは私より年上で……」
「この世界では普通でしょ? 獣人なんて人より寿命長いんだから、まだまだ若いよ、問題にならない」
「だが、グレイは元々私を好きだと言っていた、グレイは人より獣人の方が好きなのだろう!? そんな奴に可愛いミオを嫁にやれるか!」
パパの爆弾発言、人と人とは番えても獣人同士は番えないこの世界、グレイがパパの事を好きだったなんて僕は初耳なんだけど!?
「確かに俺はかつてお前の事が好きだった」
グレイが素直にパパの言葉に頷いた。まさかの!? そんな話聞いてない!
「だがそれは獣人だから好いていた訳じゃない、お前がお前だから好きだった、それだけだ。俺はお前の幸せを邪魔するつもりもなかったし、これからするつもりもない。最初は確かにお前の子だからミオを可愛いと思っていた、だが今は違う、俺はミオを愛している。幸せにするとお前に誓う、だから結婚を許して欲しい」
もう一度グレイが深々とパパに頭を下げる。パパはもう何も言えなくなったのか唸るように沈黙した。
「あは、決まりだね。それじゃあ誕生日パーティーじゃなくて、今日はもう結婚パーティーに変更だね」
「な、スバル! それは気が早すぎ……」
「早いの?」
ママがパパの言葉に首を傾げて僕とグレイの方を見やる。
「早くない! 僕、今日、グレイと結婚する!!」
僕がグレイの首に抱きついて頷くとグレイも僕を抱き締めてくれる、だけどパパは一人で大慌てだ。
「お、おい、ミオ!!」
「僕、もしかしたらひ孫も見れちゃう感じかな? 感無量だな」
「お義父さんまで何を言い出すんですか!!」
パパは相変らず「まだ早い」とか「婚約だけでいいだろう」とか言ってたけど、そのままその日の僕の誕生日会は結婚パーティーへと変更された。
まさか誕生日パーティーがこんな事になるなんて僕だって想定外だったけど、パパ以外の全員に手放しで祝ってもらえて僕はとても幸せだよ。
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