48 / 107
僕が母親になった日②
しおりを挟む「編み進める時は、なるべく編目が均等になるよう心掛けると、仕上がりが綺麗になりますわ。ゆっくり進めていきましょう」
「こ、こうかしら?」
「そうそう、お上手ですわ」
イリーナは、覚束無い手つきで編み針を動かしていく。すると、レースの花びらがの形が見え始めたのだった。
「すごい、形になってきたわ!! ありがとうございます!!」
「リゼット様、ここはどうすれば?」
「ああ、この部分は……」
途中で行き詰まってしまったようで、ラウラが私に助けを求めてきた。しかし飲み込みが早い人なので、少し手助けをしただけですんなりと進み始めた。
二人とは、軍の家族交流会で偶然知り合った。社交的な彼女達は私と正反対であったが、歳が近いということもあり、交流を重ねて友達になったのである。
以前レースの編み物が趣味だと話したところぜひ挑戦したいと言われたので、今日は二人を家に招いて、編み物講座をしていたのだった。
「少し休憩にしましょうか」
一段落したところで、私達はお茶にすることにした。編み物は頭を使うので、休憩を挟みながらゆっくり進めるのがコツなのである。
温かいローズヒップティーを一口飲んでから、ラウラは私に問いかけてきた。
「リゼット様は、昔から手芸がお好きでしたの?」
「ええ、家にいることが多かったものですから……最近は、義母様から刺繍も教わってますの」
「あら、素敵」
少し前、両親が私を訪ねてきたことがある。
両親は今後私が子供を産み、その子が強い魔力を持っていたならば、一族の家系図にお前の名前を載せてやっても良いと言ってきたのだった。当然、私は丁重にお断りした。
両親が何か言うより先に、その場に同席していたルーデル、義父、義母が激怒した。それから、二度とここに来るなと両親を家から追い出したのだった。
それまで義両親と言葉を交わすことはあまり無かったが、どうやら義母も義父も、私がこの家に慣れて、ルーデルと十分に打ち解けてから距離を縮めていこうと思ってたらしい。
両親が帰った後、嫁いできてから貴女は大切な家族だと、彼らは私に言ってくれたのだった。
それから少しずつだが、義両親とも話するようになってきたのである。
ルーデルと結婚したことで、結果的に家族と絶縁することにはなった。けれども、結婚前よりも私の世界は広がり、豊かなものとなっていると感じていた。鳥籠から放たれた鳥のように、私は日々楽しく過ごしているのだから。
「リゼット様は、予定はいつ頃ですの?」
「今年の秋ぐらいの予定ですわ」
「ふふっ、今から楽しみですわね」
帽子と手袋、それに靴下にスタイに……と、産まれてくるまでに作っておきたいものは山のようにあった。今は、帽子に取り掛かっているところだ。折角なので、可愛らしい耳付きにしようと思う。
「旦那様もとっても楽しみにしてらっしゃるんでしょう? 主人から聞きましたわ」
「ええ。でもまだ産まれてないのに、彼ったら過保護すぎて。身体を冷やすなとか重いものを持つなとか無理をするなとか、困ったものですわ」
「ふふっ、うちの主人もそうでしたから。どこのご家庭も似たようなものですわ」
会話の最中にそっと自分のお腹に触れると、胎動が感じられた。それは、魔力を持つ持たないに限らず、かけがえのない存在であった。
沢山準備して、楽しみに待ってるからね。
お腹越しにまだ見ぬ我が子を優しく撫で摩りながら、私は心の中で呟いた。
「こ、こうかしら?」
「そうそう、お上手ですわ」
イリーナは、覚束無い手つきで編み針を動かしていく。すると、レースの花びらがの形が見え始めたのだった。
「すごい、形になってきたわ!! ありがとうございます!!」
「リゼット様、ここはどうすれば?」
「ああ、この部分は……」
途中で行き詰まってしまったようで、ラウラが私に助けを求めてきた。しかし飲み込みが早い人なので、少し手助けをしただけですんなりと進み始めた。
二人とは、軍の家族交流会で偶然知り合った。社交的な彼女達は私と正反対であったが、歳が近いということもあり、交流を重ねて友達になったのである。
以前レースの編み物が趣味だと話したところぜひ挑戦したいと言われたので、今日は二人を家に招いて、編み物講座をしていたのだった。
「少し休憩にしましょうか」
一段落したところで、私達はお茶にすることにした。編み物は頭を使うので、休憩を挟みながらゆっくり進めるのがコツなのである。
温かいローズヒップティーを一口飲んでから、ラウラは私に問いかけてきた。
「リゼット様は、昔から手芸がお好きでしたの?」
「ええ、家にいることが多かったものですから……最近は、義母様から刺繍も教わってますの」
「あら、素敵」
少し前、両親が私を訪ねてきたことがある。
両親は今後私が子供を産み、その子が強い魔力を持っていたならば、一族の家系図にお前の名前を載せてやっても良いと言ってきたのだった。当然、私は丁重にお断りした。
両親が何か言うより先に、その場に同席していたルーデル、義父、義母が激怒した。それから、二度とここに来るなと両親を家から追い出したのだった。
それまで義両親と言葉を交わすことはあまり無かったが、どうやら義母も義父も、私がこの家に慣れて、ルーデルと十分に打ち解けてから距離を縮めていこうと思ってたらしい。
両親が帰った後、嫁いできてから貴女は大切な家族だと、彼らは私に言ってくれたのだった。
それから少しずつだが、義両親とも話するようになってきたのである。
ルーデルと結婚したことで、結果的に家族と絶縁することにはなった。けれども、結婚前よりも私の世界は広がり、豊かなものとなっていると感じていた。鳥籠から放たれた鳥のように、私は日々楽しく過ごしているのだから。
「リゼット様は、予定はいつ頃ですの?」
「今年の秋ぐらいの予定ですわ」
「ふふっ、今から楽しみですわね」
帽子と手袋、それに靴下にスタイに……と、産まれてくるまでに作っておきたいものは山のようにあった。今は、帽子に取り掛かっているところだ。折角なので、可愛らしい耳付きにしようと思う。
「旦那様もとっても楽しみにしてらっしゃるんでしょう? 主人から聞きましたわ」
「ええ。でもまだ産まれてないのに、彼ったら過保護すぎて。身体を冷やすなとか重いものを持つなとか無理をするなとか、困ったものですわ」
「ふふっ、うちの主人もそうでしたから。どこのご家庭も似たようなものですわ」
会話の最中にそっと自分のお腹に触れると、胎動が感じられた。それは、魔力を持つ持たないに限らず、かけがえのない存在であった。
沢山準備して、楽しみに待ってるからね。
お腹越しにまだ見ぬ我が子を優しく撫で摩りながら、私は心の中で呟いた。
3
お気に入りに追加
933
あなたにおすすめの小説
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる