僕のもふもふ異世界生活(仮)

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シロさんとこの世界の真実②

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 シリウスがスバルへと変わったあの日から私の生活はまるで変った。シリウスとの生活はただ淡々と人生を消化するだけの日々であったのに、私の前にスバルが現れてからは私の生活には色が付いた。
 今思えばシリウスとの生活は情けない自分を誤魔化す日々で、そんな風にしか生きられない自分に半ば諦めている所もあった。けれど今の私は違う、私はスバルを愛する事で強くなれた。私にとってスバルこそが運命の番であったと、今の私は思うのだ。
 現在私の前には困難な事象が幾つも横たわっている。以前の私だったら挑む前に諦めていたような事ばかりで、きっと自分にはこんな事はどうする事も出来ないと挑みもせずに背を向けていたと思う。
 けれど、私は変わった。変わる事ができた。私を変えたのは愛しいスバルの存在で、私は彼と共に生きる事を最後まで諦めはしない。
 現在私達の置かれている立場はとても微妙なものだ。私は中央で既に極悪のレッテルを貼られた罪人で、そんな私を罪人の断罪の場である煉獄島から連れ出した仲間も全員等しく現在は罪人扱いだ。
 驚いたことに私がシルス遺跡から連れ出され、煉獄島で救出されるまでには十日程の時間を要していたらしく、私にとっては一瞬だったのだが仲間の間ではその十日間の間に色々な事があったらしい。
 話はまず集落の族長の息子ロウヤから。何故ロウヤが集落を出てこんな場所にいるのかと言えば、事の発端は族長の屋敷に仕えていたウルの暴走から始まるらしい。
 ウルは族長の屋敷の使用人ではあるのだが、元を辿ればロウヤの遠い縁戚にあたる。そんなウルは幼い頃は両親と共にイグシードに暮らしており、冒険者であったウルの両親は魔物に襲われ他界したと聞いている。
 その後、族長一家に引き取られロウヤが産まれてからはお目付け役……というか子守りのような役割で常に一緒にいる事の多かった二人だ、ウルの暴走にはロウヤはとても驚いたのだそうだ。

「お前とグレイが集落を出て行ってすぐだ、ウルも突然姿を消した。うちの両親はあらかたの事情を知っていたし、ウルは家族のようなものだ、何か嫌な予感がするからとオレにウルの後を追わせたんだ」

 そんなロウヤに引っ付いてきたのはバジル。バジルは常にはグレイと共に行動している事が多い、そんなグレイが私と共に集落を出てしまったので、それを追いかけるようにバジルもロウヤと共に集落を出たのだそうだ。

「ウルは真っすぐに中央に向かい、お前の親父さんの魔道具を鑑定に出した。ウルにはそれが大賢者クロームに所縁のある物だと分かっていたんだろうな」

 確かにロウヤの言う通りウルはそれを知っていたのだ。それは私が彼にそれを伝えたのだから当然といえば当然なのだが。

「オレ達が中央でウルを見つけ出した時には、ウルはもう少しおかしくなっていた。家族の仇を打つんだって、その為には例え親しくしていた仲間であろうと裏切り者はすべて殺す……って」

 ロウヤは悲しそうに瞳を伏せた。狼の集落は元来仲間意識が強く集落はひとつの家族のように暮らしている。族長の息子であるロウヤにとっては集落の者は本当に全員家族のような存在で、しかもロウヤは集落の中で一番の年少であるので人一倍可愛がられて育っている、そんな中で兄のように自分の面倒を見てくれていたウルが幼馴染である私を討とうとしているその姿にロウヤはずいぶん心を痛めたのだろう。

「オレとバジルだけじゃウルは止められなくて、そんな時にここでシリウスに会ったんだ。シリウスは大賢者ヨセフには近付くなってそう言って、オレ達をここへ連れてきた」

 「ここ」と言うのは私が煉獄島から連れて来られ現在潜伏しているこの場所だ。この建物は何層かに分かれていて一番下の階は飲食店を営んでいる、二階三階は宿屋になっていて、中央に用事のある者、言ってしまえば嫁を娶りに来た者達が滞在する宿屋だ。
 そして現在私達がいるのがそんな建物の四階部分、ここより上は建物の所有者のプライベートスペースになっている。私が暮らしていたノースラッドはガレリア大陸の中では都会の街であったが、それでもここ中央都市に比べたら段違いに田舎である。もちろんこんな高層の建築物など存在せず、都会は違うな……と思わずにはいられない。
 けれど何故シリウスがこの宿屋に私達を連れて来たのかと言えば、この場所が実は中央に不信感を持つ者達の集まる集会場のひとつになっているからなのだ。
 現在私達のいる四階部分、ここには限られた者しか入室できない特別な魔術がかけられている。飲食店と宿屋は言ってしまえばただのカモフラージュで、ここはそんな世界を変えようとしている者達のアジトなのである。
 何故シリウスがそんな奴らとつるんでいるのかと言われたら、これまた話は長くなるのだが、どうも最近中央の様子がおかしいのだと皆が口を揃えて言うのだ。
 中央都市セントラルシティはこの世界の全ての権力の集まる場所だ。そこは勿論富と娯楽の集まる華やかな都市であるのだが、そんなこの都市にやって来た者が昨今かなりの割合で姿を消していたらしい。
 その謎の失踪事件を知った者達はその原因を突き止めようと事件の謎を追い求め、大賢者ヨセフに行きついた。そして地方からやって来た失踪者達は皆、軒並みヨセフの元を訪れたのちに姿を消している事に気付いたのだ。
 勿論ヨセフを訪れたすべての者が姿を消している訳ではない、その中でも特に魔術に秀でた者が失踪している事に気付いた仲間はヨセフを訪ね中央へとやって来たシリウスを見付け目を付けた。シリウスは今まで魔術とは無縁で生きていたのだが、向こうの世界で父親に魔力の封印を解かれ魔術を操れるようになっていたので、ヨセフの標的になるのならば次は奴だと思われたらしい。
 シリウスがヨセフを訪ねて来た理由は大賢者である父親と同じ大賢者であるヨセフにだったら向こうの世界からついて来てしまったミスズを向こうの世界に戻せるのではないか? という考えでの訪問だったのだが、シリウスの父親であるクロームはそれに強固に反対していたらしい。
 理由は一切語らずにヨセフに近付くなと言った所で聞くシリウスではない、シリウスとミスズはヨセフを訪ね、ヨセフに襲われる寸での所で仲間に救われたのだそうだ。そしてその時にシリウスがヨセフから聞いた話が私に語ってくれたこの世界の成り立ちであった。
 「まぁ、それでもまだ分からない事は多いんだけどな……」とシリウスは語る。

「失踪者を誘拐しているのは間違いなくヨセフだ、だけどその理由が分からない。あいつが語ったのはこの世界の成り立ちと、この世界の寿命が近いという事だけだ。それにハゲ親父からの情報を足して、ヨセフはこの世界をどうにかする為にどうやら類稀な魔力を有する者を集めているらしいというのは分った。だが、その消えた失踪者はどうなった? この世界の危機であると言うのなら世界を救う為に自ら力になりたいという者もいるだろう、だがヨセフはそんな者達を募る事もせずに秘密裏に事を運ぼうとしている。そこには何か他人には知られたくないような事情があるのだとオレは思う」
「その事情とやらはまだ分かっていないのか?」
「あぁ、そんな事情を探っていたら今度はお前が捕まったって情報が入ってくるし、裁きの間お前はうんともすんとも反論しないもんだから罪状はそのまま煉獄島に運ばれちまうしで、こっちも大変だったんだぞ!」

 そんな事を言われても私にはその間の記憶が一切ないのだからどうしようもない。

「まぁ、ここにいればとりあえずの身の安全は保障されている、しばらくはヨセフがどう動くか観察だな」
「そんな悠長な事を言っていていいのか?」
「向こうの目論見が分からないのにむやみに動いても意味はないだろう? それに今はハゲ親父も役に立たねぇしな……」

 何故かシリウスが大きなため息で「お前のせいだぞ」とこちらを睨む。

「? どういう意味なのかさっぱり分からないのだが?」
「言っただろう? お前がスバルに手を出すから!」
「それとこれとは別問題だろう!? 確かに家族の許可を取らずにスバルを嫁に娶ったのは悪いと思っている、だがスバルもそれを望んでくれた! 決して私が無理強いした訳ではない!!」
「それがあのハゲに通用すればいいんだがな、あの親父はなかなかに面倒くさいぞ」

 それはもう重々承知している。ヨム老師の証言、父ジロウからの証言、そしてシリウスからの語り口でも大賢者クロームの面倒くささは伝わってくる。だが言い訳や申し開きをしようにもあちらが全く聞く耳を持ってくれないのだ。
 向こうの世界でスバルは父クロームに私をどのように語っているのだろう? もしや万が一無理強いされたと語っていたらどうしよう……と急に弱気な心が湧いてきた。
 確かに私はスバルがこちらの世界の事を何も知らないのをいい事に手の内に囲うようにしてスバルを手に入れたのだ。だがこの世界の事、そして向こうの世界との関係を知り、あまつさえ元の世界に戻った今、私はスバルに必要とされているのだろうか?
 少しだけ覗いた向こうの世界、スバルの傍らには私の知らない『人』がいた。結局私はあの者が誰であったのかすら知りもしない。
 スバルは元の世界で元の生活に戻り、私の事など忘れ暮らしているのかもしれないと思ったら酷く心が落ち込んだ。

「おい、急に黙り込んでどうした?」
「どうやっても私はスバルには会えないのだろうか? 一目でもいいスバルに会いたい」
「あぁ……それな。ハゲ親父が完全にお前の事はシャットアウトしてるから難しいけど、親父だってずっと画面の向こう側にいる訳じゃない、用も足せば飯も食うだろう、そのタイミングでスバルと繋げられればあるいは……元々向こうのスマホは美鈴の兄の物だしな、美鈴にちょっと頼んでみるわ」

 そう言ってシリウスは自分の嫁と豪語するミスズの元へと行ってしまった。シリウスに嫁。
 シリウスが自分の嫁になると信じて疑いもしていなかった自分には妙な響きだ。けれどシリウスとミスズは傍目に見てもお似合いで二人を見ていても私には嫉妬心のひとつも湧きはしない。私達の道はすでに別たれ各々の道を歩き出したのだ、私はそれを不思議な気持ちで受け止めている。
 私には潜伏のためにと部屋を与えられた、部屋にぽつんと残され天井を仰ぐ。スバルと一夜を過ごした南の砦、そこと同じでこの部屋には十分な設備が整っている。仕組みも南の砦とほぼ同じく、必要な物をお願いすれば自動的に出てくる仕組みで不便はないどころか快適過ぎる潜伏生活だ。
 それにしても、こんな快適な空間を維持できる魔術師というのは相当なやり手であるのは間違いがなく、この建物の所有者とは一体何者なのだろうかと首を傾げる。
 実を言えばこのアジトの所有者であり仲間を纏めているボスのような者が存在するらしいのだが、私はまだそれが誰なのか聞かされてはいないのだ。
 ふいに辺りに奇妙なメロディが流れ出し、私はびくりと身を震わせた。音の発生源それはシリウスが忘れていったと思われる『スマホ』と呼ばれる魔道具だ。

「む……これは一体どうすれば――」

 私はその小さな板切れを持ち上げ、首を傾げる。シリウスはそれの表面を撫でるようにしていつも使っているように思うのだが、触っても大丈夫だろうか?
 板の表面はガラス張り、私は爪でそのガラスを傷付けないようにそっと触れてみる、すると板の向こう側から『シリウスさん!?』と聞き覚えのある声が切羽詰まったような声音で聞こえてきた。

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