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橘大樹の受難②
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「美鈴!?」
『え? お兄ちゃん!? なんで!?』
「それはこっちの台詞だ! お前そんな所で何やってるんだ!?」
『えっと――ちょっとした観光?』
「……っ、お前こっちがどれだけ探したと思ってる!? 親父とお袋も心配してるんだぞっ、さっさと帰ってこい!!」
『私もこんなに長居する予定じゃなかったのよ? でも帰れなくなっちゃったのは不可抗力だと思わない?』
呑気な妹は画面の向こうで苦笑していて、俺は大きな溜息を零した。
「なにはともあれ、お前が無事で安心した……」
『ごめん、お兄ちゃん。お父さんとお母さんにも、何となく上手く言っといて』
「そんなもん、無理に決まってるだろう! こっちでは女子高生失踪事件って、連日テレビ取材も押しかけて来てるんだぞ、お前、帰ってきたら覚悟しておけよ!」
『うわぁ……そんな感じなの? もう、私こっちで暮らそうかしら……』
「美鈴!」
どこまでも呑気な妹に安心したが、呑気すぎて頭が痛い。
「とりあえず、連絡はいつでも取れるようにしておけ、いいな!」
『連絡って……この昴のスマホでいけるのかしら? 私のもあるけど、充電はとっくに切れちゃってて使い物にならないのよ?』
「あ、美鈴ちゃんも持ってるんだね、だったらちょうどいいや、それ画面にかざしてくれる?」
『え? こう?』
クロームさんが美鈴に指示を出すと、美鈴がずいっと自分のスマホを画面に向ける。その画面を見やってクロームさんがまた何やらごにょごにょと詠唱を始めると、先程の俺のスマホと同じように美鈴のスマホもぽわっと光りだした。直接打ち込みが出来ないせいか、先程より時間はかかったが、しばらくするとクロームさんはまた「できたっ」と、にこりと笑みを見せた。
『あ、すごい、充電ないのに電源入った!』
「電の精霊を常駐させたから、もう電池切れの心配はないよ☆ ついでにこの三台は繋げといたから、困った事があったら連絡ちょうだい」
『おじさん、ありがとう!』
「いえいえ」と笑みを零すクロームさん。俺がおじさん呼びした時は滅茶苦茶嫌がったくせに美鈴になら呼ばれてもいいのか? 解せない。
「騒々しいけど、どうしたの? なにかあった?」
台所から皿を片手に昴がひょこりと顔を覗かせる。
「今、向こうと繋がってる」
「!?」
ビックリ顔の昴が少し乱暴に皿を置いて、こちらに駆け寄ってきて「シロさんは!?」と、画面の向こうに呼びかけた。
『あ? お前がスバルか? シロウならいないぞ』
「あ……シリウス、さん?」
『おお』
そっくりな顔をした兄弟の邂逅。昴は少し失望の表情を見せ、その後複雑そうな表情に変わる。
「あの、シロさんは何処に?」
『あ? オレが知るわけないだろう? 家にはいなかったし、オレ達は今「大賢者ヨセフ」の館に向かっている。シロウの動向など知らん。そもそもあいつはオレに向って勝手に生きろと言ったんだ、もうオレとは関係のない赤の他人だ!』
「そんな……」
微かに傷付いたような表情を見せる昴とは対照的に「ちょっと待った!!」と声をあげたのはクロームさん。
「待って、待って、なんでヨセフのとこに行くの!? 駄目だよ駄目っ、絶対駄目だからっっ!!」
『あ? だったらどうやって美鈴をそっちに帰せばいいんだよ? 大賢者ならその方法も分かるんだろう?』
「いや、その……ともかく駄目だからっ、北斗君やめて!」
『オレはシリウスだって言ってんだろ!』
ざざっと画像にノイズが走った。クロームさんの表情が厳しくなる。
「やばい、見付かった……んんっ、ともかく駄目だからっ! また連絡するね!」
そう言って、クロームさんはたしっ! と前足で通話を切ってしまった。いやいや待てよ、まだ色々全然話し合い足りてないだろう?!
「パパ、なんで切っちゃうの!?」
「僕が向こうでは犯罪者扱いなの知ってるだろ? 魔力を追われたらこの場所もバレちゃうんだよ、とは言えバレた所でこっちに来る術はないだろうけど、向こうには北斗君と美鈴ちゃんがいるんだから、見付かったら向こうの二人が危ないんだよ」
「それは美鈴も危ないって事ですか!?」
「美鈴ちゃん、向こうでは大事に保護されている『人』だから、よっぽどの事はないと思うけど、ヨセフは駄目だよ、駄目なんだ」
「大賢者ヨセフさん?」
「そう、大賢者の中で一番偉い人。僕と肩書きは同じだけど、僕なんて未だにひよっこ扱いの怖い人だよ」
いつも何処か子供っぽいクロームさんがやけに真剣な表情だ。
「そんなに怖い人なの?」
「一説には向こうの世界の創世から生きてるって噂されている人だよ。そんでもって、現在僕を封印してる人でもある。北斗君が僕の息子だってバレたら、問答無用で北斗君も封印されちゃうよ!」
なんという事だ、味方だと思ったら敵だったパターンか。敵の手の内に自ら飛び込もうと言うのだから、それはクロームさんも慌てる訳だ。「早く北斗君を連れ戻さなきゃ」とクロームさんは言うのだけれど、まずは連れ戻す為の魔力が足りない訳で……
「とりあえず、さっさとひと狩り行かないとですね」
「なんか大樹さん、段々こっちの世界に馴染んできたよね……」
昴に少し呆れたような表情をされたが、そりゃあな、現実を目の前に突きつけられているのだ、それがいかに非現実的でもいちいち拒絶していたら、何も始まらない。だったら、目の前で起こっている事を素直に受け入れ行動して行くしかないじゃないか。
「戦の前に腹ごしらえ、なんなら明朝と言わず、飯喰ったら行きますか?」
「僕ね、こっちの世界にきてしみじみ思うんだけど、『人』はみんな生き急ぎ過ぎだから。寿命が短いのは分かっているけど、そういう無茶ばっかりしてると、ただでさえ短い命縮めるよ?」
「善は急げって言うでしょう?」
「急がば回れって言葉もあるって、僕知ってるよ!」
「はいはい分かった。とりあえず、ご飯できたから、冷めないうちに食べちゃって」
昴に促されて食卓についたのだが、昴が存外料理上手な事に驚いた。これはいい嫁になりそうだ。
そうか、嫁か……向こうとこっちのハーフな昴はどうやら子を孕める身体らしいし、こんな人外の姿ではろくすっぽ外に出る事もできやしない。もふもふの尻尾と耳はとても魅力的だし、いざとなったら自分が嫁にもらうのもやぶさかではないな、なんて思ってしまった事はとりあえず黙っておこう。
『え? お兄ちゃん!? なんで!?』
「それはこっちの台詞だ! お前そんな所で何やってるんだ!?」
『えっと――ちょっとした観光?』
「……っ、お前こっちがどれだけ探したと思ってる!? 親父とお袋も心配してるんだぞっ、さっさと帰ってこい!!」
『私もこんなに長居する予定じゃなかったのよ? でも帰れなくなっちゃったのは不可抗力だと思わない?』
呑気な妹は画面の向こうで苦笑していて、俺は大きな溜息を零した。
「なにはともあれ、お前が無事で安心した……」
『ごめん、お兄ちゃん。お父さんとお母さんにも、何となく上手く言っといて』
「そんなもん、無理に決まってるだろう! こっちでは女子高生失踪事件って、連日テレビ取材も押しかけて来てるんだぞ、お前、帰ってきたら覚悟しておけよ!」
『うわぁ……そんな感じなの? もう、私こっちで暮らそうかしら……』
「美鈴!」
どこまでも呑気な妹に安心したが、呑気すぎて頭が痛い。
「とりあえず、連絡はいつでも取れるようにしておけ、いいな!」
『連絡って……この昴のスマホでいけるのかしら? 私のもあるけど、充電はとっくに切れちゃってて使い物にならないのよ?』
「あ、美鈴ちゃんも持ってるんだね、だったらちょうどいいや、それ画面にかざしてくれる?」
『え? こう?』
クロームさんが美鈴に指示を出すと、美鈴がずいっと自分のスマホを画面に向ける。その画面を見やってクロームさんがまた何やらごにょごにょと詠唱を始めると、先程の俺のスマホと同じように美鈴のスマホもぽわっと光りだした。直接打ち込みが出来ないせいか、先程より時間はかかったが、しばらくするとクロームさんはまた「できたっ」と、にこりと笑みを見せた。
『あ、すごい、充電ないのに電源入った!』
「電の精霊を常駐させたから、もう電池切れの心配はないよ☆ ついでにこの三台は繋げといたから、困った事があったら連絡ちょうだい」
『おじさん、ありがとう!』
「いえいえ」と笑みを零すクロームさん。俺がおじさん呼びした時は滅茶苦茶嫌がったくせに美鈴になら呼ばれてもいいのか? 解せない。
「騒々しいけど、どうしたの? なにかあった?」
台所から皿を片手に昴がひょこりと顔を覗かせる。
「今、向こうと繋がってる」
「!?」
ビックリ顔の昴が少し乱暴に皿を置いて、こちらに駆け寄ってきて「シロさんは!?」と、画面の向こうに呼びかけた。
『あ? お前がスバルか? シロウならいないぞ』
「あ……シリウス、さん?」
『おお』
そっくりな顔をした兄弟の邂逅。昴は少し失望の表情を見せ、その後複雑そうな表情に変わる。
「あの、シロさんは何処に?」
『あ? オレが知るわけないだろう? 家にはいなかったし、オレ達は今「大賢者ヨセフ」の館に向かっている。シロウの動向など知らん。そもそもあいつはオレに向って勝手に生きろと言ったんだ、もうオレとは関係のない赤の他人だ!』
「そんな……」
微かに傷付いたような表情を見せる昴とは対照的に「ちょっと待った!!」と声をあげたのはクロームさん。
「待って、待って、なんでヨセフのとこに行くの!? 駄目だよ駄目っ、絶対駄目だからっっ!!」
『あ? だったらどうやって美鈴をそっちに帰せばいいんだよ? 大賢者ならその方法も分かるんだろう?』
「いや、その……ともかく駄目だからっ、北斗君やめて!」
『オレはシリウスだって言ってんだろ!』
ざざっと画像にノイズが走った。クロームさんの表情が厳しくなる。
「やばい、見付かった……んんっ、ともかく駄目だからっ! また連絡するね!」
そう言って、クロームさんはたしっ! と前足で通話を切ってしまった。いやいや待てよ、まだ色々全然話し合い足りてないだろう?!
「パパ、なんで切っちゃうの!?」
「僕が向こうでは犯罪者扱いなの知ってるだろ? 魔力を追われたらこの場所もバレちゃうんだよ、とは言えバレた所でこっちに来る術はないだろうけど、向こうには北斗君と美鈴ちゃんがいるんだから、見付かったら向こうの二人が危ないんだよ」
「それは美鈴も危ないって事ですか!?」
「美鈴ちゃん、向こうでは大事に保護されている『人』だから、よっぽどの事はないと思うけど、ヨセフは駄目だよ、駄目なんだ」
「大賢者ヨセフさん?」
「そう、大賢者の中で一番偉い人。僕と肩書きは同じだけど、僕なんて未だにひよっこ扱いの怖い人だよ」
いつも何処か子供っぽいクロームさんがやけに真剣な表情だ。
「そんなに怖い人なの?」
「一説には向こうの世界の創世から生きてるって噂されている人だよ。そんでもって、現在僕を封印してる人でもある。北斗君が僕の息子だってバレたら、問答無用で北斗君も封印されちゃうよ!」
なんという事だ、味方だと思ったら敵だったパターンか。敵の手の内に自ら飛び込もうと言うのだから、それはクロームさんも慌てる訳だ。「早く北斗君を連れ戻さなきゃ」とクロームさんは言うのだけれど、まずは連れ戻す為の魔力が足りない訳で……
「とりあえず、さっさとひと狩り行かないとですね」
「なんか大樹さん、段々こっちの世界に馴染んできたよね……」
昴に少し呆れたような表情をされたが、そりゃあな、現実を目の前に突きつけられているのだ、それがいかに非現実的でもいちいち拒絶していたら、何も始まらない。だったら、目の前で起こっている事を素直に受け入れ行動して行くしかないじゃないか。
「戦の前に腹ごしらえ、なんなら明朝と言わず、飯喰ったら行きますか?」
「僕ね、こっちの世界にきてしみじみ思うんだけど、『人』はみんな生き急ぎ過ぎだから。寿命が短いのは分かっているけど、そういう無茶ばっかりしてると、ただでさえ短い命縮めるよ?」
「善は急げって言うでしょう?」
「急がば回れって言葉もあるって、僕知ってるよ!」
「はいはい分かった。とりあえず、ご飯できたから、冷めないうちに食べちゃって」
昴に促されて食卓についたのだが、昴が存外料理上手な事に驚いた。これはいい嫁になりそうだ。
そうか、嫁か……向こうとこっちのハーフな昴はどうやら子を孕める身体らしいし、こんな人外の姿ではろくすっぽ外に出る事もできやしない。もふもふの尻尾と耳はとても魅力的だし、いざとなったら自分が嫁にもらうのもやぶさかではないな、なんて思ってしまった事はとりあえず黙っておこう。
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