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シロさんの試練④
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「今のは何だ? 新手の魔物の攻撃か?」
襲い来る魔物の向こう側、何故か魔物が爆発音と共に吹き飛んだ。攻撃魔法はウルの得意とする所だが、ウルは全く見当違いの方向を向いていて、それが何だか分からなかった自分はつい怪訝な表情をしてしまう。
「シロウ、今のはお前か?」
「いや、私は攻撃魔法は使えない。ウルじゃないのか?」
「今のは私じゃありません」
ウルが即座に否定する。だったら今の爆発は一体なんだ? そんな事を思っている間にも魔物は次から次へと寄ってきて、深く考えている暇もない。
「とりあえず、こっちに被害がないなら良し」
グレイの言葉に皆が頷く、まぁ、その言葉は間違ってはいないのだけれど、分からない事を分からないままに放置するのはどうかと思う。
しばらくすると、今度はやはり目立った攻撃ではないのだが、次々に小さな魔物が目の前で霧散し始めて私達は首を傾げた。
「これ、なに?」
怪訝な様子のバジルに「よく分からないが、雑魚は放っておけって事じゃないか?」とグレイは大物に狙いを絞る。何者かが戦闘に参加している、だがそれは一体誰だ? しかも何の目的で? 疑問ばかりが頭を巡る、けれど小さな雑魚が問答無用で片付いていくのはとてもありがたい。
大きな魔物は切り分けると分裂する、なので倒すには急所を狙う必要がある。ついでに言うのなら魔物肉は食べられるのだが、食べられる部分は非常に少ない。だから個人で食べる分には食料にもなるが小さな魔物は食材としてあまり役に立たない。基本は大物を倒し分裂する為の機能を破壊して肉を削ぎ落とす。今回は食料を獲る為の狩りではないので、基本倒した魔物は放置だが、大物を倒せばその肉に小さな魔物は寄って行き、その肉を喰らう。同族だろうがなんだろうが、魔物はそんな事は関係なく、そこに食料があるから喰らうのだ。それはとても魔物らしい行動なのだが、見るたび嫌な気持ちになる。
「シロウ、見えてきたぞ」
ロウヤの指差す先、南の砦が見えてきた。あそこでスバルは私の迎えを待っている。はやる気持ちを抑えて前を向く、前方からは一段と大きな魔物がずるりずるりとこちらへ向かってやって来るのが見えた。
「これはまた一段と大きいな」
口笛を吹くようにしてバジルが笑い、また先頭をきって駆けて行く。先鋒はバジル、二番手はグレイ、後方からウルが援護して、ロウヤはそんな彼等の取りこぼしをフォローする。
ある意味もうそれだけでこの形は出来上がっていて、私の出来る事などほぼないと言ってもいい。私のできる事と言ったら、何も考えずに突っ込んでいくバジルに防御魔法をかけたり、暴れ出した魔物に攻撃される事の多いグレイの傷を回復したり、少し足の遅いウルに補助魔法をかけたりと、そんな地味なサポートくらいしかできなくて、これでいいのか? と少々悲しくなる。
せっかく父の部屋から拝借してきた武具の爪がほとんど何の役にも立っていない。
とはいえ、元々自分は前に出て積極的に戦闘に参加するタイプではないし、攻撃力がそれほどでもないのも悲しいかな理解している。
「あっれぇ……? こいつ、予想外に硬いぞ?」
先鋒きって攻撃を仕掛けたバジルが、弾かれるようにころりと転がった。バジルの攻撃は俊敏だが少しばかり軽い。急所を狙い仕留める闘い方なのだが、敵が硬いと彼の武器では歯が立たない事もあって、舌打ちを打つように彼は下がった。
「だったら、ここは俺の出番だな」
そう言って前に出たのはグレイ。彼はシリウスと同じに剣を扱う、重量級のその大剣は魔物の肉を綺麗に削ぎ落とす。だが、それだけでは魔物は分裂するだけで倒すには至らない。
「おい! こいつの急所は何処だ?」
「んん……ちょっと待って、えっと……あぁ、面倒くさいな、こいつの急所、後ろ側、頭の上だ」
グレイの問いに、動体視力の優れているバジルが即座に答えを返すのだが、どうやらその大物の急所はその魔物の背中側にあるようで、グレイも「それは面倒だな」と、苦笑した。
本来ならば身軽なバジルが隙を突いて攻撃する形になるのだが、どうやら目の前の魔物は鱗が硬く、バジルの武器では歯が立たない。グレイの剣ならばその硬鱗を貫けるだろうが、その急所は敵の背面上部で、そこまで身の軽くないグレイではそこに辿り着くのも一苦労だ。というか、そもそもグレイが扱うのは両手剣、魔物を登っていくのは難しい。
「だったら次は、私の出番ですね」
次に前に出てきたのはウル、狙いを定めるようにして魔物の急所目がけて魔法攻撃を仕掛けるのだが、その攻撃は弾かれたようにこちらへと戻ってきた。
「うおっ、あっぶね……ウルぅ!!」
「っと……こいつは厄介ですね、魔法防御がかかっている。下手に攻撃したらこちらが危ない」
ウルが悔しそうに、後方に下がり「だったらいよいよもってオレの出番だな!」と、前に出てきたロウヤの前に腕を上げ、私はそれを止める。
「私が行く」
「は? シロウ、無茶言うな! お前今まであんな大物相手にしたことあるのかよ!」
「ない、だが、これは私が受けなければならない試練なのだと思う。お前達に、守られてスバルを取り戻しても意味がない。私ならヤツの体を登る事ができる、この爪と拳があればあの硬い鱗も貫ける」
「シロウ、そんなにそいつが大事か?」
「そんなの当たり前だろう?」
グレイの言葉に即答で返すと、グレイは一瞬瞳を伏せて、その後すぐに「分かった」と、頷いた。
「俺とバジルで囮になる、ヤツが後ろを向いたら駆け上がれ、ロウヤとウルはシロウの補佐だ」
さすがに年長者と言うべきか、グレイの言葉に逆らう者は誰もいない。即座に動いたバジルは魔物の眼前で刺さらないのは承知の上で挑発的にナイフを投げつける。
魔物の目は緩慢にだがバジルの方を向き、その隙を狙うようにグレイがその足を削ぎにかかった。囮+足止め、魔物の背後に回り込み、その背に爪を立てた。確かに鱗は硬いのだが、父が使っていたであろうその武具は、存外鋭利であるようで、魔物のその硬い鱗になんなく食い込んだ。
体の大きな魔物の痛覚は脳に到達するまでに時間がかかる、その爪でぶら下がるようにして足場を確保しまた這い上がる。そのうち魔物は何者かが自分の体をよじ登っている事に気が付いたのだろう、体を揺らすようにして払おうとするのだが、魔物の体にがっちり爪を立て、振り払われるものか! とへばりついた。
ウルとロウヤが、魔物の気を逸らすように攻撃を仕掛けると、魔物はそちらに気を取られ、私はまたその背を登り始めた。
魔物の急所には核がある。その赤い宝石にも似た核を砕いてしまえば魔物はもう分裂をする事も出来なくなる。核はただでさえ硬い魔物の後頭部、鱗が何重にも覆うようにして埋没していた。その鱗に爪を立てると表皮のような鱗は剥がれるのだが、一突きでは砕く事は出来なかった。
「くっ……」
けたたましい叫びを上げて、死に物狂いで暴れ出す魔物。私はそれにまたしがみつく。ここまできて振り落とされたらそれこそ皆の笑いものだ。
『格闘家』の免状を持っていても、私の役割はどちらかと言えば補佐である事が多く、それは自分の性格ゆえ、今まで前に出て行く事が出来なかった。
『筋は悪くないのだが、その性格では格闘家としてのこれ以上のレベルアップは望めないかもしれないな。なにせお前は闘争心がなさすぎる、これは格闘家としては致命的だ』
師事を仰いだ師匠はそう言って苦笑した。それでも、見捨てる事なく最後まで、その技と術を指導してくれた師匠に私は感謝しているのだ。
シリウスと共にいた時、私は前に出る必要がなかった。何故なら私の前には常にシリウスが立ち塞がっていたからだ。けれど、今は違う、私が前に立たねばスバルは簡単に魔物に食われてしまうだろう。
守らなければいけない、自身が守られていては守るべきスバルを守れない。
暴れる魔物、利き手と反対の爪を鱗に食い込ませて、体勢を整える。
「これで、トドメだっ!!」
拳に力を込めて肉を削ぐように核を抉り取る。その核を握り潰すように粉砕すると、けたたましい咆哮を上げて魔物は暴れ狂う。だが、核を破壊してしまえば魔物はもう分裂もできない、囮になっていたグレイがその体を大剣で切り裂き、ロウヤもそれに続く。
轟く咆哮、だが次第にその声は小さくなり、魔物は倒れ、私は宙に放り出された。
「おい、大丈夫か? シロウ?」
転がる私に駆け寄って来たロウヤ。
「……やった……」
「ん?」
「やった! ロウヤ!! 私はこの手で、魔物の核を粉砕したぞ! 見たか、ロウヤ! 私は……!!」
「おま、ちょっと落ち着け! いや、興奮する気持ちは分かるけどな。すげぇよ、お前、まさか本当にやっちまうとは思わなかった」
興奮が治まらない。いつでも他人の陰に隠れ、何も出来ない自分の何もかもを諦めていた、けれど出来た。今まで近寄る事すら出来なかった巨大な魔物の核を粉砕できた。一人ではできなかった、だが、それでも物凄い快挙だ。
「よくやったな、シロウ」
グレイがポンとその大きな掌を頭に乗せてくる。子供扱いか!? と、思わなくもないが、今はいい。私はちゃんと成長している、それが分かっただけで充分だ。
「シロウ、これ、持ってけよ」
バジルが持っていたのは赤い石の欠片、これは魔物の核の一部か?
「お前の戦利品だ。売れるような物じゃないが、今日の記念だ」
バジルはそう言ってにっと笑うと、私にその石を投げて寄越した。
「魔物の核は魔道具の部品に使える場合もある、貰っておけ」と、魔闘士のウルは私の背を叩いた。私が倒した魔物の核。その小さな欠片を握りこみ、スバルを想う。
スバルが私を変えてくれた、シリウスと共に暮らしていた時には得られなかった高揚感。叫びだしたい気持ちを抑えて砦を見やる。もう、砦までは目と鼻の先だった。
※ ※ ※
「コテツ様、コテツ様! コテツ様!!」
「あはは、なぁに?」
興奮治まらない僕がコテツ様の名前を連呼すると、コテツ様は可笑しそうに笑みを浮かべて、僕を見やる。
だって、シロさんが魔物をやっつけた! あんな大きな魔物なのに素手で登って、何か背中のきらきらしたのを握り潰したんだ! そしたら、魔物が倒れて……凄い! よく分からないけどシロさん凄い!!
「シロさんがあんな大きな魔物を、倒すなんて!」
いつもへばっている僕を抱えて逃げ回るばっかりのシロさん、僕が足手纏いなのは重々承知の上で、それでもやはりシロさんはそこまで戦闘が得意ではないのだと思っていた。本人もそれは認めていたし、たぶん周りもそう思っている、でも、シロさんはやればできる男だった。
「シロウに惚れ直した?」
ぶんぶんと首を縦に振る僕は、もうシロさんに抱き付きたくて仕方がないよ。
「もう、すぐそこだから、いまに来るよ。ふふ……私も体裁を整えないと」
すっかり寛ぎモードに入っていたコテツ様が、立ち上がって身支度を整える。あぁ、そういえば、僕はコテツ様に攫われてきた事になってるんだっけ? 今になってみれば、そんなのどうでもいい気がするんだけど……
「あの、もしかして、僕がここでコテツ様と水晶球でずっとシロさん達を見ていた事はシロさんには言わない方がいい感じですか?」
「別にシロウには言っても構わないよ。ただシロウがうちの若衆を連れてきちゃったからね、次に彼等がこの試練にぶち当たった時、ネタバレしていたら面白くないだろう? シロウが来たら私は、若衆を連れて早々に撤退するから、後は二人でいちゃいちゃしたらいいよ」
コテツ様がぱちんと片目を瞑り、意味深な言葉を言ってのける。これってアレだ、最初に言っていた『命を危険に晒されると種の防衛本能が働くのか、この試練が終わった直後のアレって本当に激しいよぉ』って、アレだ。
僕の顔に朱が昇る。そんな僕を人の悪い笑みで見ているコテツ様、ちょっと意地悪だ。
「因みに帰る時はこの部屋で扉をイメージして、その扉が君達の帰る家へと繋がるよ」
この魔法の部屋は本当にとても便利仕様だ。誰が作ったのかな? コテツ様かな? 魔導師であるコテツ様の魔術は本当に凄い、僕もこんな風に簡単に魔法が操れるようになったらいいのに。
「コテツ様、もし僕に魔術を教えてくださいってお願いしたら、僕に魔術を教えてくださいますか?」
「ん? 別にいいよ。私はある意味それが専門みたいなものだからね」
「魔術の先生?」
「魔導師って言うのはその言葉の通り魔術という道に導く者だよ。魔術師は魔術が使えるだけの人、魔導師はその道を正しく導く魔術のプロフェッショナル」
「あれ? だとするとノースラッドのヨム老師より、コテツ様の方が資格的には上なんですか?」
あれ? でも待って、ヨム老師ってそういえば魔導士だってビットさん言ってたっけ? そんな話を聞いた時にはまだ免状の事もろくすっぽ理解してなかったからよく分からないや。
「ヨム老師は私より上の『賢者』だよ。この世界でも賢者と名乗れる者の数は少ない、目立つ事を嫌うヨム老師はその資格をあまり公にはしていないから、知らない者も多いと思うけどね」
賢者……そうなんだ。実はヨム老師って凄い人だったんだね。
「スバル君がしばらくこの町に滞在する気があるのなら、私が面倒をみるのもやぶさかじゃないし、ノースラッドに戻るのなら師匠はヨム老師でもいいと思う。ただ、私は散々シロウを怒らせる事を言ったからね、シロウはすぐにでも君を連れてノースラッドに帰ると言い出すかもしれないね。とは言え、スバル君なら転移魔法もすぐに覚えられるだろうし、そうなったら転移魔法で通って来るという手もあるかな……」
そうか、確かに転移魔法が使えるようになれば、わざわざここまで徒歩でやって来る必要はなくなる。魔法って本当に便利!
「シロさんは僕が説得します! それに僕達、まだこの町にやって来た目的を全然全く果たせてないですし、まだ帰らないですよ」
「あぁ、そういえばビットから聞いているよ。確かシリウスが持っていた、何か不思議な魔道具? の中身が知りたくて来たんだっけ?」
「はい、これなんですけど……」
僕は鞄の中に押し込んだ巾着袋の中からSDカードを取り出してコテツ様に見せてみた。
「へぇ、こんな魔道具、私も初めて見たよ。この中に何かが入っているのかい?」
「たぶん恐らく……これと一緒に写真も入っていたので、たぶんこれのデータじゃないかと……」
僕は続けて写真の印刷されていた紙を手渡す。そこに映った画像にコテツ様もビットさん同様の驚いたような反応を見せた後に、ある一枚の写真を指差し「この場所には見覚えがあるね」と、そう言った。
「え!? 本当ですか!?」
コテツ様が指差した写真、それは風景写真だった。誰かを被写体に撮ったと言うよりは、街並みを撮ったような写真で、どうやらその光景にコテツ様は見覚えがあるらしい。
「うん、これ中央だよ。ここのほら、大きな建物があるだろう? ここに人が住んでいる」
手前は市場っぽい風景なのだが、その写真の奥、そこには城のように聳え立つ建物が見て取れた。この写真では一部を切り取られているだけなのでその大きさは窺い知る事もできないのだが、どうやらそこが『人』の暮らす場所なのだとコテツ様はそう言った。
「中央……」
「こっちの可愛い子達はスバル君と……シリウス?」
「いえ、僕と僕の双子の兄の北斗です」
「え? あれ……? でも、これどう見てもシリウスだよね?」
「僕はシリウスさんを知らないので、なんとも言えないんですけど、こっちが僕でこっちは北斗のはずなんです。僕の家にも似たような写真が残っているので、それは間違いないはずなんです」
「でも、君はさっき君のいた世界には私達みたいな者はいないと言ってなかった? この子には猫耳があるけど? 君の世界にはこういう子はいないんじゃなかったの?」
コテツ様の疑問は的を射ている。確かに僕の世界の人間には頭に耳は生えていない。だから僕はそれをただの飾りだと思っていたのだ。だけどもしかしたらそれは本当に今の僕のように直接頭に生えている耳である可能性を今となっては否定出来ない。
「まだ、はっきりしないんですけど、もしかしたら僕の兄の北斗がこの世界のシリウスさんである可能性を僕は否定できません……」
「あれ? だったら君の世界のホクト君は?」
「両親が離婚して、北斗は父に引き取られました。だから僕はこの頃から北斗に会っていないんです」
「へぇ、そうなんだ? 不思議だねぇ?」と、コテツ様は小首を傾げた。
「だとしたら、君は異世界からこの世界にやって来たと言っていたけど、もしかしたら君の元居た世界とこの世界はどこかで繋がっているのかもしれないね。というか、むしろ同じ世界だったりはしないの? 君はもしかして中央からやって来ただけだったりとか……?」
「そんな筈は……だって僕はこんな建物を見た事がありません。これは中央なんですよね?」
「うん、それは間違いないと思うよ」
「確かに僕の住む世界には『人』しかいなかったですけど、まさかそんな事ってあります?」
僕の暮らす世界は狭い。何故なら母が職を変えるたび、あちこちに連れ回されはしたが僕はそのほとんどを覚えていないからだ。僕の生活は家と預けられる施設との往復で、今でこそ自由に一人で行動も出来ているけれど、それは暮らしていた街の中限定で、一人で街の外に出た事もない。
ただ、それでも毎日のように見ていたTVの中には広大な世界があったし、地球が丸い事だって僕は知っている、この世界は僕の暮らしていた世界とは似ても似つかないのだから、僕の暮らしていた街が『中央』だったなんて、そんな事はないはず……ないはずだけど……
だけど僕の確信は僕だけのもので、誰もこの世界でそれを肯定してくれる人間なんていないんだ。そして僕の兄である北斗がシリウスさんであるのなら、やはり僕の世界とこの世界はどこかで繋がっているのだと、僕は信じざるを得ないのだ。
謎は増える一方で、僕が頭を抱えていると、俄かに大きな声が聞こえた。
「スバル! スバル、何処だ!?」
「あ、シロウが来たね。それじゃあ、私は行ってくるよ、スバル君はもう少しここで待っていてね」
そう言い置いてコテツ様の姿が掻き消えた。あぁ、これが転移魔法? 僕にもこれ、できるようになるのかな?
少し、待っていてと言われても、どのくらい待っていればいいのか分からない僕は途方に暮れる。思っていたよりシロさんの南の砦への到着は早くて僕はそわそわしてしまう。
どうにも落ち着かない僕はぽんとひとつ拍手を打つ。すると、部屋の壁のランプがぽっと灯った。うん、いい感じ、ちょっとしばらく練習してよ……
襲い来る魔物の向こう側、何故か魔物が爆発音と共に吹き飛んだ。攻撃魔法はウルの得意とする所だが、ウルは全く見当違いの方向を向いていて、それが何だか分からなかった自分はつい怪訝な表情をしてしまう。
「シロウ、今のはお前か?」
「いや、私は攻撃魔法は使えない。ウルじゃないのか?」
「今のは私じゃありません」
ウルが即座に否定する。だったら今の爆発は一体なんだ? そんな事を思っている間にも魔物は次から次へと寄ってきて、深く考えている暇もない。
「とりあえず、こっちに被害がないなら良し」
グレイの言葉に皆が頷く、まぁ、その言葉は間違ってはいないのだけれど、分からない事を分からないままに放置するのはどうかと思う。
しばらくすると、今度はやはり目立った攻撃ではないのだが、次々に小さな魔物が目の前で霧散し始めて私達は首を傾げた。
「これ、なに?」
怪訝な様子のバジルに「よく分からないが、雑魚は放っておけって事じゃないか?」とグレイは大物に狙いを絞る。何者かが戦闘に参加している、だがそれは一体誰だ? しかも何の目的で? 疑問ばかりが頭を巡る、けれど小さな雑魚が問答無用で片付いていくのはとてもありがたい。
大きな魔物は切り分けると分裂する、なので倒すには急所を狙う必要がある。ついでに言うのなら魔物肉は食べられるのだが、食べられる部分は非常に少ない。だから個人で食べる分には食料にもなるが小さな魔物は食材としてあまり役に立たない。基本は大物を倒し分裂する為の機能を破壊して肉を削ぎ落とす。今回は食料を獲る為の狩りではないので、基本倒した魔物は放置だが、大物を倒せばその肉に小さな魔物は寄って行き、その肉を喰らう。同族だろうがなんだろうが、魔物はそんな事は関係なく、そこに食料があるから喰らうのだ。それはとても魔物らしい行動なのだが、見るたび嫌な気持ちになる。
「シロウ、見えてきたぞ」
ロウヤの指差す先、南の砦が見えてきた。あそこでスバルは私の迎えを待っている。はやる気持ちを抑えて前を向く、前方からは一段と大きな魔物がずるりずるりとこちらへ向かってやって来るのが見えた。
「これはまた一段と大きいな」
口笛を吹くようにしてバジルが笑い、また先頭をきって駆けて行く。先鋒はバジル、二番手はグレイ、後方からウルが援護して、ロウヤはそんな彼等の取りこぼしをフォローする。
ある意味もうそれだけでこの形は出来上がっていて、私の出来る事などほぼないと言ってもいい。私のできる事と言ったら、何も考えずに突っ込んでいくバジルに防御魔法をかけたり、暴れ出した魔物に攻撃される事の多いグレイの傷を回復したり、少し足の遅いウルに補助魔法をかけたりと、そんな地味なサポートくらいしかできなくて、これでいいのか? と少々悲しくなる。
せっかく父の部屋から拝借してきた武具の爪がほとんど何の役にも立っていない。
とはいえ、元々自分は前に出て積極的に戦闘に参加するタイプではないし、攻撃力がそれほどでもないのも悲しいかな理解している。
「あっれぇ……? こいつ、予想外に硬いぞ?」
先鋒きって攻撃を仕掛けたバジルが、弾かれるようにころりと転がった。バジルの攻撃は俊敏だが少しばかり軽い。急所を狙い仕留める闘い方なのだが、敵が硬いと彼の武器では歯が立たない事もあって、舌打ちを打つように彼は下がった。
「だったら、ここは俺の出番だな」
そう言って前に出たのはグレイ。彼はシリウスと同じに剣を扱う、重量級のその大剣は魔物の肉を綺麗に削ぎ落とす。だが、それだけでは魔物は分裂するだけで倒すには至らない。
「おい! こいつの急所は何処だ?」
「んん……ちょっと待って、えっと……あぁ、面倒くさいな、こいつの急所、後ろ側、頭の上だ」
グレイの問いに、動体視力の優れているバジルが即座に答えを返すのだが、どうやらその大物の急所はその魔物の背中側にあるようで、グレイも「それは面倒だな」と、苦笑した。
本来ならば身軽なバジルが隙を突いて攻撃する形になるのだが、どうやら目の前の魔物は鱗が硬く、バジルの武器では歯が立たない。グレイの剣ならばその硬鱗を貫けるだろうが、その急所は敵の背面上部で、そこまで身の軽くないグレイではそこに辿り着くのも一苦労だ。というか、そもそもグレイが扱うのは両手剣、魔物を登っていくのは難しい。
「だったら次は、私の出番ですね」
次に前に出てきたのはウル、狙いを定めるようにして魔物の急所目がけて魔法攻撃を仕掛けるのだが、その攻撃は弾かれたようにこちらへと戻ってきた。
「うおっ、あっぶね……ウルぅ!!」
「っと……こいつは厄介ですね、魔法防御がかかっている。下手に攻撃したらこちらが危ない」
ウルが悔しそうに、後方に下がり「だったらいよいよもってオレの出番だな!」と、前に出てきたロウヤの前に腕を上げ、私はそれを止める。
「私が行く」
「は? シロウ、無茶言うな! お前今まであんな大物相手にしたことあるのかよ!」
「ない、だが、これは私が受けなければならない試練なのだと思う。お前達に、守られてスバルを取り戻しても意味がない。私ならヤツの体を登る事ができる、この爪と拳があればあの硬い鱗も貫ける」
「シロウ、そんなにそいつが大事か?」
「そんなの当たり前だろう?」
グレイの言葉に即答で返すと、グレイは一瞬瞳を伏せて、その後すぐに「分かった」と、頷いた。
「俺とバジルで囮になる、ヤツが後ろを向いたら駆け上がれ、ロウヤとウルはシロウの補佐だ」
さすがに年長者と言うべきか、グレイの言葉に逆らう者は誰もいない。即座に動いたバジルは魔物の眼前で刺さらないのは承知の上で挑発的にナイフを投げつける。
魔物の目は緩慢にだがバジルの方を向き、その隙を狙うようにグレイがその足を削ぎにかかった。囮+足止め、魔物の背後に回り込み、その背に爪を立てた。確かに鱗は硬いのだが、父が使っていたであろうその武具は、存外鋭利であるようで、魔物のその硬い鱗になんなく食い込んだ。
体の大きな魔物の痛覚は脳に到達するまでに時間がかかる、その爪でぶら下がるようにして足場を確保しまた這い上がる。そのうち魔物は何者かが自分の体をよじ登っている事に気が付いたのだろう、体を揺らすようにして払おうとするのだが、魔物の体にがっちり爪を立て、振り払われるものか! とへばりついた。
ウルとロウヤが、魔物の気を逸らすように攻撃を仕掛けると、魔物はそちらに気を取られ、私はまたその背を登り始めた。
魔物の急所には核がある。その赤い宝石にも似た核を砕いてしまえば魔物はもう分裂をする事も出来なくなる。核はただでさえ硬い魔物の後頭部、鱗が何重にも覆うようにして埋没していた。その鱗に爪を立てると表皮のような鱗は剥がれるのだが、一突きでは砕く事は出来なかった。
「くっ……」
けたたましい叫びを上げて、死に物狂いで暴れ出す魔物。私はそれにまたしがみつく。ここまできて振り落とされたらそれこそ皆の笑いものだ。
『格闘家』の免状を持っていても、私の役割はどちらかと言えば補佐である事が多く、それは自分の性格ゆえ、今まで前に出て行く事が出来なかった。
『筋は悪くないのだが、その性格では格闘家としてのこれ以上のレベルアップは望めないかもしれないな。なにせお前は闘争心がなさすぎる、これは格闘家としては致命的だ』
師事を仰いだ師匠はそう言って苦笑した。それでも、見捨てる事なく最後まで、その技と術を指導してくれた師匠に私は感謝しているのだ。
シリウスと共にいた時、私は前に出る必要がなかった。何故なら私の前には常にシリウスが立ち塞がっていたからだ。けれど、今は違う、私が前に立たねばスバルは簡単に魔物に食われてしまうだろう。
守らなければいけない、自身が守られていては守るべきスバルを守れない。
暴れる魔物、利き手と反対の爪を鱗に食い込ませて、体勢を整える。
「これで、トドメだっ!!」
拳に力を込めて肉を削ぐように核を抉り取る。その核を握り潰すように粉砕すると、けたたましい咆哮を上げて魔物は暴れ狂う。だが、核を破壊してしまえば魔物はもう分裂もできない、囮になっていたグレイがその体を大剣で切り裂き、ロウヤもそれに続く。
轟く咆哮、だが次第にその声は小さくなり、魔物は倒れ、私は宙に放り出された。
「おい、大丈夫か? シロウ?」
転がる私に駆け寄って来たロウヤ。
「……やった……」
「ん?」
「やった! ロウヤ!! 私はこの手で、魔物の核を粉砕したぞ! 見たか、ロウヤ! 私は……!!」
「おま、ちょっと落ち着け! いや、興奮する気持ちは分かるけどな。すげぇよ、お前、まさか本当にやっちまうとは思わなかった」
興奮が治まらない。いつでも他人の陰に隠れ、何も出来ない自分の何もかもを諦めていた、けれど出来た。今まで近寄る事すら出来なかった巨大な魔物の核を粉砕できた。一人ではできなかった、だが、それでも物凄い快挙だ。
「よくやったな、シロウ」
グレイがポンとその大きな掌を頭に乗せてくる。子供扱いか!? と、思わなくもないが、今はいい。私はちゃんと成長している、それが分かっただけで充分だ。
「シロウ、これ、持ってけよ」
バジルが持っていたのは赤い石の欠片、これは魔物の核の一部か?
「お前の戦利品だ。売れるような物じゃないが、今日の記念だ」
バジルはそう言ってにっと笑うと、私にその石を投げて寄越した。
「魔物の核は魔道具の部品に使える場合もある、貰っておけ」と、魔闘士のウルは私の背を叩いた。私が倒した魔物の核。その小さな欠片を握りこみ、スバルを想う。
スバルが私を変えてくれた、シリウスと共に暮らしていた時には得られなかった高揚感。叫びだしたい気持ちを抑えて砦を見やる。もう、砦までは目と鼻の先だった。
※ ※ ※
「コテツ様、コテツ様! コテツ様!!」
「あはは、なぁに?」
興奮治まらない僕がコテツ様の名前を連呼すると、コテツ様は可笑しそうに笑みを浮かべて、僕を見やる。
だって、シロさんが魔物をやっつけた! あんな大きな魔物なのに素手で登って、何か背中のきらきらしたのを握り潰したんだ! そしたら、魔物が倒れて……凄い! よく分からないけどシロさん凄い!!
「シロさんがあんな大きな魔物を、倒すなんて!」
いつもへばっている僕を抱えて逃げ回るばっかりのシロさん、僕が足手纏いなのは重々承知の上で、それでもやはりシロさんはそこまで戦闘が得意ではないのだと思っていた。本人もそれは認めていたし、たぶん周りもそう思っている、でも、シロさんはやればできる男だった。
「シロウに惚れ直した?」
ぶんぶんと首を縦に振る僕は、もうシロさんに抱き付きたくて仕方がないよ。
「もう、すぐそこだから、いまに来るよ。ふふ……私も体裁を整えないと」
すっかり寛ぎモードに入っていたコテツ様が、立ち上がって身支度を整える。あぁ、そういえば、僕はコテツ様に攫われてきた事になってるんだっけ? 今になってみれば、そんなのどうでもいい気がするんだけど……
「あの、もしかして、僕がここでコテツ様と水晶球でずっとシロさん達を見ていた事はシロさんには言わない方がいい感じですか?」
「別にシロウには言っても構わないよ。ただシロウがうちの若衆を連れてきちゃったからね、次に彼等がこの試練にぶち当たった時、ネタバレしていたら面白くないだろう? シロウが来たら私は、若衆を連れて早々に撤退するから、後は二人でいちゃいちゃしたらいいよ」
コテツ様がぱちんと片目を瞑り、意味深な言葉を言ってのける。これってアレだ、最初に言っていた『命を危険に晒されると種の防衛本能が働くのか、この試練が終わった直後のアレって本当に激しいよぉ』って、アレだ。
僕の顔に朱が昇る。そんな僕を人の悪い笑みで見ているコテツ様、ちょっと意地悪だ。
「因みに帰る時はこの部屋で扉をイメージして、その扉が君達の帰る家へと繋がるよ」
この魔法の部屋は本当にとても便利仕様だ。誰が作ったのかな? コテツ様かな? 魔導師であるコテツ様の魔術は本当に凄い、僕もこんな風に簡単に魔法が操れるようになったらいいのに。
「コテツ様、もし僕に魔術を教えてくださいってお願いしたら、僕に魔術を教えてくださいますか?」
「ん? 別にいいよ。私はある意味それが専門みたいなものだからね」
「魔術の先生?」
「魔導師って言うのはその言葉の通り魔術という道に導く者だよ。魔術師は魔術が使えるだけの人、魔導師はその道を正しく導く魔術のプロフェッショナル」
「あれ? だとするとノースラッドのヨム老師より、コテツ様の方が資格的には上なんですか?」
あれ? でも待って、ヨム老師ってそういえば魔導士だってビットさん言ってたっけ? そんな話を聞いた時にはまだ免状の事もろくすっぽ理解してなかったからよく分からないや。
「ヨム老師は私より上の『賢者』だよ。この世界でも賢者と名乗れる者の数は少ない、目立つ事を嫌うヨム老師はその資格をあまり公にはしていないから、知らない者も多いと思うけどね」
賢者……そうなんだ。実はヨム老師って凄い人だったんだね。
「スバル君がしばらくこの町に滞在する気があるのなら、私が面倒をみるのもやぶさかじゃないし、ノースラッドに戻るのなら師匠はヨム老師でもいいと思う。ただ、私は散々シロウを怒らせる事を言ったからね、シロウはすぐにでも君を連れてノースラッドに帰ると言い出すかもしれないね。とは言え、スバル君なら転移魔法もすぐに覚えられるだろうし、そうなったら転移魔法で通って来るという手もあるかな……」
そうか、確かに転移魔法が使えるようになれば、わざわざここまで徒歩でやって来る必要はなくなる。魔法って本当に便利!
「シロさんは僕が説得します! それに僕達、まだこの町にやって来た目的を全然全く果たせてないですし、まだ帰らないですよ」
「あぁ、そういえばビットから聞いているよ。確かシリウスが持っていた、何か不思議な魔道具? の中身が知りたくて来たんだっけ?」
「はい、これなんですけど……」
僕は鞄の中に押し込んだ巾着袋の中からSDカードを取り出してコテツ様に見せてみた。
「へぇ、こんな魔道具、私も初めて見たよ。この中に何かが入っているのかい?」
「たぶん恐らく……これと一緒に写真も入っていたので、たぶんこれのデータじゃないかと……」
僕は続けて写真の印刷されていた紙を手渡す。そこに映った画像にコテツ様もビットさん同様の驚いたような反応を見せた後に、ある一枚の写真を指差し「この場所には見覚えがあるね」と、そう言った。
「え!? 本当ですか!?」
コテツ様が指差した写真、それは風景写真だった。誰かを被写体に撮ったと言うよりは、街並みを撮ったような写真で、どうやらその光景にコテツ様は見覚えがあるらしい。
「うん、これ中央だよ。ここのほら、大きな建物があるだろう? ここに人が住んでいる」
手前は市場っぽい風景なのだが、その写真の奥、そこには城のように聳え立つ建物が見て取れた。この写真では一部を切り取られているだけなのでその大きさは窺い知る事もできないのだが、どうやらそこが『人』の暮らす場所なのだとコテツ様はそう言った。
「中央……」
「こっちの可愛い子達はスバル君と……シリウス?」
「いえ、僕と僕の双子の兄の北斗です」
「え? あれ……? でも、これどう見てもシリウスだよね?」
「僕はシリウスさんを知らないので、なんとも言えないんですけど、こっちが僕でこっちは北斗のはずなんです。僕の家にも似たような写真が残っているので、それは間違いないはずなんです」
「でも、君はさっき君のいた世界には私達みたいな者はいないと言ってなかった? この子には猫耳があるけど? 君の世界にはこういう子はいないんじゃなかったの?」
コテツ様の疑問は的を射ている。確かに僕の世界の人間には頭に耳は生えていない。だから僕はそれをただの飾りだと思っていたのだ。だけどもしかしたらそれは本当に今の僕のように直接頭に生えている耳である可能性を今となっては否定出来ない。
「まだ、はっきりしないんですけど、もしかしたら僕の兄の北斗がこの世界のシリウスさんである可能性を僕は否定できません……」
「あれ? だったら君の世界のホクト君は?」
「両親が離婚して、北斗は父に引き取られました。だから僕はこの頃から北斗に会っていないんです」
「へぇ、そうなんだ? 不思議だねぇ?」と、コテツ様は小首を傾げた。
「だとしたら、君は異世界からこの世界にやって来たと言っていたけど、もしかしたら君の元居た世界とこの世界はどこかで繋がっているのかもしれないね。というか、むしろ同じ世界だったりはしないの? 君はもしかして中央からやって来ただけだったりとか……?」
「そんな筈は……だって僕はこんな建物を見た事がありません。これは中央なんですよね?」
「うん、それは間違いないと思うよ」
「確かに僕の住む世界には『人』しかいなかったですけど、まさかそんな事ってあります?」
僕の暮らす世界は狭い。何故なら母が職を変えるたび、あちこちに連れ回されはしたが僕はそのほとんどを覚えていないからだ。僕の生活は家と預けられる施設との往復で、今でこそ自由に一人で行動も出来ているけれど、それは暮らしていた街の中限定で、一人で街の外に出た事もない。
ただ、それでも毎日のように見ていたTVの中には広大な世界があったし、地球が丸い事だって僕は知っている、この世界は僕の暮らしていた世界とは似ても似つかないのだから、僕の暮らしていた街が『中央』だったなんて、そんな事はないはず……ないはずだけど……
だけど僕の確信は僕だけのもので、誰もこの世界でそれを肯定してくれる人間なんていないんだ。そして僕の兄である北斗がシリウスさんであるのなら、やはり僕の世界とこの世界はどこかで繋がっているのだと、僕は信じざるを得ないのだ。
謎は増える一方で、僕が頭を抱えていると、俄かに大きな声が聞こえた。
「スバル! スバル、何処だ!?」
「あ、シロウが来たね。それじゃあ、私は行ってくるよ、スバル君はもう少しここで待っていてね」
そう言い置いてコテツ様の姿が掻き消えた。あぁ、これが転移魔法? 僕にもこれ、できるようになるのかな?
少し、待っていてと言われても、どのくらい待っていればいいのか分からない僕は途方に暮れる。思っていたよりシロさんの南の砦への到着は早くて僕はそわそわしてしまう。
どうにも落ち着かない僕はぽんとひとつ拍手を打つ。すると、部屋の壁のランプがぽっと灯った。うん、いい感じ、ちょっとしばらく練習してよ……
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