僕のもふもふ異世界生活(仮)

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僕、どうやら魔法が使えるみたいです②

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「なにはともあれ、一度爺さんの所に行ってみるか……」

 困ったようにシロさんは頭を掻いた。

「魔術師のおじさん?」
「あぁ、魔術や精霊の事はもちろんだが、爺さん――ヨム老師はこの世界のあらゆる事象に精通している、スバルの事も、スバルの住んでいた世界の事も少しは知っているかもしれん」

 シロさんがそんな事を言うので、僕達は連れ立って魔術師のおじさん(お爺さん?)の元へ向かう事になった。そして、改めて見た外の世界、やっぱり僕の暮らしていた世界とは全然違う、だけど何か少し懐かしいような風景。
 ビルみたいな物は一切ない、東洋西洋入り混じった多国籍な感じの街並みは統一感もなく、獣人のサイズも様々なせいか建物のサイズも大きな物から小さな物まで、全く纏まりを感じない。

「本当にたくさんいる……」

 街を歩く獣人達、大きな者、小さな者これまた様々で僕は困惑を隠せない。

「でも、ここ、大きな獣人は少ない感じ?」
「ん? あぁ、そうだな、元々大型種は数自体も少ないし、同種の仲間で群れを作って暮らしている事が多いから、街にはあまり住んでいない」

 へぇ、確かに街を歩くのは人の子供サイズの獣人から、シロさんサイズの獣人くらいまでで、シロさんが言っていたような巨体も居ない事はないが数は少ない。僕はほっと胸を撫で下ろした。

「ねぇ、僕みたいな『半獣人』や『人』もあんまりいないみたいだけど、それはなんで?」
「『人』は元々中央に暮らしていてこんな地方にいる事はまずないし、番になった『人』も基本的に番相手の家から出る事はほとんどない」
「え、そうなの?」
「『人』は大事に守られていると言っただろう?」

 うん、確かに聞いたけどさぁ、なんかそれってずいぶん窮屈そう。

「じゃあ半獣人は?」
「それも言ったな、半獣人は襲われる率が高く、あまり人前に姿を見せたがらない。人前に出ているのは番持ちがほとんどだな」
「そうなんだ、同じ半獣人同士で交流とかもないの?」
「そういうのも在る事は在るらしいが、シリウスはそういうのを嫌っていたからよく分からん」
「えぇ、なんで?」
「シリウスは半獣人の弱さも、誰かに頼ってしか生きられないその生き方も嫌っていたからな、積極的に交流しようという気はなかったんだろう」

 あぁ、そういえばシリウスさんってそういう人だった。獣人に負けるか! って、頑張って剣士になったんだよね? もしかしてシリウスさんみたいな生き方をしている半獣人の人って物凄く珍しいのかもしれない。

「じゃあ、僕がそういう人達に会える機会って……」
「今から行く老師の所に一人いるぞ」
「そうなの!?」
「あぁ、老師の何番目かの番相手」

 何番目かって……でも、獣人の人と半獣人の人って根本的に寿命の長さが違うし、そういう事もあるのかな。

「ほら、見えてきた、あそこだ」

 そこに建っていたのは大きな天幕、何か商売でもしているのか、出入り口と思われる場所は人が忙しなく出入りしている。魔術師のおじさんって、魔法の先生って言ってたっけ? もしかして学校、的な?
 僕達が天幕の中を覗き込むと、そこには何かよく分からない雑貨が所狭しと並べられていた。

「シロさん、これは?」
「魔法道具だ、ここは魔法具全般を扱う道具屋でもあるからな」

 へぇ、魔法具屋さん? 魔法のかかった道具を売ってるんだ? なんか格好いい!

「いらっしゃいませ! あれ? シロウにシリウス、久しぶりだね、何か買い物?」

 店の中から声をかけられ、僕はびくっ! と顔を上げる。そこにいたのは僕と同じ半獣人の青年で、その頭に伸びた長い耳がぴくりと揺れた。

「ビット、久しぶり。老師はいるかい?」
「うん、いるけど……君達がうちのに用って珍しいね、何か呪いでもかけられた?」

 兎耳の青年はそう言って、柔らかな笑みを零す。髪の色は明るい栗色、瞳は大きくくりっとしていて、男の人だと思ったのだけど、もしかして女の人の可能性もあるのかな? でも声は男の人だと思ったんだよ。

「呪いではないんだが、少しばかり聞きたい事が……」
「へぇ……あれ?」

 ふいに兎耳がぴくりと僕の方へと向いて、ビットと呼ばれたその人が僕をまじまじと見やった。

「あれ? あれぇ? あれれ~?? え? もしかして、ついに? ついにようやく!?」

 何かに驚いている風のビットさん、なんだかとっても楽しそう。

「よく、シリウスをその気にさせたねぇ、おめでとう、シロウ!」
「いや、これはちょっと、違うんだ……」

 困ったような表情のシロさん、でも少しだけ嬉しそうな顔しているのも気のせいじゃない気がするんだよ。

「シリウスも、おめでとう! いやぁ、心配していたんだけど、これはめでたいねぇ」
「え? なに? なんの話???」

 いきなりのハイテンションに僕もどう反応を返していいか分からなくて戸惑っていると、シロさんが困ったように

「いや、スバル、これはな……」と、僕に告げる。すると今度はビットさんが「? スバル?」と、意味が分からないという表情で首を傾げた。

「早合点するなビット、これは違うんだ。今から順を追って説明するから!」

 シロさんはそう言って、僕達の今までの経緯をビットさんに手短に説明した。

「え? じゃあ何? この子、シリウスじゃないの? 嘘でしょ? そのまんまシリウスなのに!?」
「まぁ、そのようでな……その辺の事も含めて老師に話を聞きたくて、こうして訪ねてきたんだよ」
「えぇ……僕、そんなの聞いたことないよ、本当の本当にシリウスじゃないの?」
「えっと、違います。僕の名前は大崎昴です」

 シロさんの背後に隠れるようにして僕がおずおずとそう言うと、またしてもビットさんは驚きの表情で「違う! なんか違う! 話し方が違う! 雰囲気が違う! こんなのシリウスじゃない!!」と、叫んだ。

「まぁ、そんな訳でな、ヨム老師に会いたいんだが、邪魔していいか?」
「勿論だよ、ってか、何!? このシリウス、なに? 可愛くない? ねぇ、可愛くない!?」
「だから、シリウスではなく、スバルだ」

 僕がシロさんに同意するようにこくこくと頷くと、ビットさんは目を細めてまた「可愛い」と、叫ぶ。

「普段がふてぶてし過ぎるからかな、この子、物凄く可愛く見えるんだけど……」
「まぁ、そこは……同意する」

 え? そうなの? 普段のシリウスさんってそんなにふてぶてしいの? 性格はきつそうなのなんとなく分かるけど。

「あぁ、そうか、それで? この子から、むやみやたらとシロウの匂いがするのはそのせい?」
「否定は、できない……我慢できずに思う存分匂い付けをしたから」
「それって浮気にならないの?」
「だが、外見はシリウスだ」
「でも中身は別人だし」
「これは浮気だろうか……」

 シロさんの、ぴんっ! と立った耳が、怒られた犬のようにシュンと下がった。そういえばシロさんとシリウスさん『婚約者』だもんね、こういう事したら浮気になるの? ってか、そもそもそんなに僕、匂う? 僕には全然分からないんだけど……

「まぁ、当のシリウスに知られなければ大丈夫じゃない?」
「その、シリウスの中身が何処に行ってしまったのかが分からないのだけれどな……」

 あぁ、と頷いてビットさんは哀れむようにシロさんを見やった。

「おめでたいと思ったけど、これはご愁傷様と言うべきところ?」
「それが、なんとも……なんと言うか、スバルは、ビットの言う通り、とても可愛いから、な……シリウスは私を歯牙にもかけない所があったが、スバルは違う。これはシリウスに対する裏切りかもしれないが、正直私は、少し、嬉しく思っている……」

 歯切れの悪い言い方のシロさんなんだけど、これアレだね? 本人目の前にして熱烈な告白だね? そんなに好かれるの、本当は困るんだけど、悪い気しないんだよなぁ。
 大きな体躯を丸めてぼそぼそ言ってるシロさんもちょっと可愛いよ。

「へぇ~ふぅん、ほぉ~」

 なんだかビットさんもそんなシロさんを見て、目を細めて笑っているので、彼を可愛いと思っているのはきっと僕だけじゃないのだと思う。

「まぁ、いいんじゃない? うちのは奥にいるよ、何かスバル君の事、分かるといいねぇ」

 そう言って、ビットさんは天幕の奥を指し示した。シロさんは勝手知ったる、という感じで天幕の奥へと入って行くので、僕も慌ててそれに続く。

「今のビットさんって、魔術師さんの番相手なの?」
「あぁ、見ての通りの兎の半獣人だ」
「なんか若く見えたけど、何歳くらい? シロさんが魔術師さんの事爺さんって呼ぶから、もっと年配の人想像してたんだけど、もしかして魔術師さんも若いの?」
「あぁ、ビットはアレでいて私と同い年くらいだ、老師は……私も年齢がよく分からん。私の祖父が子供の頃から爺さんは爺さんだったと言うのだから、相当年配なのは間違いないのだが……」
「もしかして二千歳は超えてるって事?」
「たぶん軽く超えているだろうな」

 本当にそんな化け物みたいな人、もとい獣人がいるんだ? 一体どんな……というか、なんの獣人なんだろう? 亀とか?
 シロさんの後を追いかけるように天幕の奥へと進むと、奥は住居になっているようで、幾つかの扉が並んでいる。シロさんは迷う事もなく奥へと進むと、ある扉の前に立ち止まって、その扉をノックした。すると扉の向こうから
「開いておるよ~」と、のんびりとした声が返ってきた。

「おや、これはタロウ……ではないな、ジロウ……いや、シロウか?」
「お久しぶりです、老師さま」
「なんだ、なんだ、かしこまって。昔のようにじいじと呼んでくれても良いのだぞ?」
「さすがに私も既に分別の付く歳なので、そんな呼び方はしませんよ」
「普段は爺さんと呼んでおるのは知っておるぞ?」
「何故それを……」
「だてに長いこと魔術師はやっておらんよ」

 そう言って魔術師のお爺さんは「ふぉっふぉっ」と笑った。うん、たぶん笑った、と思う。表情よく分からないんだけど、くちばしの動きがそんな感じだったから、たぶん間違いない。それにしても大きな鳥だ、見た感じは大きなオウム? シロさんより一回りくらい大きく見える。
 なんだか視線が定まらない魔術師さん、もしかして目が見えないのかな?

「ん? 誰かもう一人おるのぉ? やけに精霊が騒ぎよる」
「実は義弟シリウスの事なのですが……」
「む? そこにおるのはシリウスではなかろう?」
「何故そうお思いに?」
「シリウスは精霊に嫌われておる、シリウスが来たのならば精霊達は逃げて行くが、その者の周りには何やら精霊達が喜び勇んで飛び回って見える」

 え、ちょっと、何が見えてるの? ってか、その目、見えてるの? 魔術師さんの瞳はよく見れば白く白濁していて、やはり視線はどこか宙を向いている。僕には魔術師さんが何かを見ているようには見えないのだけど、それでも彼には何かが見えているようだ。

「ふむ、ちょっとこちらに来てごらん」

 手招きをされて、僕はシロさんに促されるように魔術師さんの前に進み出た。手を差し出されたので、その手を取ると魔術師さんは小首を傾げる。

「おや? これはおかしいのう、この潜在魔力の色はどうやらシリウスと同質に見える、けれど明らかに周りの精霊の反応が違う。これは一体どういう事じゃ?」
「老師さまでも理由は分かりませんか?」
「ふむ、もし理由を考えるのであれば、似て異なる人物、けれどとても近しい、血を分けた兄弟、と言った所かの? シリウスには血を分けた兄弟がおったかのう?」
「いえ、それは……シリウスは捨てられていたのを父が拾ってきた子なので……」
「おぉ、そうであったのう、ではこの者はやはりシリウス自身なのか?」

 魔術師さんは、おかしいのう、と小首を傾げた。
 兄弟……? 僕の兄か弟……?

「あの……」
「ん? どうした?」
「実は僕には生き別れの双子の兄がいるんです。幼い頃に別れたきりで、どこに住んでいるのかも分からないのですけど……」
 そう、僕には兄弟がいる。父と母の離婚で兄は父に、僕は母にそれぞれ引き取られ育てられた。兄の名前は「北斗ほくと
 けれど、それは僕の世界での話でこの世界の話しではない。完全に無関係だと思いはするのだが、僕は何とはなしにその事実を口にする。

「ほうほう、ではお前はもしかしたらシリウスの弟……」
「いえ、それなんですけれど、彼はシリウス自身で間違いがないんです」
「む? どういう事じゃ?」
「私とシリウスは数日前、ある魔物討伐の為に北の祠に赴いたのです、そしてその祠で魔物に返り討ちにされました。シリウスは魔物の攻撃をまともに喰らい、意識不明。意識を取り戻すまでの数日間、私がずっと付き添い看病をしていたのですが、目が覚めたと思ったらこの有様です。シリウスはずっとシリウスで、入れ替わったなどという事は在り得ない、けれど彼は自分の事をシリウスではなくスバルだと言うのです」

 「ほう?」と、魔術師さんが見えていないだろう瞳を細めた。

「どうやらスバルは別世界の者のようで、獣人を見た事もないし、魔術を使った事もないと言うのです。シリウスは元々魔術の才能のない者でしたが、ものは試しにスバルに火の精霊を呼び出させてみたら突然火柱が上がりまして……」
「それはそうであろうの、その者は精霊に愛されておる、その者に呼び出されたとあっては火の精霊も喜び勇んで火柱くらい上げるであろうのう」

 いや、台所で火をおこそうとしただけで、そんな無闇やたらに火柱上げられても困るんだけど……

「では、スバルはシリウスとは違って魔術の才能に長けているという事ですか?」
「そうであるのう、上手く育てば大賢者にもなれるかもしれん素材は揃っておる」
「大賢者、ですか?」

 戸惑い顔のシロさんが、僕を困ったような表情で見やる。
 大賢者……? なにそれ、凄いの? 賢者の上位職っぽいけど、よく分からないなぁ。
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