運命に花束を

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運命に祝福を

事件の裏側 ⑤

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 俺は俺のおかしくなってしまった恋人を探してこんな場所までやって来た。この国の問題は山積みで、その問題は大きく見れば世界を巻き込む問題だった。だけどそんな事は俺には関係のない話だったはずなのだ、けれどその問題の先には何故か今、俺の恋人がどんと鎮座していて俺はそれを見過ごす事ができないのだ。

「ノエル! そちらに逃げましたよ!」
「任せて!」

 俺はこのやり切れない気持ちを今目の前に逃げて来た男にぶつける。別に問題ないだろう? だってこの人、悪党だもん。

「お見事でござる、ノエル殿!」

 逃げて来た男を組みしいて取り押さえた所で、じいちゃんとダニエルさんが小走りに駆けて来た。俺に組み敷かれた小柄な男は俺の下できーきー喚いていてうるさくて仕方がない。

「この私を一体誰だと思っている。由緒正しきロイヤー一族にして嫡男、クレール・ロイヤー様に対してこの小僧が!!」
「あ~はいはい、そういうのもういいから大人しくしてくれるかな?」
「ロイヤー家、ロイヤー家と本当にあなたは相変わらずですね。ロイヤー家はもうとっくにお取り潰しになっていて、今となってはロイヤーなどという名の貴族は存在しないのですよ。あなた方が奪い取ったカーティス家の財産もすべてカーティスに戻り、それも全て処分済みです。あなたはクレールという名のただの男で、語るべきは自分の名前だけで充分です」

 じいちゃんはこの男に容赦がない。俺に組み敷かれた男、クレールはぎりりとじいちゃんを睨むけど、じいちゃんはそんな彼をまるで虫けらでも見るような眼差しだ。

「恨むのならばそんなやり方で貴族の位を手に入れた御自分の両親を恨む事です、そのやり方は周りに禍根を残し、今こうしてあなたに返ってきている。親の因果が子に報いとは正にこの事です。そして戻ってきた報いを受け入れる事もせず、更なる悪だくみに手を出したあなたの自業自得でもあるのですよ」
「おいぼれが知ったような口を!」
「はは、これは可笑しい。今となってはあなただとてもう立派なおいぼれです。時は止まりはしないのですよ、時代は既に子や孫の世代に移ってきている、あなたはもう表舞台に立てる役者ではない事をそろそろ自覚される頃合いだと私は思いますがね」

 口でじいちゃんに勝てる奴はいやしない。頭の回転の速いじいちゃんはひとつ言えば二倍三倍で返してくる、しかもそれがいちいち理にかなった言葉なので相手は言葉に窮するのだ。はっきり、じいちゃんは敵に回したくないなと俺は思う。
 案の定クレールは悔しそうにぐぬぬ、とじいちゃんを睨み上げた。
 俺たちが今いる場所はメルクードでメリア人達が暮らしていた貧民街の端、ここも先だっての嵐のせいでただでさえみすぼらしかった家屋は見る影もない。
 避難できる者は既に避難して、現在貧民街はそれこそ大手を振って避難できない犯罪を生業にしていた者ばかりが残っている。
 ただでさえ治安が悪いと言われているのに、さらに治安が悪くなっていてランティス王国の騎士団も手を焼いていたのだそうだ。だがそんな中、そこにクレールがいるとの情報を手に入れた俺のじいちゃんはいつもの怖い笑みを浮かべて「それはいい」と言い放った。

「私には捕まえたい男がいるのです、手を焼いているのなら、その掃討作戦私に任せてみませんか?」

 じいちゃんはそう言ってランティス王国騎士団長のリクさんに話を持ち掛けたらしい。他国の人間をそう簡単に信用できるか! と一度は突っぱねられたらしいのだが、それを言ったじいちゃんが俺の祖父であった事、現在この国で国政を回している王弟の婚約者ジャン王子が「あの人なら大丈夫だろう」と太鼓判を押した上に、エリオット王子の弟でカルネ領主の奥様であるアジェ様が「コリーさんに任せておけば一を片づけるつもりで十を片付けてくれるから、たぶんランティスにとってもお得じゃないかな?」などと口添えをしてくれたお陰で、今俺たちはこうしてクレールを目の前にようやく捕縛ができたという訳だ。
 クレールだけではない、俺たちの周りではランティスの騎士団員たちが次々と、それこそ指名手配などのかかった者たちを捕縛して回っている。その者たちの見た目は典型的なメリア人……なんて事はもちろんなく、まるで追い立てられるように纏められた悪党共は人種も国籍もばらばらで「取り調べが大変だな……」と、リク騎士団長は零している。
 例えランティスでは犯罪を犯していなかったとしても、そこにはメリアやファルスで犯罪を犯し逃げ隠れていた者もいて、その照会も大変そう。
 でもまぁ、今ここにはランティスはもちろん、メリアやファルスから派遣されてきた騎士の人達もいるからね、じいちゃんは悪党は誰一人逃がすつもりはないんじゃないかな?

「くそっ……ここは治外法権だと聞いていたのに……」
「悪党に治外法権なんてのは罷り通らないのですよ、悪党はどこに行っても悪党です。分かったら大人しく縛につきなさい!」
「おのれ、分家の分際で……」
「まだ言いますか、あなたは本当に呆れた人ですね」
「だが、お前がそうやってでかい面ができるのも今だけだ! この国は変わる! 世界もだ、王家なんてものはなくなってお前みたいな人間も放逐される。この世界は生まれ変わるのだ!!」
「はぁ……まぁ、その意見には賛同してもいいですよ」

 否定されるものと思っていた言葉に思いがけず賛同されて、何故かクレールが「え!?」と驚いたような表情を見せた。

「何を間抜け面をしているのですか? あなたが言った事に賛同しているのです、もっといつものように調子に乗ったら如何ですか?」
「いや、え……?」
「この世界は刻々と変わっています。そんな事はこのおいぼれ痛いほど実感しておりますとも。この国は変わる、そして世界も。王政などというものは古いのですよ、ただ一人を王と崇め奉り敬うような社会制度はもう古い。これからは国民の一人一人が声を上げていく時代なのです、あなたの言う事は間違ってはいない。ただし、あなた方のやろうとしていた事は不正解ですけれどね」

 じいちゃんはクレールに流し目をくれる。

「そもそもあなた方のやろうとしている事はなんですか? むやみやたらと王家の人間を襲って国を混乱に貶めているだけではないですか、そんなやり方で国が前を向けるとお思いですか? そもそもあなた方はそれをどこかからの指示に従って行っていただけなのでしょう? それを指示していたのが一体誰なのか? その辺りに思いをはせたりはしないのですか? 私には分かりませんね、理想だけは立派ですが、結局誰かの指示を仰いでしか動けない人間が一体何を成すのです? 私にはその指示を出していた人間が王家にとって代わるそんな未来しか見えません。王家の廃止? 結構ですよ? ですがあなた方のされていた行為は新たな独裁者を生む地盤作りでしかない。王家を憎むあなた方が更なる暴君を望む、愉快ですね、笑いが止まりませんよ」

 じいちゃんの畳みかけにクレールは言葉を失う。そう、クレールはここランティスに昔から巣食う革命一派に傾倒していたらしいのだ。その思想は単純明快、この世界の王家という王家をぶっ潰す、それだけだ。
 王家に恨みのあるクレールはその思想に食いついた。しかもその革命一派は自分たちを手伝うのであれば国籍をやろうとクレールに囁いたのだ。
 クレールは既にファルスには居場所がない犯罪者で、その誘いに飛びついた。元々ロイヤー家というのは商才と悪知恵に長けているらしく、クレールの起こした商売はすぐに軌道に乗った。それはルーンで起こった事件のように犯罪まがいの事も平気でやるような商売人たちを集めてどんどん事業を拡大し、クレールはそいつらの金づるになり、共犯者になったのだ。
 そんな話を語ってくれたのはレイシア姫の従者であるグレンさんだったと俺は聞いている。俺はグレンさんというのがどういう人物なのかは知らないが、彼もまた革命一派の人間で、そこにレイシア姫の情報を流していたらしい。この革命一派、本当にどこに潜んでいるのか分からなくて怖いよね。
 まさか従者に裏切られていたとはつゆ知らず、さすがのレイシア姫もその話を聞いて不承不承こちら側についたと聞いた。
 ツキノと仲違いしていたレイシア姫だったのだけど、そこも仲直りできたのは領主様の奥方様、アジェ様の功績らしくて地味に凄いなと俺は感心する。
 レイシア姫という人を俺はよくは知らないけれど、ツキノの性格はよく分かっている。一度嫌った人間を自分の仲間だと受け入れるのには葛藤があっただろうに、ツキノも少しは大人になったのかな?

「おのれ、おのれぇ……」

 クレールの恨み節は続いている。じいちゃんも大概しつこいと思うけど、この人だって何度もじいちゃんに痛めつけられているだろうに懲りるという事はないのだろうか?

「我々には神がついている、お前のような者など……」
「私、神は信じない主義でしてね、この世界で信じられるのは己だけだと思っております。生憎あなたの信仰する神を敬おうとは思いませんし、罰が怖くて悪を見逃すつもりはさらさらございません。ですがひとつお伺いしたい、あなたの信仰する神とは一体何ですか?」

 じいちゃんが膝を折って俺の下からクレールを引き起こすと、その襟首を掴んで持ち上げた。じいちゃん、そういうの年寄りの冷や水って言うんだぞ、無理すると腰やるから気を付けて……なんて心で思っても言葉に出しては言えない雰囲気なんだけどさ。

「ぐっ、お前なんぞに……誰がっ……」
「ここまであなた方の活動を追ってきて、気になったのはその信仰です。皆一様に事件は神様からの指示だと言い放つのに、その正体が見えてこない。しかもあなたの仲間の大半な何かしらの薬物中毒でお話にならない輩も大勢いる。あなたはどうしようもない人間ですが、それでもまだ話が通じる分だけマシだと思う程度に、あなた方の仲間は狂っている。これは一体どういう事ですか?」

 クレールがふいと瞳をそらし口を噤んだ。

「どうあっても言う気はない……と? まぁ、いいでしょう、時間はまだたっぷりあります、あなたを拷問するのはさぞかし楽しいでしょうからね」

 口元だけで嗤うじいちゃんの笑みはいつも以上に怖い。じいちゃんがクレールの襟首を放すと彼はへたりこみ、他の者と一緒に連行されて行った。

「ふぅ、これでひとつ肩の荷がおりましたよ……」

 先程までの殺気を消してじいちゃんが首と肩を回す。

「これで事件解決?」
「そんな訳ないでしょう、そもそもあなたの探し人がまだ見付かっていませんよ。彼が捕まらない事にはお話にならない、そうでしょう?」

 王城襲撃及び王子暗殺未遂の容疑者としてユリ兄には指名手配がかかっている。考えないようにしていたのに、じいちゃんの言葉は容赦がない。
 今回の捕り物で無事にクレールを捕まえる事ができたが、ここにユリ兄はいなかった。会えなかった事にがっかりもしているし、内心ほっとしている自分もいる。
 ユリ兄に直接会って事の真偽を問いただしたいのだが、それが怖くて仕方がないのも俺の偽らざる感情だ。
 このままもう今後何もせずに消えてくれたらいいのにと思う、そうしたら俺はきっといつか彼を過去にして忘れることもできると思うから……

「はぁ、それにしてもクレールにはああ言いましたけれど、実際の所、時間は無限に残されている訳ではありません。神様の正体、それが分からない事には今後も何が起こるか分からない、早急に奴の口を割らせなければ……」
「神様の正体……」

 捕らえた薬物中毒者の言動は支離滅裂だ。けれどそんな中で共通しているのが皆薬物を神様からの賜り物のように語っているという事実。
 それは神様から授かって、自分の能力を格段に向上させてくれる……というのは中毒者が思っているだけで実際の所は判断能力が鈍って己の評価を過信してしまうに過ぎないのだが、気の大きくなった彼らは怖いもの知らずで何をしでかすか分からない怖さがある。
 メルクードではまだ中毒症状の少ない者を中心に現在解毒作業に取り掛かり始めた所だ。その作業を率先して行っているのはカイトの母親であるカイルさん。
 薬の知識に関してこの人の右に出る者はいないらしいし、そもそも薬の開発という分野でその麻薬開発のどこかの過程で自分自身が絡んでいる部分がある事を分かっている彼は、それをせめてもの罪滅ぼしと考えているようだ。
 薬物は正常な判断を鈍らせる、彼らが神様を妄信するのはその為で、そんな薬物を使うことでしか信仰を集める事ができない者が神様を騙るのもおこがましい。薬は人を助けるもの、それを悪用しかできない宗教の神様なんてクソ食らえだ。

「この薬物の元になる原料はメリアにあるんだよ、俺はその薬物を作っていた場所を知っている。もし自分を神だと名乗る人がいるのだとしたら、たぶんあそこにいるんじゃないのかな……?」
「ふむ、まぁ、妥当な所ですね」

 何とはなしに俺はメリアで出会った少女の事を思い出す。がりがりにやつれ、それでも腹の中に子供がいるのだと彼女は言った。あそこにはそれでも生活がある、俺はそれも知っている。
 彼等が何を想って暮らしているのかは分からない、けれどそこにそんな信仰を信じなければ守れない生活があったのならば、それはとても悲しい事だと思うのだ。
 ユリ兄がメルクードにいると思ったから俺はここへ戻ってきた、そしてその勘は外れてはいなかった。
 ユリ兄はまだここにいるのだろうか? それとももう既にあの集落へと帰ったのだろうか? …………彼女の元へと、帰ったのだろうか……
 またしても心がきりりと痛んだ。

「そちらへはもう既に人を何人か送っています、そのうち何かしらの報告があがってくるでしょう。けれど如何せん国境を越えての捜索です、ランティスとメリアは仲が悪い。いくら同盟を結んだとは言え、連携はまだ今一つで頼りないのですよね……」
「黒の騎士団の人達を頼らないんだ?」
「もちろん彼らも向かっているでしょうけれど、これは同盟国同士が手を取り合って解決すべき問題でファルスが一国で解決する問題ではないのですよ。いつの間にか事件が片付いていた……それでは駄目なのです。私達は手を取り合える、協力する事で成し遂げる、その過程が必要なのですよ。特にランティスとメリアにはね」

 ひとつの巨大な敵を作り、そして世界は団結した。とてもいい話だと思う、そこに自分の想い人が敵として入っていなければ。
 ユリ兄が今俺の横にいてくれたなら、俺だってユリ兄と一緒に巨悪を倒そうとそう思えたと思う。けれど……

「お前はもうルーンに帰るかい?」
「はは、馬鹿言わないでよ。帰る訳ないだろう?」

 じいちゃんは言葉少なく「そうですか」と頷き「ノエル、私はひとつお前に話すべきかどうか迷っていた事があるのです」と言葉を続けた。

 神妙な面持ちの祖父が珍しく歯切れが悪い感じでちらりとこちらを見やる。

「話? なに?」
「今お前にこれを話すのはとても酷な事かもしれません、けれど、お前ももう間もなく成人です、自分の事は自分で決められる年齢、そしてお前の覚悟も聞いた上で私はこの話をお前にしておこうと思う」

 そう言って祖父が話し出したのは俺とユリ兄が初めて出会った武闘会の時の事。祖父が俺と彼の仲睦まじさに最初に違和感を持った所からだった。

「お前を買い出しに行かせた朝、私は彼にお前に話したのと同じような内容を彼に伝えたのです。お前はどう頑張ったところで男の子で、オメガ男性だったらともかく彼の番相手には絶対になれないとね。それでも彼はお前の事が気になっていると言うので、それはマザコンの延長でしかないだろうともう一度はっきり彼に告げました。もし仮に付き合うとなったら傷付くのはどう考えても私の孫の方で、そんな事は家族として看過できないと直球でぶつけたら、その場は一端引いてくれたのですが、私達がルーンに帰る日に『申し訳ないが、自分はノエルに好意を持っている、駄目だと言われても即座に諦める事はできない』と彼は私にそう言ったのです」

 まさかの話に驚いた。確かにあの時じいちゃんは俺達が二人でいると割って入って邪魔してくる事が多かった。でも、まさかここまで単刀直入に二人が俺の話をしていたなんて思ってなかった。

「その時『しばらく会う事ができなくなれば熱も冷めるだろう』と私が返したら『もう一度しっかり考え直しはするが諦めるという約束はできない』と彼は呑気に笑っていました。それでも一過性の恋など私は信じない、お前達はまだ若いし、これから別の出会いが幾らでもあると思っていました。お前達が文のやり取りで交流を深めていた事は知っていましたが、それでもこれ以上その関係が発展する事はないと私は思っていたのです」

 思っていた……そうだね、それは過去形だ。

「けれど彼等がルーンにやって来て、事件が起こり、そんな中で彼は私にお前と付き合う事になったとそう言った。根が真面目なのでしょうね、そんな報告をわざわざ私にして寄越すなんて、呆れて笑ってしまいましたよ」
「そう……なんだ」
「その時彼は言っていたのです、自分はまだ若輩者で自分と言う人間がお前に相応しいかはまだ分からない。お前は自分以上にまだ年若く、これから関係性も変わっていくかもしれない、それでも自分の気持ちを偽る事も隠し立てする事もできないから、どうか交際を認めて欲しいと私に頭を下げたのです」

 溜息を零すじいちゃん。でも、なんで今その話を俺にするのかな?

「あの時の彼の心に嘘はなかったと私は思います。彼はとても真摯な人間で、私ですらもしかしたらお前達はこのまま良好な関係を築いていけるのではないかと思ったのですよ。けれど蓋を開けてみれば結果はこの通り、それ程までにアルファとオメガの絆は深いのです」

 俺は祖父の言葉に黙って下を向く。

「私はお前の気持ちの全てを理解する事はできませんが、その辛く苦しい気持ちは察する事ができます。人に裏切られるという事はとても苦しい事です、けれどいずれ全て時が解決してくれます」
「何それ……」
「思い出というのはいずれ風化を――」
「じいちゃんがそれを言うのかよ、じいちゃんは未だロイヤー家を憎んで恨んでこんな場所まで追いかけてきたくせに!」
「あいつ等は他人様に迷惑をかけているのですから、その尻拭いをするのは当然でしょう。いつまでもあんな奴等に恥を晒されては死んだ両親も浮かばれませんよ」

 俺はぐっと拳を握る。

「俺は自分に正直に生きていく。いずれ風化するならそれでもいい、でも今すぐにこの想いを風化させるなんて事は俺には出来ない! じいちゃんが何を思って今その話を俺にしたのか知らないけど、俺は本人から事の次第を聞くまでは絶対にあの人を諦めないから!」

 俺の答えに祖父はまた大きな溜息を吐いて「好きにしなさい」とそう言った。ああ、好きにさせてもらうさ。俺はもう俺自身この気持ちが何であるのか分からなくなってきている。
 確かに両想いになれたあの時そこに在ったのは愛情だった、けれど今のこれは一体何だろう? 彼に対する執着? それとも裏切られた事への恨み、憎しみ? それでもまだ彼を信じたい気持ちも渾然一体、俺の心の中は滅茶苦茶で俺自身でさえ明確な答えは出せないままだ。


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