運命に花束を

運命に祝福を

グライズ公爵とレイシア姫 ②

「ああしてみると、見た目はともかくツキノもやっぱり男の子なのねぇ……」

　私の零した呟きに、苦い顔をして顔を上げたのはこの国の第一王子エリオット・スノー・ランティス。ツキノの番相手カイトの父親であり、そして現在私の婚約者である男。
　彼は私の従姉弟であるツキノと自分の息子カイトの関係に不満があるようで、まるで彼等2人の仲を邪魔するような行動ばかりを取っている。人の恋路の邪魔をする人間は昔から馬に蹴られるという言葉もあるのに、彼はなんの波風も立っていない2人の関係に波風を立てようとする。
　子供の恋愛なんて親の口出しする事ではないと思うのだが、何がそんなに気に入らないのか彼は苛々とした表情だ。

「あんな生意気な男なんだか女なんだか分からないような奴に、何故うちの息子がいいように扱われないとならないのか……」
「本人達がそれで納得している事ですもの、部外者が口を出す問題ではないのではなくて？」
「私はカイトの父親で、部外者ではない」
「他人の恋愛なんて当人意外は全員部外者ですわよ、それは親子だって同じです」

　私の言葉に彼はまた苛立った表情で顔を上げた。

「それは君が私と同じ立場に立った事がないから言える言葉だ」
「同じ立場ではありませんが、似たような立場になら立った事がありましてよ」
「子もいないのにか？」
「似たような、と私は言いました。全く同じ立場ではありません。私は子の立場で同じような経験をしていますから、分かる部分もあるのです。得にアルファとオメガの繋がりは誰かが口を挟む事も出来ないほど強力なものなのでしょう？　ベータの私には理解出来ない部分もありますが、私はそれもちゃんと理解していますわよ」
「子の立場……先代のメリア王か」
「えぇ、私の父は己の恋に真っ直ぐで、結局私達家族に目を向ける事もなく亡くなりました。それなら何故家庭を持ち私のような子を成したのか、それはひとえに父親、私の祖父に従った結果なのです。不自然な家族関係は結局歪みだけを残して家庭は崩壊しましたわ、メリア王国の醜聞としては有名な話ですから貴方もご存知でしょう？　あの話に偽りはほとんどないのです。父がもし己の心のままに自分の愛だけを貫き通す事が出来ていたのなら、今、私はきっとここにはおりませんでしたわ」

　王子はやはり苦い表情で「君の家庭環境など知った事ではない」と、そう言った。

「そうですわね、貴方にとっては他人事、けれど、貴方のなさっている事は私の祖父と同じですわよ。そして貴方の取っている行動は私の父と同じなのですわ」
「……貴女はこの縁談に乗り気で乗り込んで来たものだと思っていましたが？」
「それは勿論ですわ、私は貴方の愛なんてはなから求めておりません。そんな歪な環境で育った私には『結婚』という名の絆に夢など見られない事も分かっております。私の母はそれでも父の愛情を信じて傷付きましたが、その点では私はもう何もかも納得づくなので、母のようにはなりませんわ」

　苦々しい苦笑、けれど貴方もそれを納得した上でこの婚約を受け入れたのではなかったかしら？　最初に彼が息子のカイトと共に私の元へと訪れた時には「勝手な事をしてくれたものだ！」と怒りを露に現れたのだが、お互いの意見のすり合わせをしてみれば、私達の結婚にはメリットしかなかったのだ。
　メリア・ランティス両国間の友好は長い間の二国の課題で、どちらかが乗り気になっても大体いつも足並みが揃わずいがみ合いは続いていた。
　そんな二国間の橋渡し的な意味ではこの婚姻には意味がある、ただ中身は完全なる打算とお互いの勝手な事情によるものでしかないのだが、それがお互い納得づくであるのならば誰も傷付く事はない。

「君は本当にそんな結婚を望んでいるのか？　私はそんな姫の考え自体が不思議で仕方がないのだ。君はまだ若い、君から言わせれば私など恋愛対象にもならないおじさんだろう？」
「私、ツキノに聞きましたわよ。貴方の番相手の方、貴方よりも10歳以上年上だとか？　私と貴方の年齢差はおおよそ10歳、そこまで驚くほどの年齢差ではありませんわね。それにそもそも政略結婚というのはそういうものです」
「愛情もない男との間に子をなす行為を容認するのも、私には受け入れがたい」
「子供なんてやる事をすれば、そこに愛情がなくとも出来上がるものですわ。けれど、私は自分の子供を蔑ろにするつもりはありませんわよ、誰との間に出来た子供でも、私の産んだ子供は間違いなく私の子供なのですもの、私は私の産んだ子供を愛情を持って育て上げるつもりですわ。ただ子供はどうしても一人では産めないのですもの、そこには必ず相手が必要、それだけのこと。そして、その子供の名目上の父親が貴方であれば私も子も安泰ですもの、私には何も否やはございません」

　やはり解せないという表情で彼は私を見やるのだが、そんな顔で私を見る彼はさぞや愛情に囲まれた世界で生きてきたのであろうというのが推測できる。

「姫は今まで誰かに恋をした事はないのですか？」
「恋？　うふふ、私、愛だの恋だのそう言った不確かなものを信じて生きるような、そんな生き方は出来ませんの。そんな一時の感情は時間が経てば薄れてしまうものでしょう？　そんなモノに縋って生きる方が余程ギャンブルだと私は思っておりますわ。ですから、ツキノが提案してくれたこのお話、私にとっては渡りに船でもあったのです。最初はただのお見合い話、貴方をいかに篭絡するか、そんな手練手管を駆使する事を考えるよりも、お互いにこうして話し合いで済むのであればその方が私にとっては楽だったというそれだけのお話ですわよ」
「では、やはり貴女は恋も愛も知らないのですね」
「それが一体なんだと言うのです？」
「もし貴女がこれからの人生で、一生を添い遂げたいと思う相手に巡り合った時に、こんな事をしていれば、私や子が邪魔になるだけですよ？」
「あらいやだ、王子は思いのほかロマンチストでいらっしゃられるのね。大丈夫ですわよ、そんな相手、私の前に現れるなんて事ありませんもの。私の理想の殿方は私に何不自由のない生活を与えてくれる殿方、この国において貴方以上にその条件に合うお相手なんて他にはいませんもの。貴方は私にそれさえ与えてくださればそれでいいのです。あとはどんな風に生きられようと貴方の自由、私は貴方を束縛もいたしませんし、それさえ叶えば私は貴方に相応しい『妃』という役柄、完璧に演じきってみせますわ」

　今度は呆れたような顔をされた。王子は何にそれ程戸惑っているのかが分からない、むしろ私のような人間は彼にとっても好都合であるだろうにと思うのだが、彼には彼で思うところはあるのだろう。

「何不自由のない生活で我が国を金銭的に破綻に導く気であるのなら……」
「寄生先を食い潰すほど私は間抜けな人間ではありませんわよ。そういうのは頭の悪い人間のする事です。自分が生き延びる為に、寄生先には健康でいてもらわなければ意味がありませんもの。ですから私、今この国の置かれている現状にもとても興味がありますのよ」
「グライズ公爵の手先であった者がよくもぬけぬけと……」
「私はあの方の小さなひとつの駒でしかなかった事、貴方もご存知のはずでしょう？　そしてその駒は、今は敵方の駒となったのですわ、なんだかおかしい」

　私が笑うと「これは遊びではない！」と彼は声を荒げる。

「それも存じ上げておりますわよ、そうかっかなさらないで。そんなだから貴方、最愛の番相手に逃げられてしまうのですよ」
「今その話は関係ないだろう！　恋愛感情の機微のひとつも知らない女が口を出す問題ではない」
「恋愛感情の機微のひとつも知らない女だからこそ、言っているのです。貴方にはそういう意味では魅力がなく、惹かれもしないからこそ言っているのではないですか。それこそやる事をすれば子供ができるという典型過ぎて、貴方の番相手が本当に貴方を好いていたのかすら私には分かりませんわ。貴方、お子さんにもあまり好かれていませんものね」
「私とカイルは『運命』だ」
「根本的に私はそういうお話は信じないと何度も申し上げましたわ。私の父も『運命』に振り回された一生を送った人間です。例えそれが本当の『運命の番』だったとしても、その愛は決して絶対のものでは無いというのを私は知っていますのよ」
「それはそもそも君の父親とセカンドは本当の『運命の番』ではなかったのだから、仕方のない話だな」
「え…………？」

　突然の王子の言葉、父は父の弟、私にとっては叔父にあたるセカンド・メリアを自分の『運命の番』であると明言して憚らなかった、それは有名な話で皆の知るところだ。けれど、その2人が実は本物の運命の番ではなかった事を知る者は少ない。
　私自身それを知ったのはつい最近で、それは執事のアレクセイから聞かされた父の秘密。なのに何故彼はその事をさも当たり前のように知っているのか……

「知らなかったのか？」
「いえ、知ってはおりますが、何故貴方はその事をご存知なのですか？」
「セカンドには本物の『運命』の相手がいたからな。忌々しい事に今は2人仲良くファルスで暮らしている」

　そんな話は初耳だ。私は城に暮らしていた偽者のセカンドを本物のセカンドだと思って今まで生きてきた、それが偽者だった事、父が本物のセカンドに殺された事をアレクセイに聞かされたのもまだつい最近の事で、本物のセカンドは行方不明だと聞いている。そんな話しは寝耳に水の話だ。

「知らなかったのか？　ツキノはそんな2人に育てられた子供なんだぞ？」
「本物のセカンドに……？」
「本当に知らないのか？　あいつの養母はメリアのセカンド、現在の名前はグノー・デルクマン、そしてその番相手はナダール・デルクマンという名のファルスの騎士団長だ」

　大好きだったお姉さまの子、ツキノ。そんなお姉さまの旦那さまになったサード・メリアは好きではないが、彼は実際に父を手にかけた訳ではなかったし、人物自体は好きにはなれないが国を良くしようと頑張ってメリア王国を統治しているのは悔しいけれど分かっている。
　だから、私は突然現われた私の従弟ツキノに心を許したのに、まさかその養母が私の父を手にかけたセカンド・メリア本人であったのは全くの予想外だ。

「何故お姉さまは、そんな人に大事な子供を……いえ、やはりお姉さま達と父を殺したセカンドは仲間だった、とそういう事ですの？」
「まぁ、そうなのだろうな。現国王を焚き付けて君の父親を失脚させる筋道を立てたのはセカンドだったと聞いている。それは全て自分の幸せの為に、あいつは君の父親を殺したんだ」

　優しい父親ではなかった、一番幼い頃の記憶では私を抱いて笑みを零す父を微かに覚えているが、今となってはそれも何かの思い違いだったのではないかと思うほどに私の覚えている父は冷淡な人だった。
　けれどそれでも父は父、そんな父を殺めたセカンドを私は許す事などできはしない。

「ツキノはもしかしてセカンド側の人間だという事ですの……？」
「それはそうだろうな、セカンドは私の息子カイトをも懐柔してしまった。カイトはツキノと共に兄弟のように育ってきたんだ。カイルとセカンドの番相手は幼馴染で仲が良かったらしい、そしてそんな2人にカイルはカイトの教育を任せてしまったのだとそう言った。私もそんな話を聞かされたのはつい昨年の事で、寝耳に水の話だった。カイトは私に懐かない、私の子供だというのにこの国を嫌ってすらいる。それはどう考えてもセカンドがカイトの養育に関わってきたからだ。だからそんなセカンドに育てられたツキノを私は信用出来ないんだ」
「でしたら何故そんなツキノの言う事を聞いて、貴方はこんな場所に日参しているのです？」
「少なくとも貴女と話し合う場を設ける事は我が国にとってマイナスではないと思ったからですよ。そうでなければ、私がこんな場所へ足を運ぶなんてあり得ない」

　尊大な物言いだ、私はこの人のこの話し方があまり好きではない。そんな彼の話し方は自分は間違った事をしていないと信じて疑ってもいなかったおじい様の話し方によく似ている。おじい様は父をよく『出来損ない』呼ばわりしていた。
　父はおじい様を城から追い出し王位を継いだ国王だった。なので、幼い頃はおじい様と交流はほぼなかったのだが、父が亡くなり、叔父が即位すると擦り寄るように祖父は私と母の前に現れたのだ。
　祖父は言った『お前の父親を殺したのは現国王レオンである』と。そして同時によく口にしていたのが『お前の父親は国王に相応しくない出来損ないの王であった』というその言葉だ。
　現国王レオンは対外的には祖父の三番目の子供サード・メリアと呼ばれていた。けれどその実、その父親が王妃の浮気相手の男であるのはあまりにも有名な話で、祖父は叔父に擦り寄るような事はしなかった。
　元々サード・メリアを名乗っていても彼は城には暮らしていなかったし、祖父も叔父の事は自分の息子だとは思っていない様子で、だからこそ祖父は父亡き後、私達に擦り寄ってきたのだ。
　ツキノから聞かされたツキノの暗殺未遂事件、それはまだツキノが赤子の頃の話で、私はそんな話は知らないと彼に言ったが、心当たりが全くない訳ではない。祖父はその頃、恐らく叔父を追い落とし私を正式な王家の跡取りとして女王に立て、自分は私の後見に立とうとしていたのだ。
　けれど、結局思うように事は進まず祖父も私達から離れていった。それが何故だったのか私にはよく分からないのだが、そもそも父を出来損ない扱いにしてきた祖父だ、役にも立たない孫娘に用はなかったのだろう。
　私はその頃まだ幼く、大人達の思惑などまるで分からない子供であったけれど、自分の人生はこの『王家』という名の下で一生を暮らさなければならないのだという事をなんとなく理解していた。
　母は王家に嫁ぎ、一生を妃として安穏と送る事が出来る立場であったはずの自分の現在の境遇を常に嘆き悲しんでいた。母の実家はメリアでもそこそこ大きな貴族の家で生活に困る事はなかったが、一度は王家に嫁ぎ王の子を成した女に新たな嫁ぎ先などある訳もなく、母は王家を呪いながら寂しい余生を送っている。
　そんな母を傍らで見続けてきた私は、母のようには生きたくないと常々思っていた。自分の人生を他人頼みに自分で切り開くこともせずただ泣いて人生を送る、そんな人生は真っ平だ。だから私はここまでやって来たし、これからも私は自由に生きていく。
　例えその為に好いてもいない相手のもとに嫁ごうとも、私は己を貫いて生きていきたいそう思っている。けれど、それが誰かの掌の上で踊らされているのだと分かってしまえばまた話は別だ。
　しかも、それが父を殺し、私をこんな人間に仕立て上げた張本人の掌の上だと言うのならなおの事……

「ありがとうございます、王子。良い話を聞かせていただけましたわ。私、貴方のことは好きになれそうな気がいたします」
「ん……？」

　王子はセカンドを嫌っている、それは私も同じ。憎むべき相手が同じなら同じ方向を向いて生きていける、そこに愛などなくても構いはしない。

「さぁ、私達の結婚式のお話を致しましょう。日取りはいつに致しましょうね。列席者のリストも早めに作成しないといけませんわね、なにせこの式は世紀の一大イベントになるでしょうからね」

　にこりと私が笑みを浮かべると、王子はやはり苦笑いで「好きにしてくれ」と、そう言った。




　ランティスのエリオット王子とメリアのレイシア姫との婚約の報は瞬く間に大陸中に広がった。その報は各々思惑の中であらゆる人間の間で波紋を生んだ。

「まさか、本気か？」

　ブラック国王陛下は驚いたように瞳を見開く。メリアとランティスの確執を誰より理解している彼は俄かには信じられないという表情で、その裏に何があるのかと考え込む。

「お目出度い事じゃないですか……」

　そう言って瞳を伏せたのはエリオット王子の番相手、カイル・リングス。それは彼自身が長年望んでいた事でもあったのだ。王子には王子に相応しい相手と結婚して、立派に国を継いで欲しい、それはカイルが望み続けた事で、喜ばしいことであると思う気持ちは勿論あるのだが、その気持ちとは裏腹に沈む気持ちを抑えられない彼は言葉少なく沈黙した。

「エリィが……？　嘘でしょ？」

　その報を聞いたアジェは言葉を無くす。誰よりも一途に番相手を思い続けていた兄エリオットの事を理解している彼にとってはその話しは到底信じられるものではなかったからだ。
　けれど、そんなアジェに彼の伴侶エドワードは「いよいよもって奴も年貢の納め時か……」と、ひとつ頷き「それにしても相手には驚きだがな」と、その結婚相手に思いを馳せる。

「僕、エリィの所に行ってくるよ。こんな話、本人から詳しい事情を聞かないと信じられない！」
「え、おい、アジェ！」
「それにロディの事も少し心配だから、僕、メルクードまで行ってくる。エディはお留守番よろしくね！」
「おい、待てって、アジェ！！」

　伴侶のかける声を聞き流し、アジェは旅支度を整える。なにやら胸騒ぎがして居ても立ってもいられなかった。

「……ほう？」

　その報に一言だけ漏らして沈黙したのは孫のノエルの家出を追いかけて、メルクードへと向かっていたコリーと、そして傍らにはメリア人騎士のダニエル。

「その話、本当の話ですか？」

　ダニエルはやはり俄かには信じられなかったのだろう、その話を振ってきた行商人を問い詰める。

「ああ、今メルクードではその話でもちきりさ。まさかうちの王子がメリアの姫と結婚だなんてね、ランティス王家も地に落ちたもんだよ」

　髪をフードで隠したダニエルがメリア人だとは思わなかったのであろう行商人はそう言ってけらけらと笑った。

「コリーさん、これは……」
「メルクードで何かが起こっているのは間違いないですね。私達には関係のない事、そう思いたい所ですが、これは行ってみない事には何が起こっているのかも分かりません。少し行程を急いだ方がいいかもしれませんね」

　険しい顔のコリーはそう言って外套を翻す。それに慌てたように付き従うダニエルは、自身の仕える主君レオン王の事を思う。ここまで身を粉にしてメリア王国の為に政を行ってきた王の苦労が水泡に帰す事だけは避けたいダニエルは、どんな思惑が働いてそんな話が持ち上がったのか……と、天を仰いだ。

「いつの間にそんな話が……」

　そして、その当のメリア国王レオンはその報を聞いて複雑な表情を浮かべる。

「姫だってもうそういうお年頃ですもの、そんな話が持ち上がったって不思議ではないでしょう？」

　妃であるルネーシャはなんという事もないという表情だが、レオンにとってはそれは少しばかり不安が残る。兄王の娘レイシアが自分を憎み嫌っている事を知っているレオンは、民主化まであと一息という所まできたこのタイミングでレイシアがランティス王家へ嫁ぐ事に何かしらの意味があるのでは？　と、疑ってしまうのだ。

「それにしたってこれは王家同士の婚姻だ、筋としてはこちらも通していただかなければ、対応に困る」
「私とあなたの婚姻だって全て事後承諾だったじゃないの、そんな話しは今更ね」

　言われてしまえばその通りだ、自分はファルスの姫であるルネーシャを嫁に迎えたわけなのだが、それは半分ルネーシャの押しかけ女房から始まっていて、ルネーシャの父親であるファルス国王へのお伺いを立てた時には、既にお互いの心は決まっていた。

「けれど、王子には既に番相手がいるはずだろう？」
「それは確かにその通りね、そんな話しをアジェ様から聞いているもの。確かその相手との間にお子さんもいるって話は聞いているけれど……って、あら？　それってうちの子の番相手じゃなかったかしら？」
「あぁ、確かにそうだ。名前は確かカイト……ツキノが変に巻き込まれていなければいいが」
「大丈夫でしょう？　今ツキノは兄さんの所で暮らしているはずですもの。あぁ、早くツキノに会いたいわ、それにツキノのお嫁さんはどんな子なのかしら？　結局我が子を手元で育てる事も出来なくて、もう巣立ってしまうのは何だか寂しいわね」
「もしこの革命が成功した暁には、もう一人くらい子だって授かれるさ」
「あらあら、うふふ」

　仲睦まじいメリア国王夫妻は、まだ２人の子であるツキノがこの件にがっつり絡んでいる事を何も知らない。

「メリアとランティスの婚姻か……ふん、おめでたい奴等だな」

　そう鼻で笑ったのはスランのアギト。その傍らにはどこか虚ろな瞳のユリウスが佇んでいる。

「浮かれていられるのも今のうちだ、そんな頭のおめでたい奴等は皆纏めて血の海に沈めてくれるわ」

　高笑う彼を止められる者はもう誰もいない。