運命に花束を

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運命に祝福を

メルクードの現状 ②

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 リングス薬局を後にして、今度こそ俺達は寄宿舎へと向かう。そういえば何だか腹が減ったな。

「ウィルは晩御飯いつもどうしてるんだ?」
「寄宿舎に食堂があるよ」
「そこ、俺も食べられる?」
「そういえば、昼間は一般解放してるって聞くけど、晩はしてないかも」
「だったら、何か調達していかないと駄目かな」

 「だったらいい店知ってるよ」と、ウィルに連れて行かれたのは寄宿舎に程近い小さな商店。そこには幾つかの持ち帰り用の惣菜が売っていて、ウィルに薦められるがままに幾つかの惣菜を購入した。
 店員が俺の髪色を見て、少しばかり眉を顰めたのだけど特別何も言われなかったのはウィルのお陰かな?
 惣菜を抱えて、寄宿舎の門をくぐると入り口付近は多目的ホールにでもなっているのか、その場に居た人達に不審者を見るような瞳を向けられた。

「ねぇ、ウィル、やっぱり関係者以外は入っちゃ駄目なんじゃないの?」
「オレ、そんな話聞いてねぇもんよ」

 それ、もしかしてウィルが聞いてないだけってそんなオチだったりしない? 大丈夫?

「おい、ウィル、そいつ……」
「ん? 友達。ここ、友達の出入りって禁止だっけ?」
「いや、そんな事はないはずだが、でもそいつ……」
「言っとくけど、ノエルはメリア人じゃないよ。って言うかさ、皆だって今まで赤髪見てそういう反応してなかっただろ? どうしちゃったの?」
「いや、でも、ここはファルスではないし……」

 どうやらウィルに声をかけてきたのはウィルの留学仲間であるらしい。けれど、そんな彼等も俺のこの赤い髪色は気になるようで、ちらりちらりと俺を盗み見る。

「だから何? ノエルはわざわざファルスからオレを訪ねて来てくれたのに、そういう態度って失礼じゃない!?」
「なんだ……彼はファルスの人間なのか……」
「だから何!? って言ってるのに! もう行こう、ノエル! 皆もさ、ちょっとこの国に毒されすぎなんじゃないの?! オレ、そういうの嫌いだなっ」
「いや、でもな、ウィル……」
「うるさい、うるさ~いっ!」

 ウィルはぷんすかと怒りを隠さず俺の腕を引く。俺は相手の男の人にちょっと申し訳なくてぺこりと頭を下げた。

「ウィル、何もそんなに怒らなくても……」
「だって、皆ファルスでは何人だってそんなの気にせず仲良くしてたのに、いつの間にか、ああやって赤髪や黒髪を警戒するんだ。確かに知らない土地で知らない人と暮らしてるんだから、ある程度警戒心は必要だと思うけど、オレが友達だって言ってるのにあの態度、オレは納得いかないよ!」

 ウィルの気持ちは嬉しいけれど、この国はそういう国だし、郷に入れば郷に従えという言葉通りに彼等は行動しているだけに過ぎない。けれどこの国に入ってから、キツク当たられる事の多かった俺はそんなウィルの言葉に泣いてしまいそうだ。
 案内されて通された部屋は4人で暮らすには少し手狭なこじんまりとした部屋だった。少し期待していたのだが、部屋にはまだカイトもイグサルさんも帰ってきてはいない。
 部屋の中にはベッドが4台、そのベッドの上だけが個人のスペースで後は全部共有スペースだ。

「ここがオレで、そっちがカイ兄、こっちがイグ兄、そんでもって、そこがユリ兄」

 指差されたユリ兄のベッドは整然と整頓されていて、生活感がまるで見えない。元々そうだったのか、しばらく主が不在の為にそうなっているのか、俺には知るよしもない。
 そんな部屋の端に設置された机の上に惣菜を広げて俺達は話し込む。

「ねぇ、ウィル……ユリ兄は失踪する前、何か変わった事とかなかったの?」
「んん? 別に特に何もなかったなかぁ、ユリ兄って元々他人に愚痴を零すこととかしない人じゃん? 何かあるなら言えってオレもイグ兄も何度も言ったけど、笑うばっかりでユリ兄は何も言わなかったよ。カイ兄はそんなユリ兄の抱えてる事、少しは知ってたみたいだけど、結局オレ達には何も教えてくれなかったな。オレ達がそういう色々な事情を知ったのは、ユリ兄がいなくなった後だよ」
「そうなんだ……」
「うん、なんかね、ユリ兄とカイ兄、ナダール騎士団長に弟の動向を探って欲しいって依頼されていたみたいなんだよね。ナダール騎士団長の弟ってリリーの父ちゃんなんだけど、オレ達にはナイショで何度も接触しようとしていたみたい。リリーの父ちゃんって、この国の騎士団長じゃん? 色々と疑惑のある人でその辺の疑惑について調べていたんだって。でもさ、リリーの父ちゃんが悪い人のわけないじゃん? 色々誤解もたくさんあったらしいよ。そんな中でツキ兄が人攫いに攫われてさ、その調査の最中にユリ兄は失踪したんだよ、もう皆訳分かんないよね……」
「じゃあ、本当に突然だったんだ……?」
「そうだよ、目の前で見ていたカイ兄ですら、なんで突然あんな行動に出たのか分からないって言ってたくらいだからね」
「そこに居たのがユリ兄の『運命の番』だったから…………?」

 俺にはまるで分からない感覚だ。俺にはそんな特別な力はない、だから、どんなに足掻いても、俺にはその時の彼の気持ちの動きなんて分からない。

「それはね、たぶんそう。だけどさ、運命の番との出会いって、そんなものじゃないとオレ思うんだよね……」

 ウィルが少し小首を傾げるようにそう言った。

「オレとリリーも運命の番だよ、そこはお互い確認もしたし、間違いないと思ってる。オレはリリーが大事で、誰よりも大好きだけど、だからってオレの何かが変わったように思う?」
「え……いや、それは思わないけど……」

 確かに以前のウィルならばリリーを彼女に選ぶようなことはしなかっただろう。そういう点ではウィルは変わったと言えるのかもしれないが、先程の件からも分かるようにウィルの本質的な部分は何も変わってなどいやしない。

「だろ! ツキ兄とカイ兄だってそう、あそこは元々小さい頃から一緒にいるからオレ達とは違うかもしれないけど、番になった後だって何も変わらない、より仲良くはなったように思うけど、基本的な所は何も変わってない、なのにさ、ユリ兄は人が変わったみたいになって失踪したんだよ、これって何かおかしくない?」
「それは、俺もそう思う……」
「だからさ、カイ兄はもしかしてこれは違法薬物のせいなんじゃないか? って、そう言うんだよ」
「違法薬物……?」
「そう! さっきロディ兄ちゃんのとこでも話してたヤツ! なんかね、ユリ兄の番相手って、その薬物の中毒患者だったらしいんだよね」

 ここメルクードで蔓延しているという薬物、俺に赤髪を隠すように進言してくれたおじさんも言っていた、ユリ兄の番相手というのはそんな薬物に溺れた人間だという事か?
 それは何やら清廉潔白なユリ兄とは相反する相手、けれど国境の町ザガを襲ったというユリ兄の事を思えば、そんな番相手に引き摺られるようにして、悪事に手を染めたという可能性も浮上する。

「それでね、その相手の人もそうなんだけど、その薬を売っているのも山の民の人らしいんだよね」
「山の民……」
「うん、山に暮らす山賊の人達」
「知ってる、黒髪の黒の騎士団にも似た人達、だろ?」
「うん、それ。黒の騎士団の人達はいい迷惑だよね」
「ユリ兄の番相手も?」
「うん、黒髪だったってカイ兄が言ってた」

 山の民……ルーンの町でロディ様を襲ったのも山の民、そして国境の町でジャック王子を襲ったのも山の民だったと聞いている。奇妙な符号、この事件の裏には『山の民』と呼ばれる人達が暗躍している?
 襲われているのはファルス王家に関わる人間。ロディ様はそうは言っても少し関係性に乏しい気もするけれど、まったく無関係という訳ではない。
 武闘会の時は王都も狙われているのだ、ファルス王家に何か恨みを持つような人間がいるのか? そしてそれが山の民。 現在のファルス国王は山の民ではないけれど、彼等と同じ黒髪黒目、どこかで何かしらの関係性があった事を俺は否定出来ない。

「だったらユリ兄がいるのは……」
「ノエル、分かるの?」
「山の民の集落は国境付近に密集してる、この件に山の民が関わっているって言うなら、場所はたぶんその近く」
「ツキ兄はユリ兄をメリアとの国境で見たって言ってた」
「メリアとランティスの?」
「そう! 国境破りでメリアに行ったって……ノエル?」

 行かなきゃ……
 俺はふらりと立ち上がる。

「なに? ノエル、まさか今から行く気!?」
「俺は知らなきゃいけない、ユリ兄がどうしてそんな事をしたのか、本当に俺を裏切ったのか、俺は直接本人に聞かなけりゃ……」

 ウィルが困ったような顔をしている、だけど、ここまで来て彼に会わずにおめおめ故郷に帰る事なんて俺には出来ない。手がかりを掴んだのなら、俺はそこに行かなければ……

「今からなんて無理だよ。それにメリアって言ったって広いんだよ! 何処に行けばいいかなんてノエルにだって分からないだろっ!」
「……ユリ兄が山の民の集落にいるって言うなら、だいたいの場所の見当はつく」
「え……そうなの? いやいや、でも、もう夜になるよっ! せめて明日にしなって! それにノエル、そんな所にまで行く旅費とか持ってるの!?」
「持ってない、けど、行かなけりゃ……俺にしか止められない、ユリ兄を止められるのはきっと俺だけだから」

 本当はそんな確信はないけれど、彼を悪事に引っ張り込んでいるのが彼の番相手だと言うのなら、俺はそんな人から彼を救い出さなければいけないのだとそう思う。
 いや、違う、そうじゃない、俺は自分に役割を作りたがっているだけだ、俺は彼の人生において、ただの通過点だったに過ぎないのかもしれない、だけど、俺はまだ……

「止めるって何!? ノエルはユリ兄の何かを知ってるの?」
「国境の町、ザガを襲った人間がいるって話したよな、あれ、犯人ユリ兄なんだよ……」
「……え、うそ……」
「嘘じゃない、目撃者が何人もいるんだよ。その中にはルイさんやヒナちゃんもいて、彼女達がユリ兄を見間違える訳、ないよね……」
「たちの悪い冗談……」

 半笑いのウィルはそれを冗談にしたがるけれど、これは嘘じゃない。その話を語っていたルイさんの表情は苦しげだった、その話を語ってくれたヒナちゃんは泣いていた。
 嘘なんかじゃない、これは全部全部真実だ。

「嘘じゃないんだよ、ウィル……」

 俺もどこかでそれはたちの悪い嘘だと信じたがっていた、だけど、これは……

「嘘だったらどれだけ良かったか……」

 裏切りに散々泣いて、もう泣くつもりはなかった。けれどそれでも零れてくる感情に、俺は零れそうになる涙を必死で堪える。

「だから、俺は行かなけりゃ……」
「………………」

 その前に腹ごしらえはしなければ、と俺はもう一度座りなおして、惣菜を口に突っ込んだ。正直味なんて全然しない、だけどこの先はきっと体力勝負だとそう思うのだ。

「ノエル、本当に行くの……?」
「行くよ、当たり前だろう」
「どうやって行くの? さっき旅費だってないって……」

 確かに所持金はたいして持ってはいない、けれどこの道中、ジェイさんとリオさんの2人の旅に同行させてもらったおかげで、ずいぶん旅費は節約できた。
 彼等は元々王家の人間で、割り勘なんてけち臭い事は言わずにその旅費のほとんどをジェイさんが払ってくれた。だからここメルクードへの片道程度の旅費しか持っていなかった俺にも、まだ幾らかの路銀が残っている。

「手持ちが少ないのは確かだから、野宿でもなんでもするつもり。でももし、少しでも俺に同情してくれるならウィルも貸してくれると嬉しいかな。ちゃんと全部返すから……」
「オレの小遣い程度じゃきっと旅費の足しにはならないよ。ノエルの焦る気持ちは分かるけど、イグ兄達が帰ってくるの待とう? きっと皆から掻き集めた方が……」
「時間がないんだよ、ウィル。ユリ兄はもう既に行動を起している、次に何をしようとしているのか分からない、だから止めるなら一刻も早く彼を見付け出さないといけないんだ」
「それはそうだろうけど! あぁ、もう!」

 戸惑い顔のウィル。でも、ごめん、俺はもう決めているんだ。ユリ兄を探し出して、彼にその本意を直接聞きだす。それが俺の歩きだせる唯一の道だから。
 ウィルは困ったような、少し怒ったような顔をして自分の荷物を漁ると、財布ごと俺の手の中に押し込んだ。

「これで全部、持ってって!」
「ありがとう、ウィル。君に会えて良かったよ」
「……ノエル1人で大丈夫? なんならオレも付いて行こうか?」

 俺は黙って首を横に振る。これは俺の選択だ、彼を巻き込む訳にはいかない。

「ウィル、ひとつだけ伝言お願いしていいかな?」
「なに?」
「今日ね、ランティス城にマリオ王子が帰還したんだよ。それと一緒にジェイ……ううん、ファルスのジャン王子が同行している」
「え……そうなんだ」
「うん、それでね、ジャン王子はエリオット王子にもしかしたら喧嘩を売る気なのかもしれないから、カイトにそれを伝えて欲しい。ジャン王子は悪い人じゃない、敵でもないよ。そんな所で無駄に人間関係を拗らせないように、それだけお願い、伝言お願いできるかな?」
「う……ん、よく分からないけど、分かった。カイ兄に伝えとく」

 頷いたウィルに俺も頷いて、荷物を抱える。ウィルから借りた財布は鞄の中に大事に大事にしまい込む。

「ノエル、ちゃんと帰ってこいよ」
「うん、帰ってくる、約束するよ」

 寄宿舎の玄関先まで見送ってくれたウィルに手を振って、俺はその足でメルクードを旅立った、ここに彼がいないのだと確認出来てしまえば、もうここに用は無い。
 未来の見えない旅、けれど俺にとっては人生を左右するだろうこの旅への足を俺は止めることはできないのだ。


  ※  ※  ※


「ツキノがメルクードに戻っている……だと?」
「あぁ、しかも何故かレイシア姫と一緒にな。今の所の情報はそこまでなんだが、お前もとんだ無駄足だったな、セイ」

 黒の騎士団の情報網、定期的に交換される情報を聞きに来た俺の耳に入ってきたのは驚くべき情報だった。まだメリア国内のどこかにいると思っていたツキノが何故かメルクードに戻っている、しかも先代のメリア国王の一人娘、レイシア姫と一緒にだと言うのだから驚きを隠せない。
 俺が行方をくらましたツキノをメリア国内で探し回っていると信じて疑ってもいないムソンの仲間は、同情するように苦笑した。

「あともうひとつ、今、ボスのご子息がやはりメルクードに向かっていてな、たぶん間もなく到着する頃じゃないかな……」
「ご子息? ジャン王子か?」
「ジャック王子はまだ意識不明のままだしな、他にはおるまい?」
「でも、なんで……?」
「イリヤに療養に来ていたマリオ王子だよ。元々やけに気にかけているなと思っていたんだが、どうやらジャン王子はマリオ王子に気があったらしい。マリオ王子はベータだからと思っていたら、どうやらジャン王子、マリオ王子をオメガに変えちまったらしい。エリオット王子とカイルという前例もあるからな、そういう事が起こっても不思議ではない。それにしても王家の人間っていうのは同じバース性でも、やはり俺等とはどこか違うんだな」

 やはり苦笑するように男は笑う。

「それで、ジャン王子はマリオ王子を嫁に貰いにメルクードへ向かったって訳だ。弟が大変な時に、まぁ呑気なと思わなくもないが、あそこの家族は皆それぞれマイペースだからな」

 行方不明の次女も未だ足取りが掴めないままだし……と、呆れたように男は笑う。
 ファルス国王ブラック国王陛下には4人の子供と1人の養子がいる。一番上が養子の現カルネ領領主エドワード、長女が現メリア王妃のルネーシャだ。そして長男が今話しに登ったジャン王子、続いて現在意識不明のジャック王子、そして最後に末娘のユマ姫だ。
 そしてこの末の娘がある日突然「旅に出る」と書置きひとつ残してふらりと消えてしまったのはもう何年前になるか、その当時は大騒ぎで俺達も動員されて国中を探し回ったが結局見付ける事はできなかった。
 ある程度の期間が経つと、国王陛下は「頼りがないのは無事な証拠」と、諦めたように苦笑いを零し、彼女の捜索を諦めた。
 時折目撃情報が上がってくる事と、どうやらカルネ領主の妻、アジェの所には文が届く事もあるらしく、死んではいないという情報だけが俺達の知るところとなっている。

「で、そっちは何か情報は? ユリウスがメリアに入ったという情報から、その後の続報がないんだが……?」
「ユリウスか……悪いが俺の方にも情報は入っていない」

 俺がそう言うと、男は「そうか」と頷いた。

「セイはメルクードに向かうのか?」
「あぁ、元々俺の任務はツキノとカイトの護衛だからな」
「そうか。何やらメルクードに王家の人間が集まって、あまりいい予感はしないな。何事もなければいいけれど」
「本当にな」

 お互い苦笑いするようにして俺は男と別れた。ツキノがメルクードに戻っている、その情報を知ってしまったからには俺自身メルクードに戻らない訳にはいかない。スランで療養中のユリウスは、意識ははっきりしてきたのだが、薬物依存状態から抜け出せずにいる。
 御神木の葉で作った煙草を燻らせ、どうにか意識を保っているが、煙草の効果が切れると途端に手足の震えが止まらなくなる。そして時には幻覚を見る事もあるらしく彼の表情が晴れる事はない。
 神に与えられたという力も制御しきれない彼はその感情の起伏と共に天候を荒らし、そんな天気と同様に彼の気持ちは荒んでいく一方だ。
 彼にとって唯一の心の安らぎは番相手のミーアの存在、そんな彼女の体調もユリウス同様芳しくもなく、御神木というのは本当に害にしかならないモノだったと俺は思う。
 アギトはそれを使って国を混乱の渦に落とし込もうとしているが、それ以前に味方がこの有様では……と、臍をかむ。
 幾つもの選択、俺はどこで間違えた? いくら後悔した所で、動き出してしまったモノはもう止める事もできやしない。メルクードに戻る前にアギトにある程度の情報を流しておかなければ……と俺はスランへと足を向けた。


「ほう、そうか……」

 アギトは俺の報告にひとつ頷く。

「俺はまたしばらくメルクードに戻らなければならない、その間ユリウスの事は……」
「連れて行けばいい」
「……は?」
「これは絶好の好機チャンスだ、メルクードに王家の人間が集まっていやがる。ランティスだけに留まらず、ファルスの後継にメリアの後継、ついでに俺の故郷を滅ぼしやがったメリア王の娘も勢揃い、はは、これは面白い、いい話を聞いた」
「な、アギト! お前一体何を……」
「ユリウスの力はもう既にザガ襲撃である程度把握できた。あの力を、今度はランティスの王都メルクードで使えばどうなるか、お前にだって分かるだろう? 俺は元々ランティスという国が嫌いなんだ、血祭りを上げるにはちょうどいい」
「アギト、それは軽率だろう!」
「軽率? 慎重に慎重を重ねて何になる? 俺達には時間がない、神の力を使える期限も切られているのだ、今使わずしていつ使う?」
「だが……」
「御託はいい、さぁ、祭りの準備だ! 今すぐに民を集めよう、今こそ戦いの時だ!!」

 言うが早いかアギトは家の外に飛び出して、声を上げる。村人達は驚いたように家から顔を覗かせた。そしてそんな中アギトは楽しくて仕方がないという表情で民に呼びかけるのだ。

「聞け、スランの民よ、いよいよ宴の始まりだ!」


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