運命に花束を

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運命に祝福を

夜会 ③

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「貴方はカイトのお兄さん? な、訳はないわよね……それにしてもよく似ている気がするのだけど……?」

 ツキノがカイトを連れて外に出てしまい、俺もそれに続こうとしたら、何故かにっこり笑顔の姫に捕まりそんな事を言われてしまった。

「あ……俺、じゃない、私はカイトの従弟になります。親同士が双子の兄弟で、そのせいかよく似ているみたいで……」

 先だって初めて会った母の双子の兄は、本当に母に瓜二つで俺は驚きを隠せなかった。ただその一方で、母はいつでもにこにこと穏やかに笑っているのだが、その兄は始終しかめっ面で眉間に皺を刻んでいて、顔は同じなのにその表情だけでずいぶん人の見た目は変わるのだな……と変に感心してしまった。

「あら、そうなの」

 問うてきたわりには姫はあまり興味関心も無さそうで、俺はどうしていいのか困惑する。そもそも一人こんな所にとり残されて、俺にどうしろって言うのさ! メリアの姫君と2人きりで一体俺は何を話せばいいんだ!

「貴方もランティス人?」
「いえ、私はファルス人です。ファルス王国カルネ領の領主の息子で……」
「カルネ領?」
「ご存知ですか?」
「いいえ、全く」

 ですよね~カルネ領はファルス王国でも端の方に位置していて、しかもとんでもなく田舎なので知名度はファルス王国内でも高くはないと思う。ましてやメリア王国なんて、カルネ領から見たらまるで大陸の反対端で、姫様が知っていてくれたら奇跡に近い。

「でも、どこでだったか、その名を聞いた事がある気がしないでもないわね……どこでだったかしら……?」

 そう言って、彼女は瞳を閉じた。その顔を眺めながら、この人、睫毛長いなぁ……と、ぼんやりとその表情を眺める。こんなに間近で女性と話すのもそうある事ではない、ましてや彼女はお姫様で、どうにも俺は緊張しっ放しだ。
 彼女は俺より一回り以上も年上だが、とても若く見えるし、何より凄くいい匂いがしてうっとりする。

「あ……思い出した」

 ふいに彼女がぱちりと瞳を開けて、ぽんと手を打つ。

「昔、お姉さまと仲の良かった捕虜の方が、カルネ領の出身だと言っていたような気がするわ。直接お話した事はなかったけれど、その人に誘われてお父様に誕生日プレゼントを準備したのよ! あれが最初で最後だったけれど……」
「捕虜? なんでそんな人と姫が?」
「直接話した事は無いと言っているでしょう? けれど、その人とお姉さまは仲が良かったから」
「お姉さまというのは、姫様の姉上様ですか?」
「私は一人娘、そこはメリア王国の王家の基礎知識として覚えておいた方が賢明よ」

 ぐさりと痛い所を突かれた、勉強不足がこういう所で露呈する。今、彼女は怒ったりはしていないが、そんな事も知らないのか? と、馬鹿にされても仕方のない状況、プライドの高い人間であったなら、怒られていても不思議ではない。

「不勉強で大変申し訳ないです」
「ふふ、私もカルネ領の場所を知らないのですもの、お互い様ね」

 姫はなかなかに寛容な女性のようで、くすくすと笑って許してくれた。

「お姉さまっていうのは、ツキノの母親の事よ」
「ツキノの?」

 ツキノの母親と言えば、メリア国王の妃、そしてファルス国王の一番上の娘でもある。

「昔は私も仲が良かったのよ、お姉さまは私の憧れだったわ……彼女ね、ツキノにそっくりなのよ、本当に親子って似るのねぇ」

 俺はツキノの母親を知らない。けれどツキノによく似ていると言うのであれば、きっとメリア王妃は美しい人なのだろう。

「私はあの頃の彼女が大好きだったわ、型に囚われない奔放さで、いつもお城の中を警備兵と追いかけっこしていたのよ」

 …………ちょっと待て、追いかけっこ? 警備兵と? お妃様が? 一体どんな人物だよ、それは姫が憧れるような人物像と言えるのだろうか? 謎過ぎる……

「そんな人だったから、彼女自身も人質みたいなものだったのに、城では自由に暮らしていて、捕虜の人とも仲良しだったのよ、懐かしいわ」
「でも、何故捕虜が誕生日プレゼントなんて言い出したのですか?」
「さぁ? 私はお姉さまにそう提案されたからお手紙を書いただけよ。結局お父様からのお返事はなくて、その直後にお父様は死んでしまったのだけど」

 その話しは母から聞いた覚えがある、母は若い頃先代のメリア王に捕まり、メリア城で生活していた事があると聞いた事が……あれ? それは母の語る寝物語で、どこまでが真実でどこからが空想のお話だったのか分からないのだが、妙に符合するのはなんでなんだ?

「可哀想な王様は、いつもカラクリ人形のたくさんある部屋で、1人で人形を見詰めていました……」

 俺の言葉に、姫が驚いたようにまじまじと俺を見やる。

「なんで知っているの?」
「え……?」
「確かにお城の中にはカラクリ人形がたくさん飾られていた部屋があったの。そこはお父様しか入れない部屋で、お父様はよく1人でその部屋で過されていたわ」
「そうなのですか? でも、これは母が語ってくれた物語の一節で、ただの夢物語ですよ」

 そんな可哀想な王様の話を、母は何度も語ってくれた。俺はその話が好きだったけれど、いつも途中で寝てしまい、物語のラストをはっきりとは覚えていない。
 その王様は、愛した人に捨てられて自暴自棄になっていた。そんな彼の前に現れた王様を愛する少年の存在に彼はなかなか気付かなくて、もやもやした気持ちを抱えたものだ。

「どんなお話?」

 俺はその物語をかいつまんで姫に語る。

「たぶん悲恋だったと思いますが、もしかしたら最後は少年とハッピーエンドの可能性もなくはないかと……」
「王様は男の人なのに、相手は少年なのね」
「あぁ、それはうちの母が男性オメガなので、たぶんそんな感じになったんじゃないかと」
「貴方のお母様、男性オメガなの?」
「はい、カイトもそうですし、数は少ないですけど居る所にはいますよ」

 「そう……」と、姫はひとつ頷き、何か考え込むように俯いてしまった。その時、こんこんと扉を叩く音と、恐らく彼女の従者と思われる男の声がした。

「姫、アレクセイさん戻ってきたよ」
「分かったわ、ツキノも呼んできてちょうだい」

 扉を開けると、そこには老齢の紳士。きっとこの人が執事のアレクセイさんなのだろう。
 しばらくして戻ってきたツキノとカイト、何やら少しツキノの服が乱れている気がするのは気のせいか? ついでにカイトが妙にすっきりした顔付きなのも気にかかる。
 お前等……
 お前等っっ!!

「あら、ツキノ、少し顔が赤いわね?」

 そう言った姫の言葉にツキノは「何でもないっ!」と、顔を隠すようにしてそっぽを向いた。

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