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運命に祝福を
父との再会 ②
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「これはまだ正式に決まった話ではない、だがこの話を持ってきたのはグライズ公爵だったというのを前置きにして聞いてくれ。俺はまだ対外的に独身を通していてな、縁談が持ち上がっている。相手は誰だと思う?」
「そんなの知る訳ないじゃないですか……」
「だろうな」と頷いて、父親は言葉を続ける。
「第一候補はメリア王国の姫、ヒナノ姫だ」
これにはユリウス兄さんも驚いたのだろう、慌てたように腰を浮かせかけ、また慌てたように椅子にかけ直した。
「第二候補はやはりメリアの先代の王の娘レイシア姫、そして第三候補は……まぁ、これはあり得ない話だろうが、これもメリア王家の失踪している元第2王子の子、ルイ姫だな」
「な……待ってください!何故姉の名前まで入っているんですか!?」
今度こそ驚きが隠しきれなかったのだろう、ユリウス兄さんが抗議の声を上げる。
「何故? そこに存在が確認されたからだろう」
「うちの家族は王家とは縁を切っています! 姉は姫ではない! 当事者というのはそういう事ですか!? 我が家は王家とは無関係です!」
「切ろうと思っても切れないのが王家の血だ」
「それは……けれど納得がいきません、何故相手が全員メリアの姫なのですか! 貴方のお相手ならこの国にいくらでもいるはずでしょう!? この排他的な国で、メリアの姫君たちが嫁いできて、幸せな結婚生活など送れる訳がない! 一体どういう了見ですか?!」
「まさに、そこだな。今まで我が国ランティスとメリア王国は敵対するばかりで友好を求めてこなかった、だから今こうやってメリアとの縁を結ぼうと縁談が持ち上がっているという訳だ、そしてその話を持ってきたのが件のグライズ公爵なのだよ」
溜息を零すように僕の父親は頭を抱える。どうにも納得がいっていないのは本人も同じなのだろう。
でも待って、この人の言ってる第一候補のヒナノ姫って、もしかしてツキノの事じゃないの……? そんな話到底受け入れられないんですけど! そもそもこの人とツキノの間に年齢差が幾つあると思ってんだよ!
「親子ほど歳が離れてる相手と結婚って、あり得ない、変態ですか!」
「な……俺が望んでいる訳じゃない! 仕方がないだろう、お前の母親は頑なに俺の嫁にはなってくれなかった、こういう話が持ち上がるのはひとえに俺が一人身なせいで、カイルが妃に納まれば万事解決の話でもあるんだぞ!」
「それにしたって、そんな話あり得ない! そもそもメリア側だって了承しないはずだ!」
父親はまた大きな溜息を零し「だろうな」とそう言った。僕が怪訝な顔で父親の顔を窺うと、やはり彼は困り顔だ。
「話しは聞いている、ヒナノ姫……正しくはツキノ王子か、そいつはお前の番相手なのだろう?」
「そうですよ! あんたになんて絶対渡さない!」
「俺だって親子で女を取り合う趣味はないし、そもそも俺にはれっきとした番相手がいるんだ、結婚なんてする気はない」
「だったら!」
「ランティスはメリアとの友好を模索し始めた。これは国をあげての取り組みなんだ、そんな話しの中で持ち上がったこの縁談はランティス王家とメリア王家で血縁を結び、この争いの歴史に終止符を打つ、というものだった。俺自身この話には戸惑っているし、正直困っている。だが、確かに血を結ぶという事は二国の友好にはうってつけだ。けれど、騎士団長の話を聞いてしまえばグライズ公爵の真意も分からなくなってくる」
「どういう事です?」
「グライズ領は知っての通りメリアと国境を面していて、メリアとの諍いの際には一番の被害を被る土地でもある、グライズ公爵はそんな長いメリアとの諍いに終止符が打たれるのならと、この話を私に持ってきたのだ、だが、その裏でメリアとの諍いを生み出しているのがグライズ公爵だとしたら、その裏に何があるのか? と思わずにはいられない」
皆一様に考え込む、何が真実で何が嘘なのか、僕達にはそれが分からない。
「それにしても、メリア王国はすでに王政廃止を決めていて、そんな話はどう頑張っても通る話ではないはずなのですが、そのグライズ公爵というのは一体何を思ってそんな話を?」
「それが分かれば苦労はしないし、その為に公爵を呼び出す事にしたんだろうが」
王子は苦々しい口調でそういうのだが、本当にそうだよ。どう考えたってツキノの両親がその話を受けるとは思えないし、ルイ姉さんの所だって同様だ。そもそもその人がルイ姉さんの存在を知っている事自体が僕達にとっては想定外で、この話は一から十までおかしな所だらけだ。
「どういう伝手をたどってその姫達に繋ぎを取ろうとしていたのか、俺にはそれすら分かりはしない。ある意味、今お前達がこうやってここへやって来たのはタイミングが良かったとも言える、お前達はそういう意味では完全に当事者だからな」
「私は姉や家族からそんな話しは聞いていませんし、ツキノからも聞いてはいません。カイトも聞いていないね?」
「そんなの勿論だよ!」
僕は首を縦に振る、だって僕はそんな話をひとつも聞いていないんだから。ツキノだってそれは同じ。もし万が一にも聞いていたとしたらとっくにぶち切れているに違いない。
「そもそも血を繋ぐのは有効だとして、姫達を嫁に貰った所で相手がオメガでなければ俺の子供を生む事すらできない。少なくともお前と番になっているツキノ王子はアルファで確定なのだから、そもそも対象外だと思うのだが、グライズ公爵はどの娘もオメガの娘だと言い張っていて、それもおかしな話だ」
「それはおかしいですね、言っておきますがうちの姉もアルファですよ」
「そうなのか?」
「我が家でオメガは妹だけです、レイシア姫も恐らくオメガではないと思いますけどね、なにせ彼女の父親はベータだったと聞いています。母親がオメガなので有り得なくはないですが、可能性は低いと思います」
「公爵はいい加減な情報で俺に嫁を娶らせようとしているという事か?」
「それは分かりませんが、少なくともその話しはどこから持ってきたかも分からないような眉唾物の話である事だけは間違いないですね」
王子はまたしても難しい顔で考え込み、そのうち盛大な溜息を零した。
「もう、それだけの話を聞いてもグライズ公爵は信頼に足る人物ではなかった事が証明されたという事だな……知らずにいたら勝手に縁談は進められ、下手をしたらどこの馬の骨とも分からない女と結婚させられていた可能性もあるという事か……」
「レイシア姫ならともかく、うちの姉は公に表に出ている訳ではない、どこの誰を連れて来た所で、誰も気付きはしないでしょうからね……この国ではグライズ公爵の後ろ盾があると言うだけで赤の他人がその場に立ったとしても信用される可能性があるのでしょうね。こんな話、姉が知ったら勝手に人の名前を利用するなって怒り狂いそうですよ。そして第一候補のヒナノ姫、それはツキノの事でしょうが、うちの妹も巻き込まれている理由がよく分かりました」
「妹? さっき言っていたオメガの妹か?」
兄さんは静かに頷く。
「妹の名前は『ヒナノ』といいます」
「え……?」
「もう聞いているかと思いますが、ツキノの性別は曖昧で、男女どちらとして育つか分からなかった、だからうちの両親は『ツキノ』と『ヒナノ』を育てたのです。ツキノが自分で性別を選べるようになった時にどちらを選んでもいいように、ヒナノとしての人生も用意したのです。私の妹はヒナノのままですが、ツキノがヒナノを選んだ場合、ヒナノの過去がないのは不自然です、だから妹はヒナノと名付けられたのですよ。ヒナノとツキノの顔立ちはよく似ていて、事情を知らない人間から見れば双子だと思われても不思議ではなかったでしょう。ツキノの黒髪はメリア王妃の黒髪、ヒナノの赤髪はメリア王の赤髪、影武者という意味合いでは何も不自然な所はありません。メリア王家の子供は双子という公表をそのまま信じているメリア人にとっては、ですが。恐らく、現在その持ち上がった縁談で祭り上げられようとしているのはうちの妹『ヒナノ』なのではないでしょうかね」
「だとしたら、この縁談の話をグライズ公爵に持ってきたのはメリア人?」
「十中八九そうでしょうね、グライズ公爵はメリアとの繋がりが深いのでしょうね、どのような繋がりであるのかは窺い知れませんが」
何だか背後関係が色々と難しそうな話だ、人間関係がややこしくて困るね。
「だけどさ、この話ってメリアとランティスを血で結ぶって、はっきり言ってもうそれ終わった話だよね?」
「あ……どういう事だ?」
「本当に物凄く嫌だけど、僕はあんたの息子なんだ、それでツキノはメリアの王子、僕とツキノは番だよ、もう繋がってる。僕達の間に子供ができたらその子は二国の王家を繋ぐ子供になるんでしょう? そんな事の為に子供を生むのは嫌だけど、僕はツキノの子供は生むつもりだよ」
「……お前が生むのか?」
なんだろう、その台詞わりと最近も聞いた気がするんだけど……
「だって僕はオメガだし、アルファの子供を生むのは自然の摂理だ。逆にツキノは女性として僕の子供を生んでくれるかもしれない、それも自然の摂理だよね。それでもって、どっちが生んだってその子供は二国の王家の血を引く子供だよ。だから僕達の間でその話しはもう終わった話だよ、僕達が平穏に暮せさえすればあとは自然に叶うことだよね?」
「それはお前が王家に入るという事なんだが、それはいいのか?」
「えぇ……それは嫌だな」
「それに、そうなった場合そのツキノがランティスに嫁いでくる形になるんだが」
「え? 何で? 僕はツキノのお嫁さんになるって、小さい頃から決めてるから、ツキノがいいって言えばいいけど、ツキノがメリアに来いって言うなら僕はツキノに付いてくよ。そもそもこの話って全部ランティスに都合よくて変な話だよね? こっちにお嫁に貰わなくても、向こうにお嫁さんなりお婿さんを出してもいい話だろ? それこそ、こっちには王子が2人いるんだし下の王子、マリオ王子だっけ? その王子をメリアに出すんだっていいと思うんだけど……」
「そもそもそれ以前の話ですよ」と兄さんが口を挟んでくる。
「メリア王家は王政廃止が決まっていると先程も言いました、今メリアとランティスで血を繋げた所で何の得もないし、メリア王家にとっては面倒事が増えるばかりです。それをレオン国王は了承しないでしょうし、もしその話が進んでいるのだとしたら、それはレオン国王の預かり知らぬ所で話が進んでいると、そういう事ですよ」
「やはり敵は身の内にいるという事か」
「恐らくそうでしょうね」
「そうとばかりも言えないんじゃないか?」と口を挟んできたのは騎士団長だ。
「その第一候補のヒナノ姫は置いておいて、第二候補のレイシア姫、その姫は先代王の一人娘で現国王を憎んでいると聞いている。そしてたぶん恐らく王政廃止に同意もしていないんじゃなかったか?」
「それは、確かに……そう聞いています」
「複数人の姫を並べ立てて、本命は彼女という線は捨てきれない。彼女は王政が廃止されれば完全に後ろ盾を失うのだろう? その候補者3人の中で一番ランティス王家の力を欲しているのは誰だ? 私はレイシア姫、彼女のような気がする。だとしたら何かしらの手で裏から糸を引いている可能性を否定できない。あるいは両方で手を組んでいる……」
「ランティス王家を乗っ取って、新たにメリア王家を立て直そうとでもしているのか?」
王子の言葉にその場にいる一同が言葉を失った。まさか、とは思う、けれどない話ではないという思いが胸を燻ぶるのだ。
「は、友好と見せかけた新たなる火種の投入か?」
「メリア王家はもう終わる、けれどランティスへ嫁ぐ事で王家の血は残る。元々メリアとランティスは兄弟国、長い長い野望の果てに二国が統一される未来もなくはない……」
「もしそのレイシア姫がそんな考えの持ち主だとしたら末恐ろしい事だな、とてもランティス王家には入れられない。元々嫁に貰うつもりもなかったがな」
王子はそう言って苦笑いを零した。ランティスとメリア、そこには根深い因縁の歴史があって、僕にはそれが本当に理解できないんだ。人を恨んで憎んで陥れて、そんな生き方、僕には分からない。
「何はともあれ、一度グライズ公爵に話を聞いてからだな」
「王子、私の話を信じてくださるのですか?」
「姑息な手段だったとは思うが、こいつ等を連れて来たのは正解だったな、俺の知らない情報がいくらも出てきた。だが、まだ全面的に全てを信じた訳ではない、そうやって俺は何人もの人間に騙されてきている、おいそれと人を信じる事などできん!」
「あんたはまだそんな事を言うのか!」
「カイト、お前はここへ来て何を思った? 我が城をどう思う?」
突然の父親の言葉に僕は「は?」と言葉を返してしまう。
「俺はこの城に30年以上暮してきたが、ここほど美しく醜い城を見た事がない」
「なに……」
「ここは魔物の巣窟だ、無闇に立ち入れば頭から丸呑みされる、カイト、お前はここに近付かない方がいい」
父親の言葉に僕は言葉を失う、それは母も言っていた言葉だ『ランティスには魔物が住んでいる』だから二度とランティスには帰らないと母はそう言ったのだ。
「来たくて来た訳じゃないですよ……」
「いずれお前達の元へ俺は行く、だが俺にはこの国でやらねばならない事がまだ残っていた、だがいつか必ず俺はお前達の元へ帰る」
僕は父親の言葉を無表情に聞いていた。どう反応を返していいか分からなかったからだ。
「貴方が帰って来た時に、僕がそこにいるとは限らないですけどね」
「はは、その通りだな。俺は出遅れすぎた、もっと早くにこの事に気付いていれば良かったのだがな。すべては後の祭りだ……」
自嘲気味に王子は嗤う。それはなんだか少し卑屈な笑みで、僕はそれにまたイラっとする。
「出来ていなかった事を悔やんでる暇があったら今できる事をするべきでしょう。それでもって僕は今さっさとここから解放されてツキノを探しに行きたいんで、早々に話しのケリをつけてください」
「ん? ツキノ? なんだ、彼もメルクードに来ているのか?」
「昨日人攫いに攫われましたけどね。本当は僕、こんな所であんた達と呑気に話していられる精神状態じゃないんですよ!」
「攫われた……? メリアの王子がか?!」
「恐らく王子としてではなく、毛色の変わった娘、としてでしょうけれど。現在我が国の諜報部隊が後を追っていますが、攫われているのは事実です」
そうなのだ、昨日ツキノはあんなに嫌がっていた女の格好をしていたらしい。それは彼と一緒にいたカルネ領領主の息子ロディも一緒に。
捕まった先でロディは女装がバレてゴミ袋に入れられ捨てられていたらしいのだけど、ツキノはそのまま女の子と認識されて攫われてしまったのだと聞いた。っていうか、女の子として攫われるって、攫われた先で何をされるかと想像した時に本当に悪い予感しかしないんだけど!
ツキノは確かにその辺の男に引けを取るような男じゃない、けれど複数人の男に囲まれて、もしくは薬でも盛られていたら……実際イリヤで遭った事件ではツキノは薬を盛られてオメガに襲われている、そして今回もどういう訳か抑制剤として渡された薬が睡眠薬と痺れ薬だったって聞いて、本当に血の気が引いたんだ。
身動きが取れないままツキノは攫われて、その薬がどれくらい持続時間があるのか知らないけど、ツキノの貞操を思うと僕は本当に居ても立ってもいられない。
「カイト、いざという時には必ず黒の騎士団が助けてくれる」
「そんなの、どこまで信用していいのか僕には分からないよ! だってその人達ツキノの護衛から、人攫いのアジトへの潜入捜査に切り替えて仕事してるんだろ?! 守るべき人間を囮にそれってアリなの!? おかしくない!?」
「彼等には彼等なりの信念があるのだと、私は信じています」
そう言い切った兄さんだけど、またそんな兄さんのフェロモンが揺れた。普段はここまではっきり分かる事はない兄さんの感情が乱れているのが分かる。
「兄さん、僕に何か隠してる事ない……?」
「え? ……ありませんよ、何も……」
けれど兄さんはわずかに瞳をそらす。常に真っ直ぐ相手を見据えて話す兄さんにしては珍しいその動きに、僕の不信感は募るばかりだ。
「分かった、今は信じる。だけど、もしツキノに何かあったら……ううん、今はそんな事を言っている時じゃないね。話が終わったら必ず僕をそこに連れて行ってよ、ツキノの痕跡と行き先の手がかりが残っているかもしれない」
「分かっています」
「クレール商会か? あそこはもうもぬけの殻だぞ。朝一で報告が入った。事業主、従業員揃って全員すでに雲隠れだ」
「足が速いですね」
「元々そういう商いの仕方なんだろう、所詮闇商人という輩だ」
「事業主の名前は?」
「お前の言った通りだったよ。クレール・ロイヤー、だがそいつの個人証明書はメリア人の者だった……これも奪った戸籍の改ざんと見ていいか?」
「それは間違いないでしょうね、その人と私の知る人物が同じであるのならば、間違いなく彼はファルスの人間です。偽名を使うという事もしないなんて、頭が悪いのか、それとも余程自己顕示欲が強いのか分かりませんがね」
ツキノを攫った人間の手がかりは既に潰えていると騎士団長は言う。だったら僕はどうすればいい? 黙ってここで指を咥えて待っていろと? そんな事が出来る訳がない!
「それでも僕は行くよ」
「貴方もツキノも言い出したら聞かない事は分かっていますよ」
兄さんはそう言って微かな笑みを浮かべて頷いた。
「そんなの知る訳ないじゃないですか……」
「だろうな」と頷いて、父親は言葉を続ける。
「第一候補はメリア王国の姫、ヒナノ姫だ」
これにはユリウス兄さんも驚いたのだろう、慌てたように腰を浮かせかけ、また慌てたように椅子にかけ直した。
「第二候補はやはりメリアの先代の王の娘レイシア姫、そして第三候補は……まぁ、これはあり得ない話だろうが、これもメリア王家の失踪している元第2王子の子、ルイ姫だな」
「な……待ってください!何故姉の名前まで入っているんですか!?」
今度こそ驚きが隠しきれなかったのだろう、ユリウス兄さんが抗議の声を上げる。
「何故? そこに存在が確認されたからだろう」
「うちの家族は王家とは縁を切っています! 姉は姫ではない! 当事者というのはそういう事ですか!? 我が家は王家とは無関係です!」
「切ろうと思っても切れないのが王家の血だ」
「それは……けれど納得がいきません、何故相手が全員メリアの姫なのですか! 貴方のお相手ならこの国にいくらでもいるはずでしょう!? この排他的な国で、メリアの姫君たちが嫁いできて、幸せな結婚生活など送れる訳がない! 一体どういう了見ですか?!」
「まさに、そこだな。今まで我が国ランティスとメリア王国は敵対するばかりで友好を求めてこなかった、だから今こうやってメリアとの縁を結ぼうと縁談が持ち上がっているという訳だ、そしてその話を持ってきたのが件のグライズ公爵なのだよ」
溜息を零すように僕の父親は頭を抱える。どうにも納得がいっていないのは本人も同じなのだろう。
でも待って、この人の言ってる第一候補のヒナノ姫って、もしかしてツキノの事じゃないの……? そんな話到底受け入れられないんですけど! そもそもこの人とツキノの間に年齢差が幾つあると思ってんだよ!
「親子ほど歳が離れてる相手と結婚って、あり得ない、変態ですか!」
「な……俺が望んでいる訳じゃない! 仕方がないだろう、お前の母親は頑なに俺の嫁にはなってくれなかった、こういう話が持ち上がるのはひとえに俺が一人身なせいで、カイルが妃に納まれば万事解決の話でもあるんだぞ!」
「それにしたって、そんな話あり得ない! そもそもメリア側だって了承しないはずだ!」
父親はまた大きな溜息を零し「だろうな」とそう言った。僕が怪訝な顔で父親の顔を窺うと、やはり彼は困り顔だ。
「話しは聞いている、ヒナノ姫……正しくはツキノ王子か、そいつはお前の番相手なのだろう?」
「そうですよ! あんたになんて絶対渡さない!」
「俺だって親子で女を取り合う趣味はないし、そもそも俺にはれっきとした番相手がいるんだ、結婚なんてする気はない」
「だったら!」
「ランティスはメリアとの友好を模索し始めた。これは国をあげての取り組みなんだ、そんな話しの中で持ち上がったこの縁談はランティス王家とメリア王家で血縁を結び、この争いの歴史に終止符を打つ、というものだった。俺自身この話には戸惑っているし、正直困っている。だが、確かに血を結ぶという事は二国の友好にはうってつけだ。けれど、騎士団長の話を聞いてしまえばグライズ公爵の真意も分からなくなってくる」
「どういう事です?」
「グライズ領は知っての通りメリアと国境を面していて、メリアとの諍いの際には一番の被害を被る土地でもある、グライズ公爵はそんな長いメリアとの諍いに終止符が打たれるのならと、この話を私に持ってきたのだ、だが、その裏でメリアとの諍いを生み出しているのがグライズ公爵だとしたら、その裏に何があるのか? と思わずにはいられない」
皆一様に考え込む、何が真実で何が嘘なのか、僕達にはそれが分からない。
「それにしても、メリア王国はすでに王政廃止を決めていて、そんな話はどう頑張っても通る話ではないはずなのですが、そのグライズ公爵というのは一体何を思ってそんな話を?」
「それが分かれば苦労はしないし、その為に公爵を呼び出す事にしたんだろうが」
王子は苦々しい口調でそういうのだが、本当にそうだよ。どう考えたってツキノの両親がその話を受けるとは思えないし、ルイ姉さんの所だって同様だ。そもそもその人がルイ姉さんの存在を知っている事自体が僕達にとっては想定外で、この話は一から十までおかしな所だらけだ。
「どういう伝手をたどってその姫達に繋ぎを取ろうとしていたのか、俺にはそれすら分かりはしない。ある意味、今お前達がこうやってここへやって来たのはタイミングが良かったとも言える、お前達はそういう意味では完全に当事者だからな」
「私は姉や家族からそんな話しは聞いていませんし、ツキノからも聞いてはいません。カイトも聞いていないね?」
「そんなの勿論だよ!」
僕は首を縦に振る、だって僕はそんな話をひとつも聞いていないんだから。ツキノだってそれは同じ。もし万が一にも聞いていたとしたらとっくにぶち切れているに違いない。
「そもそも血を繋ぐのは有効だとして、姫達を嫁に貰った所で相手がオメガでなければ俺の子供を生む事すらできない。少なくともお前と番になっているツキノ王子はアルファで確定なのだから、そもそも対象外だと思うのだが、グライズ公爵はどの娘もオメガの娘だと言い張っていて、それもおかしな話だ」
「それはおかしいですね、言っておきますがうちの姉もアルファですよ」
「そうなのか?」
「我が家でオメガは妹だけです、レイシア姫も恐らくオメガではないと思いますけどね、なにせ彼女の父親はベータだったと聞いています。母親がオメガなので有り得なくはないですが、可能性は低いと思います」
「公爵はいい加減な情報で俺に嫁を娶らせようとしているという事か?」
「それは分かりませんが、少なくともその話しはどこから持ってきたかも分からないような眉唾物の話である事だけは間違いないですね」
王子はまたしても難しい顔で考え込み、そのうち盛大な溜息を零した。
「もう、それだけの話を聞いてもグライズ公爵は信頼に足る人物ではなかった事が証明されたという事だな……知らずにいたら勝手に縁談は進められ、下手をしたらどこの馬の骨とも分からない女と結婚させられていた可能性もあるという事か……」
「レイシア姫ならともかく、うちの姉は公に表に出ている訳ではない、どこの誰を連れて来た所で、誰も気付きはしないでしょうからね……この国ではグライズ公爵の後ろ盾があると言うだけで赤の他人がその場に立ったとしても信用される可能性があるのでしょうね。こんな話、姉が知ったら勝手に人の名前を利用するなって怒り狂いそうですよ。そして第一候補のヒナノ姫、それはツキノの事でしょうが、うちの妹も巻き込まれている理由がよく分かりました」
「妹? さっき言っていたオメガの妹か?」
兄さんは静かに頷く。
「妹の名前は『ヒナノ』といいます」
「え……?」
「もう聞いているかと思いますが、ツキノの性別は曖昧で、男女どちらとして育つか分からなかった、だからうちの両親は『ツキノ』と『ヒナノ』を育てたのです。ツキノが自分で性別を選べるようになった時にどちらを選んでもいいように、ヒナノとしての人生も用意したのです。私の妹はヒナノのままですが、ツキノがヒナノを選んだ場合、ヒナノの過去がないのは不自然です、だから妹はヒナノと名付けられたのですよ。ヒナノとツキノの顔立ちはよく似ていて、事情を知らない人間から見れば双子だと思われても不思議ではなかったでしょう。ツキノの黒髪はメリア王妃の黒髪、ヒナノの赤髪はメリア王の赤髪、影武者という意味合いでは何も不自然な所はありません。メリア王家の子供は双子という公表をそのまま信じているメリア人にとっては、ですが。恐らく、現在その持ち上がった縁談で祭り上げられようとしているのはうちの妹『ヒナノ』なのではないでしょうかね」
「だとしたら、この縁談の話をグライズ公爵に持ってきたのはメリア人?」
「十中八九そうでしょうね、グライズ公爵はメリアとの繋がりが深いのでしょうね、どのような繋がりであるのかは窺い知れませんが」
何だか背後関係が色々と難しそうな話だ、人間関係がややこしくて困るね。
「だけどさ、この話ってメリアとランティスを血で結ぶって、はっきり言ってもうそれ終わった話だよね?」
「あ……どういう事だ?」
「本当に物凄く嫌だけど、僕はあんたの息子なんだ、それでツキノはメリアの王子、僕とツキノは番だよ、もう繋がってる。僕達の間に子供ができたらその子は二国の王家を繋ぐ子供になるんでしょう? そんな事の為に子供を生むのは嫌だけど、僕はツキノの子供は生むつもりだよ」
「……お前が生むのか?」
なんだろう、その台詞わりと最近も聞いた気がするんだけど……
「だって僕はオメガだし、アルファの子供を生むのは自然の摂理だ。逆にツキノは女性として僕の子供を生んでくれるかもしれない、それも自然の摂理だよね。それでもって、どっちが生んだってその子供は二国の王家の血を引く子供だよ。だから僕達の間でその話しはもう終わった話だよ、僕達が平穏に暮せさえすればあとは自然に叶うことだよね?」
「それはお前が王家に入るという事なんだが、それはいいのか?」
「えぇ……それは嫌だな」
「それに、そうなった場合そのツキノがランティスに嫁いでくる形になるんだが」
「え? 何で? 僕はツキノのお嫁さんになるって、小さい頃から決めてるから、ツキノがいいって言えばいいけど、ツキノがメリアに来いって言うなら僕はツキノに付いてくよ。そもそもこの話って全部ランティスに都合よくて変な話だよね? こっちにお嫁に貰わなくても、向こうにお嫁さんなりお婿さんを出してもいい話だろ? それこそ、こっちには王子が2人いるんだし下の王子、マリオ王子だっけ? その王子をメリアに出すんだっていいと思うんだけど……」
「そもそもそれ以前の話ですよ」と兄さんが口を挟んでくる。
「メリア王家は王政廃止が決まっていると先程も言いました、今メリアとランティスで血を繋げた所で何の得もないし、メリア王家にとっては面倒事が増えるばかりです。それをレオン国王は了承しないでしょうし、もしその話が進んでいるのだとしたら、それはレオン国王の預かり知らぬ所で話が進んでいると、そういう事ですよ」
「やはり敵は身の内にいるという事か」
「恐らくそうでしょうね」
「そうとばかりも言えないんじゃないか?」と口を挟んできたのは騎士団長だ。
「その第一候補のヒナノ姫は置いておいて、第二候補のレイシア姫、その姫は先代王の一人娘で現国王を憎んでいると聞いている。そしてたぶん恐らく王政廃止に同意もしていないんじゃなかったか?」
「それは、確かに……そう聞いています」
「複数人の姫を並べ立てて、本命は彼女という線は捨てきれない。彼女は王政が廃止されれば完全に後ろ盾を失うのだろう? その候補者3人の中で一番ランティス王家の力を欲しているのは誰だ? 私はレイシア姫、彼女のような気がする。だとしたら何かしらの手で裏から糸を引いている可能性を否定できない。あるいは両方で手を組んでいる……」
「ランティス王家を乗っ取って、新たにメリア王家を立て直そうとでもしているのか?」
王子の言葉にその場にいる一同が言葉を失った。まさか、とは思う、けれどない話ではないという思いが胸を燻ぶるのだ。
「は、友好と見せかけた新たなる火種の投入か?」
「メリア王家はもう終わる、けれどランティスへ嫁ぐ事で王家の血は残る。元々メリアとランティスは兄弟国、長い長い野望の果てに二国が統一される未来もなくはない……」
「もしそのレイシア姫がそんな考えの持ち主だとしたら末恐ろしい事だな、とてもランティス王家には入れられない。元々嫁に貰うつもりもなかったがな」
王子はそう言って苦笑いを零した。ランティスとメリア、そこには根深い因縁の歴史があって、僕にはそれが本当に理解できないんだ。人を恨んで憎んで陥れて、そんな生き方、僕には分からない。
「何はともあれ、一度グライズ公爵に話を聞いてからだな」
「王子、私の話を信じてくださるのですか?」
「姑息な手段だったとは思うが、こいつ等を連れて来たのは正解だったな、俺の知らない情報がいくらも出てきた。だが、まだ全面的に全てを信じた訳ではない、そうやって俺は何人もの人間に騙されてきている、おいそれと人を信じる事などできん!」
「あんたはまだそんな事を言うのか!」
「カイト、お前はここへ来て何を思った? 我が城をどう思う?」
突然の父親の言葉に僕は「は?」と言葉を返してしまう。
「俺はこの城に30年以上暮してきたが、ここほど美しく醜い城を見た事がない」
「なに……」
「ここは魔物の巣窟だ、無闇に立ち入れば頭から丸呑みされる、カイト、お前はここに近付かない方がいい」
父親の言葉に僕は言葉を失う、それは母も言っていた言葉だ『ランティスには魔物が住んでいる』だから二度とランティスには帰らないと母はそう言ったのだ。
「来たくて来た訳じゃないですよ……」
「いずれお前達の元へ俺は行く、だが俺にはこの国でやらねばならない事がまだ残っていた、だがいつか必ず俺はお前達の元へ帰る」
僕は父親の言葉を無表情に聞いていた。どう反応を返していいか分からなかったからだ。
「貴方が帰って来た時に、僕がそこにいるとは限らないですけどね」
「はは、その通りだな。俺は出遅れすぎた、もっと早くにこの事に気付いていれば良かったのだがな。すべては後の祭りだ……」
自嘲気味に王子は嗤う。それはなんだか少し卑屈な笑みで、僕はそれにまたイラっとする。
「出来ていなかった事を悔やんでる暇があったら今できる事をするべきでしょう。それでもって僕は今さっさとここから解放されてツキノを探しに行きたいんで、早々に話しのケリをつけてください」
「ん? ツキノ? なんだ、彼もメルクードに来ているのか?」
「昨日人攫いに攫われましたけどね。本当は僕、こんな所であんた達と呑気に話していられる精神状態じゃないんですよ!」
「攫われた……? メリアの王子がか?!」
「恐らく王子としてではなく、毛色の変わった娘、としてでしょうけれど。現在我が国の諜報部隊が後を追っていますが、攫われているのは事実です」
そうなのだ、昨日ツキノはあんなに嫌がっていた女の格好をしていたらしい。それは彼と一緒にいたカルネ領領主の息子ロディも一緒に。
捕まった先でロディは女装がバレてゴミ袋に入れられ捨てられていたらしいのだけど、ツキノはそのまま女の子と認識されて攫われてしまったのだと聞いた。っていうか、女の子として攫われるって、攫われた先で何をされるかと想像した時に本当に悪い予感しかしないんだけど!
ツキノは確かにその辺の男に引けを取るような男じゃない、けれど複数人の男に囲まれて、もしくは薬でも盛られていたら……実際イリヤで遭った事件ではツキノは薬を盛られてオメガに襲われている、そして今回もどういう訳か抑制剤として渡された薬が睡眠薬と痺れ薬だったって聞いて、本当に血の気が引いたんだ。
身動きが取れないままツキノは攫われて、その薬がどれくらい持続時間があるのか知らないけど、ツキノの貞操を思うと僕は本当に居ても立ってもいられない。
「カイト、いざという時には必ず黒の騎士団が助けてくれる」
「そんなの、どこまで信用していいのか僕には分からないよ! だってその人達ツキノの護衛から、人攫いのアジトへの潜入捜査に切り替えて仕事してるんだろ?! 守るべき人間を囮にそれってアリなの!? おかしくない!?」
「彼等には彼等なりの信念があるのだと、私は信じています」
そう言い切った兄さんだけど、またそんな兄さんのフェロモンが揺れた。普段はここまではっきり分かる事はない兄さんの感情が乱れているのが分かる。
「兄さん、僕に何か隠してる事ない……?」
「え? ……ありませんよ、何も……」
けれど兄さんはわずかに瞳をそらす。常に真っ直ぐ相手を見据えて話す兄さんにしては珍しいその動きに、僕の不信感は募るばかりだ。
「分かった、今は信じる。だけど、もしツキノに何かあったら……ううん、今はそんな事を言っている時じゃないね。話が終わったら必ず僕をそこに連れて行ってよ、ツキノの痕跡と行き先の手がかりが残っているかもしれない」
「分かっています」
「クレール商会か? あそこはもうもぬけの殻だぞ。朝一で報告が入った。事業主、従業員揃って全員すでに雲隠れだ」
「足が速いですね」
「元々そういう商いの仕方なんだろう、所詮闇商人という輩だ」
「事業主の名前は?」
「お前の言った通りだったよ。クレール・ロイヤー、だがそいつの個人証明書はメリア人の者だった……これも奪った戸籍の改ざんと見ていいか?」
「それは間違いないでしょうね、その人と私の知る人物が同じであるのならば、間違いなく彼はファルスの人間です。偽名を使うという事もしないなんて、頭が悪いのか、それとも余程自己顕示欲が強いのか分かりませんがね」
ツキノを攫った人間の手がかりは既に潰えていると騎士団長は言う。だったら僕はどうすればいい? 黙ってここで指を咥えて待っていろと? そんな事が出来る訳がない!
「それでも僕は行くよ」
「貴方もツキノも言い出したら聞かない事は分かっていますよ」
兄さんはそう言って微かな笑みを浮かべて頷いた。
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小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
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