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二人の王子
君と僕 ①
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人の叫び声が聞こえた。それは途切れる事もなく続いていて、尋常ではない事件が起こっている事は見なくとも想像ができた。
父親を名乗るエリオットを引き連れて僕はその叫び声の聞こえる方へと向かう、きっとツキノはそこにいる。叫び声はツキノじゃない、たぶん違う、でも僕はどこかその声に聞き覚えがあった。
「ちょっと、あんた達! 俺、来るなって言ったよね!」
声と同時にスタン! と目の前に突然黒髪の男が降ってきた。
「お前がルークか、何があった? この叫び声はなんだ?」
ルークの言葉を無視して叫び声の聞こえる建物の一室を覗き込もうとしたエリオットは彼にそれを止められた。
「見ない方がいい、人が死んでる」
「死んで……ツキノは!? ツキノは無事なの!?」
思わず叫んだ僕に「ツキノは無事だよ」と男は言うのだが、その表情は険しいまま、叫び声も途切れる事はない。
「無事ならツキノに会わせて! あの部屋にいるんだろ!」
「いるけど、もう少し待って。今は駄目だ」
「あの叫び声はなんだ? 中で何が起こってる?」
エリオットも険しい顔でルークに詰め寄るのだが、ルークは首を振った。
「よく分からないけど、久しぶりに大きな地雷を踏み抜いたみたいで、混乱してる。俺達にはどうにもできないから、旦那が今介抱してる所だよ。もう少し待って」
「地雷? 混乱? この叫び声はそのツキノという子供の声じゃないのか?」
「違うよ、ツキノは無事だって言っただろ」
「ルーク喋りすぎ。それになんでカイトがここにいる? しかもなんで王子まで……」
ルークの後ろからまた知らない黒髪の男の人が、少し眉を顰めてルークに言った。
「なんか王子廃業して先生を迎えに来たらしいよ」
「それもそれでどうかと思うけど、それより何より俺が聞きたいのはここにこの人達がいる理由だ、お前まさか連れて来たんじゃないだろうな?」
「そんな事する訳ないだろ! 勝手に来ちゃったんだから、俺にはどうしようもないよ」
「お前達、20年前のあのランティスの事件に関わってた奴等だろう? どういう事だ? 黒の騎士団? あれはファルスの正規部隊だったって事か!?」
「あれ? 王子は全然知らないんですね? もうとっくにアジェ様から聞いてるかと思ってた」
「アジェは俺には何も言わない、それこそ先生の行方も知っていて教えてはくれなかった……」
悔しげな顔のエリオット、なんだか僕には分からない事ばかりだよ。20年前の事件? 20年前何かあったの? でも、今はそんな事どうでもいいからツキノに会わせてよ!
エリオットとルーク、そしてもう1人の黒髪の男が押し問答を続ける横で、僕が部屋の扉を見詰めていたら、いつの間にか叫び声は止み、扉が開いて、騎士団員と思しき男の人に肩を抱かれたツキノがふらりと部屋から出てきた。
「ツキノっ!」
僕が思わず叫んでツキノに駆け寄ると、その声に一瞬びくっと身を竦ませた彼は、僕の顔を見てぼろりと涙を零した。
「カイトぉ……怖かった、怖かったぁぁ……」
いつでも傲慢不遜、高飛車で強気な彼の姿はそこにはなかった。怯えたように泣き出したツキノに駆け寄って、僕はその身体を抱き寄せる。
近くに寄って初めて気付く、彼の纏った甘い匂い。そして肉の腐ったような生臭い薫り。
騎士団員の物と思われる上着を羽織らされていたツキノだったが、その顔は赤黒く薄汚れていて、それが血の跡なのだとようやく気付いた。
「ごめん、ツキノ。僕がツキノを追い出したりしたから……ちゃんと一緒にいれば良かった、ごめん、ごめんね」
ツキノの方からも僕に抱きついてきて、羽織らされた上着が落ちる。
下はズボンを履いていたけれど、上はそのまま上着を羽織っていただけだったツキノの身体には無数の赤い斑点が残されていた。
縛り上げられていたのだろ、腕には青痣が残り、そこから微かに血が滲んでいる。
何が起こったのか分かっていなかったが、こんな姿のツキノの姿を見れば、彼が何をされていたのか一目瞭然で分かってしまう。
「……殺してやる……」
僕の呟きに「もう、死んでる」とツキノは泣き腫らした瞳で首を振った。
「ツキノが、殺したの?」
「違う、母さんが……」
ツキノがグノーの事を母さんと呼ぶのをずいぶん久しぶりに聞いた気がする。幼い頃は何の疑問も持たずにグノーの事を「母さん」と呼んでいたツキノだったが、ある時から急に「あの人、おばさん」と彼の事を呼び始めたのだ。それは反抗期もあっての事だと思っていたが、ツキノはずっと頑なだった。
「おばさんが……殺したの?」
「そう、母さんが……うぐっ」
何かを思い出したように、ツキノは口を押さえてしゃがみ込む。慌てて僕がその背中を撫でると、やはりツキノは涙目で震えていた。
「おばさんは……?」
「まだ、部屋の中。父さんが宥めてる。どうしよう、母さん、おかしくなっちゃった、カイトどうしよう……俺のせい?」
がたがた震えているツキノの身体を抱いて「ツキノのせいなんかじゃない」と僕はその背を撫でた。そのくらいしか僕にはできる事がなかった。
「母さんが元に戻らなかったら、俺、どうずればいい? 怖い、カイト……」
「大丈夫、大丈夫だよ、ツキノ。とりあえず落ち着こう、落ち着いて怪我の手当てしよう?」
縋り付くようなツキノの姿には痛々しさしかなくて、でも、僕はそんなツキノの姿から目を逸らしては駄目だと思った。だって、こんな事になった責任の所在は僕にもある。
僕がツキノを家から追い出さなければこんな事にはならなかったはずなんだ……
「カイト、これがツキノか?」
男の声にツキノの肩がびくりと震え、更に体も震えだした。
「ツキノを怖がらせないで! あんた、無神経過ぎる!」
そんな風に言われるとは思わなかったのだろう、エリオットは不満顔だが知った事ではない。ツキノは今、傷付いて怖がっている。そんな彼に優しい言葉をかける事もないこの男に僕は正直苛立っていた。
「俺はただ、こいつがツキノかと聞いただけじゃないか、何も怖がらせるような事は言っていない」
ツキノの縋り付く手の力が強くなり、怯えたように「この人、誰?」とツキノは僕に問うてきた。
「一応、僕の父親、らしいよ」
「父……親?」
ツキノはやはり僕に縋り付いたまま、エリオットを怯えた顔で見やるので「見なくていい」と僕はそのツキノの頭を抱え込んだ。
「あぁ、他の奴等も出てきたみたいだな、酷い血だ……」
エリオットの言葉に、そちらを見やれば、グノーさんがナダールおじさんに抱えられるようにして部屋から出てくる所だった。
エリオットの言う通り、グノーさんの身体は血だらけで見るに耐えない惨状だ。
いつでも笑顔を絶やさずに楽しそうにしている人が俯きがちに歩いていて、そんな姿に胸が締め付けられ苦しくなる。
ふと、グノーさんが顔を上げ、こちらを見やった。その瞳はどこか虚ろで焦点が定まらないのだが、こちらを見た彼の口が何かを呟き、弾かれたように彼はこちらへと歩み寄って来た。
「どうしよう、アジェ……俺はまた、人を殺した……アジェ、助けて、俺は、どうすれば……」
「あんた、誰だ?」
エリオットが冷たく見下し言い放つ。瞬間、グノーさんの表情が凍りついたように固まって、一気に血の気が失せたのが分かった。
「ア……ジェ……?」
「あぁ、すっかり容姿が変わってるから気付かなかった、あんた、セカンド・メリアか」
エリオットのその言葉に、グノーさんは頭を抱え叫び声を上げると、糸が切れたようにふつりと崩れ落ちた。それは一瞬の出来事で、誰も止める事ができなかった。
「なんて事を!」
崩れ落ちるグノーさんの細い体を抱きとめて、ナダールおじさんは僕の父親を睨み付ける。
「何故貴方がこんな場所にいるのですか! どうしてこの人をその名で呼ぶのですか!!」
それは激しい怒り、いつも穏やかに笑っているおじさんがこんなに激しく激昂しているのを初めて見た。
辺りには恐ろしい程のフェロモンの匂いが立ち込める、それに気付いた者も気付かなかった者も、その怒りに誰もが声も出せず怯えたように立ち竦んだ。
僕も、恐らくツキノもこんなに怒り狂ったおじさんを見た事はなく、その怒りに僕達は言葉を失った。
「なっ、何だ! 俺は何もしていないだろう!? セカンド・メリアはそいつの名だ! その名を呼んで何が悪い!」
「あんた、やっぱり最低だ。さっきその名を呼ぶなって父さんに言われてただろう。そんな事も忘れて何もしてないなんて、あんたは本気で馬鹿なのか!?」
「父親に向かってその口のきき方は何だ!」
「父親!? 父親らしい事何ひとつした事もないくせに父親面するな!」
「知らなかったのだから仕方がないだろう! 知ってたら俺だって……」
「こんな人もう放っておこう、それよりグノーさんの方が心配だよ。グノーさん大丈夫?」
「気を失っているだけです……私はまた、この人の心を守りきれなかった……」
悔しそうにおじさんはおばさんを抱き締める。
おじさんは『また』という言葉を使ったが、以前にもこんな事があったのだろうか? もしそれが、やはりこんな風に僕の父親絡みだったりしたのなら、僕は一生この人を許せない気がする。
「母……さん……」
ツキノが倒れたグノーさんにそう呼びかけ、手を伸ばしかけたその手をナダールおじさんが払い除けた。
「おじさん!?」
僕の叫びにはっとしたような表情を見せ、おじさんは「すまない……」とツキノを見やるのだが、ツキノは動揺を隠しきれない顔でその払われた己の手を凝視していた。
「お前のせいじゃないのに……」
そう言って、今度はおじさんの方からツキノに手を伸ばしたのだが、その手から逃げるようにツキノは飛び退いた。
「ごめん……なさい」
ツキノは涙を零して謝ると、弾かれるように駆け出した。僕も慌ててそのツキノの背中を追う。
「ツキノ! カイト!!」
背中をおじさんの声が追いかけてきたが、僕達は振り向く事はしなかった。
※ ※ ※
どこへ行けばいいのだろう? どこへ向かっているのだろう?
俺はただ闇雲に走っていた。
払い除けられた手が熱い、涙は止めどもなく零れ落ちる、母さんの心を壊してしまった、俺の軽率な行動が家族を滅茶苦茶にしてしまった……
行ける場所がない、帰る場所がない、安らげる場所もすべて、俺が壊した!
「ツキノ! 待って、ツキノ!!」
追いかけて来たカイトに腕を取られて、その腕を払い除けた。体にはまだ先程までの虫が這うような感触が残っていて、鳥肌が立った。
手を払い除けられたカイトは、驚いたような、傷付いたような顔をしていて、それにも激しく心が揺れた。
「ツキノ、どこ行くの? 帰ろう? 皆、きっと待ってるよ」
「……帰れない、帰る場所がない……」
「そんな事ない、またうちに来ればいいよ。どうせまたすぐに父さんなんか研究室に籠っちゃうし、全然平気!」
「でも、あの人が、いるんだろ……?」
まるでモノでも見るような冷たい瞳だった。
「これがツキノか?」と冷たく吐き捨てられた。カイトの父親、今まで全く存在すら知らなかったカイトの父親はとても怖い人だった。
「あんな人、血が繋がってるだけで父親でもなんでもないよっ!」
「でも……」
「ね、帰ろ? その手も痛いだろう? 手当てして、休もう? ツキノは何も心配する事なんかないんだよ?」
「でも、俺は……殺した。人をあんな風に……ぐっ……」
「ツキノじゃない! ツキノじゃないよ!」
蹲って吐き続ける俺の背を撫でながら、何度も何度もカイトはそう言ってくれたけれど、違う、やっぱりこれは俺のせいなんだ。
俺が軽率にあんな男に付いて行ったから、再三注意されていたのに薬の携行もしていなかった、簡単に騙されて襲われた、全てが自業自得だ。
「ツキノは何も悪くない、悪くないよ!」
「カイト、怖い……怖くて声も出なかった。でも、目の前で人が死んだんだ、真っ赤だった。ねぇ、あの人はこんな死に方をする程の事をしたのかな!? 俺はどうすればよかった? あの人は生き返らない、怖かった、けど……こんなのどうしていいか分からない!」
確かに憎いと思ったのだ、こんな卑劣な事をする人間を殺してやりたいと思った、だけど、でも……それでも肉塊になるまで切り刻まれたあの男を思い出すと、その男の罪はそこまでのモノだったのか? と思ってしまう自分がいる。
カイトに縋り付いてその手を握る、俺の手は血の気を失って真っ白だ。その手を包むようにしてカイトはそれでも尚「大丈夫だよ」と俺を抱き締めてくれた。
「怖い事なんて何もないよ、僕がずっと傍にいる。だから泣かないで、ツキノ。帰って休もう?」
カイトが優しい、いつも優しいカイトだがいつも以上にカイトに気遣われているのを感じる。俺にはそんな資格ないのに。これは全部俺が今までしてきた事の俺へ対する罰なのだ。
身を震わせていたら、カイトが上着を着せ掛けてくれた。カイトの匂いがする、カイトの匂いはあいつと違ってとても綺麗な濁りのない甘さだ。
でも、違う、いつもと違う。カイトの匂いに安らげない、カイトの匂いが微かにしか感じられない。
俺があいつの項を噛んだから……
思い出して、また込み上げた吐き気に蹲る。吐いて吐いて、胃液まで吐き出して、もう何も出なくなるまで吐き出しても気持ちが悪くて、涙が止まらない。
「ツキノ、大丈夫? 水、いる?」
「……汚い……」
「ん? 服汚れた? 大丈夫だよ、洗えば落ちる。それより歩ける? おんぶしようか?」
「そんな事したら、カイトまで、汚れる……」
「そんなの全然平気。今までだって真っ黒になるまで汚して怒られた事何度もあるだろ? 僕がちゃんとこっそり洗うから、ツキノは気にしなくていいよ」
そうじゃない、そうじゃない……またしても、涙が零れ落ちる。
「俺が汚い……カイトは駄目、汚れちゃ駄目……」
カイトが戸惑ったように「何言ってるの?」と、また俺の背を撫でた。
「俺に触ったら、カイトまで汚れる。俺は汚い、心も身体もこの髪と同じ、真っ黒で、汚い」
「馬鹿なことを、そんな事ある訳ない。ツキノはどこも汚れてないよ」
「俺、ざまぁみろ、って思ったんだ……」
口元を拭って立ち上がろうとするのだが、ふらりとよろけてうまく立てない。
「死んで当然だって、思った……けど、違う。俺が付いて行きさえしなければ、あんな奴でもあんな死に方しなかった!」
「死んで当然の事したんだから、ツキノが気に病む事なんて何もないよっ!」
「……本当に?」
「本当だよ!」
真っ直ぐなカイトの瞳、あぁ、やっぱり凄く綺麗。
「カイトは見た? あいつの死体を……見た?」
「え……いや、見てないけど……」
「真っ赤だったよ……顔も体も人の原形を留めないくらいぐちゃぐちゃで……母さんが、料理するみたいに切り刻んで……うぐっ……」
脳裏に刻まれた光景、狂ったように剣を突き立てる大好きな人。
「っあ……はぁ……それでも、俺は……ざまぁみろって、そう、思ったんだ……」
「ツキノ……」
「俺はもうどこか壊れてる……体の隅々まで真っ黒だ。きっとこの髪みたいに、どこもかも……汚い」
「ツキノの髪は綺麗だよ!」
そう言って、カイトは俺の髪に口付けようとするのを俺は必死に拒み首を振る。
「カイトは、汚れちゃ……駄目だ……」
「いつも一緒にいただろう? ツキノが汚れてるって言うなら、僕だって汚れてる! 僕の心の中、ツキノに見せてやりたいくらいだよっ、僕の心の中こそ真っ黒だ、ずっとずっとツキノが羨ましくて妬んでた、ツキノを追い出して心の中で笑ってた、ざまぁみろって笑ってたんだ……僕の責任だよ……ツキノが自分を汚いって言うなら、その原因を作った僕が一番汚いんだ!!」
カイトの顔も涙で濡れて、どうしてこうなってしまったのかと思わずにはいられない。
「カイトは綺麗だよ……優しくて、誰にでも好かれる。俺は、カイトになりたかった……」
「お互い、無い物ねだりだったんだね……」
カイトの手がまた俺へと伸びてきて、俺の頬を撫でる。
「ねぇ、ツキノ……僕、いい遊びを思いついたよ」
「……なに?」
「僕がツキノになる」
何を言われているのか分からなくて、首を傾げた。
「だから、ツキノは僕になればいいよ」
「何を言っているのか、分からない……」
「ツキノは僕になりたかった、僕はツキノが羨ましかった、だったら入れ替わればいい。僕がツキノ、君がカイト、簡単だろ?」
「カイト……」
「違うよ、カイト。僕がツキノ、ツキノの物は全部持ってく、記憶も過去も全部貰ってく、簡単だろ? だって僕達いつも一緒にいたんだから」
「俺が……カイト……」
「そう……今だけでもいいんだ、これは遊びだから。ねぇ、帰ろうカイト、俺、お腹空いた。何か作ってよ」
「俺は何も作れない……」
ツキノになったカイトはしぃーっと口の前に指を立てる。
「ふりだけでもいいんだよ、カイトは料理上手だから、ね? 俺、カレーが食べたいな」
「……ツキノは……仕方ないなぁ……」
俺がカイトを真似てそう言うと、カイトはにっこり微笑んだ。
「うちに帰ろう、俺、腹が空きすぎて倒れそう」
「ツキノは本当に燃費が悪いよね」
カイトになったツキノは笑う。ツキノになったカイトも泣き笑う。
2人は手を繋いで歩き出す、2人でいれば、それだけでいいとそう思っていた。
父親を名乗るエリオットを引き連れて僕はその叫び声の聞こえる方へと向かう、きっとツキノはそこにいる。叫び声はツキノじゃない、たぶん違う、でも僕はどこかその声に聞き覚えがあった。
「ちょっと、あんた達! 俺、来るなって言ったよね!」
声と同時にスタン! と目の前に突然黒髪の男が降ってきた。
「お前がルークか、何があった? この叫び声はなんだ?」
ルークの言葉を無視して叫び声の聞こえる建物の一室を覗き込もうとしたエリオットは彼にそれを止められた。
「見ない方がいい、人が死んでる」
「死んで……ツキノは!? ツキノは無事なの!?」
思わず叫んだ僕に「ツキノは無事だよ」と男は言うのだが、その表情は険しいまま、叫び声も途切れる事はない。
「無事ならツキノに会わせて! あの部屋にいるんだろ!」
「いるけど、もう少し待って。今は駄目だ」
「あの叫び声はなんだ? 中で何が起こってる?」
エリオットも険しい顔でルークに詰め寄るのだが、ルークは首を振った。
「よく分からないけど、久しぶりに大きな地雷を踏み抜いたみたいで、混乱してる。俺達にはどうにもできないから、旦那が今介抱してる所だよ。もう少し待って」
「地雷? 混乱? この叫び声はそのツキノという子供の声じゃないのか?」
「違うよ、ツキノは無事だって言っただろ」
「ルーク喋りすぎ。それになんでカイトがここにいる? しかもなんで王子まで……」
ルークの後ろからまた知らない黒髪の男の人が、少し眉を顰めてルークに言った。
「なんか王子廃業して先生を迎えに来たらしいよ」
「それもそれでどうかと思うけど、それより何より俺が聞きたいのはここにこの人達がいる理由だ、お前まさか連れて来たんじゃないだろうな?」
「そんな事する訳ないだろ! 勝手に来ちゃったんだから、俺にはどうしようもないよ」
「お前達、20年前のあのランティスの事件に関わってた奴等だろう? どういう事だ? 黒の騎士団? あれはファルスの正規部隊だったって事か!?」
「あれ? 王子は全然知らないんですね? もうとっくにアジェ様から聞いてるかと思ってた」
「アジェは俺には何も言わない、それこそ先生の行方も知っていて教えてはくれなかった……」
悔しげな顔のエリオット、なんだか僕には分からない事ばかりだよ。20年前の事件? 20年前何かあったの? でも、今はそんな事どうでもいいからツキノに会わせてよ!
エリオットとルーク、そしてもう1人の黒髪の男が押し問答を続ける横で、僕が部屋の扉を見詰めていたら、いつの間にか叫び声は止み、扉が開いて、騎士団員と思しき男の人に肩を抱かれたツキノがふらりと部屋から出てきた。
「ツキノっ!」
僕が思わず叫んでツキノに駆け寄ると、その声に一瞬びくっと身を竦ませた彼は、僕の顔を見てぼろりと涙を零した。
「カイトぉ……怖かった、怖かったぁぁ……」
いつでも傲慢不遜、高飛車で強気な彼の姿はそこにはなかった。怯えたように泣き出したツキノに駆け寄って、僕はその身体を抱き寄せる。
近くに寄って初めて気付く、彼の纏った甘い匂い。そして肉の腐ったような生臭い薫り。
騎士団員の物と思われる上着を羽織らされていたツキノだったが、その顔は赤黒く薄汚れていて、それが血の跡なのだとようやく気付いた。
「ごめん、ツキノ。僕がツキノを追い出したりしたから……ちゃんと一緒にいれば良かった、ごめん、ごめんね」
ツキノの方からも僕に抱きついてきて、羽織らされた上着が落ちる。
下はズボンを履いていたけれど、上はそのまま上着を羽織っていただけだったツキノの身体には無数の赤い斑点が残されていた。
縛り上げられていたのだろ、腕には青痣が残り、そこから微かに血が滲んでいる。
何が起こったのか分かっていなかったが、こんな姿のツキノの姿を見れば、彼が何をされていたのか一目瞭然で分かってしまう。
「……殺してやる……」
僕の呟きに「もう、死んでる」とツキノは泣き腫らした瞳で首を振った。
「ツキノが、殺したの?」
「違う、母さんが……」
ツキノがグノーの事を母さんと呼ぶのをずいぶん久しぶりに聞いた気がする。幼い頃は何の疑問も持たずにグノーの事を「母さん」と呼んでいたツキノだったが、ある時から急に「あの人、おばさん」と彼の事を呼び始めたのだ。それは反抗期もあっての事だと思っていたが、ツキノはずっと頑なだった。
「おばさんが……殺したの?」
「そう、母さんが……うぐっ」
何かを思い出したように、ツキノは口を押さえてしゃがみ込む。慌てて僕がその背中を撫でると、やはりツキノは涙目で震えていた。
「おばさんは……?」
「まだ、部屋の中。父さんが宥めてる。どうしよう、母さん、おかしくなっちゃった、カイトどうしよう……俺のせい?」
がたがた震えているツキノの身体を抱いて「ツキノのせいなんかじゃない」と僕はその背を撫でた。そのくらいしか僕にはできる事がなかった。
「母さんが元に戻らなかったら、俺、どうずればいい? 怖い、カイト……」
「大丈夫、大丈夫だよ、ツキノ。とりあえず落ち着こう、落ち着いて怪我の手当てしよう?」
縋り付くようなツキノの姿には痛々しさしかなくて、でも、僕はそんなツキノの姿から目を逸らしては駄目だと思った。だって、こんな事になった責任の所在は僕にもある。
僕がツキノを家から追い出さなければこんな事にはならなかったはずなんだ……
「カイト、これがツキノか?」
男の声にツキノの肩がびくりと震え、更に体も震えだした。
「ツキノを怖がらせないで! あんた、無神経過ぎる!」
そんな風に言われるとは思わなかったのだろう、エリオットは不満顔だが知った事ではない。ツキノは今、傷付いて怖がっている。そんな彼に優しい言葉をかける事もないこの男に僕は正直苛立っていた。
「俺はただ、こいつがツキノかと聞いただけじゃないか、何も怖がらせるような事は言っていない」
ツキノの縋り付く手の力が強くなり、怯えたように「この人、誰?」とツキノは僕に問うてきた。
「一応、僕の父親、らしいよ」
「父……親?」
ツキノはやはり僕に縋り付いたまま、エリオットを怯えた顔で見やるので「見なくていい」と僕はそのツキノの頭を抱え込んだ。
「あぁ、他の奴等も出てきたみたいだな、酷い血だ……」
エリオットの言葉に、そちらを見やれば、グノーさんがナダールおじさんに抱えられるようにして部屋から出てくる所だった。
エリオットの言う通り、グノーさんの身体は血だらけで見るに耐えない惨状だ。
いつでも笑顔を絶やさずに楽しそうにしている人が俯きがちに歩いていて、そんな姿に胸が締め付けられ苦しくなる。
ふと、グノーさんが顔を上げ、こちらを見やった。その瞳はどこか虚ろで焦点が定まらないのだが、こちらを見た彼の口が何かを呟き、弾かれたように彼はこちらへと歩み寄って来た。
「どうしよう、アジェ……俺はまた、人を殺した……アジェ、助けて、俺は、どうすれば……」
「あんた、誰だ?」
エリオットが冷たく見下し言い放つ。瞬間、グノーさんの表情が凍りついたように固まって、一気に血の気が失せたのが分かった。
「ア……ジェ……?」
「あぁ、すっかり容姿が変わってるから気付かなかった、あんた、セカンド・メリアか」
エリオットのその言葉に、グノーさんは頭を抱え叫び声を上げると、糸が切れたようにふつりと崩れ落ちた。それは一瞬の出来事で、誰も止める事ができなかった。
「なんて事を!」
崩れ落ちるグノーさんの細い体を抱きとめて、ナダールおじさんは僕の父親を睨み付ける。
「何故貴方がこんな場所にいるのですか! どうしてこの人をその名で呼ぶのですか!!」
それは激しい怒り、いつも穏やかに笑っているおじさんがこんなに激しく激昂しているのを初めて見た。
辺りには恐ろしい程のフェロモンの匂いが立ち込める、それに気付いた者も気付かなかった者も、その怒りに誰もが声も出せず怯えたように立ち竦んだ。
僕も、恐らくツキノもこんなに怒り狂ったおじさんを見た事はなく、その怒りに僕達は言葉を失った。
「なっ、何だ! 俺は何もしていないだろう!? セカンド・メリアはそいつの名だ! その名を呼んで何が悪い!」
「あんた、やっぱり最低だ。さっきその名を呼ぶなって父さんに言われてただろう。そんな事も忘れて何もしてないなんて、あんたは本気で馬鹿なのか!?」
「父親に向かってその口のきき方は何だ!」
「父親!? 父親らしい事何ひとつした事もないくせに父親面するな!」
「知らなかったのだから仕方がないだろう! 知ってたら俺だって……」
「こんな人もう放っておこう、それよりグノーさんの方が心配だよ。グノーさん大丈夫?」
「気を失っているだけです……私はまた、この人の心を守りきれなかった……」
悔しそうにおじさんはおばさんを抱き締める。
おじさんは『また』という言葉を使ったが、以前にもこんな事があったのだろうか? もしそれが、やはりこんな風に僕の父親絡みだったりしたのなら、僕は一生この人を許せない気がする。
「母……さん……」
ツキノが倒れたグノーさんにそう呼びかけ、手を伸ばしかけたその手をナダールおじさんが払い除けた。
「おじさん!?」
僕の叫びにはっとしたような表情を見せ、おじさんは「すまない……」とツキノを見やるのだが、ツキノは動揺を隠しきれない顔でその払われた己の手を凝視していた。
「お前のせいじゃないのに……」
そう言って、今度はおじさんの方からツキノに手を伸ばしたのだが、その手から逃げるようにツキノは飛び退いた。
「ごめん……なさい」
ツキノは涙を零して謝ると、弾かれるように駆け出した。僕も慌ててそのツキノの背中を追う。
「ツキノ! カイト!!」
背中をおじさんの声が追いかけてきたが、僕達は振り向く事はしなかった。
※ ※ ※
どこへ行けばいいのだろう? どこへ向かっているのだろう?
俺はただ闇雲に走っていた。
払い除けられた手が熱い、涙は止めどもなく零れ落ちる、母さんの心を壊してしまった、俺の軽率な行動が家族を滅茶苦茶にしてしまった……
行ける場所がない、帰る場所がない、安らげる場所もすべて、俺が壊した!
「ツキノ! 待って、ツキノ!!」
追いかけて来たカイトに腕を取られて、その腕を払い除けた。体にはまだ先程までの虫が這うような感触が残っていて、鳥肌が立った。
手を払い除けられたカイトは、驚いたような、傷付いたような顔をしていて、それにも激しく心が揺れた。
「ツキノ、どこ行くの? 帰ろう? 皆、きっと待ってるよ」
「……帰れない、帰る場所がない……」
「そんな事ない、またうちに来ればいいよ。どうせまたすぐに父さんなんか研究室に籠っちゃうし、全然平気!」
「でも、あの人が、いるんだろ……?」
まるでモノでも見るような冷たい瞳だった。
「これがツキノか?」と冷たく吐き捨てられた。カイトの父親、今まで全く存在すら知らなかったカイトの父親はとても怖い人だった。
「あんな人、血が繋がってるだけで父親でもなんでもないよっ!」
「でも……」
「ね、帰ろ? その手も痛いだろう? 手当てして、休もう? ツキノは何も心配する事なんかないんだよ?」
「でも、俺は……殺した。人をあんな風に……ぐっ……」
「ツキノじゃない! ツキノじゃないよ!」
蹲って吐き続ける俺の背を撫でながら、何度も何度もカイトはそう言ってくれたけれど、違う、やっぱりこれは俺のせいなんだ。
俺が軽率にあんな男に付いて行ったから、再三注意されていたのに薬の携行もしていなかった、簡単に騙されて襲われた、全てが自業自得だ。
「ツキノは何も悪くない、悪くないよ!」
「カイト、怖い……怖くて声も出なかった。でも、目の前で人が死んだんだ、真っ赤だった。ねぇ、あの人はこんな死に方をする程の事をしたのかな!? 俺はどうすればよかった? あの人は生き返らない、怖かった、けど……こんなのどうしていいか分からない!」
確かに憎いと思ったのだ、こんな卑劣な事をする人間を殺してやりたいと思った、だけど、でも……それでも肉塊になるまで切り刻まれたあの男を思い出すと、その男の罪はそこまでのモノだったのか? と思ってしまう自分がいる。
カイトに縋り付いてその手を握る、俺の手は血の気を失って真っ白だ。その手を包むようにしてカイトはそれでも尚「大丈夫だよ」と俺を抱き締めてくれた。
「怖い事なんて何もないよ、僕がずっと傍にいる。だから泣かないで、ツキノ。帰って休もう?」
カイトが優しい、いつも優しいカイトだがいつも以上にカイトに気遣われているのを感じる。俺にはそんな資格ないのに。これは全部俺が今までしてきた事の俺へ対する罰なのだ。
身を震わせていたら、カイトが上着を着せ掛けてくれた。カイトの匂いがする、カイトの匂いはあいつと違ってとても綺麗な濁りのない甘さだ。
でも、違う、いつもと違う。カイトの匂いに安らげない、カイトの匂いが微かにしか感じられない。
俺があいつの項を噛んだから……
思い出して、また込み上げた吐き気に蹲る。吐いて吐いて、胃液まで吐き出して、もう何も出なくなるまで吐き出しても気持ちが悪くて、涙が止まらない。
「ツキノ、大丈夫? 水、いる?」
「……汚い……」
「ん? 服汚れた? 大丈夫だよ、洗えば落ちる。それより歩ける? おんぶしようか?」
「そんな事したら、カイトまで、汚れる……」
「そんなの全然平気。今までだって真っ黒になるまで汚して怒られた事何度もあるだろ? 僕がちゃんとこっそり洗うから、ツキノは気にしなくていいよ」
そうじゃない、そうじゃない……またしても、涙が零れ落ちる。
「俺が汚い……カイトは駄目、汚れちゃ駄目……」
カイトが戸惑ったように「何言ってるの?」と、また俺の背を撫でた。
「俺に触ったら、カイトまで汚れる。俺は汚い、心も身体もこの髪と同じ、真っ黒で、汚い」
「馬鹿なことを、そんな事ある訳ない。ツキノはどこも汚れてないよ」
「俺、ざまぁみろ、って思ったんだ……」
口元を拭って立ち上がろうとするのだが、ふらりとよろけてうまく立てない。
「死んで当然だって、思った……けど、違う。俺が付いて行きさえしなければ、あんな奴でもあんな死に方しなかった!」
「死んで当然の事したんだから、ツキノが気に病む事なんて何もないよっ!」
「……本当に?」
「本当だよ!」
真っ直ぐなカイトの瞳、あぁ、やっぱり凄く綺麗。
「カイトは見た? あいつの死体を……見た?」
「え……いや、見てないけど……」
「真っ赤だったよ……顔も体も人の原形を留めないくらいぐちゃぐちゃで……母さんが、料理するみたいに切り刻んで……うぐっ……」
脳裏に刻まれた光景、狂ったように剣を突き立てる大好きな人。
「っあ……はぁ……それでも、俺は……ざまぁみろって、そう、思ったんだ……」
「ツキノ……」
「俺はもうどこか壊れてる……体の隅々まで真っ黒だ。きっとこの髪みたいに、どこもかも……汚い」
「ツキノの髪は綺麗だよ!」
そう言って、カイトは俺の髪に口付けようとするのを俺は必死に拒み首を振る。
「カイトは、汚れちゃ……駄目だ……」
「いつも一緒にいただろう? ツキノが汚れてるって言うなら、僕だって汚れてる! 僕の心の中、ツキノに見せてやりたいくらいだよっ、僕の心の中こそ真っ黒だ、ずっとずっとツキノが羨ましくて妬んでた、ツキノを追い出して心の中で笑ってた、ざまぁみろって笑ってたんだ……僕の責任だよ……ツキノが自分を汚いって言うなら、その原因を作った僕が一番汚いんだ!!」
カイトの顔も涙で濡れて、どうしてこうなってしまったのかと思わずにはいられない。
「カイトは綺麗だよ……優しくて、誰にでも好かれる。俺は、カイトになりたかった……」
「お互い、無い物ねだりだったんだね……」
カイトの手がまた俺へと伸びてきて、俺の頬を撫でる。
「ねぇ、ツキノ……僕、いい遊びを思いついたよ」
「……なに?」
「僕がツキノになる」
何を言われているのか分からなくて、首を傾げた。
「だから、ツキノは僕になればいいよ」
「何を言っているのか、分からない……」
「ツキノは僕になりたかった、僕はツキノが羨ましかった、だったら入れ替わればいい。僕がツキノ、君がカイト、簡単だろ?」
「カイト……」
「違うよ、カイト。僕がツキノ、ツキノの物は全部持ってく、記憶も過去も全部貰ってく、簡単だろ? だって僕達いつも一緒にいたんだから」
「俺が……カイト……」
「そう……今だけでもいいんだ、これは遊びだから。ねぇ、帰ろうカイト、俺、お腹空いた。何か作ってよ」
「俺は何も作れない……」
ツキノになったカイトはしぃーっと口の前に指を立てる。
「ふりだけでもいいんだよ、カイトは料理上手だから、ね? 俺、カレーが食べたいな」
「……ツキノは……仕方ないなぁ……」
俺がカイトを真似てそう言うと、カイトはにっこり微笑んだ。
「うちに帰ろう、俺、腹が空きすぎて倒れそう」
「ツキノは本当に燃費が悪いよね」
カイトになったツキノは笑う。ツキノになったカイトも泣き笑う。
2人は手を繋いで歩き出す、2人でいれば、それだけでいいとそう思っていた。
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