運命に花束を

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二人の王子

家族と父親 ①

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 ツキノを家から追い出して、僕は家の中で呆けたようにぼんやりしていた。
 これでいいと思いはするのに、喪失感は半端ない。ずっと人生の大半を同じように隣を歩いて生きてきたのだ、僕の隣にはずっとツキノがいるのだと何の疑いも持たずに生きてきた、けれど僕は自分でそれを拒んだ。

 違う、僕のせいじゃない、ツキノが僕を拒むからこうなったんだ。

 僕は前を向かなければならない、僕達の人生はまだ長い、きっとツキノの事も思い出に変えられる……そう思うのに零れる涙は止められない。
 なんて情けないのだろう、こんなにぼろぼろに自分が傷付くのなら言わなければ良かった。
 ツキノが何と言おうと「メリアに付いてく」くらい言っても良かったのかもしれない。けれど、僕は家族が欲しかった。ツキノは僕を家族にはしてくれない、きっとツキノの本当の家族も僕を認めてはくれない。
 王族と庶民の垣根がどのくらいあるのか分からない。
 ツキノはツキノの養母の甥である。という事はおばさんは王族の人間だったという事だ。
 彼はそんな素振りを僕達の前で一度として見せた事はない。おじさんは王族の人間であるおばさんを娶るのにどんな努力をしたのだろう?
 おばさんはおじさんの所に嫁ぐのにどんな覚悟を決めたのだろう?
 王家からの離脱……彼の性格上ツキノは僕の為にそんな事は絶対してくれない、だとしたら僕はツキノといる為に何ができた?
 妾の身にでも甘んじれば良かったのか? そしたら傍に置いてくれた?
 母は1人で僕を生んだ、父はいないとそう言うのだ。

『きっと一生会う事もないよ』

 そう言って母は笑っていた。母も同じような立場だったのだろうか? だとしたら僕はそんな人生をなぞりたくなんてない。僕の理想はデルクマン夫妻のような家族がいつもお互いを労わりあえるようなそんな家庭だ、日陰の身で一生を過すなんて真っ平ごめんだ。
 それでもツキノを想うと心は揺れる。
 大嫌い、無神経で高飛車で偉そうな事ばかり言ってるくせに、時々思い出したように優しい言葉を吐くツキノが僕は……
 思い出して、また胸が苦しくなった。この痛みにもいずれ慣れる時は来るはずだ、僕の選択は間違っていない、きっと、きっと……
 胸を押さえて涙を堪えていると、ふいに玄関扉が叩かれた。
 その音に僕の肩はびくりと跳ね上がる。誰? お客さん? でも我が家に客なんて今までほとんど来た事はないのだ。
 もしかしてツキノだったら……そう思うと扉を開けるのが躊躇われて、僕は居留守を決め込んだ。
 けれど、玄関扉は尚もしつこく打ち鳴らされて、少しだけ戸惑った。
 あまりにもしつこいノックに涙を拭って立ち上がる。

「誰……?」

 ツキノだったらこのまま無視を決め込むつもりで扉の向こうに問いかける。

「そっちこそ誰だ!? ここはカイル・リングスの自宅じゃないのか?!」

 少し荒っぽい男の声だった。声に聞き覚えは無いし、母は現在また研究室に籠っていてここ1週間ほど顔も見ていない。

「確かにここはカイル・リングスの自宅ですが、ここにはいませんよ。用があるなら職場の方に行ってください」

 そもそも母の知り合いならば母が自宅に居る事より職場である研究室の方に居る事の方が多いという事を知っていそうなものなのだけど……それに返された声は少し苛立っている風で、もしかしてまた母が何かをやらかしての被害者だったら嫌だな、とも思う。
 母は言ってしまえばマッドサイエンティスト、無闇に薬の実験を仕掛けては他人に迷惑を掛け倒している事も知っている。けれど、それを息子である僕に言われても困るのだ。
 母を止められる人間は誰もいない、それは僕も例外では無い。

「職場? それはどこだ? いや、それよりお前は誰だ!?」
「誰って……僕はカイル・リングスの息子ですよ」
「息子……?」

 俄かに扉の向こうの男の声が動揺したように上ずった。

「どういう事だ? 息子だと?」
「そっちこそ、何処の誰だか知りませんけど、父に用があるならここに居ても帰ってはきませんよ」
「父……? いや、お前を生んだのは先生本人なんじゃないのか? それとも、よそに……?」

 先生? 確かに母は医者という括りで言えば「先生」であるのかも知れないが、母をそんな風に呼ぶ人間は少なく、僕は首を傾げる。しかもこの人、母が男性Ωである事を知っている。
 発情期も無い、フェロモンもほとんど発しない母を男性Ωだと認識している人間は少ない、けれどこの人はそれを知っているのだ。

「確かに僕を生んだのは間違いではないですけど、父は父です」
「……君、歳は?」

 少し冷静になった様子の男は扉の向こうからそう問いかけてくる。何なんだろう、この人、しつこいな。

「14ですけど、それが何か?」
「14、15年前か、はは、そういう事か……」

 何かに納得したように扉の向こうの男の声が少し和らいだ。

「あの、もういいですか? 父はここには帰って来ませんので、申し訳ないですけど職場の方に行ってください」
「俺は先生の職場を知らない。できれば場所を教えて欲しいのだが、この扉を開けてはもらえないだろうか?」

 男の声は最初の事を思うとずいぶん落ち着いた声音に変わった。
 それにしても職場を知らないってどういう事だ? 母の知り合いなんてほとんどが職場の人間だろうに、その関係者では無いという事か?

「知らない人には油断をするなと育てられています」

 それはデルクマン家で叩き込まれてきた生活習慣だ。特にΩである自分はいつ何時どんな事があるか分からないので、用心に越した事はないと常に言われ続けてきた。

「これは参ったな、どうすれば俺は信用してもらえるだろうか?」

 その人は少し困ったような声音でそんな事を言う。そんな事僕に言われても本当に困るんだけどな。

「まずは、あなたはどこの誰で、父の何なんですか?」
「俺はランティスから来た、名前はエリオット・スノー、君の父親の恋人、運命の番だよ」

 母の番相手? 確かに母の項には噛み痕があるし、番相手はいるのだと知っていた、でも、だとしたら……

「まさか……僕の父親?」
「恐らく十中八九そうだろうね」

 扉の向こうの男は少しだけ苦笑するような声音でそう言った。
 僕はそろりと扉を開ける。まだ信用した訳ではないけれど、自分の父親だというその男の顔が見てみたかった。

「はじめまして、君の名前は?」
「カイト・リングス……」

 扉の前に立つ男は、特に目立つ風貌でもない平凡な顔立ちの普通の男だった。
 けれど、若い。母の番というにはどうにも完全に若すぎる、俄かに不審気な表情を浮かべて男を見上げると、彼は困ったような顔で「何かおかしな所でもあるかな?」と苦笑するようにそう言った。

「あなた、本当に父の番相手なんですか? どう考えても若すぎますよね?」

 母の年齢は間もなく50に手が届くという年齢だ、にもかかわらず目の前に居る男の容姿は本当に若々しい、どう頑張って見ても20代後半から30代前半のその男が、自分の父親だと言うのにも違和感しか感じない。

「仕方がないね、年齢差は埋められないよ。俺は先生の13歳下だからね、こればっかりはどうしようもない」

 13歳差って……なんでわざわざ番相手にあんな変人の、しかも男性Ωを選んだのかさっぱり意味が分からないんだけど……

「本当にあなた、僕の父親なんですか?」
「間違いないと思うよ、っていうか間違いない。計算もきっちり合う。あの当時に先生が浮気をしてたなんて事は絶対ありえないから、君は間違いなく俺の子だ。でも驚いた、子供がいたとはね、はは、さすがに想像もしていなかった」
「想像してなかったって……知らなかったんですか?」
「知りようがないだろう、ある日突然先生は行方をくらましたんだ、こっちだって必死に探していたが隠し立てする奴が多くて、見付けるのに時間がかかった。しかも、うちの方を片付けるのにも時間がかかって、ようやく会いに来られたんだ」

 僕の父親を名乗るその男はそう言って僕に笑みを見せるのだが、僕はそれが俄かには信じられない。だって、僕ももう時期15になるけど、僕は母からこんな男の話しは一度だって聞いていない。
 いや、そもそも母と一緒に暮らしていた期間もそう長くはないので何とも言えないのだけど、少なくとも今までそんな人間の影すら感じた事はないというのに、目の前のこの男はそんな事は軽く無視して自分は僕の父親だとそう言うのだ。

「そんな事を突然言われても、信じられません」
「先生から何も聞いていないのか?」
「聞いてませんね。父親とは一生会う事もないだろうから知らなくていい、と言われています」
「な……くそっ、酷い言われようだな」

 またしても苛立ったような、けれど少し悲しげな表情で男は髪を掻き上げる。

「別れる時に何かあったんですか?」
「俺達は別れてない、そもそもそんな話になった事すらない」
「スノーさん、もしかして父に嫌われてるんじゃ……?」

 そうでもなければ番相手、ましてやΩがαの元を離れるなんてあり得ない。αとΩの番契約はαの方に都合良くできていて、その契約はαの側からなら一方的に破棄できるが、Ωからはそれができない。しかもαから番契約を破棄されたΩの精神的負担は相当な物だと聞く。それこそ一方的に捨てられたΩは命を縮める事だってあるのだ。
 でも、それを考えると僕の母は1人でいても有り余るほどに元気なのはどうにもおかしい。
 それはこの人が本当に母の番相手だとして、15年も行方を眩ましていた母との番契約をずっと破棄していないという事でもある。

「嫌われてはいない……と思うのだが……先生はそんな素振りは一度だって見せた事はなかった。確かに先生が行方を眩ます前は多少喧嘩が増えていたが、その喧嘩の理由は俺を嫌ってのものではなかった」
「……喧嘩の理由ってなんですか?」
「話せば長くなるのだが、聞く気があるのなら中に入れてはもらえないだろうか?」

 男の言葉に僕は瞬間躊躇いを覚えたのだが、好奇心の方がそれに勝った。
 僕の父親を名乗るこの男の正体が知りたかったのだ。

「分かりました、どうぞ」

 僕が扉を大きく開けて招き入れるようにそう言うと、彼は嬉しそうに僕に抱き付いてきた。

「ありがとう、嬉しいよ。顔を見せて、あぁ、やっぱり先生によく似てる」
「ちょっと、止めてください! 僕、まだ貴方の事100%信用した訳じゃないですからね!」
「俺にとって君は100%俺の子供だ。パパと呼んでくれてもいいんだぞ」

 問答無用で抱き締められて、つい腕の中で暴れてしまう。何なんだろう、この人距離感おかしい、調子が狂う。

「もう、本当に止めてください!」

 言った言葉を聞いているのかいないのか、彼は僕の肩を抱くようにして部屋の中へと入ってきた。家の中に入れちゃったけど、本当にこの人変な人だったりしないよね? 大丈夫だよね? ちょっと心配……
 こんな時、ツキノがいてくれたら安心できるのに、と無意識に考え、僕はそれを振り払うように頭を振った。





 部屋に通してお茶を出すと、彼は興味深げに部屋の中を見回した。
 「ありあわせの物しかありませんけど……」と茶菓子を差し出し、僕も椅子に掛けると彼は少しだけ目を細めて「君はアジェに似ているな」とそう言った。

「アジェ? 誰ですか?」
「俺の双子の弟。顔は俺と全く同じなんだが、俺と違って気遣いのできる優しい奴なんだ。いつも笑顔の頑張り屋でね、辛い事があっても綺麗に笑顔で隠してしまう、だから俺はそんな隠し事を暴くのが少しだけ得意でね、何か辛い事でもあったのかな?」

 僕の瞳を覗き込むようにして彼はそんな事を言い出すので、先程まで泣いていたのがバレたのかと、僕は目を擦り「何でもないです……」と呟いた。

「そう? それならいいけど、力になれる事なら相談に乗るよ? 父親らしい事もさせて欲しい」
「僕はまだ貴方を父親だとは認めてません」
「頑なだな、どうしたら信用して貰えるだろうか?」
「そもそも貴方が本当に父親だというなら、なんでこんな15年間も僕達をほったらかしにしていたんですか?」
「別にほったらかしにしていた訳じゃない、さっきも言ったように何も告げずに行方を眩ましたのは先生の方だ。俺はずっと探していた! それこそ行方を眩ました15年と135日前からずっとだ!」

 15年と135日前って……毎日指折り数えてたって事? それはそれでちょっとどん引きなんだけど。

「家のしがらみも全部捨ててようやくここまで辿り着いた、長かった、本当に……」
「家のしがらみって、貴方はそんな良い家柄の人なんですか?」
「うん? まぁ、少しね」

 彼は曖昧に言葉を濁す。

「そんな家柄の人が父とどうやって知り合って、なんで番になったんですか?」
「先生は俺の家庭教師だったんだ、俺が先生に惚れてβだったあの人をΩに変えた」
「? Ωに変えた? どういう事ですか?」
「後天性Ω、先生は元々βだった。稀に強いαが気に入ったβをΩに変える事がある、そういう話しは聞いたこと無い?」
「そんな話、聞いたこと無いです!」
「でも事実だ、そうやって先生はΩになって、そして君が生まれた」

 そんなふざけた話、俄かには信じられない。
 確かに母は発情期の無い特異体質のΩだ、けれどそんな話しは今まで一度も聞いた事がない。

「まだ信じられないって顔だな」
「当たり前です。信じられないような話ばかりで納得できる話しがひとつも無い。それに、僕まだ聞いてないですよ、父が貴方を拒んだ理由」
「それは……たぶん間違いなく俺の家のせいだと思う」
「家? さっきも言ってましたけど、本当に良い家柄なんですね。まさか貴族とか?」
「貴族ではないんだがな……」

 やはり彼は少しだけ口籠り、言葉を選ぶように視線を宙に彷徨わせた。その時、家の扉が開く音と賑やかな声が玄関先から聞こえてきた。

「たっだいま~カイトお腹減ったぁ。ご飯食べよ、ちゃんと3人分買ってきたからツキノの分もあるよぉ」

 賑やかな足音、久しぶりの帰宅だ。まさかこんなタイミングで帰ってくると思わなかったが、それは間違えようもなく母、カイルの声だった。
 その声を聞くと同時に目の前の自称僕の父親は椅子を蹴るように立ち上がり、座っていた椅子が後ろへと倒れ派手な音を鳴らす。

「何を暴れてるんだい? 大きな音がしたけど……」

 リビングの扉が開く、それと同時にそこに駆け寄った彼は母を思い切り抱き締めていた。

「へ……? え? 何? え……?」

 状況が理解できなかったのだろう母は呆然と立ち尽くし、されるがままに抱き締められている。僕も驚いてそれを見守る事しかできない。

「やっと会えた、先生!」
「な……王子!? え? 何でここに!?」
「探した、ずっと探してた! ようやく見付けた!」

 初めは驚いた顔をしていた母だったのだが、その自分を抱き締める男が誰なのか認識した途端に、母はさぁっと顔を青褪めさせた。
 王子? 今、王子って言った? 一体どこの王子様だよ? ってか、まさかランティスの……?
 いやいや、さすがにそれは無い……無いよねぇ?

「帰ってください! ここは貴方のいる場所じゃない!」

 母はそう言って男を突き飛ばそうとするのだが、その突き飛ばそうとした腕を掴んで、男は更に母を抱きすくめた。

「自分の居場所は自分で決める! あんたに指図されるいわれはない!」
「なんという傲慢……貴方は自分の立場が分かっていない! 貴方は何も変わらない、いつまでも子供の我が儘は通用しませんよ、王子」
「変わらない訳がないだろう! どれだけ年月が経ったと思っている! それにこれは我が儘なんかじゃない! もう王子も廃業だ、全部捨ててきた、国も家も名前も全部!」
「なんて事をっっ!」

 悲鳴のような声を上げて、母は男の胸を叩く。
 ただでさえ血の気の失せたような顔をしていた母の顔が更に青褪めた。というか、いつでも傍若無人な母がこんなに動揺している姿を見るのは初めてだ。
 他人を振り回すことには長けている母だけど、他人に振り回されている母の姿など初めて見た。

「いらないんだよっ、そんな物は! 何もいらない、欲しいのはあんただけだっ!」
「それは愚か者の言う事です! 私は貴方をそんな思慮の浅い人間に育てた覚えはない!」
「俺はあんたに育てられた覚えはない! 愚か者で結構だ、自分で考え自分で決めた、誰にも俺の人生に口出しをする事は許さない!」
「貴方という人は……」
「馬鹿な子ほど可愛いって言うだろ……お願いだから、もう俺から逃げないでくれ。あんたしか要らないんだ、俺には先生しかいないんだ……」

 高飛車な言動をしていたかと思えば、今度は縋るように母にそんな言葉を投げる男。そんな男に戸惑った様子の母なのだが、それでもその拒絶は彼を嫌ってのモノではないとなんとなく分かってしまう。

「あんたが俺から逃げ出したのは子供ができたからだったのか?」
「子供に気が付いたのは城を出た後でしたけど、概ね間違ってはいませんよ。この子は王家には関係のない、私の子です」
「でも、俺の子だ」

 僕の目の前でラブシーンでもおっぱじめそうな2人は、見つめ合いながらそんな話をし始める。なんだか、席外した方がいいような気もしなくもないんだけど、自分の事は知りたいし、物凄く迷う!
 しかも、やっぱりこの人僕の父親で確定か……本当に父親だったんだ……若いな、父さん。
 僕の理想の父親像はナダールおじさんだったんだけど、まぁ、これはこれで悪くはないかな? いつも傍若無人な母さんが押し負けてるのもなんか笑える。

「カイトには何も話していません。今後もそちらに関わらせるつもりはありません」
「それでいい、全部捨ててきたと言っただろう? もう俺も王家には関わりのない人間だ」

 王家……王子……この人本当にもしかしてランティス王家の人だったりするのかな? 俄かには信じられないけど……
 あれ? でもちょっと待って? だとしたら、もしかして僕の中にも王家の血は流れてるって事? なんかそれってちょっと凄くない?

「本当にそれでいいんですか、王子?」
「もう王子じゃない、エリオットだ。敬語も禁止」
「もう今更変えられませんよ……王子は王子です」
「困ったな、俺達はこれから家族になろうって話しのはずなんだがな、なぁ、カイト?」

 母を抱きこんだまま、くるりとこちらを向いたエリオットに言われて、僕は俄かに動揺する。そんな急に言われても、僕だって実感なんてそんなすぐに湧かないよ。
 母は、そこで僕の存在にようやく気付いたようで、慌てたように彼を引き剥がした。

「カイト、いたんだ……」
「最初からいたよ、驚いた。本当にこの人僕の父さんなんだ?」
「まぁ、うん……そうだね」

 男は満面の笑みでにこにこしているのだが、母はまだ動揺しているようで視線を彷徨わせる。

「王子様なの?」
「本人は廃業したと言っているけど……」
「ランティスの……?」
「そうだよ、カイト。出会いは王子である俺の元に家庭教師である先生がやって来た所から始まる。馴れ初めを聞きたいかい?」

 機嫌良くそう語るエリオットの言葉に、好奇心に負けた僕は頷く。っていうか、母さん王子様の家庭教師って、結構凄い人だったんだね。

「そういえばカイト、ツキノは?」

 思い出したように母はそう言って、手に持っていた紙袋を僕に手渡す。その中には先程母が言っていたように、幾つかの惣菜が入っていた。

「ツキノは……出てった」
「ふぅん? ナダールもしばらくはイリヤにいる事になったみたいだし、帰ったのかな?」
「……たぶん」

 少しだけ歯切れの悪い僕に母は微かに首を傾げる。

「ツキノというのは? 友達かい?」
「カイトの幼馴染ですよ。私の幼馴染、ナダールが預かってる子です」
「ナダール……? 聞き覚えがあるな……」
「ランティス王国元騎士団長、ギマール・デルクマンの息子、と言えば分かりますか?」

 はっ! としたようにエリオットは顔を上げた。

「あの事件の時の! という事は、セカンド・メリアの番相手か!」
「その言い方は止めてください! 彼が傷付きます!!」
「セカンド・メリアはセカンド・メリアだろ! なんでそいつ等がこんな所にいる!?」
「ナダールは現在この国ファルスの第一騎士団長です、何もおかしな事はありません」
「百歩譲ってそこはいいとして、なんでセカンド・メリアに関わりのある子供がカイトと一緒にいる!? 幼馴染!? どういう事だ!」

 この人が突然何にそんなに立腹したのかが分からない。それにセカンド・メリアって何?
 ナダールおじさんの番相手って言ったらグノーさんの事だよね?

「王子、あの人達を憎むのは止めてください。私の大事な友人達なんです。それに私は彼等には返しきれない程の恩がある、過去は過去の事として、もうそういう物をこの子達に押し付けるのは止めてください」
「友人? セカンド・メリアと? 馬鹿馬鹿しい、そんな事は許容できない!」
「王子!」

 母は悲しげな表情で父を見やるのだが、父はそこを譲る気はないようで頑なな怒りの表情で母を見やる。

「ねぇ、セカンド・メリアって何?」
「カイト、お前は知らなくていい」
「あの事件にはあんただって散々巻き込まれただろう! あいつ等にはもう関わるべきじゃない!」
「私は彼等にとっては加害者側ですよ、私にそんな事を言える資格はありませんし、そんな立場にはない。それでも彼等は私にとても優しかった。貴方のような非寛容さはあの人達にはない!」

 和解ムードだった両親の間に亀裂が入る。でも僕には何がどうなってそういう話しになるのかまるで分からない。それでも、そんな中で分かる事はこの僕の自称父親は僕の大好きなおじさん達を嫌っているらしいと、そういう事だ。
 そして『セカンド・メリア』という言葉は僕の好きなグノーさんを侮蔑する言葉でもあるのだろう。

「……僕、この人嫌いだ。こんな人と家族になるくらいなら、僕、この家出てく」

 僕の放った一言に、何故か自称父親は目を見開いた。

「何でだ!? 家族は一緒に暮らすものだ! 何故俺がそんな事を言われなければいけないのか分からない!」
「ずっと一緒に暮らしてもなかったのに図々しいですよ。僕にとってはナダールおじさんの方が家族に近いです、あの人達を嫌いだと言うのなら、僕は貴方を好きになる事はありません」
「先生、これはどういう事だ!?」
「カイトの言葉通りですよ。ナダール達はこの子を家族同然の扱いで育ててくれた。私は子育てには不向きでどうしてもこの子を上手に育てる事ができなかった、そこを補って愛してくれたのが彼等なのです。カイトのこの反応は当然です」
「は!? なんでそんな事になっている!? セカンドはメリアの人間だぞ! そんな奴に大事な息子を預けてたって言うのか!?」
「ここはファルスです、ランティス程メリア人差別は酷くない。メリア人だからと彼を格下のように見るのも止めてください、彼は私とは比べ物にならない程に立派な母親です、だから彼に育ててもらえたこの子もこんなに良い子に育った。何も知らない人間が、口を出せる話しじゃない」

 エリオットはぐっと言葉に詰まったようなのだが「それでも……」と悔しそうに呟く。

「カイトは俺の息子だ、ランティスの子だ。メリア人と仲良くなんて……」
「カイトはファルスの子ですよ、貴方は国を捨ててきたと仰ったはずですが、それは嘘ですか? もし、そんな腐った価値観でカイトを縛るような事をしようとするのなら、私は貴方と一緒になど暮らせません、どうぞランティスへお帰りください」
「帰るのならお前達も一緒に、だ」

 睨み付けるようにそう言った男に母はきっぱり「私はランティスには帰りません、もう二度とあの国に足を踏み入れるつもりもない」と言い切った。

「何故だ!? メルクードにはあんたの家族だって暮らしている、何でそんなにファルスに拘る!」
「研究がようやく軌道に乗ったのです。今、ここを離れる訳にはいきません」
「研究!? そんな物、ランティスで幾らでもやればいいだろう!」
「いいえ、それは無理です。私はもう政治に研究を利用されるのは真っ平です。ファルスは良い、国王も国民も理解がある、私の研究を『金の成る木だ』などと言う人もいないし、兵器に利用しようなんて人もいない」
「そんな事、俺が言わせない!」

 エリオットの言葉に母は悲しげな表情で首を振った。

「王子、貴方は王子を廃業してここへ来たと言った筈です。ただの一市民である貴方が何を言った所で、どうにもならない事なのですよ。そして貴方が王子という立場のままでそれを言うのであれば、私は貴方の元に戻る気はないと言わざるを得ないのです。研究には莫大なお金と、それに関わる人間の理解が必要です、ランティスに現在そんな物はない。ここファルスでもここまでにするのに10年掛かっているのです、それをまた一からやり直す時間はもう私には残されていないのです」
「あんたは……一体何の研究をしてるって言うんだ……」
「貴方に使った毒物の進化版ですよ。とは言ってもあれは本来毒物ではない、使い方を間違えれば毒物にも成り得るというそれだけの薬です。この薬は土壌を綺麗にしたり、水を浄化したりできる物です、ただ扱いが難しい。それを一般的にもっと使い易く手軽に扱えるようにするのが私の仕事、これは二度と悪事には使ってはいけない研究なのです」

 母の言葉に父は微かに舌打ちを打ち「そんな物……」と呟いたのだが、その言葉を聞き咎めた母はかっと眉を上げ、怒りの表情へと変わる。

「そんな物!? 『そんな物』と今、仰いましたか!? 貴方はここまで来られるのに一体民の何を見ていらしたのです!? この研究は生活に根ざしたもの、民を飢えさせない、公害を起さず生活を豊かにする為に必要な物、それを『そんな物』と貴方は仰るのですか! ファルスの国王ならばそんな事は絶対に言わない、もっとこういう事もできないのか? と意見を出してくれる、それは全ての国民が豊かに生活できる世界を目指しているからこその言葉です。貴方は王家に生まれながら、そんな基本的な王家の資質も持ち合わせていなかったとそういう事なのですか!?」

 母が自分の研究についてここまで雄弁に語るのは初めて聞いた。いつも何の研究をしているのかよく分からず、何か薬品を弄繰り回しているだけなのだと思っていたのだが、母には母なりの信念があってその研究に取り組んでいたのだと、初めて知った。

「これは私の償い、私の研究で不幸になった人、亡くなった方々へのせめてもの贖い、それを邪魔する事は貴方であっても決して許さない」

 一気に捲し立てた母に父親は驚いた様子で言葉を詰まらせ「悪かった……」と一言ぼそりと謝った。

「先生がそこまでの気持ちでこの研究に取り組んでいるというのなら、俺にはもうそれを止める権利はない。もうランティスに帰ろうとも言いはしない、だから、俺もここに住む……いや、住んでもいいだろうか?」
「まずはこの子に謝ってください。そしてグノーの事を二度とセカンド・メリアと呼ばないと誓ってください。話しはそれからです」
「それとこれとは話しが別だろう? カイトに謝るのは構わない、あいつをセカンド・メリアと呼ぶ事を止めるのも別にそれならそれでもいい、だが俺はあいつやあいつの家族と付き合う事に賛同はできない」

 そのエリオットの言葉に母はあからさまな失望の表情を見せた。悪いけど僕も同じ、この人頭おかしい。

「ずいぶん頭の堅い大人になられたのですね、王子。貴方は一体何に対してそれ程怒りを募らせているのか私には分かりません。あの時一番被害を被ったであろうアジェ様がグノーを親友と呼んでいるのに、そしてメリア王家を一番憎んでいるであろうグノーですらメリアの王子であるツキノを愛し慈しんで育てたというのに……」
「ちょっと待て、メリアの王子!? そのツキノとかいうのはメリア王の子だとでも言うのか!?」
「そうですよ。ツキノはメリア王とファルス王の娘の間に生まれた子、メリア王家唯一の跡継ぎです」
「馬鹿な!! なんでそんな奴と俺の子を一緒に育てているんだ! あんたは一体何をやっていた!」
「一生懸命生きていましたよ。何の縁故もないこの土地で私とカイトの2人で死なずに飢えずに生きられたのは彼等のおかげです。生きていくのにはお金が掛かるのですよ王子、食べるのだってただじゃない、私は研究以外には何もできない人間です、それこそ人らしい生活もままならない、自分1人を生かすのがやっとの人間に子供ができたんです、それがどういう事だか分かりますか? 私には本当に生活能力がまるでない、興味が一度向いてしまえば子供の事すら忘れてしまうような、そんな駄目親です。そこに手を差し伸べてくれた人がいたから私はそれに縋った、それが間違った選択だったとでも仰りたいのですか? 少なくともあの時私が彼等の手を取らなければ、カイトは幼くして死んでいた可能性だってあった。そのくらい私は駄目な人間なのですよ」
「だったら、何故その時に俺を頼らなかった! 俺が! 俺こそがこの子の父親だろう!」
「貴方には国を負うべき責務がある、貴方の隣に立てるのはその責務を共に背負える人物です。私ではどう足搔いても力不足なのですよ……」

 瞳を逸らして母は言う。いつでも唯我独尊で生きているような母だったが、こんな風に自分を弁え、暮らしていたという事に驚きしか感じない。
 自分は何も見ていなかったのか? 人の上辺だけを見て、人間の判断をする事の愚かさを肌で感じる。

「いい、分かった。もうこれまでの事は何も言わない。考えるべきはこれからの事だ」

 これから……前向きな意見ではあるが、もうこの男に対する不信感は僕の中では拭えない。僕が今まで生きてきた幸せな時間を否定するようなこの人を好きになれる気が全くしない。

「貴方はランティスに帰るべきです」
「は? 何でだ!?」
「ここまでお話をさせていただいて、あなたに現在のイリヤは無理だと判断します」
「どういう事だ?」
「少し前の事ですが、イリヤでは大規模なテロ事件がありました、事件はすべて未遂に終わり、被害もなく、陛下はそのすべてを揉み消しましたが、その傷痕はまだ関係者の心の中に深く刻まれている。そのテロの裏で糸を引いていたのはランティスの商人……」
「な……我が国の人間だったというのか!? 馬鹿を言うな! 我が国の人間がそんな事をする理由がない!」
「けれど、それが事実なのですよ、王子」
「ファルスはこれまで他国からの移民も快く受け入れ、懐の中で愛し慈しんでくれましたが、ここにきて他国人の排斥運動が水面下で活発化してきています。それは他国の人間がここファルスで数々の悪さを働き始めたせいなのです」
「他国他国と言うが、それはランティス人というよりメリア人の方が多いのではないのか!」
「確かにその通りです。メリア人の増殖は目に余る、けれど、それを裏で手引きしているのがランティスの人間だとしたら……?」
「は?! 我が国の人間がそんな姑息なマネをする訳が……!」
「王子! 貴方は我が国、我が国と仰いますが、貴方は国を捨ててきたと仰ったのではないのですか! 貴方のそういう感情はどうやってもメリア人だけでなくファルスの方々との間にも軋轢を生む事になるでしょう、現在のイリヤはそういう自国主義には排他的です、自国が良いなら自国へと帰れとそう言われるのが、関の山。ファルス人になってファルスの為に生きられないのならここに生きる事は不可能です。貴方はすべての悪をメリア人に押し付けようとなさるかもしれませんが、違います。メリア王国の諍いでさえ、糸を引いている人間の中にランティス人がいるのです」

 エリオットは目を見開き「そんなまさか……」と苦笑する。

「そんな妄言を誰に吹き込まれた? そんな事がある訳ない」
「貴方は見た事がありますか? ランティスの各地に赴き自国の民と向き合った事がありますか?」
「当たり前だろう! それが王家の勤めで、俺は今までそれを蔑ろにした事はない」
「では、貴方はメリアの民を見た事がありますか?」
「メリアの民など知った事ではない! 私が守るべきはランティスの民だ」
「ではやはり貴方は知らないのですね、ランティスの民がメリアの民をどのように扱っているか、知らないのでしょう? メリアとランティスの国境付近で何故小競り合いが絶えないのか、考えた事はありますか?」
「馬鹿にするな、俺は各地に自分の足で視察にだって出ているし、逐次報告も受けている。メリア人は無法者ばかりで取り締まるのは大変なんだぞ」
「そうならざるを得なかった理由を貴方は知っていますか? 貴方は視察にも赴かれていると仰いましたが、それはどのような形で? 護衛の騎士に守られながら上っ面を眺めていらしたのではないのですか?」

 母の言葉にエリオットはあからさまな不快の表情を見せた。

「例えお前でも侮辱は許さんぞ、俺は何も知らないままメリアの批判をしている訳ではない、知っているからこそあいつ等には関わるなと言っているんだ!」
「いいえ、貴方は知らない、知ろうともしていない。貴方は一度ファルスの国王にお会いしてみるといい、貴方にない物があの人にはある」
「会った事なら何度もある。そこまで親しく話した事はないが、そこまで言われる程だとは思えない」
「そうでしょうね、貴方にはあの人の凄さは分からない……ルーク、いるんだろ? 少し陛下に繋ぎを取ってもらってもいいかい?」

 母が突然どこかへ向けて声をかけると「一応、隠密なんで名前を呼ぶのは止めてください」とどこからか声が降ってきた。勿論姿など見えない。

「え? 誰?」
「黒の騎士団、知ってるだろ?」

 確かに知ってはいるけど、なんでそんな人がここにいるの?

「黒の騎士団? なんだそれは?! いや、心当たりがあるぞ……お前ら、昔俺の所に忍び込んで来ていた奴等だろ!」
「あぁ……バレた。先生、ホント勘弁してくださいよ。仕事に支障が出ると困るんですよ。それにボスは忙しい、会えるかどうかは分かりませんよ?」
「それでもいい、だけど、エリオット王子が来たと言えば陛下の事だ、無碍にはしないと思うけどね」

 声の主は「仕方がないですね……」と溜息のように言葉を吐く。

「ちょっと行ってくるんで、ここ動かないでくださいよ! 目を離すと相棒に怒られるんで、絶対ですよ!」

 その声はそう言って何度も念を押しながら、その気配を消した。
 『黒の騎士団』
 名前は知っていたけど、こんな所にも現われるんだ? 騎士団の中でも特殊な部隊、表立ってできない仕事を影で請け負うと聞いている。事件のある場所とかに現われるのだとばかり思ってたけど、こんな所になんでいたの? しかも父さんそれ知ってた?

「今のは何だ!? 王と繋ぎとはどういう事だ!」
「例え私がこの子の秘密を一生黙っているつもりでも、この子がランティス王家の血を引いている事実は消せません。それはツキノも同じ。2人には常に監視が付いているんですよ。全てを知っているのに私達が何も考えずに2人を一緒に育てたとお思いならお門違いも甚だしい。2人に危険な事など何もない、何の憎しみも2人の間には存在しない。貴方は罪もない子供達が憎しみあう負の連鎖を作り出そうとしていますが、それがどれだけ愚かな事か知ればいいのですよ。そして、ただ2人の成長を平穏にと見守り慈しんでいる国王陛下との人としての器の差を思い知ればいい」

 そうなんだ……さっきの声の人、もしかして僕に付いてたって事? ツキノとの喧嘩も見られてた? うわぁ、ちょっと恥ずかしい……

「先生は一体何に怒っている? 何が気に入らないのか俺には分からない」
「私は怒っているのではありません。貴方の成長のなさに呆れているのであり、悲しいだけです。私の教え子が、こんなに無知で傲慢な大人に育ってしまった事が本当に悲しいのですよ」

 先程までラブシーンを演じ出しそうなくらいだった2人の間に溝が見える。
 うん、僕もこの人あんまり好きになれないし、できれば同居とか願い下げなんだけど、父さんどうする気なんだろう……
 僕の本当の父親が現われても、思い描いたような家族団欒とはいかなさそうで、僕は少しがっかりしていた。例え血が繋がっていたとしても、この人を家族だとは思えない。
 そもそも彼はまだ「父親」ではないのだ「家族」という形態を成さないのも仕方がない。この人だって自分に子供が居るだなんて全く思ってもいなかったのだろうから一朝一夕に父親らしくなんてなれる訳もない。
 けれど彼の態度は恋人を思い通りにしようとする傲慢な態度で、それにも些か腹が立つ。
 彼は家庭を持つべき「大人」ではないとそう思うのだ。
 それでいえば母であるカイルも似たり寄ったりの身勝手さだが、それでも母は地に足を付けて生活をしているだけマシだと思わざるを得ない。

「僕、お腹空いた。これ食べてもいい?」

 母から渡された惣菜を見やってそう言うと、自分達はもう少し話しがあるからと部屋を追い出された。
 自室に戻って惣菜を摘む。3人分の惣菜は僕には少し多過ぎて、やっぱりこんな時にツキノが傍に居てくれたら、と僕は思わずにはいられないのだ。
 これから僕の生活はどう変わっていくのだろう? 少なくとも、ツキノと2人で暮らしていた時よりも居心地は悪くなるのだろうな、と溜息が零れた。





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