運命に花束を

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運命の子供たち

祭りの終焉

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 ナダール第一騎士団長の怪我は出血のわりにそこまで酷くはなかったようで、命に別状はないという事で皆ほっと安堵の息を吐いた。
 しかし犯人が同じ騎士団員であった事は一連の事件を知る者達に、また暗い影を落とした。
 一連の犯人達は「他国の人間を無条件で受け入れるような政策を推進している事がおかしい、そして他国の人間が第一騎士団長を名乗っている事がそもそもおかしい」と、喚き立てている者がほとんどだった。

「しばらくメリアやランティスからの移民の受け入れを制限するか……」

 国王はそう言って盛大に溜息を吐いた。

「私も職を辞した方がいいですかね……」
「馬鹿言うな! お前の排斥を叫んでいるのはあくまで国の一部の人間だけで、ほとんどの人間はお前の安否を気にかけている、お前が今までこの国で上げてきた功績を考えれば当然の事だ! 自分の我を通す事しか考えていない餓鬼の言う事なんざ聞く必要はない! それにここでこちらが折れれば自分達の考えは正義だったと増長した人間が更に他国の人間を排斥にかかるのは目に見えてる!」

 国王の言う事はもっともで、ナダール騎士団長は口を閉ざしたのだが、その表情はやはりどうしても憂いを帯びていた。



「お祭り、うやむやになっちゃいましたね……」

 ナダール騎士団長とスコット騎士団長の試合が終わり、残す所はあと2試合だったのだが、3位決定戦はそのまま例年通り行われたものの一番の盛り上がりを見せるはずの決勝戦はナダール騎士団長不在のまま第3騎士団長の不戦勝となった。
 真っ直ぐな性格のアイン団長がそんな勝利に満足する訳もなく、本来ならばアイン団長が第1、ナダール団長が第3へと変わるはずのその試合で「これは無効試合だ」とアイン団長はそっぽを向き、第3騎士団長継続の方向で話しは纏まった。
 結果、3位決定戦ではきっちり勝ち上がったスコット団長もそのまま第4騎士団長継続、騎士団長に変動は何もないまま武闘会の幕は下ろされた。

 間もなく武闘会の閉会式が始まる。どうにも皆の心中はすっきりしないまま、祭りは終焉を迎えようとしていた。

「お祭りの最後は花火が上がるって聞きましたよ。俺、花火って見るの初めてです」
「そうなんだね、この花火が上がるとお祭りももう終わりかって、少し切なくなるんだけど、花火初めてなんだったら、もっとちゃんと見れるように街の方まで見に行く?」
「? 花火って向こうから上がるんじゃないんですか?」

 俺が街の方向を指差し首を傾げると、ユリウスは「違うよ」と笑みを見せた。

「花火は毎年お城の裏手から上がるんだ、花火をバックに浮かび上がるお城って凄く綺麗なんだよ」
「へぇ、そうなんだ。でも俺、街の方で花火の準備してる人達見ましたよ?」
「え?」
「じいちゃんの屋敷が見える丘の上で、祭りの終わりに花火を上げるから、是非見て行ってくれって言われたんです」
「そうなのですか……今年は趣向が例年と違うのかな……? そんな話聞いてないですけど」

 爆薬騒ぎの時に散々地図を眺めていたので、なんとなく覚えているのだけどイリヤの城下町には四方に小高い丘がある。じいちゃんの屋敷の裏手にあったのがそのひとつで、そこから花火が上がるのなら、その四方の丘からも上がるのかな? となんとなくそう思っていたのだ。

「でも、あそこから上がるならここからでもよく見えますよね」

 俺が言うと、ユリウスさんは「そうだね」と頷きながらも少し怪訝そうな顔付きをしていた。

「城は少し小高くなっているから城からはよく見えると思うけど、あそこで上げると街も近いし、あの辺少し背の高い建物も多いですから逆に街の人からは見難い気もしなくもないというか……」
「どうかしましたか?」

 じいちゃんが急に声をかけてきて驚いた。どうやらじいちゃんは俺とユリウスさんの関係を疑っているようで、二人でこうして話などしていると何処からともなく寄って来て、割って入ってくる。別に疚しい関係じゃないんだから放っておいて欲しいんだけどな……

「いえ、今年は打ち上げ花火の趣向が例年と違うようなのですけど、それがなんだか少し腑に落ちなくて……」
「打ち上げ花火? 城の裏手から上がるアレですか?」
「はい、ですけどノエル君が街の丘の上で花火の準備をしている人達を見たって言うんですよ」
「街の丘の上?」
「そう、じいちゃんの屋敷の裏手にあったあそこ」

 じいちゃんが俄かに険しい表情になって腕を組んだ。

「ノエル、大至急部屋からあの時の地図を持ってきてください、大急ぎで!」
「え? え? うん、分かった!」

 俺は部屋に駆け戻り、地図を引っ掴んでじいちゃんの元へと戻る。

「あぁ、やはり! これはいけない、これは駄目だ! ユリウス君、すぐに動ける仲間を集めて、機動力のある人間がいい、急いで、これは一大事だ! 陛下にすぐに報告を! これは急を要します!」
「え!? 何? 何!?」

 祖父は慌てたように地図を掴んで、城の奥へと消えて行く。ユリウスもよく分からないようなのだが「とりあえず人を集めてきます!」と駆けて行った。
 残された俺は一体どうすればいいんだろう? って言うか一体何があったの!? 誰か俺にも説明してよ!
 俄かに城の中はまた慌しくなっていった、あちらこちらで人が走り回り始める。

「ノエル君、これ何かあったですか?」

 不安気な顔で現われたヒナノの顔色はあまり良くない。父親が刺されたのだ、命に別状はないとはいえ、それは彼女の眼前で起こった事件だった、ショックを受けない訳が無い。

「よく分からないけど、今何か対処してる所だと思うからヒナちゃんは部屋に居た方がいいと思うよ。下手に邪魔にならない方がいいと思う」
「ノエル君は……?」
「何かできる事があるなら手伝わなきゃだけど……出来る事あるかなぁ?」

 事件は大きくなり過ぎている、もうこの一連の事件は俺なんかの手に負える話しではないのだ。
 なんだかんだと事件に巻き込まれてここまできたけど、こんなに大事になるなんて思ってもいなかった。

「ノエル! 話を聞きたい、おいで!」

 じいちゃんに呼ばれて、俺は弾かれたように駆け出し、そんな俺をヒナノは少し不安そうな表情で見送っていた。



 俺が呼び寄せられたのは、一昨日やはり同じようにじいちゃんと訪れた部屋だった。
 そこには今日はちゃんと王様らしい煌びやかな衣装を纏ったブラック国王陛下もいて、少し緊張してしまう。

「ノエル、先程の花火の話、詳しい状況を話すんだ!」
「詳しい状況? そんな事言われても……あの日、じいちゃんの屋敷に乗り込んだ日だよ、ウィルに連れられてあの丘の上に行ったんだ。でも、全然する事なくて暇だったからふらふらその辺散策してたら職人みたいなおじさん達が、危ないから近付くなって言ったんだ。祭りの最終日には盛大に花火を上げるから見てってくれって言ってさ、別に変な人達じゃなかったよ。あ……でも、俺その後変な人にも絡まれたんだった……」
「もしかして、ジミー・コーエンですか?」
「そう、その人」
「花火職人は恐らく、何も知らされていないのではないでしょうか。今年はこちらからも上げると言われて、普通に準備を進めていた。今回のこの武闘会、祭りの執行部は……」
「第4騎士団だ」

 第4騎士団、ウィルの誘拐をした騎士団員も第4騎士団の人間だったと聞いた、ナダール団長が刺された時の試合の相手も第4騎士団長、そして祭りの催しの企画も……?

「スコット騎士団長を呼べ! どういう事か説明をしてもらわんとな」
「説明責任もですが、まずはこの花火を止めなければ! いえ、花火ならいいのです、その花火がもしひとつでも爆薬とすり替えられていたとしたら、その場の花火もろとも爆発炎上は免れません。そしてそれが爆発したとして、次に引火するのはここです!」

 じいちゃんが指差した先は、爆薬が見付かった場所だった。

「もしかして爆薬まだそこにあるの……?」
「差し押さえはして、きっちり手は出せないよう警護していますが、火の手が上がってしまえばもうどうにもなりません。そしてここが爆発すれば、次はここ、そしてこっち、イリヤの街の半分は完全に火の海です」
「ねぇ、じいちゃん……丘って四方にあるよね、本当に花火ってここだけなのかな……?」

 俺の言葉にじいちゃんは青褪め地図を眺める、城下町の四方、そこで爆発炎上が起これば、見付かった全ての爆薬に延焼する恐れがある、それはイリヤの壊滅を意味する。

「時間は!?」
「打ち上げ時間までもう一時間ありません! 今から知らせに走って間に合うかどうか……」
「間に合わせるのです! できなければこの国は終わります!」
「くっ……やってくれる……街中でアレは使いたくなかったんだが、もうこうなったら背に腹は変えられんな……飛翼の準備だ! 非常用に用意してるのが幾つかあるはずだろう、出して来い!」

 飛翼? なんだろう? 聞いた事ないけど……

「陛下、街中でアレを使うのは……」
「だったらこのまま指咥えて見てろって言うのか!? これは完全に宣戦布告だ、城から城下町が燃えていくのを見てろって挑発してんだよ! 王城襲撃、そこで俺が死んでいれば花火は上がらない、花火が上がるという事は国王暗殺の失敗を意味している、だが奴等はそれも織り込み済で計画立ててやがんだよ、お前は殺せなかったとしてもこの国はもう終いだってそう言いたいのさ、くそっ! そんなシナリオに乗ってやる筋合いはねぇんだよ!」
「陛下! 緊急用の飛翼、3台しかありません、ここから飛んで3ヵ所、あと1ヵ所……」

 四方にある丘、飛翼というのがどういう物なのか分からないけれど、それがあれば連絡には間に合うらしい。でも1台足りない。

「……俺、行ってくる!」
「え?」
「ここ、じいちゃん家の裏手の丘の場所なら分かるから! ウィルが通った裏道も今なら分かる、だから行ってくる!」

 事件からこっち街の地図をずっと眺めていた、自分がここイリヤに辿り着いてから歩き回った道、ウィルに連れ回され通った道筋、すべて頭の中に残ってる。

「できますか?!」
「できる、できないんじゃない、やるんだろ!」
「その通りです! 行ってきなさい、必ず花火を阻止するのですよ!」
「分かった!」

 俺は踵を返して駆け出した。時は一刻を争う、立ち止まってなどいられない、やれる事は全てやらなければこの世界は簡単に終わってしまうのだと知ってしまった。
 城を飛び出し、人通りの少ない裏道を駆け抜ける。子供にしか通れないような細い裏路地を抜けて一直線に丘を目指す。
 時間は? まだ間に合う? 俺はちゃんと走れてる? 間に合え、間に合え! 間に合え!!

 丘のふもとから一気に丘を駆け上がった。もう息が切れて仕方がない。
 置いて行かれた時もそうだった、自分はまだまだ全然足りない、だけど、諦めない、諦めたら終わりだから!

 人の気配がする、何人もの人の気配。

「花火! 中止!!」

 俺は力の限りにその人影に叫び上げた。

「中止……? 坊主、どういう事だ?」
「っはぁ、王様の、命令……」
「国王陛下の? そんな話聞いていないぞ? 坊主、嘘はよくない」
「嘘じゃ、ない。はぁ、どこからも、花火は、上がらない……上げちゃ、駄目……」

 俄かに顔を見合わせ職人のような男達は困惑したような表情を見せる。

「そんな急に中止と言われてもな。しかも伝令はお前1人か? 何か正式な通達は持っているのか?」

 正式な通達? そんな物、準備してる時間なんてなかった。自分は子供で、男達が疑ってかかるのも当然だけれど、だけど、駄目な物は駄目なんだ。

「そんな子供の言う事なんて真に受けるな、時間はきっちり決まっているんだ、四方からの花火が揃わなければ格好が付かない。うちだけ上げ損ねたなんて事になったら顰蹙ものだぞ」

 職人の1人が怒ったようにそう言った。

「どこの花火も上がらない! 今、全部に伝達回ってる!」
「坊主、それは本当か?」
「本当だよ、時間になれば分かる」
「だったらやっぱり中止なのか、せっかく今年はいつもと違う趣向を凝らしたのに……」

 心底残念そうな男達には申し訳ないのだけど、安全が確認できるまではその花火を点火させるわけにはいかないのだ。

「ふん、子供の言う事なんて真に受ける事なんてない。そもそも国王がそんな事を言う訳がない……時間がないんだ、さっさと準備を進めろ」
「……え? 駄目です! 花火は中止……」
「お前のその赤髪、メリア人だろ? ファルスの威信を落とす目的でそんな嘘を吐いてるんじゃないのか?」
「違う!」
「メリア人は嘘吐きだからな、信用ならない」
「違う! それに俺はメリア人じゃない!」

 どうにもその男は嫌な目で俺を見る。そして男の言葉に他の男達も俄かに不審な表情をこちらに向けるのだ。

「嘘じゃない! 本当に花火は上がらない! 上げちゃ駄目なんだ!」
「だったら、その理由を教えてもらおうか?」
「理由……」

 言ってしまってもいいのだろうか? 言って信じてもらえるのだろうか?

「言えないなら、やっぱり嘘なんだろう」
「違います! 花火の中に爆薬が紛れ込んでいます! 爆発したら、イリヤが大変な事になる!」

 途端に、周りから笑いが起こった。

「坊主、それは無いわ、それは無い。花火は俺達が厳重に管理をしていた、そんな物が紛れ込む隙は1ミリもねぇよ」
「でも……!」
「やっぱり嘘だったじゃねぇか、さぁ、準備準備」
「駄目です! 駄目なんです! 止めてください! これは本当に国王命令で……」

 俺じゃあ駄目なのか? 赤髪だから駄目なのか? 俺は嘘なんか吐いていない、吐いてないのに!

「さぁ、時間だ……」

 俺は男が掲げる種火に飛びつく、それを点けたら街が……

「こら、坊主! いい加減に……!」

 種火を奪い取ろうとする俺に男達は険しい顔で腕を伸ばしてくる。もう駄目なのか?
 やっぱり俺じゃ駄目なのか!

「花火は中止です!」

 そこに響いた凛とした声。

「え……? 坊?」
「親方、お久しぶりです。花火は中止だと伝令が回ったはずですが……?」
「あ……あぁ、確かに坊主はそう言ったが……」
「俺は、嘘じゃないって、言ったぁ!」

 現われたユリウスの姿にほっとしたのと悔しいのと色々な感情がごちゃまぜで胸の奥がぎゅっと痛む。
 目頭が熱い、こんな事くらいで泣くなんてと心の中で思っても、もう感情は抑えきれない。

「ノエル君、ご苦労様。よく頑張ったね」

 ぽんと頭を手で撫でるようにそう言われて、俺は種火を抱えて蹲った。
 その優しい掌に、我慢しても零れる涙が止まらなくて泣けて泣けて仕方がない。
 嗚咽を零して泣き出した俺の肩を抱くようにしてユリウスはただ黙って俺の背中を撫でてくれる。

「坊、どういう事だい?」
「この子の言った通りですよ。この花火は仕掛けられた物です、そこにある花火の一部に爆薬が仕込まれています、それが爆発すればここにある花火すべてが爆発する。現在イリヤの街中にも幾らかの爆薬が保管されていましてね、それに引火すればイリヤは壊滅です」

 男達の顔色が一気に青褪めた。

「そんな話、聞いてない……」

 男の1人がそうぼそりと呟いた。先程まで俺を散々に責め立てた男だった。

「聞いてないとはどういう事ですか?」

 ユリウスは無表情に彼を見やりそう問いかける。

「俺は言われたんだ、少しだけ国王を懲らしめる計画に乗らないか? と、この花火が祭りの一番の見せ場だ、その花火を少しだけしょぼい物に変えて打ち上げる、それだけの……」
「そうやって悪事の片棒を担がされたのですね、どのみちそのすり替えられた花火が爆発すればあなたの命も無かったでしょうから、なんの証拠も残らなかったでしょうしね」

 淡々とそう言い切ったユリウスの言葉に男は更に顔を青褪めさせた。

「詳しい話お聞かせ願いたいのですけど、よろしいですか?」

 ユリウスの言葉に男は無言で頷く。
 駆けつけたのはユリウスだけではなかったようで、彼の仲間もだんだんにバラバラと丘の上へと上がってきて、その職人の男を連れて行った。

「ノエル君、大丈夫ですか?」
「うぅう……怖かったぁぁぁ……」

 へたり込んだまま立ち上がる事もできずに、嗚咽を零し続ける俺に優しく声をかけてくれるユリウス。
 ここイリヤでは自分の赤髪は本当に信用がなくて、そのせいで街が火の海になったらと思うと本当に本当に怖くて仕方がなかったのだ。

「種火、そんな風に握りこんでいたら火傷しますよ」
「え? あ……熱っ!」
「あぁほら、言わんこっちゃない。見せてみて、あぁ、これは酷い」

 俺の掌は種火を無造作に握り込んでいたせいで完全に火ぶくれになっている。

「でも、本当によく頑張りましたね。ノエル君は凄い」

 甘やかすようにそう言われて、また目頭が熱くなる。
 しばらくすると、城の裏手から花火が上がった。その花火はとても綺麗で、これで全て終わったのだとようやく安堵の息が漏れた。





 城に戻り、じいちゃんの顔を見て安堵したものか、俺はその日から熱を出してぶっ倒れた。
 両手の火傷も軽いものではなく、両手を包帯でぐるぐる巻きにされた俺はそれからしばらく生活の全てがままならない状態になっていた。

「はい、あ~んなのですよ」
「え、や……自分で食べるから……」
「そんな手でどうやって食べるのですか、ヒナが面倒見るので、ど~んとお任せなのです」

 ヒナノの父親ナダール騎士団長は数日休養を取っただけで、すぐに仕事に復帰した。
 そこまで傷が酷くなかったと思っていいのか、無理をしていると考えた方がいいのかよく分からないのだが、それでもヒナノは安堵したのだろう、父親の復帰後はなんだかんだと俺の面倒をみてくれるようになった。

「遠慮しなくていいですよ、ヒナはやりたくてやっているのですから」
「そうなのですよ。そしてユリ君は遠慮してくれてもいいのですよ?」
「なんで私が遠慮しないといけないのですか? 私だってノエル君の事は心配だし、ヒナ同様お世話したいと思っていますよ。譲ってあげてるだけ妹思いだと思いますけど?」

 ヒナノとユリウスの攻防戦は相変わらず続いていて、俺はその兄妹のやりとりを眺めて笑ってしまう。本当に仲良いよね。自分は兄弟がいないからちょっと羨ましいよ。
 事件はまだ現在色々調査中で終わったと言ってしまっていいのかどうか分からないのだけど、イリヤの町は祭りも終わり日常を取り戻している。
 騎士団員の人達は祭りが終わると部署変えやら引継ぎやらで大変らしいんだけど、ユリウスは出世も降格もしなかったので特に何もする事がないと、のほほんとしている。
 花火の一件や誘拐事件に関わっていた騎士団員達が軒並み第4騎士団だったので、一時第4騎士団長スコット・ミラーさんが色々と矢面に立たされていたのだけど、どうやら一連の事件に彼は何も関わっておらず、それは第4騎士団の末端であの変な宗教団体のような人達が勢力を伸ばしていただけのようで、スコット団長はそんな隊員の洗い出しと対応に追われていると教えてもらった。

「そういえば、ユリ兄はなんで花火職人のおじさんと知り合いだったんですか?」
「ん? 昔から自分もそうだけど、母がああいう職人仕事が好きでね、あちこち見学に連れて行ってもらった事があるんだよ。物を作る人達っていうのはパワーがあって、とても好きなんだ。父は母や私達子供に甘いので、見たいといえば何でも見せてくれたからね、職権乱用って言われると困るんだけど、興味のある事はなんでも知る事が大事だって、ね。だから、私は意外とこの街では顔が売れているんだよ」

 そうなんだ、意外。でも、彼はやはりどこに行っても「坊、坊」と色々な人に声をかけられる、きっとそれはそうやってたくさんの人脈を作ってきた結果だったのだろう。

「それよりもヒナは気になっているのですが、ノエル君はルーンに戻るのですか?」
「じいちゃん次第ですけど、今週末くらいってじいちゃん言ってました」

 祖父コリーはこの一連の事件の真相を追ってはいたが、結局ランティスの商人には逃げられ、宗教団体のトップも分からない。その宗教団体の勧誘をして回っていたのがあのジミー・コーエンだったようなのだが、彼は何も口を割る事もなく黙秘を続けている。
 クロウ・ロイヤーは本当にランティスの商人にいいように使われていただけだったようで、口ばかりは饒舌に色々な事を語るらしいのだが、どの話も夢物語のような話しで、まったくお話にならないとじいちゃんは嘆いていた。
 しかし、一連の事件は一応の収束をみせているので、騎士団員でもましてや国の要人でもない自分がいつまでも国王の周りをうろついているのもどうか……と、祖父は帰郷を決めたのだ。

「ノエル君はやはり帰ってしまうのですね……」
「家出だしね。2人は? ザガに戻るんですか?」
「いえ、それなんですけど、しばらくここイリヤに滞在が決まりました。国王が移民の受け入れの制限も決めたし、父さんの怪我がよくなるまではゆっくりしろという事みたいですね」
「そうなんですか……」

 あんな事件があっても日々は淡々と過ぎていく、それはなんだかとても不思議な感覚だ。

「あれ、今日もまた勢揃いだねぇ」

 軽快な部屋のノックと共に現われたのはカイトの父親カイル先生だ。彼は王家の専属医も務めているらしく、こうして俺の怪我の具合も診に来てくれる。
 けれど、ユリウスとヒナノの表情は彼の顔を見るとやはり少しばかり不審顔で、本当に信用ないんだなと思う。王家の専属医がそんなに信用なくていいのかな?
 カイル先生の塗ってくれる火傷の薬はとてもよく効いているのだけど、それでもやっぱり駄目なんだね。

「これ、新しい薬。包帯を替える時は必ずちゃんと塗るんだよ」

 手渡された軟膏は今まで貰っていた物と同じに見えるけど、どこか違うのかな? よく分からないまま俺は「ありがとうございます」とそれを受け取った。
 そこにまたこんこんと部屋のノック。誰だろう? 今日は千客万来だ。
 「どうぞ」の声をかける間もなく部屋の扉が開く。

「ノエル!」
「え……母さん? え? え? なんで?」

 現われたのは俺の母親メリッサ・カーティスで、うろたえている俺を尻目につかつかと目の前まで寄って来た母は「この馬鹿!」と涙目で俺の頬に平手を打った。

「どれだけ心配したと思ってるの! 家出なんて、私がどれだけ……」

 母はぼろぼろと泣き崩れながら俺の身体を抱き締めてくれて、ものすごく心配かけたんだな……と俺も少しだけ泣いてしまいそうだった。

「ごめん、母さん。ごめんなさい」
「もう、なんなのこの怪我?! 何があったの!? しかもなんであんたお城なんかにいるの?! 探すのすごく大変だったのよっ!」
「あぁ、えっと……話すと長くなるんだけど……」
「時間はあるんだ、ゆっくり話せ」

 声に顔を上げると、何故かそこにはスタール団長が立っていて、驚いた。

「スタール団長?」
「お前の母ちゃんが血相変えてうちに飛び込んできたから連れてきた。お前、家出して来てたんだってな、母ちゃんに心配なんてさせるもんじゃないぞ」

 なんで母さんは血相変えてスタール団長の所に行ったのかな? やっぱり俺の父親だから? それにしてもスタール団長はそんな感じ全然ないけど……

「感動のご対面……ではないのかな?」
「カイル!? なんでここに?!」

 母がカイル先生の言葉にがばっと顔を上げて叫び声を上げた。

「やっほ~メリッサ、久しぶり」
「ちょっと、カイル! ノエルにあの事、話してないでしょうね!?」
「話してないよぉ、僕はちゃんと約束は守る男だよ?」
「そう、なら良いけど……」

 あからさまに安堵の顔を見せる母、涙は完全に引いている。

「って、待って! 良くないから! あの事って何!? 母さん何を隠してるの!? ってか、それ絶対父親の事だよね!?」
「あんたは知らなくていい話よ」
「なんで!? 子供が自分の親の事知りたいと思うのは当然の権利だろ!」
「今はまだ話せないわ……この話しは帰ってからしましょう」
「どうして!?」
「どうしてもよ」

 母は完全に口を噤む。

「坊主がここまで言ってるんだ、教えてやったらどうだ? そうすれば俺もすっきりするしな……」
「すっきりって何? まさか、覚えて……」

 そこまで言いかけて、母は慌てたように口を押さえた。

「覚えて……ってなんだよ? 俺に心当たりはねぇぞ? っていうか、お前なんでこいつにノエルなんて名前を付けた? 偶然ならいいけども、その名前を聞いてからうちの副団長が俺の事を疑ってきやがる、こっちも困ってんだよ」
「副団長って誰よ!? 私が自分の子にどんな名前を付けようが勝手でしょう!」
「まぁ、そうなんだがな……」

 スタール団長は少しだけ困ったような表情を見せた。

「スタール団長にはノエルって名前の知り合いでもいるんですか?」
「あ? ノエルはうちの母親の名前だ」

 それを聞いた母は「母親!?」と声を上げて、また口を押さえた。

「なんか母さん滅茶苦茶怪しい……やっぱりスタール団長が俺の父さんだったりするんじゃないの?」
「ちょ……なんでそれを……」
「じいちゃんがその可能性は高いって言ってた」
「くっ、あのクソ親父……言わんでもいい事を」

 母が悪態を吐く横で狼狽するのはスタール団長「待て! 俺に心当たりは無いって言っただろう!!」と声を上げる。

「メリッサ、もう観念したら? バレるの時間の問題だと思うけどなぁ」
「カイル! 共犯者がそういう事言うのは卑怯よっ!」

 共犯者? カイル先生が? ってか、何? なんかますます意味が分からない事になってるんだけど……

「母さんどういう事!?」
「おい、お前、俺に黙って何かしたんじゃねぇだろうな!」

 俺が母に詰め寄る傍ら、スタール団長はカイル先生の胸倉を掴む。

「僕は何もしてないよ、僕はメリッサに薬を売っただけ。あの頃まだカイトが生まれたばかりで生活に貧窮しててさ、背に腹は変えられなかったんだよねぇ」

 カイル先生は悪びれる様子もなく笑っている。そして、その言葉に母は「あぁああぁぁ……」と悲鳴にも似た声を上げて掌で顔を覆った。

「母さん?」
「一生言わないつもりだったのに、墓まで持っていこうと思ってたのにぃぃ……」
「おい、どういう事だよ?」

 しばらく眺める沈黙、誰も言葉を発する事ができない。

「ノエルは、あなたの子です……」

 沈黙を破るように母がぽつりとそう言った。

「待て! 俺は記憶にないと何度も……!」
「私が一服盛りました、あなたは完全に酩酊していたので覚えていないのは当然です」

 棒読みで母はそう言い切って、また手で顔を覆った。

「ちょ……マジか……嘘だろ……」
「全部本当」
「うわっ……えぇ……?」
「意識朦朧としてるくせになんかもうノエル、ノエルってずっと呟いてるから、過去の女なのかと思って悔しくて、息子にノエルって名付けたのよ!」
「俺の名前の由来ってそんななの?!」

 悔しくて……って、もう意味が分からないよ……

「産後ハイだったの! しばらくしてから後悔したけど、もう今更変えるなんて言えなかった……」

 まぁ、そりゃそうだよね……
 俺は呆然と母を見て、そして完全に父親だと判明したスタール団長を見上げる。
 スタール団長もやはり同じように呆然とした表情でこちらを見やって、心底困ったという表情をこちらへと向けた。
 そりゃ、身に覚えもないのに突然「息子だ」なんて言われても困るよねぇ……

「うぁ……マジなのか? お前俺の、息子なのか……?」
「なんか、そうみたいですね」

 そうかも、とは言われていたけど本当に父親だと言われると、こちらも何を言っていいか分からない。

「子供なんて一生持てないと思っていたんだがな……そうか、息子か……はは、こりゃおかしい、ははは……」

 スタール団長は何かが壊れたように笑い出した。その反応もどうなの? 俺どういう顔すればいいの?

「話しは聞かせてもらいましたよ」

 そんな混沌とした俺の部屋に現われたのはじいちゃんだ。ってか、じいちゃん現われちゃったらもう面倒くさい事になる予感しかしないんだけど!

「まさかお前がそんな事をしていたとは、全く……お前という娘は……」
「だってしょうがないじゃない! 私が連れてく人、連れてく人全員追い払ったのお父さんでしょう!」
「それはお前に見る目がないからで……」
「だったらお父さんが選んで連れてくれば良かったじゃない! お父さんはあいつも駄目、こいつも駄目の駄目出しばかり、この人なら安心だ……なんて一度だって言った事ないじゃない!」
「む……」
「こっちだって、お父さんの目に適う人間が居ればその人選んだわよ! でもお父さんは一度だって、私に男の人の紹介のひとつもしなかったじゃない! 年齢ばっかりどんどん重ねて、男の人はいいわよ、何歳でも子供はできるもの、だけど女の子供を生める期間っていうのは決まってるのよ! 私は子供が欲しかった、だからこうするしかなかったんじゃない!」

 母はもう完全に開き直った様子で一気に喚き上げる。

「私はどうしても子供が欲しかったのよ! 私の周りは出産ラッシュで皆幸せそうに子供を抱いてるのにまるで私1人だけ取り残されるみたいに独り身で、それがどれだけ惨めだったかお父さんに分かる!? 自分勝手な理由だっていうのは分かるけど、それでも私は子供が欲しかったのよ!」
「それでも他人に迷惑をかけてまでする事ではない」
「そこは反省してるわよ。あの頃自分が少しおかしくなってた自覚はあるもの……気になってた人は私に全然なびいてくれなかったしね」

 母がちらりとスタール団長を見やり彼は「俺か?」と困ったように頭を掻いた。

「一服盛ってこっちから襲ってしまえって囁く悪魔の誘惑に負けたのよ……」
「やだなぁ、まるで僕が悪魔みたいな言い方はさすがに心外だよ」

 でもこの場合の悪魔ってたぶん間違いなく薬を売ったカイル先生だよね。
 まるで他人事みたいに笑ってるけど、そもそも事の元凶この人じゃん!

「話しは分かりました、私にも反省しなければならない点が多々あったようだ」

 じいちゃんは怒るでもなく、やはり少し困ったようにそう言った。

「ですが、それはそれで、スタール、君はこれからどうする? ノエルは君の子供だと判明した訳だけれど、父親としてやっていく気はあるのか、無いのか? ひいてはうちに婿入りする気があるのか、どうか……」

 じいちゃん、あくまで母さんを嫁に出す気ないんだね……それもそれでどうかと思うんだけど。

「悪い、それは無理だ」
「まぁ、でしょうね」

 スタール団長の言葉に答えを知っていたかのように祖父は頷く。

「こんな無理矢理子供を作っておいて結婚を迫るなんて虫が良すぎるのなんて分かっていたわよ、だから何も言わなかったんじゃない」
「まぁ、別に俺はあんたの事嫌いじゃなかったがな。気の強い女は嫌いじゃない、ただ女はどうしても駄目だっただけで……」
「男に鞍替えしたんですか?」
「な……言い方!」

 え? ……えぇ?!

「別に鞍替えした訳じゃない! 俺の事情も全部知った上で、それでも傍に居るって言ったのがたまたま男だっただけだっつうの!」
「やはりそうでしたか……なんとなく察しは付いていましたけどね」
「あ、この野郎、カマかけやがったな!」
「良いんです良いんです、下手にノエルの親権を主張されたらどうしようかとも思っていたのですが、そちらはそちらで平和にやっているのでしたら、どうぞお好きにしてください」
「今更親権なんざ主張するつもりはねぇよ、そもそも子供が居た事すら知ったのはたった今だからな、だが、こいつが俺の息子だって言うなら何か困った事がある時には世話する気概くらいは持っている」
「本当にあなたはそういう所は男前ですよねぇ……これで不能でさえなければ……」

 え? 不能?

「今、それを言うのか! 仕方ないだろう、勃たないもんはどうしようもない!」
「薬盛られてちゃんとできたんじゃないですか」
「そんなの俺だって今始めて知ったって言ってるだろうが!」
「スタールの勃起不全は心因性だからね、薬で無理矢理ならいけるって証明されたよね。なんなら薬いる?」

 カイル先生のその無責任な言葉にスタール団長は「いらねぇ!」と一言斬り捨てた。
 って言うか、何? スタール団長ってもしかして、男のアレが立たない病気? なの? そりゃあ、心当たりが無いって言うわけだよ。

「ちょっと待って……私、そんな話、初耳なんだけど……」
「こんな話、世間話でする話じゃねぇだろう、知ってるのは一部の人間だけだ。その一部の中にそこの男も入ってたって事で、どのみち俺は薬の実験台だったって事だな」

 皆の視線がカイル先生に集まるのだけど、彼はやはりそ知らぬ顔で笑っている。

「やだなぁ、ちょっとした知的好奇心じゃないか。できないって言ってる人間が本当にできないのか確認してみたかっただけだよ。ちゃんとできて良かったね。で、薬いる?」
「だから、いらねぇって言ってるわ!この悪徳薬学者!!」

 「怒らないでよ」と彼は悪びれる様子もなくて、皆が渋い顔をする理由がもうはっきり分かっちゃったよね。この人トラブルメーカー過ぎる……
 でも、この人がいなかったら俺は生まれてなかったと思ったら少しは感謝もしないといけないのかな……? う~ん、でもやっぱり正直微妙。

「ノエル君はお父さんが分かって嬉しいですか?」

 隣でずっと黙って話を聞いていたユリウスが俺に耳打ちする。

「嬉しいって言うか、不思議な感じ。俺にもちゃんと父親は居たんだって分かって、そこは凄く嬉しいかな」
「父親らしい事は何もしていないし、これからできるかも分からねぇがな」

 スタール団長の瞳は穏やかで、なんだか妙に心の中はくすぐったい。

「あの、スタール団長、これからは『お父さん』って呼んでも大丈夫ですか?」
「え? あ……あぁ……まぁ、父親なのは事実らしいからな」

 今まで呼びたくても呼べなかった呼称『お父さん』そう呼んでいいと言ってくれる人がいる事が嬉しくて仕方がない。だって、俺の父さんめっちゃ格好良くない? この国の騎士団長なんだよ? 今まで見てきた彼だって、真っ直ぐ過ぎる所はあるけれど、やっぱり全部格好良かった。

「ん? なんだよ?」

 笑い顔が漏れてしまう俺の顔を見て彼もまた困ったように苦笑して頬を指で掻く。

「俺、15になったら騎士団入るんで、入ったらお父さんの下で働かせてください」
「……え?」

 父さんだけでなく母も祖父までも驚いたような表情をこちらへと向ける。

「何を言っているんだ、ノエル。騎士団員の仕事は大変だぞ」
「そうよノエル、しかもあなたそんな簡単に言うけど、騎士団の仕事は各地を回る場合だってあるのよ、戦う事だってある、あなた1人で、そんなの……」
「でも、じいちゃんだって元騎士団員でしょ? 父さんもそうなんだったら、俺だってできると思うんだよ」
「ノエル、これからファルスは混迷の時期を迎える可能性があります、危険は常に隣り合わせの生活になりますよ」
「うん、それは今回嫌ってほど思い知ったよ。ルーンに籠ってるだけじゃ分からなかった事、知らなかった事たくさんあった。だから俺はもっと外の世界を見てみたい。この赤髪の差別とかも、ただ黙っているのは嫌なんだ、だから俺、世界と戦う騎士団員になる」

 俺がそう言い切ると、祖父は諦めたように溜息を吐いた。

「今まで、田舎で暮らすのならと大して剣技も教えてはきませんでしたが、これは一から剣技も体術も戦闘戦略も叩き込まないといけなくなりましたね……」
「え、ちょっと、お父さん!?」
「あと3年、どこまで教え込めるものか。そして、自分の体力がどこまで持つか、いやはや困った事だ」
「そんな事を言っている割にはじいさん嬉しそうな顔してんな」
「ふふ、ノエルは筋がいいですよ、頭だって悪くない。3年後、貴方だって正念場でしょう? 続けて騎士団長になれるかどうか、それは誰にも分かりません。せいぜい頑張って格好いい父親で在り続けてください。ノエルを失望させる事のないようにね」

 「こりゃ困ったな……」と父さんは苦笑して頭を掻いた。

「ノエル君も騎士団員ですか、ふふ、そうしたら私と同僚ですね」

 ユリウスは嬉しそうに笑う。

「同僚というか上司ですよね?」
「ファルス騎士団員の上下関係なんてそんなに重要な物ではありませんよ、その立場はあくまで一過性で上に行くのか下になるのかその時の運次第ですからね」
「おいおい坊、そんな風に言うもんじゃない。皆上に立つ為に日々努力を重ねてるんだ、全てが運任せって訳じゃない」
「あはは、すみません」

 にこにこと笑顔を見せるユリウスに「お前は本当父親に瓜二つだな、呑気が過ぎる……」と父さんは溜息を吐いた。





 こうして俺の父親探しも終焉を迎え、俺とじいちゃん、そして母さんはルーンへと戻る事になった。
 やはり日々は淡々と過ぎていき、俺がここイリヤの地をもう一度踏む事になるのは3年後、その時ファルス王国とここカサバラ大陸がどうやって変わっていたかはまた別の話。
 3年という月日は長いようで短くて、祖父の言った激動の時代という言葉はあながち間違いではなかったのだけど、俺はその歴史の傍観者としてここからの3年間を過す事になる。

 次の物語の語り手は「ツキノ」と「カイト」の2人に譲って、物語は大きく動き出す。
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