運命に花束を

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運命の子供たち

事件の闇はより深く ②

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 イグサルさんが言った通り、その後の展開はまさに修羅場で、俺はもう鈴のリボンの色なんてお構いなしで襲われまくった。
 ある程度は俺の体格と着せ掛けられた制服のおかげで誤魔化せていたのだけど、ゴールに近付けば近付くほどそれは困難になり、あちらこちらから手が伸びてくる。その手を掻い潜るのにも限界があって、そのうち俺はユリウスさんに完全に抱え上げられてしまっていた。彼は片手で剣を振り回す。
 剣は抜いてはいけないルールらしいけれど、それでも殴られれば痛いよね。
 って言うか、俺は泣きはしないけど、こんなの小さい子なら絶対泣いてる、実際やはり幼子が俺と同じように抱えられて揉みくちゃにされていて、大丈夫かな? と不安になった。
 あぁ、でもある程度周りに味方が固まっていれば揉みくちゃでも襲われる事はないのか、俺は守ってくれるのがユリウスさんしかいないからこんな状況なんだな。
 それにしてもやっぱりこれは少し荒っぽい。子供を巻き込むのどうかと思うよ?!

「本当はあまりやりたくないのですがねぇ……」

 ユリウスさんはそう呟いて、俺を更にしっかり抱きかかえると静かにひとつ深呼吸をする。
 なんだろう、それと同時に周りの温度が一気に下がったみたいに何かひんやりとした空気に包まれた、しかも少し不思議な果実の匂いがする。

 これ……何?

 周りにひしめいた人達が、何かに気圧されるように道を開けた。
 驚いてユリウスさんを見やれば、真剣な表情に俺まで気圧された。何だろう、なんだか分からないけどすごく、怖い……

「怪我をしたくない方は下がってください、手加減できません」

 その静かな声に更に周りはじりじりと下がっていく、なんでだろう? 彼は何もしていない、なのに恐怖が腹の底から湧いてくるように怖くて怖くて仕方がない。
 泣くわけないと思っていた、けれど怖くて泣いてしまいそうだ。
 思わず彼の首にしがみつくと、彼ははっとしたような顔をして「ごめん、少しだけ我慢して」とそう呟いた。
 これは一体何なんだろう? 祖父が彼等親子は何か不思議な力を持っていると言っていた、これはその一端なのだろうか?
 まるで人波が割れるように道ができた、それに戸惑っている人もいる、普通に襲い掛かってくる人もいる、けれどその数は先程までの数とは比べ物にならないくらい少なくなっていて、ユリウスはそれを簡単に退けていった。
 城門をくぐり、俺達はたぶんゴールを果たしたのだろう、途端に気が弛むように周りの温度が元に戻った。抱き上げられていたのをおろされてユリウスに頬を撫でられた。

「怖かった? ごめんね」
「今の、何ですか……?」
「う~ん、説明難しいんだけど、簡単に言えば『威圧』かな。近寄るな! って思い切り気合入れるとできるんだけど、ひとつ難点があって、これすごくお腹が空くんだよね……」

 そう言って彼は腹を撫でて、へにゃりと笑う。先程まで感じていた恐怖心など微塵も感じさせない呑気な笑みだった。
 そういえがヒナノさんも暴漢に襲われた時に何か妙な技を使っていたようだった、あの時は凄く甘い薫りがしたのを思い出す。

「もしかして、それフェロモンってやつなんですか……?」

 自分にははっきり分かるわけではないけれど、バース性は鼻が利くと言っていたのはユリウスだ。先程も、ヒナノの時にも匂いがした、という事はもしかしてあれがその匂いという事なのではないのだろうか? 匂いで何かを感じ取った人達が恐怖を感じて引いた……?

「うん、まぁ、そうだね。うちの家族は普通の人達より少しだけフェロモン量が多いらしくてね、使い方によってはこんな事もできるんだよ。ノエル君はβだけど、やっぱり感度は高いんだね。ごめんね、怖い思いさせて」
「大丈夫です」

 本当に申し訳なさそうに謝るユリウスにはもう何の恐怖心も湧きはしない。なんだかよく分からないけど、バース性の人って凄いんだな。

「おい、お前達、ゴールしたならさっさと行け。後がつかえる」

 誘導の人に言われて、俺達はゆっくり歩き出した。周りをよく見れば他にもゴールを済ませた人達が何人か見える。
 俺とユリウスさんはどうやら別々に受付されるみたいで、彼は「また後でね……」と行ってしまった。
 受付のような場所で名前と年齢を聞かれて、年齢で驚かれる所まではお約束。

「本当に12歳? 何か証明できる物、持ってない?」

 そんな事突然言われても何も持っていない。そういえば『子供』で加点だっけ? 嘘ついてると思われてる? ユリウスさんが減点されると困るんだけど……
 おろおろと戸惑っていると「どうした?」と声がかかった。

「アイン団長、いやぁ、この子がですね自分は12歳だって言い張るんですけど、どうしてもそんな年齢に見えなくて、証明書も無いですし、加点対象年齢は15歳以下なんで、どうしようかと……」
「ふむ……ん?」

 男はこちらを見やって首を傾げた。というか、この人ウィルのお父さんだ。

「君は確か……」
「コリー・カーティスの孫です」

 「そうだった、そうだった」と、頷いてアイン団長は笑みを見せた。

「大丈夫だ、間違いない。この子はうちの息子の友達だ」

 受付係はアインの太鼓判に戸惑いながらも「まぁ、騎士団長の言う事なら……」と俺の年齢を認めてくれた。良かった。

「ところでうちのウィルがまだゴールしてこないんだが、その辺で見かけなかったか?」
「え? あぁ……」

 そういえばウィルも俺と同じ飾り紐を腕に巻いていた、色は確か緑色。当然ながらウィルも要人役でこれに参加しているという事だ。

「えっと、近くでは見かけてないです」
「ふむ、そうか……ウィルが選んだ騎士がこんなに遅いって事もないと思うんだがなぁ……」

 瞬間過ぎったのが先程の浮浪者の言い放った言葉。

『今日はもう1人のガキはいないんだな、いたら絞め殺してやる所だったのに』

 その言葉を聞いてからまだそんなに時間は経っていない、俺は少しだけ不安になった。

「あの、実は昨日俺を襲って第五騎士団の騎士団長が捕まえたはずの人が、街にいたんです。あの人、最終的にウィルに押さえ込まれて捕まってるから、ウィルの事よく思ってないみたいで、もし鉢合わせしたら危ないかも……」
「昨日? あの人攫いとは関係なくか?」
「聞いてませんか?」

 どうやらウィルは父親にその一連の話をしていない様子で(第五騎士団長に怒られた案件だし、更にお父さんにも怒られると思ったのかな?)俺はその話を騎士団長に語って聞かせた。

「ううん、ウィルの事だ、鉢合わせてもそう簡単にやられはしないだろうが、少しばかり心配だな。しかもなんでそんな奴が野放しに?」
「それが分からなくて……今ユリウスさんの仲間の人が追いかけてます」

 「そうか」と頷いてアイン騎士団長は腕を組み、少し難しい顔を見せた。

「そいつは第五騎士団に捕まっていたんだな?」
「はい、でも、なんか第一騎士団の人が連れて行ったって言うので、祖父と話を聞きに行ったんです。その途中で自分は抜け出してこっちに来てしまったので、どうしてそうなってるのかまでは俺にも分からないです」
「そうか……分かった、ありがとう少年。自分はスタール団長にも詳しい話を聞いてくる」

 そう言ってアイン団長は踵を返して行ってしまった。
 ウィル、大丈夫かな? お祭り、手間取ってるだけならいいんだけど……
 受付作業も一通り終えて、俺は辺りを見回した。ユリウスさん、どこにいるのかな?
 ふと、誰かと目が合って、そちらをまじまじ見やると、その人もこちらを見やってとことこと駆けて来た。

「やっぱりノエル君ですぅ」
「ヒナノさん?! ヒナノさんもお祭り出てたんですか?」
「出ていたというか、強制参加というか、出ざるをえなかったというか……」

 ヒナノさんは少し遠い目をしてそう呟いた。なんだか疲れた顔をしてるけど、どうしたの?

「昨日はノエル君も戻って来なかったので心配していたのですよ」
「あぁ、昨日は色々あって、じいちゃんの昔住んでた家にそのまま泊まったから」
「ユリ君も戻って来なかったですし……」
「そういえばユリウスさんも一緒にお泊りで……」
「母も戻っては来ず……」
「え……? そうなの?」
「ヒナは完全に忘れられてしまっていたのです……」

 どんよりとした表情でヒナノは言った。

「それでも第一騎士団のお兄さん達はとても優しかったです、簡易宿泊施設も使わせていただいて一晩過す事はできたのですが、さすがにそれ以上ご迷惑をかける訳にもいかず、意を決してヒナはお城に行こうと思ったのです。けれど、その途中でこの飾り紐を通りがかりの人に渡されたです」

 ヒナノの手首には鈴に青いリボンの付いた飾り紐が結ばれていた。

「よく分からなかったのですが、これを付けて歩いていたら、騎士団員のお兄さんに声をかけられ、お話を聞いたらお城に連れて行ってくれるというので、便乗したのはいいのですが、何やら荒くれ者達に襲われたり、揉みくちゃにされたりと大変な思いをしてここへ辿り着いたのです。そして今ここでノエル君とお会いしたという訳なのですよ」

 あぁ……なんか、すごく大変だったんだね。お疲れ様。

「ノエル君も騎士団員の方に連れられて来たですか?」
「うん、ユリウスさんがちょうど俺と同じ赤色で、一緒に来たからそのうち来ると思うよ」
「ユリ君がいるですか、良かったです。ここまで来たは良いのですが、どうやってお城の中に入れてもらえばいいか、と考えていた所ですよ」
「ん? なんでお城の中?」
「私達の宿泊場所がここだからです」
「……え?」

 ここ? お城の中が宿泊場所?
 俺は意味が分からず首を傾げると、ヒナノさんはにこにこと事の次第を説明してくれた。

「王様と母が仲良しなのです、ルイちゃん達と王子様も幼馴染なので、このお祭りの間お城に宿泊する事になっていたのですが、さすがに私1人では番兵さんが通してくれないですよ」

 そういえばユリウスさんは幼馴染の家に泊まると言っていた、部屋だけは余っている家だからと言っていたけど、お城……確かに部屋はたくさんあるだろうけども! 
 そんな気軽に俺まで連れて行こうとしていたユリウスさんの感覚もちょっとどうかと思うんだけど!? これ家なの? いや、人が住んでるんだから家かもしれないけどさ……
 自分達が今いるのは門を入ってすぐの前庭で、その背後にどどんとそびえる城を見上げて、やはり一般的な感覚でいう所の「家」ではない……とそう思った。
 確かに中に入れてもらえないというヒナノの言は正しい。
 っていうか、王子様と幼馴染?! 一体どういう家庭環境なのかさっぱり分からないよ!

「ノエル君? どうかしました?」
「なんだか、色々身分差とか考えちゃって……」
「身分差? 国王陛下は気さくなおじさまですよ?」

 そんな近所のおじさんを表現するみたいな気軽さで言われても困るんだけど……
 というか、もしかしたらユリウスさんもヒナノさんも本当は上流階級の人で、俺がこんな風に気軽に話せる立場の人じゃないんじゃないの……?
 一般庶民の俺には色々分からない事だらけだよ!

「あぁ! いたっ! ヒナ!!」

 ユリウスさんの声が聞こえて、そちらの方を向くとユリウスさんが一直線にこちらに駆けてくる。そして、その背後から青褪めた顔で駆けてくるのは赤毛の麗人、ユリウスさんとヒナノさんのお母さんだ。

「ユリ君! ママ!」

 ぱあっとヒナノが笑みを零した。
 いやぁ、全開で笑うと本当に周りに華が飛んでるんじゃないかってくらい可愛いな。こんなに可愛いのに恋愛対象外とか言われるの本当に酷いよね。

「良かった、ヒナ!」

 駆け寄って来たお母さんはヒナを抱き締める。

「ごめん、ヒナ! 母さん、てっきりお前はユリと一緒にいるもんだと思ってて、大丈夫?! 怖い思いしなかった?! 怪我は?!」

 ヒナノの体のすみずみまで点検して、お母さんは涙目だ。

「大丈夫です、怖い思いもしてないですよ」
「本当に良かった。こっちはこっちでヒナは母さんが連れ帰るもんだと思い込んでたから、迎えにも行かなくて、ごめん。心細かったね」

 ユリウスも安堵の笑みで彼女の頭を撫でた。

「ヒナは誰にも必要とされない子なのかとほんのり切なくなっていたのですが、そうではなかったようでほっとしたですよ。けれどホウレンソウはちゃんとしておいて欲しかったです……」
「ほうれん草?」

 意味が分からなくて首を傾げると、ヒナノが笑って説明してくれる。

「ホウレンソウ、報告・連絡・相談ですよ。ヒナには報告も連絡も相談もなかったですよ……ママとユリ君の間でも滞っているです、これはいけません。これではどう行動していいか分からないです。意思の疎通と連絡確認不足は部隊として致命的です」
「うぅ、ホントごめん……」

 反省しきりのユリウスさんに説教をする妹の図、なんだか本当にしっかり者なんだな。どっちが年上なんだか分からないよ。

「でも今回の一連の出来事はイレギュラーだったので仕方がないです、そもそもヒナがママとはぐれさえしなければこんな事にはならなかったのです、そこはヒナも反省です。とりあえずこうして無事に合流できて良かったですよ」

 彼女は安堵したようににっこり笑い、ようやくユリウスさんとお母さんにも笑みが戻る。それにしても、なんだかホント美形一家だな……俺、場違い感半端ないんだけど……
 そんな事を思っていると「もう、ママ! 1人で突っ走って行かないでよ!」とそこに更にもう1人赤毛の美形が割り込んできたのだが、俺はやはりその人に見覚えがある。それはデルクマン家の長女、ルイさんだ。しかも周りに子供達たくさん引き連れて、何人いるの? ちょっと多すぎない? もしかして、これで兄弟勢揃い?

「ママが突っ走ってったら皆不安になるでしょ!」
「あはは、ごめん。でもヒナがすぐに見付かって良かった。それにしてもルイもそうしてると、立派に母親みたいだな。そろそろいい相手とかいないのか?」

 幼子を抱いたルイさんを見やって、お母さんは笑う。

「生憎まだママみたいな運命の相手との劇的な出会いはしていないわね」
「そろそろ孫の顔、期待してるんだけど?」
「あんまり期待しないで……」

 ルイさんは溜息を吐くようにそう言い、ふとこちらを見やって首を傾げた。

「どっかで見た顔……えっと……」
「あ、ノエルです。ノエル・カーティス。コリー・カーティスの孫です」
「そうそうあの時の……そういえば、ウィルに弟候補? って言われたんだけど、私、聞いてないわよ? この子も弟になるの?」

 ルイさんは母親を見やって首を傾げる。

「でも、メリッサさんの子よね? なんで?」
「そこには、いろいろと誤解があったようでな……」

 母親であるグノーさんは困ったように苦笑する。それはそうだよな、自分が不倫して生まれた子だと思われてたんだから、そんな顔にもなるというものだ。
 でも、俺、気付いちゃったんだけど、俺の中にこんな美形遺伝子が欠片でも入ってるなんてありえない。しかも母も祖父も俺を見て『父親に似てきた』と口を揃えている訳で、それがこの人とか、完全に論外だ。
 この人に似てるんだったら俺はもっと線の細い美形に育っているはず。

「誤解って?」
「この子この赤髪だろ? メリッサさん結婚しないでこの子産んだらしくてさ、父親分からないんだって、それで……」
「その子、メリッサさんの子なんですか?」

 ふいにかけられた声に、皆がそちらを見やる。俺もつられてそちらを見やると、逆光でよく見えないのだが、なんだかすごく大きな人影に思わず後ずさった。

「お前、なんで……? 来るの、明日のはずだろ?」

 戸惑ったようにグノーさんがその人を見上げると、彼は堂々とした風体でこちらへと歩いて来た。

「メリッサさんの子にしてはずいぶん大きいようですし、それにその赤髪……」

 近付くにつれて、更にその大きさに気圧される。ウィルのお父さんやスタール第五騎士団長と同じくらい? もっと大きい?
 この人もしかして……と、そう思ったら、ひょいと顔を覗き込まれた。
 印象的な碧い瞳、表情はユリウスさんによく似た柔和な笑みだった。

「こんにちは、お名前は?」
「あ……ノエルです。ノエル・カーティス」

 この自己紹介も何回目だろう、その名を告げるたびに驚かれたりしてきたけれど、彼は驚いた表情も見せずに「私はナダール・デルクマンと申します」と大きな手を差し出してくれた。
 間違いない、この人、第一騎士団長でユリウスさんのお父さんだ。

「うちの子達に混じって違和感がないですね、年齢は?」
「えっと、12歳です……」
「おや、ヒナと同い年……」

 彼はくるりと奥さんを見やると見られた奥さんの方はそれが何を意味しているのか分かったのだろう「違うから!」とそう声を上げた。

「まだ何も言ってませんよ?」
「言われなくても分かるっての! でも、俺じゃないから!! そもそもこの子ができたと思われる時分、俺の腹の中にはヒナがいたんだぞ、絶対ありえないからな!!」
「本当に?」
「信じないのか?!」
「あなたの事は信じていますよ、けれどそうするとこの赤髪がねぇ……」
「そうだけど、でもあの頃いただろう、もう一人メリア出身の男がよ!」
「ふむ、でもあの人……」
「そうなんだけどさ! ちょっと俄かに信じられないけど、それ以外考えられないだろ! コリーさんもそう考えてるっぽかったし、たぶん間違いない」

 どうやら、騎士団長も俺の父親に心当たりがあるようで「そんな話聞いていないのですが……」と、微かに首を傾げつつひとつ頷いた。

「だとしたら、やはりあなたはスタールの……?」

 ……え?

「あ! 馬鹿! まだこの子知らないんだよ、本人にも確認取ってないんだから迂闊な事言うな!」
「え……そうなのですか?」
「あの……スタールって、第五騎士団の? スタール団長? ですか?」
「えぇ、まぁ……他にあの当時メリアに関係のある人はいなかったと思いますしね。ただ、彼だとすると腑に落ちない事も幾つか有りはするのですけど……」

 そう言ってナダール騎士団長はまた首を傾げた。
 スタール騎士団長が俺の父親? 髪の毛赤くなかったのに? ……あれ? あの人メリアの人なの? しかも、カイル先生が俺の父親を知ってるって言っていた時に「知ってるなら教えてやれ」って言ってたのもあの人なのに……?
 あ……でもあの時カイル先生は「君のお父さんは思っているより近くにいる」ってそう言ったんだった、もしかしてそれはあの時スタール団長がそこに居たから……? そんな事ってある?
 俺はもう訳が分からずぐるぐるしてしまう。

「まぁ、その話しは今は横に置いておいて、ナダール、来るの早かったじゃないか。仕事は片付いたのか?」
「そう、それです。片付いた訳ではないのです、少しばかり大変な情報を掴んでしまい、その為に私はここへやって来たのですよ」
「何? 何かあった?」
「闇商人の取り引きを調べていて、分かった事がひとつ。つい最近ここイリヤに大量の爆薬が持ち込まれている事が判明しました。その量はこの街を丸ごと燃やし尽くせる程の量です。それがどこに運び込まれたのかはまだ調査中ですが、もしその爆薬を使って何か事を起そうとしている人物がいるとしたら、狙うのはこの祭りの期間が有力だと思われます。その爆薬を持ち込んだ人物はもしかするとこの国の転覆を企んでいる可能性があるのです」

 騎士団長の言葉にその場に居た人間全員の顔が青褪めた。
 国家転覆? 大量の爆薬? その話しは現実なの? なんだかもう俺の頭の中は完全に容量を超えて、俺は呆然と騎士団長を見上げる事しかできなかった……

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