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君と僕の物語
メリア王の独白③
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彼の名を聞きはしたが、どうでもいいので聞き流した。
はて、そういえば彼の名はなんと言うのだっただろう?
彼は自分の知る『グノー』と私の語る『グノーシス』は別人だと言い張ったが、私がグノーとグノーシスの共通点を語っていく内に彼は黙り込んだ。
そして観念したように『グノーは生きている』と私に告げた。
やはり死んでなどいなかった! グノーシスは生きている。
生きて私を叱咤激励しているのだ、私はこんな場所で蹲っている場合ではないと気が付いた、偽者のグノーシスももう必要ない、何故なら本物のグノーシスがもうすぐそこにいるのだから!
あぁ、愛しいグノーシス、お前は一体何処にいる?
お前の為なら私はなんでもできる、お前が望むのならなんでも与えよう、この世界を自由に生きたいというのならこの世界を奪い丸ごとお前に与えてやろう。
私にはそれができる力がある。
それこそが私に与えられた使命!
……そう思っていたのに、あのランティスのから来た少年は私の思いをことごとく否定していく。
『あなたはグノーの「運命」ではない』
あぁ、そんな事は知っていたさ。
グノーシスの『運命』は私ではない、でも私の『運命』は後にも先にもグノーシスだけ。
だが、耳障りなもうひとつの言葉『グノーには本当の「運命」の相手ができた』その事実。
グノーシスの運命が自分でない事は認めてもいい、だがグノーシスが自分以外の誰かを愛する事など耐えられない。
例えそれが『運命』の相手だったとしても、私はそれを認められない。
グノーシスは私の! 私だけの物だ!!
あの少年の言っている事は本当に意味が分からない、彼は何故か私を哀れむような瞳で見やる。
それは牢から私を見ていた父親と同じようにだ。
あんな子供に私が哀れまれる筋合いはないというのに、どうにもあの少年の言う言葉はひとつひとつが胸に刺さる。
『哀れな子供』彼は自分自身もそうだと言った。誰にも認めてもらえない居場所の無い『哀れな子供』
だが私は違う、私は王だ、この国メリアでは私がすべてなのだ。なのに彼は私を哀れむような瞳で見上げてくる、それがどうにも理解できない。
彼が何をしたいのか分からない、現在グノーシスの所在の手がかりになる人物は彼しかない、だから私は彼を帰すつもりはないのだが、それでも彼と一緒にいるとどうにも心がざわつく。
どうにも理解できない感情だ、彼は所詮その辺にいる有象無象の手下と変わりはないはずなのに、どうにも顔を合わせるのが怖い……怖い?
そんな馬鹿な事があるか! あんなどこにでも転がっていそうな小僧を怖いだと?
この王たる私があんな小僧一人の言葉に動揺しているなど、あってはならない事だ!
なのに何故だ、私は今日もあの小僧を呼び出す事はできなかった。
執務室から窓の外を見やれば、彼の部屋のテラスがよく見える。
今日もファルスからやって来た姫はその屋根伝いに彼の元を訪れて、彼もまた笑顔でその姫を迎え入れている。
意味が分からない。
2人は人質としてこの城に連れて来られているはずなのに、捕らえられているのはまるでこちらなのではないかと思えるほど彼等は自由奔放だ。
この城は私の城であるのに、私はこの城にどうにも居心地の悪さを感じているというのに、彼等は一体なんなのだ?
納得がいかない。
グノーシスの私室に籠り、彼の作った人形に囲まれているとようやく私は息が吐ける。
ここは私の聖域、誰にも侵すことのできない私の城だ。
あぁ、グノーシスこの部屋にはお前だけが足りない、お前がこの部屋に戻ってきさえすればこの聖域は完成する。
グノーシス、グノーシス、お前は一体何処にいる? 私は息が詰まりそうだ……
『兄さま……』
幼い彼が零れるような笑みをこちらに向ける。
その身体を掻き抱こうとして、その幻はふいと消えてしまう。
『兄さま』
今度はガラスの瞳の彼がなんの感情も乗せない表情で私を見下ろしている。
「グノーシス!」
手を伸ばせばまたその幻は掻き消えた。
「何処だグノーシス! もうかくれんぼはお仕舞いだ、私の元へ帰って来い、グノーシス!」
部屋の隅、呆然と立ち竦む彼がこちらを見やって涙を零していた。
あぁ、それはあの日、グノーシスがこの城を飛び出したあの日の彼だとすぐに分かった。
『兄さま、僕はもう……』
そう呟いて彼は私に背を向けた。
そして私は二度とその姿を見る事はできなくなった。
あの日の彼は、仲睦まじい母とその浮気相手、そしてセカンドを眺めていた自分自身と同じだと思った。
あの日の行動はセカンドに対する復讐だったのか?
いや、そんな事は考えていなかった、ただ少し庭を歩こうと言われその言葉に従っただけの私の行動、そこが彼の部屋から近い事も、その光景を彼が見てしまう可能性がある事も分かっていたが、他意はなかった。なかったはずだ……
私は自分自身が分からない。
何故なら誰も私に自分などという物を求めてはいなかったからだ。
父親にとって私はただの自分のスペア、周りの人間は王である私が必要なだけで私自身を必要としている訳ではない。
私は私である前にメリアのファースト、メリア王家の跡継ぎでしかなかった。
そこに個人の感情など必要ない「私」など必要ない。
『兄さまはきっと格好いい王様になれると思います』
無邪気に笑うセカンド、何も中身のない私にはその言葉はとてもむなしく響いたよ。
私はお前を愛していたが、そうだな……やはり私はお前が嫌いだった。
※ ※ ※
僕はその日少し考え事をしながら歩いていて、広いお城の中、道に迷ってしまっていた。
メリア王からの声がかからなくなって、僕はする事もなく、ただ毎日どうすればあの頑なな国王陛下の心を解きほぐせるかとそんな事ばかり考えていた。
「あれ? ここ何処? なんか見た事ある気もするけど……」
庭の方を向けば広がる庭園、その庭と建物の向きから考えるとそこは自分の自室とは逆方向だった事に気付く。
でもこの景色には見覚えがある。
「あぁ、ここグノーの部屋の近くだ」
ここメリア城に連れて来られた初日に連れて行かれたグノーの部屋。
からくり人形がひしめくその部屋はおもちゃ箱のようでもあり、工房のようでもあった。
あの部屋でグノーは暮らしていたのかと思うと、僕はもう一度その部屋を見てみたいという思いに駆られ記憶の道筋を辿る。
「えっと、たぶんこっち……」
記憶を辿って廊下を歩けば、やはりそこには記憶の通りの扉があって、僕はその扉に手をかけた。
鍵は開いていたが、中は薄暗く目が慣れるまで少し時間がかかった。
「誰だ……」
ふいに暗闇から声がかけられ僕はビクッと身を竦ませる。
「あ……」
そこにいたのはメリアの国王、ぎらぎらと目だけが光を反射してこちらを睨み付けていた。
穏やかにお茶を飲みながらグノーの事を語っていた王様ではない、それは獣のように飢えた瞳をした一人の男だった。
「ここは私以外の者の立ち入りを禁じている、早々に去れ!」
僕は立ち竦んでいた、ここにいてはいけないと心は警鐘を鳴らすのに、身動きが取れなかった。
部屋の至る所から無機質な瞳が2人の動向を伺うようにこちらを見据えている。
「……あ、あなたは……ここで何を?」
「去れと言っているのが聞こえぬか?」
部屋の中、蹲るようにしていたメリアの王様はふらりと立ち上がって、僕を拒絶するようにそう言った。
怖い、こんな薄暗がりの中、瞳だけが妙に光って射竦められたように動けない。
一歩でも動いた瞬間に殺されるのではないかという恐怖が、僕の身体を強張らせた。
部屋の扉は僕のすぐ後ろで、その扉を開けて出て行きさえすればそれでいいと分かっているのに、その睨み据えられた瞳から目が逸らせない。
後ろ手に扉のノブを探す、目を逸らしたらいけない、それは本能に近い恐怖。
「何故お前はここに来た……?」
「み……道に迷って……」
「わざわざこの部屋に入ってくる理由もないであろうになぁ?」
一歩、また一歩とメリア王は近付いてくる。
怖い、怖い、怖い!!
どうしよう? どうすればいい!?
ふいに薫る柑橘系の匂い、ルネーシャはそれを香水だと言ったが、僕にはそれが分からない。
αは怒ればそのフェロモンで他者を威圧をする事がある、それを僕は感じ取る事が上手くできないのだが、それでもそれはそういう事なのではないかと思ってしまうほどに、彼からの匂いは一歩近付くごとに僕の身体を覆っていった。
メリア王と僕との距離はあともう一歩という所まで近づいていて、僕は完全に身動きが取れなくなっていた。
「お前からは、不思議とグノーシスと似たような匂いがする……」
王と扉に挟まれるようにして、上から見下ろされた。
「匂い……?」
「甘い、思考を麻痺させるようなそんな……」
「僕はΩですが、出来損ないなので、そんな匂いはしないかと……」
メリア王は僕の肩口に顔を寄せてくる。
「出来損ない……か」
言って項を撫で上げられ、瞬間鳥肌が立った。
「お前には番相手がいるのだな、あの時のあの男か?」
項の噛み跡を確認したのだろう、メリア王は無表情にそう言った。
いまだその手は僕の項を撫でていて、どうにもぞくぞくとした感覚が僕の身体を痺れさせる。
「やめてください……」
「私はこの部屋でグノーシスを抱いていた」
項を撫でていた手が頬へと伸びてくる。
「いわばこの部屋はあの子と私の愛の巣だ、そこへ無遠慮に入り込んできたのは誰だ?」
「それは……」
「私は結局あの子が出て行くまであの子の望む事が分からなかった、あの子がこの部屋で何を考え何を思っていたのか、私には分からない。お前は偉そうにグノーシスの事を語るが、お前には分かるのか?」
メリア王に抱きすくめられるように押さえ込まれて、僕はもう完全に身動きが取れなくなっていた。
「あぁ……甘いな。妃からはこんな匂いはしないのに、何故お前達は私を誘惑する?」
「そんなの、していません」
そもそも僕から匂いがするなんておかしいのだ、僕のこの匂いはエディ以外には今まで気付かれた事もほとんどない。
さすがにここまで密着されたら匂うものなのか、僕にはよく分からない。
「同じ男性Ωであるお前をここで抱いたら、また分かる事もあるのだろうか……」
「え?」
僕を掴む王の腕の力が強まる。
その身を離そうと抗うのだが、体格差はどうにもできず僕は引き摺られるように部屋の奥へと連れ込まれた。
そこにあるのは豪奢なベッド、そこに放り込まれて後ずさる。
幾つもの無機質な瞳が、やはりずっと2人を見続けていて、震えが止まらない。
「お前達はよく似ているな。お前はグノーシスほど美しくもないが、あの子もいつもここでそんな顔をしていたよ」
足を掴まれ引き摺り倒される。
上から覗き込んでくるその瞳は僕を見ているようで、きっと見ているのは過去のグノーなのだろう。
「もう一人のグノーシスにはこんな感情を抱きもしなかったのに、一体どういう事なのだろうな。お前が来てから私は自分が分からなくなった」
「こんな事をしても、何も分かりはしません」
「やってみなければ分からないだろう?」
無遠慮な手がシャツをたくし上げて、直に肌に触れてくる。その手にも鳥肌が立った。
逃げようと身を捩っても、その押さえつける力は弛まない。
「お前が悪い、お前がこの部屋に来るから、お前が私を誘惑するから……」
「僕はそんな事していない!」
この人はいつだってこうやって他人に理由を求めている。
自分のすることは全部他人のせい、そんなのは間違ってる!
「あなたは間違っている! こんなのは逃げているだけだ! あなたは向き合おうとしていないグノーシスさんにも自分にも!!」
「お前の言う事は私にはいつもよく分からない」
「例え今あなたがここで僕を抱いたとしても、この閉じた世界は何も変わらない! あなたが変えようとしていないのだから、変わるはずもない! あなたは、何を恐れているのですか、この国すべてを手に入れておいて何を怖がっているのか、僕にはそれが分からない!」
「私が? 恐れている? 私は何も恐れてなどいないと前にも言ったはずだ」
王の表情が険しくなり、こちらを睨む。
「あなたのこの行動は母親に縋る子供そのもの! 誰もあなたを咎めはしないから、甘えて縋って我が儘を通そうとしているようにしか思えない」
「我が儘? 甘え? 今まで一体どこの誰が私を甘やかしてくれたと言うのだ? 私にはそんな者は誰もいなかった、私にそんな感情を持った者など誰もいない!」
「あなたは見ていないだけです、あなたを愛してくれている人は必ずあなたの傍にいたはずです!」
「そんなモノは知らぬ!!」
荒い呼気だけが静寂の中、響き続ける。
「……例え今、あなたが僕を抱いたとしても、僕はあなたの物には絶対にならない」
「そんな事は分かっている。私の物など、この国にありはしない」
「あなたは、なんで……」
どうして分かってくれないのだろう、ここにはあなたを待っている人がたくさんいるのに、何故この人はそれを分かろうとしない……
ふいに涙が零れ落ちた。
「何故、泣く」
「……あなたが可哀相で……」
「お前に哀れまれる筋合いなどない」
「もしここで僕があなたの物になってもいいとそう言ったら、あなたの心は救われますか?」
メリア王は戸惑ったような表情を見せる。
「お前には番相手がいるだろう」
「僕は彼から逃げてここまで来たのです。僕は彼を愛してる、彼も僕を愛してくれてる、それでも僕は彼から逃げてきた。それが彼の本来の居場所を奪い続けてきた僕の償いだったから」
「それで何故お前が私の物になるという話になる? お前は私を馬鹿にしているのか?」
「僕は自分の居場所をずっと探してここまで来た。結局彼は未だに自分の居場所に僕を据える事しか考えてくれていない、そこは僕の居場所じゃない。僕は僕がいられる場所を探しています、もしあなたの心が救われるのなら、僕はあなたの隣を選ぶ事だってできます」
メリア王の戸惑いの表情はますます顕著に、うろたえているのが分かる。
「お前達は『運命の番』なのだろう?」
「僕はそう思っています、たぶん彼も。けれどそれは目に見える形ではない、僕達が『運命の番』であるかどうかなんて、本当は誰にも分かりはしない」
「お前は私の為にそいつを捨ててもいいというのか?」
「そう言われてしまうと、僕は酷い人間みたいですよね。でも元々彼の腕の中から飛び出した時から覚悟はしていた、僕はもうすでに一度彼を捨てているのですよ。それでも彼は何度も何度も僕の元へとやって来てくれる、愛されていると思います、僕も愛しています。それでもあなたが僕一人を手に入れる事で救われるというのなら、僕は……」
メリア王が僕を突き飛ばし、後ずさった。
「私はお前が理解できない」
「あなたは僕ではないのですから、理解できないのは当然です」
「私はお前が欲しい訳ではない、グノーシスさえいればそれで……」
「彼はもう、あなたの腕の中には戻ってはきません」
「そんなはずはない、グノーシスは私の……!」
「運命なんて不確かな言葉に縋っても何も手には入りませんよ。あなたは手に入らない物にいつまでも縋っているだけ」
「黙れ!」
怯えたように彼は後ずさり、踵を返す。
僕はその彼の背中を見送っていた。
自分の口から出た言葉に驚いた、けれど今の自分の言葉に嘘はない、もし彼が望むのなら、それで彼の心が救われるのならそれでもいいと僕は思ったのだ。
寂しい心が僕には分かる、愛情を求めて泣き叫ぶ子供のような気持ちが僕には分かる。
彼に足りていないのは他者に対する愛情、それは誰にも愛されずにここまで生きてきてしまった彼の心からの叫び。
彼には「愛」が必要なのだ。
それをグノー一人に求めてしまったがゆえのすれ違い、そんな心が分かる気がする。
力が抜けてベッドに転がると、幾つもの人形の瞳がただただ黙ってこちらを見詰めている。
「お前達はここで何を見てきたの?」
人形達は語ることはない、けれどその人形の表情はどこか寂しげで胸を締め付けられた。
※ ※ ※
分からない、分からない、分からない!
あの小僧の言っている事がまるで分からない!!
私はまた結局、彼の前から逃げ出した。
彼のいう事はまるで意味が分からない、理解不能な言動に振り回されるばかりの自分にぎりぎりと歯噛みする。
私が欲しいのはグノーシスだけ、それ以外に意味などないと言うのにあいつは……
「国王陛下、少しお耳に入れておきたい事があるのですが……」
執務室に戻ると、執務官にそう言われ不機嫌も露に顔を向ける。
執務官は少し怯えたような顔をしたものの、先を促せば用件を語る。
「最近メリアの各地でメリア王家を誹謗中傷するビラが撒かれているそうで、それに便乗するようにサード様がなにやら国民に訴えかけているという話があるのです」
「サードが?」
ほとんど話した事も顔を合わせた事もないもう一人の弟、サード・メリア。
王家とはほぼ無縁な生活を送っており、王子とは名ばかりの弟だ。
「サードが一体何をしている?」
「はい、ビラの誹謗中傷で王家に不満を持った国民を煽るようにして、政治の民主化を訴えているとか、王家を廃し国の主権を国民の手に……とそう訴えかけているようです」
「は……何を馬鹿なことを」
鼻で笑ってしまったが執務官は少し難しい顔で「如何致しますか?」とこちらに意見を求めてくる。
「放っておけばよい」
「しかし、最初は小さな声でしたが最近ではこの民主化を声高に叫ぶ者達が後を絶ちません。ここは何か手を打たなければ、何が起こるか……」
「ふん」
煩わしい事ばかりだ、どうして静かに暮らさせてはくれないのか、私はただグノーシスと2人、静かに暮らしていたいだけなのに。
「サードを城に呼べ。直接話しを聞く」
そう執務官に告げると、彼は「早急に……」と部屋を後にした。
窓の外に見えるテラスには誰もいない、自分の心に残るのはただただ虚無だけだ。
はて、そういえば彼の名はなんと言うのだっただろう?
彼は自分の知る『グノー』と私の語る『グノーシス』は別人だと言い張ったが、私がグノーとグノーシスの共通点を語っていく内に彼は黙り込んだ。
そして観念したように『グノーは生きている』と私に告げた。
やはり死んでなどいなかった! グノーシスは生きている。
生きて私を叱咤激励しているのだ、私はこんな場所で蹲っている場合ではないと気が付いた、偽者のグノーシスももう必要ない、何故なら本物のグノーシスがもうすぐそこにいるのだから!
あぁ、愛しいグノーシス、お前は一体何処にいる?
お前の為なら私はなんでもできる、お前が望むのならなんでも与えよう、この世界を自由に生きたいというのならこの世界を奪い丸ごとお前に与えてやろう。
私にはそれができる力がある。
それこそが私に与えられた使命!
……そう思っていたのに、あのランティスのから来た少年は私の思いをことごとく否定していく。
『あなたはグノーの「運命」ではない』
あぁ、そんな事は知っていたさ。
グノーシスの『運命』は私ではない、でも私の『運命』は後にも先にもグノーシスだけ。
だが、耳障りなもうひとつの言葉『グノーには本当の「運命」の相手ができた』その事実。
グノーシスの運命が自分でない事は認めてもいい、だがグノーシスが自分以外の誰かを愛する事など耐えられない。
例えそれが『運命』の相手だったとしても、私はそれを認められない。
グノーシスは私の! 私だけの物だ!!
あの少年の言っている事は本当に意味が分からない、彼は何故か私を哀れむような瞳で見やる。
それは牢から私を見ていた父親と同じようにだ。
あんな子供に私が哀れまれる筋合いはないというのに、どうにもあの少年の言う言葉はひとつひとつが胸に刺さる。
『哀れな子供』彼は自分自身もそうだと言った。誰にも認めてもらえない居場所の無い『哀れな子供』
だが私は違う、私は王だ、この国メリアでは私がすべてなのだ。なのに彼は私を哀れむような瞳で見上げてくる、それがどうにも理解できない。
彼が何をしたいのか分からない、現在グノーシスの所在の手がかりになる人物は彼しかない、だから私は彼を帰すつもりはないのだが、それでも彼と一緒にいるとどうにも心がざわつく。
どうにも理解できない感情だ、彼は所詮その辺にいる有象無象の手下と変わりはないはずなのに、どうにも顔を合わせるのが怖い……怖い?
そんな馬鹿な事があるか! あんなどこにでも転がっていそうな小僧を怖いだと?
この王たる私があんな小僧一人の言葉に動揺しているなど、あってはならない事だ!
なのに何故だ、私は今日もあの小僧を呼び出す事はできなかった。
執務室から窓の外を見やれば、彼の部屋のテラスがよく見える。
今日もファルスからやって来た姫はその屋根伝いに彼の元を訪れて、彼もまた笑顔でその姫を迎え入れている。
意味が分からない。
2人は人質としてこの城に連れて来られているはずなのに、捕らえられているのはまるでこちらなのではないかと思えるほど彼等は自由奔放だ。
この城は私の城であるのに、私はこの城にどうにも居心地の悪さを感じているというのに、彼等は一体なんなのだ?
納得がいかない。
グノーシスの私室に籠り、彼の作った人形に囲まれているとようやく私は息が吐ける。
ここは私の聖域、誰にも侵すことのできない私の城だ。
あぁ、グノーシスこの部屋にはお前だけが足りない、お前がこの部屋に戻ってきさえすればこの聖域は完成する。
グノーシス、グノーシス、お前は一体何処にいる? 私は息が詰まりそうだ……
『兄さま……』
幼い彼が零れるような笑みをこちらに向ける。
その身体を掻き抱こうとして、その幻はふいと消えてしまう。
『兄さま』
今度はガラスの瞳の彼がなんの感情も乗せない表情で私を見下ろしている。
「グノーシス!」
手を伸ばせばまたその幻は掻き消えた。
「何処だグノーシス! もうかくれんぼはお仕舞いだ、私の元へ帰って来い、グノーシス!」
部屋の隅、呆然と立ち竦む彼がこちらを見やって涙を零していた。
あぁ、それはあの日、グノーシスがこの城を飛び出したあの日の彼だとすぐに分かった。
『兄さま、僕はもう……』
そう呟いて彼は私に背を向けた。
そして私は二度とその姿を見る事はできなくなった。
あの日の彼は、仲睦まじい母とその浮気相手、そしてセカンドを眺めていた自分自身と同じだと思った。
あの日の行動はセカンドに対する復讐だったのか?
いや、そんな事は考えていなかった、ただ少し庭を歩こうと言われその言葉に従っただけの私の行動、そこが彼の部屋から近い事も、その光景を彼が見てしまう可能性がある事も分かっていたが、他意はなかった。なかったはずだ……
私は自分自身が分からない。
何故なら誰も私に自分などという物を求めてはいなかったからだ。
父親にとって私はただの自分のスペア、周りの人間は王である私が必要なだけで私自身を必要としている訳ではない。
私は私である前にメリアのファースト、メリア王家の跡継ぎでしかなかった。
そこに個人の感情など必要ない「私」など必要ない。
『兄さまはきっと格好いい王様になれると思います』
無邪気に笑うセカンド、何も中身のない私にはその言葉はとてもむなしく響いたよ。
私はお前を愛していたが、そうだな……やはり私はお前が嫌いだった。
※ ※ ※
僕はその日少し考え事をしながら歩いていて、広いお城の中、道に迷ってしまっていた。
メリア王からの声がかからなくなって、僕はする事もなく、ただ毎日どうすればあの頑なな国王陛下の心を解きほぐせるかとそんな事ばかり考えていた。
「あれ? ここ何処? なんか見た事ある気もするけど……」
庭の方を向けば広がる庭園、その庭と建物の向きから考えるとそこは自分の自室とは逆方向だった事に気付く。
でもこの景色には見覚えがある。
「あぁ、ここグノーの部屋の近くだ」
ここメリア城に連れて来られた初日に連れて行かれたグノーの部屋。
からくり人形がひしめくその部屋はおもちゃ箱のようでもあり、工房のようでもあった。
あの部屋でグノーは暮らしていたのかと思うと、僕はもう一度その部屋を見てみたいという思いに駆られ記憶の道筋を辿る。
「えっと、たぶんこっち……」
記憶を辿って廊下を歩けば、やはりそこには記憶の通りの扉があって、僕はその扉に手をかけた。
鍵は開いていたが、中は薄暗く目が慣れるまで少し時間がかかった。
「誰だ……」
ふいに暗闇から声がかけられ僕はビクッと身を竦ませる。
「あ……」
そこにいたのはメリアの国王、ぎらぎらと目だけが光を反射してこちらを睨み付けていた。
穏やかにお茶を飲みながらグノーの事を語っていた王様ではない、それは獣のように飢えた瞳をした一人の男だった。
「ここは私以外の者の立ち入りを禁じている、早々に去れ!」
僕は立ち竦んでいた、ここにいてはいけないと心は警鐘を鳴らすのに、身動きが取れなかった。
部屋の至る所から無機質な瞳が2人の動向を伺うようにこちらを見据えている。
「……あ、あなたは……ここで何を?」
「去れと言っているのが聞こえぬか?」
部屋の中、蹲るようにしていたメリアの王様はふらりと立ち上がって、僕を拒絶するようにそう言った。
怖い、こんな薄暗がりの中、瞳だけが妙に光って射竦められたように動けない。
一歩でも動いた瞬間に殺されるのではないかという恐怖が、僕の身体を強張らせた。
部屋の扉は僕のすぐ後ろで、その扉を開けて出て行きさえすればそれでいいと分かっているのに、その睨み据えられた瞳から目が逸らせない。
後ろ手に扉のノブを探す、目を逸らしたらいけない、それは本能に近い恐怖。
「何故お前はここに来た……?」
「み……道に迷って……」
「わざわざこの部屋に入ってくる理由もないであろうになぁ?」
一歩、また一歩とメリア王は近付いてくる。
怖い、怖い、怖い!!
どうしよう? どうすればいい!?
ふいに薫る柑橘系の匂い、ルネーシャはそれを香水だと言ったが、僕にはそれが分からない。
αは怒ればそのフェロモンで他者を威圧をする事がある、それを僕は感じ取る事が上手くできないのだが、それでもそれはそういう事なのではないかと思ってしまうほどに、彼からの匂いは一歩近付くごとに僕の身体を覆っていった。
メリア王と僕との距離はあともう一歩という所まで近づいていて、僕は完全に身動きが取れなくなっていた。
「お前からは、不思議とグノーシスと似たような匂いがする……」
王と扉に挟まれるようにして、上から見下ろされた。
「匂い……?」
「甘い、思考を麻痺させるようなそんな……」
「僕はΩですが、出来損ないなので、そんな匂いはしないかと……」
メリア王は僕の肩口に顔を寄せてくる。
「出来損ない……か」
言って項を撫で上げられ、瞬間鳥肌が立った。
「お前には番相手がいるのだな、あの時のあの男か?」
項の噛み跡を確認したのだろう、メリア王は無表情にそう言った。
いまだその手は僕の項を撫でていて、どうにもぞくぞくとした感覚が僕の身体を痺れさせる。
「やめてください……」
「私はこの部屋でグノーシスを抱いていた」
項を撫でていた手が頬へと伸びてくる。
「いわばこの部屋はあの子と私の愛の巣だ、そこへ無遠慮に入り込んできたのは誰だ?」
「それは……」
「私は結局あの子が出て行くまであの子の望む事が分からなかった、あの子がこの部屋で何を考え何を思っていたのか、私には分からない。お前は偉そうにグノーシスの事を語るが、お前には分かるのか?」
メリア王に抱きすくめられるように押さえ込まれて、僕はもう完全に身動きが取れなくなっていた。
「あぁ……甘いな。妃からはこんな匂いはしないのに、何故お前達は私を誘惑する?」
「そんなの、していません」
そもそも僕から匂いがするなんておかしいのだ、僕のこの匂いはエディ以外には今まで気付かれた事もほとんどない。
さすがにここまで密着されたら匂うものなのか、僕にはよく分からない。
「同じ男性Ωであるお前をここで抱いたら、また分かる事もあるのだろうか……」
「え?」
僕を掴む王の腕の力が強まる。
その身を離そうと抗うのだが、体格差はどうにもできず僕は引き摺られるように部屋の奥へと連れ込まれた。
そこにあるのは豪奢なベッド、そこに放り込まれて後ずさる。
幾つもの無機質な瞳が、やはりずっと2人を見続けていて、震えが止まらない。
「お前達はよく似ているな。お前はグノーシスほど美しくもないが、あの子もいつもここでそんな顔をしていたよ」
足を掴まれ引き摺り倒される。
上から覗き込んでくるその瞳は僕を見ているようで、きっと見ているのは過去のグノーなのだろう。
「もう一人のグノーシスにはこんな感情を抱きもしなかったのに、一体どういう事なのだろうな。お前が来てから私は自分が分からなくなった」
「こんな事をしても、何も分かりはしません」
「やってみなければ分からないだろう?」
無遠慮な手がシャツをたくし上げて、直に肌に触れてくる。その手にも鳥肌が立った。
逃げようと身を捩っても、その押さえつける力は弛まない。
「お前が悪い、お前がこの部屋に来るから、お前が私を誘惑するから……」
「僕はそんな事していない!」
この人はいつだってこうやって他人に理由を求めている。
自分のすることは全部他人のせい、そんなのは間違ってる!
「あなたは間違っている! こんなのは逃げているだけだ! あなたは向き合おうとしていないグノーシスさんにも自分にも!!」
「お前の言う事は私にはいつもよく分からない」
「例え今あなたがここで僕を抱いたとしても、この閉じた世界は何も変わらない! あなたが変えようとしていないのだから、変わるはずもない! あなたは、何を恐れているのですか、この国すべてを手に入れておいて何を怖がっているのか、僕にはそれが分からない!」
「私が? 恐れている? 私は何も恐れてなどいないと前にも言ったはずだ」
王の表情が険しくなり、こちらを睨む。
「あなたのこの行動は母親に縋る子供そのもの! 誰もあなたを咎めはしないから、甘えて縋って我が儘を通そうとしているようにしか思えない」
「我が儘? 甘え? 今まで一体どこの誰が私を甘やかしてくれたと言うのだ? 私にはそんな者は誰もいなかった、私にそんな感情を持った者など誰もいない!」
「あなたは見ていないだけです、あなたを愛してくれている人は必ずあなたの傍にいたはずです!」
「そんなモノは知らぬ!!」
荒い呼気だけが静寂の中、響き続ける。
「……例え今、あなたが僕を抱いたとしても、僕はあなたの物には絶対にならない」
「そんな事は分かっている。私の物など、この国にありはしない」
「あなたは、なんで……」
どうして分かってくれないのだろう、ここにはあなたを待っている人がたくさんいるのに、何故この人はそれを分かろうとしない……
ふいに涙が零れ落ちた。
「何故、泣く」
「……あなたが可哀相で……」
「お前に哀れまれる筋合いなどない」
「もしここで僕があなたの物になってもいいとそう言ったら、あなたの心は救われますか?」
メリア王は戸惑ったような表情を見せる。
「お前には番相手がいるだろう」
「僕は彼から逃げてここまで来たのです。僕は彼を愛してる、彼も僕を愛してくれてる、それでも僕は彼から逃げてきた。それが彼の本来の居場所を奪い続けてきた僕の償いだったから」
「それで何故お前が私の物になるという話になる? お前は私を馬鹿にしているのか?」
「僕は自分の居場所をずっと探してここまで来た。結局彼は未だに自分の居場所に僕を据える事しか考えてくれていない、そこは僕の居場所じゃない。僕は僕がいられる場所を探しています、もしあなたの心が救われるのなら、僕はあなたの隣を選ぶ事だってできます」
メリア王の戸惑いの表情はますます顕著に、うろたえているのが分かる。
「お前達は『運命の番』なのだろう?」
「僕はそう思っています、たぶん彼も。けれどそれは目に見える形ではない、僕達が『運命の番』であるかどうかなんて、本当は誰にも分かりはしない」
「お前は私の為にそいつを捨ててもいいというのか?」
「そう言われてしまうと、僕は酷い人間みたいですよね。でも元々彼の腕の中から飛び出した時から覚悟はしていた、僕はもうすでに一度彼を捨てているのですよ。それでも彼は何度も何度も僕の元へとやって来てくれる、愛されていると思います、僕も愛しています。それでもあなたが僕一人を手に入れる事で救われるというのなら、僕は……」
メリア王が僕を突き飛ばし、後ずさった。
「私はお前が理解できない」
「あなたは僕ではないのですから、理解できないのは当然です」
「私はお前が欲しい訳ではない、グノーシスさえいればそれで……」
「彼はもう、あなたの腕の中には戻ってはきません」
「そんなはずはない、グノーシスは私の……!」
「運命なんて不確かな言葉に縋っても何も手には入りませんよ。あなたは手に入らない物にいつまでも縋っているだけ」
「黙れ!」
怯えたように彼は後ずさり、踵を返す。
僕はその彼の背中を見送っていた。
自分の口から出た言葉に驚いた、けれど今の自分の言葉に嘘はない、もし彼が望むのなら、それで彼の心が救われるのならそれでもいいと僕は思ったのだ。
寂しい心が僕には分かる、愛情を求めて泣き叫ぶ子供のような気持ちが僕には分かる。
彼に足りていないのは他者に対する愛情、それは誰にも愛されずにここまで生きてきてしまった彼の心からの叫び。
彼には「愛」が必要なのだ。
それをグノー一人に求めてしまったがゆえのすれ違い、そんな心が分かる気がする。
力が抜けてベッドに転がると、幾つもの人形の瞳がただただ黙ってこちらを見詰めている。
「お前達はここで何を見てきたの?」
人形達は語ることはない、けれどその人形の表情はどこか寂しげで胸を締め付けられた。
※ ※ ※
分からない、分からない、分からない!
あの小僧の言っている事がまるで分からない!!
私はまた結局、彼の前から逃げ出した。
彼のいう事はまるで意味が分からない、理解不能な言動に振り回されるばかりの自分にぎりぎりと歯噛みする。
私が欲しいのはグノーシスだけ、それ以外に意味などないと言うのにあいつは……
「国王陛下、少しお耳に入れておきたい事があるのですが……」
執務室に戻ると、執務官にそう言われ不機嫌も露に顔を向ける。
執務官は少し怯えたような顔をしたものの、先を促せば用件を語る。
「最近メリアの各地でメリア王家を誹謗中傷するビラが撒かれているそうで、それに便乗するようにサード様がなにやら国民に訴えかけているという話があるのです」
「サードが?」
ほとんど話した事も顔を合わせた事もないもう一人の弟、サード・メリア。
王家とはほぼ無縁な生活を送っており、王子とは名ばかりの弟だ。
「サードが一体何をしている?」
「はい、ビラの誹謗中傷で王家に不満を持った国民を煽るようにして、政治の民主化を訴えているとか、王家を廃し国の主権を国民の手に……とそう訴えかけているようです」
「は……何を馬鹿なことを」
鼻で笑ってしまったが執務官は少し難しい顔で「如何致しますか?」とこちらに意見を求めてくる。
「放っておけばよい」
「しかし、最初は小さな声でしたが最近ではこの民主化を声高に叫ぶ者達が後を絶ちません。ここは何か手を打たなければ、何が起こるか……」
「ふん」
煩わしい事ばかりだ、どうして静かに暮らさせてはくれないのか、私はただグノーシスと2人、静かに暮らしていたいだけなのに。
「サードを城に呼べ。直接話しを聞く」
そう執務官に告げると、彼は「早急に……」と部屋を後にした。
窓の外に見えるテラスには誰もいない、自分の心に残るのはただただ虚無だけだ。
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