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君と僕の物語
ルネーシャ
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僕が連れて行かれたのは特別変わった部屋ではなかったのだが、案の定と言うべきかその部屋には室内からかける鍵は付いていなかった。
「僕また監禁なんだ……」
予想通りといえば予想通りなのだが、少し気が滅入る。
室内はランティスの幽閉塔よりは広く、居心地は悪くない。だが閉じ込められている事には変わりがなく僕は盛大に溜息を吐いた。
ランティスでは閉じ込められた部屋の窓には格子が嵌められていたが、こちらの部屋にはテラスがあって外に出る事も可能だった。
ただ、出たとしてもそこは城の上階で、降りる事は常人では不可能だと思われた。
「あら~? アジェ様?」
そんな所に突然声をかけられて僕はビクッと身を震わせる。
こんな場所で声をかけられること自体がありえないと思うのだが、どこからか足音が聞こえてきて、僕はその音の方向に顔を向けると、屋根の上、そこに見知った顔がにっこり笑って手を振っていた。
「え? ルネちゃん!?」
それはエディの妹ルネーシャで、僕はこんな所で絶対遭遇しないであろうその再会に驚きを隠せず、ついでに夢かと自分の頬をつねってみた。
普通に痛い、夢じゃない。
「何してるの、アジェ様?」
「ルネちゃんこそなんでこんな所にいるの?!」
エディの妹として僕とルネーシャにも勿論面識はある。
ルーンは小さな町なのだ、領主の息子だと言っても普通に町の人達とも交流があって、ルネーシャとは特別仲が良い訳ではなかったが歳も近い事もあって気心は知れている。
「なんかメリアの王様が来いって言うから、来ちゃった☆」
ちょっとそこまで買い物に、くらいの軽い口調でそう言われて僕は意味が分からない。
「来ちゃったって、ここメリアだよ! しかもお城だよ! っていうか何で裸足? しかもそんな所危ないから降りといでよ!」
「はぁ~い、ちょっとアジェ様よけててね」
そう言って彼女はスタンと屋根から降りてきた。
「うふふ、アジェ様、お久しぶり」
「そうだけど……ホントなんでいるの?」
「だってお城の生活窮屈だったんですもの~あれも駄目これも駄目って、駄目駄目言われて気が滅入っちゃう」
「あ……そういえばルネちゃん王女様だっけ。ルネーシャ姫?」
ブラックがファルスの国王陛下だったのだから、当然その娘であるルネーシャは王女であり姫なのだ。
「姫って柄じゃないわよねぇ~私、どうにもああいう生活性に合わないみたい」
けらけらと彼女は笑うが、どう考えてもルネーシャはファルスの姫としてここへ来ているのだとしか思えない。
そうでなければここに彼女がいる意味が分からない。
「ルネちゃん1人でここに来たの?」
「お城の散歩という意味なら1人でよ。ここメリアへっていう意味なら部屋に侍女のマリアがいるわ」
「1人でその人置いてきて大丈夫なの? っていうか、ルネちゃんこんな所散歩って……ルネちゃんは僕と同じで閉じ込められてたりはしないんだ?」
「部屋の鍵はかかってるけど、出られる窓があるんだから、散歩くらいいいじゃない。マリアはこっちに来てから体調がすぐれないのよ、連れ回せないわ」
そもそもこんな屋根の上の散歩に付き合わせようというのが正気の沙汰ではないが、ルネーシャは悪びれる事もなくそう言った。
そして部屋に鍵がかかっていると言うのならば、やはり彼女も何かしかの理由でここに連れてこられているという事なのだろう。
彼女はあまり気にしている風でもないが、ファルスとメリアの間にも何かあったのだろうか?
「ルネちゃんの部屋って何処?」
「ちょうどここから対角線上に向こう側よ」
そう言って彼女が指差した先には僕の部屋と同じような部屋があって、彼女はそこから屋根伝いにここまで来たのだろう。
「ルネちゃんはいつここに?」
「まだ何日か前よ。来いって言ったわりにメリアの王様は会ってもくれないし、部屋に閉じ込められてする事ないの。国が違えば多少窮屈さも変わるかと思ったけど、お城ってやっぱりどこもこんな感じなのねぇ」
彼女はつまらなさそうにそう呟いたのだが、そのあとにこりと笑った。
「でもアジェ様がいるなら、またここまで遊びに来るわ」
「あんまり危ない事したら駄目だよ? ルネちゃん女の子なんだし」
「別に危ない事なんてしてないわ、お城のお散歩してるだけよ。今はまだ寒々としてるけど、ここの庭は綺麗よ、春になるのが楽しみだわ。それに私、小さなお友達もできたのよ」
「? 小さなお友達?」
「そう、もう凄く可愛いの! レイシアっていう女の子。ふわふわの巻き毛にぱっちりお目目、ファルスじゃ赤毛は珍しいから余計にそう思うのかもしれないけど、本当にお人形さんみたいに可愛いんだから!」
そう言ってルネーシャはとても楽しそうに笑った。
僕と同じ囚われの身であるのだろうに、彼女にはそういった悲壮感が一切見られない。
少し落ち込んでいた自分が馬鹿みたいだ。
「その子はメリアの子なんだ?」
「そうよ、ここん家のお姫様らしいわ」
さらっとルネーシャが言った言葉に絶句した、ここの姫という事はその子はもしかしてメリア王の子供なのではないだろうか?
僕もここメリアに赴くに辺りメリア王家について少し学んできた。
メリア王家は現在先程のあの神経質そうな男が支配している、それは父王の王位を簒奪しての物だった。それを彼は弟の為だったと言ったが、その弟が国を出たという情報はランティスには届いていなかった。
兄王が弟を溺愛している事は有名で、その弟を常に傍に侍らせ生活しているというのもとても有名な話だ。
そんなメリア王にもそれでいてちゃんと妻子はいて、王の娘の名前は一般には知られていないが、現在自分が知っている範囲でこの城で「姫」と呼ばれる人物はその国王の娘以外考えられなかった。
メリア王家の人間には名前が与えられないと僕は聞いている。
一般的に外に知られていないだけで、それでもやはり名前はあるのだと逆に少しほっとしてしまう。
そういえば、メリアのセカンドはやはり「グノーシス」という名前だった。
クロードさんと話していた時には、そんなまさかと思っていたが、メリア王の話を聞いてしまうとやはり「グノー」は「グノーシス」なのかもしれないと思ってしまう。
でも、もしそうだとしたら彼は何故この王家を出てあんな旅暮らしをしていたのだろう?
「そういえば、アジェ様はなんでこんな所にいるの? お兄ちゃんが傍にいないなんて、なんだか不思議」
ルネーシャも僕と彼女の兄であるエディが恋人関係である事は知っている、そしてルーンにいる間エディは常に僕の傍らに立っていたので、それは当然の疑問だ。
「そういえばアジェ様はランティスの王子様だったのよね? それでランティスに捕まってるんじゃなかったかしら?」
「うん、まぁ、ルネちゃんがルーンを離れてから色々あったよ……」
「今度はメリアで捕まってるの?」
「立場的にはルネちゃんも一緒だよね?」
「私は好きで来たから別に後悔はしていないわ、アジェ様は少しお顔の色が優れないみたいね」
「こんな状況で自由にのびのびしてるルネちゃんの方が特別なんだからね!」
「あら、そうかしら」とルネーシャはまたころころと笑った。
「僕は友達がここの王様の弟なんじゃないかって疑われて、その疑いを晴らすために来たんだけど、なんだか王様の話しを聞いたら、僕のその友達本当に王様の弟だったんじゃないかって分からなくなっちゃったんだよね……」
「あら、大変。その人が直接来て誤解を解くとかできなかったの?」
「その友達、僕と同じで男性Ωなんだ。今お腹の中に赤ちゃんいるみたいで、こんな所に連れてくるのもね……」
「あらあら、更に大変。妊娠って大変よねぇ……マリア見てると本当につくづくそう思うわ」
僕はルネーシャの言葉に「え?」と驚きの声を上げてしまう。
「ルネちゃんと一緒に来た人、妊娠してるの?」
「えぇ、そうみたい。知ってたら連れて来なかったのに、あの子なんにも言わないんだもん。父親が誰かも言わないし、どうも言えない人だから私について来たっぽくて、どうしていいか分からないわ。体調悪そうなのに絶対生むって聞かないのよ、別に反対なんてしないから、せめてお医者にかかってくれたらいいんだけど」
「診てもらったりもしてないの?」
「たぶんしてないわね。大丈夫って言って、あの子意外と強情なのよ」
「なんか心配だね」
「本当にね、ここに来た事後悔はしてないけど、マリアの事だけは失敗したと思ってるわ。あの子つい最近まで付き合ってる人がいるなんて一言も話してなかったのよ、悪い男に引っかかってるんじゃなきゃいいけど」
明朗快活なルネーシャがその時ばかりは神妙な顔で、僕も少しだけ心配になってしまう。
「妊娠何ヶ月くらいなの?」
「話してくれないからよく分からないけど、まだお腹はそこまで目立ってないから3ヶ月とか4ヵ月とかそのくらいだと思うわ」
「そっか……」
なんだか僕の周りは妊婦さんが多いみたいだ。こんな知らない土地で1人で子供を生もうだなんて、相手の人は一体何をしているのだろう。
どうやらあまり大っぴらにはできない子供のようで、少しばかり相手の男に憤りを感じてしまう。
「無事に生まれるといいね」
「そうね」と笑ってルネーシャは「そろそろ帰るわ」とまた屋根によじ登っていく。
「落ちないように気を付けてね」
「落ちたら落ちた時だわ」
そう言ってにっこり笑うルネーシャはやはりエディの妹だと思う。
あそこの兄弟は本当に皆が皆とても身軽なのだ、その技術はすべて父親であるブラックから叩き込まれたとエディは苦虫を噛み潰したような顔で言っていたが、ルネーシャはそんな事には気にとめた様子もなく楽しげだ。
向かいのテラスに辿り着くまでその姿を見守っていたら、テラスに降り立ったルネーシャがこちらに大きく手を振った。
それに手を振り返して、僕は部屋へと戻る。
誰も知っている人がいない土地に一人ぼっちだと思っていた心が少し軽くなっていた。
「僕また監禁なんだ……」
予想通りといえば予想通りなのだが、少し気が滅入る。
室内はランティスの幽閉塔よりは広く、居心地は悪くない。だが閉じ込められている事には変わりがなく僕は盛大に溜息を吐いた。
ランティスでは閉じ込められた部屋の窓には格子が嵌められていたが、こちらの部屋にはテラスがあって外に出る事も可能だった。
ただ、出たとしてもそこは城の上階で、降りる事は常人では不可能だと思われた。
「あら~? アジェ様?」
そんな所に突然声をかけられて僕はビクッと身を震わせる。
こんな場所で声をかけられること自体がありえないと思うのだが、どこからか足音が聞こえてきて、僕はその音の方向に顔を向けると、屋根の上、そこに見知った顔がにっこり笑って手を振っていた。
「え? ルネちゃん!?」
それはエディの妹ルネーシャで、僕はこんな所で絶対遭遇しないであろうその再会に驚きを隠せず、ついでに夢かと自分の頬をつねってみた。
普通に痛い、夢じゃない。
「何してるの、アジェ様?」
「ルネちゃんこそなんでこんな所にいるの?!」
エディの妹として僕とルネーシャにも勿論面識はある。
ルーンは小さな町なのだ、領主の息子だと言っても普通に町の人達とも交流があって、ルネーシャとは特別仲が良い訳ではなかったが歳も近い事もあって気心は知れている。
「なんかメリアの王様が来いって言うから、来ちゃった☆」
ちょっとそこまで買い物に、くらいの軽い口調でそう言われて僕は意味が分からない。
「来ちゃったって、ここメリアだよ! しかもお城だよ! っていうか何で裸足? しかもそんな所危ないから降りといでよ!」
「はぁ~い、ちょっとアジェ様よけててね」
そう言って彼女はスタンと屋根から降りてきた。
「うふふ、アジェ様、お久しぶり」
「そうだけど……ホントなんでいるの?」
「だってお城の生活窮屈だったんですもの~あれも駄目これも駄目って、駄目駄目言われて気が滅入っちゃう」
「あ……そういえばルネちゃん王女様だっけ。ルネーシャ姫?」
ブラックがファルスの国王陛下だったのだから、当然その娘であるルネーシャは王女であり姫なのだ。
「姫って柄じゃないわよねぇ~私、どうにもああいう生活性に合わないみたい」
けらけらと彼女は笑うが、どう考えてもルネーシャはファルスの姫としてここへ来ているのだとしか思えない。
そうでなければここに彼女がいる意味が分からない。
「ルネちゃん1人でここに来たの?」
「お城の散歩という意味なら1人でよ。ここメリアへっていう意味なら部屋に侍女のマリアがいるわ」
「1人でその人置いてきて大丈夫なの? っていうか、ルネちゃんこんな所散歩って……ルネちゃんは僕と同じで閉じ込められてたりはしないんだ?」
「部屋の鍵はかかってるけど、出られる窓があるんだから、散歩くらいいいじゃない。マリアはこっちに来てから体調がすぐれないのよ、連れ回せないわ」
そもそもこんな屋根の上の散歩に付き合わせようというのが正気の沙汰ではないが、ルネーシャは悪びれる事もなくそう言った。
そして部屋に鍵がかかっていると言うのならば、やはり彼女も何かしかの理由でここに連れてこられているという事なのだろう。
彼女はあまり気にしている風でもないが、ファルスとメリアの間にも何かあったのだろうか?
「ルネちゃんの部屋って何処?」
「ちょうどここから対角線上に向こう側よ」
そう言って彼女が指差した先には僕の部屋と同じような部屋があって、彼女はそこから屋根伝いにここまで来たのだろう。
「ルネちゃんはいつここに?」
「まだ何日か前よ。来いって言ったわりにメリアの王様は会ってもくれないし、部屋に閉じ込められてする事ないの。国が違えば多少窮屈さも変わるかと思ったけど、お城ってやっぱりどこもこんな感じなのねぇ」
彼女はつまらなさそうにそう呟いたのだが、そのあとにこりと笑った。
「でもアジェ様がいるなら、またここまで遊びに来るわ」
「あんまり危ない事したら駄目だよ? ルネちゃん女の子なんだし」
「別に危ない事なんてしてないわ、お城のお散歩してるだけよ。今はまだ寒々としてるけど、ここの庭は綺麗よ、春になるのが楽しみだわ。それに私、小さなお友達もできたのよ」
「? 小さなお友達?」
「そう、もう凄く可愛いの! レイシアっていう女の子。ふわふわの巻き毛にぱっちりお目目、ファルスじゃ赤毛は珍しいから余計にそう思うのかもしれないけど、本当にお人形さんみたいに可愛いんだから!」
そう言ってルネーシャはとても楽しそうに笑った。
僕と同じ囚われの身であるのだろうに、彼女にはそういった悲壮感が一切見られない。
少し落ち込んでいた自分が馬鹿みたいだ。
「その子はメリアの子なんだ?」
「そうよ、ここん家のお姫様らしいわ」
さらっとルネーシャが言った言葉に絶句した、ここの姫という事はその子はもしかしてメリア王の子供なのではないだろうか?
僕もここメリアに赴くに辺りメリア王家について少し学んできた。
メリア王家は現在先程のあの神経質そうな男が支配している、それは父王の王位を簒奪しての物だった。それを彼は弟の為だったと言ったが、その弟が国を出たという情報はランティスには届いていなかった。
兄王が弟を溺愛している事は有名で、その弟を常に傍に侍らせ生活しているというのもとても有名な話だ。
そんなメリア王にもそれでいてちゃんと妻子はいて、王の娘の名前は一般には知られていないが、現在自分が知っている範囲でこの城で「姫」と呼ばれる人物はその国王の娘以外考えられなかった。
メリア王家の人間には名前が与えられないと僕は聞いている。
一般的に外に知られていないだけで、それでもやはり名前はあるのだと逆に少しほっとしてしまう。
そういえば、メリアのセカンドはやはり「グノーシス」という名前だった。
クロードさんと話していた時には、そんなまさかと思っていたが、メリア王の話を聞いてしまうとやはり「グノー」は「グノーシス」なのかもしれないと思ってしまう。
でも、もしそうだとしたら彼は何故この王家を出てあんな旅暮らしをしていたのだろう?
「そういえば、アジェ様はなんでこんな所にいるの? お兄ちゃんが傍にいないなんて、なんだか不思議」
ルネーシャも僕と彼女の兄であるエディが恋人関係である事は知っている、そしてルーンにいる間エディは常に僕の傍らに立っていたので、それは当然の疑問だ。
「そういえばアジェ様はランティスの王子様だったのよね? それでランティスに捕まってるんじゃなかったかしら?」
「うん、まぁ、ルネちゃんがルーンを離れてから色々あったよ……」
「今度はメリアで捕まってるの?」
「立場的にはルネちゃんも一緒だよね?」
「私は好きで来たから別に後悔はしていないわ、アジェ様は少しお顔の色が優れないみたいね」
「こんな状況で自由にのびのびしてるルネちゃんの方が特別なんだからね!」
「あら、そうかしら」とルネーシャはまたころころと笑った。
「僕は友達がここの王様の弟なんじゃないかって疑われて、その疑いを晴らすために来たんだけど、なんだか王様の話しを聞いたら、僕のその友達本当に王様の弟だったんじゃないかって分からなくなっちゃったんだよね……」
「あら、大変。その人が直接来て誤解を解くとかできなかったの?」
「その友達、僕と同じで男性Ωなんだ。今お腹の中に赤ちゃんいるみたいで、こんな所に連れてくるのもね……」
「あらあら、更に大変。妊娠って大変よねぇ……マリア見てると本当につくづくそう思うわ」
僕はルネーシャの言葉に「え?」と驚きの声を上げてしまう。
「ルネちゃんと一緒に来た人、妊娠してるの?」
「えぇ、そうみたい。知ってたら連れて来なかったのに、あの子なんにも言わないんだもん。父親が誰かも言わないし、どうも言えない人だから私について来たっぽくて、どうしていいか分からないわ。体調悪そうなのに絶対生むって聞かないのよ、別に反対なんてしないから、せめてお医者にかかってくれたらいいんだけど」
「診てもらったりもしてないの?」
「たぶんしてないわね。大丈夫って言って、あの子意外と強情なのよ」
「なんか心配だね」
「本当にね、ここに来た事後悔はしてないけど、マリアの事だけは失敗したと思ってるわ。あの子つい最近まで付き合ってる人がいるなんて一言も話してなかったのよ、悪い男に引っかかってるんじゃなきゃいいけど」
明朗快活なルネーシャがその時ばかりは神妙な顔で、僕も少しだけ心配になってしまう。
「妊娠何ヶ月くらいなの?」
「話してくれないからよく分からないけど、まだお腹はそこまで目立ってないから3ヶ月とか4ヵ月とかそのくらいだと思うわ」
「そっか……」
なんだか僕の周りは妊婦さんが多いみたいだ。こんな知らない土地で1人で子供を生もうだなんて、相手の人は一体何をしているのだろう。
どうやらあまり大っぴらにはできない子供のようで、少しばかり相手の男に憤りを感じてしまう。
「無事に生まれるといいね」
「そうね」と笑ってルネーシャは「そろそろ帰るわ」とまた屋根によじ登っていく。
「落ちないように気を付けてね」
「落ちたら落ちた時だわ」
そう言ってにっこり笑うルネーシャはやはりエディの妹だと思う。
あそこの兄弟は本当に皆が皆とても身軽なのだ、その技術はすべて父親であるブラックから叩き込まれたとエディは苦虫を噛み潰したような顔で言っていたが、ルネーシャはそんな事には気にとめた様子もなく楽しげだ。
向かいのテラスに辿り着くまでその姿を見守っていたら、テラスに降り立ったルネーシャがこちらに大きく手を振った。
それに手を振り返して、僕は部屋へと戻る。
誰も知っている人がいない土地に一人ぼっちだと思っていた心が少し軽くなっていた。
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